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国の騎士はレディファースト
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「騎士様、おはようございます」
「ああ、おは……タリム嬢?!」
少し疲れた顔のモーウェル騎士は、朝食に降りてきた私を見て固まった。
「一体何があったんだ? 髪がこんな……」
「仕事の邪魔だから切ってもらったんですよ。床屋で切ると今の騎士様みたいな顔をされるので」
ははは、と苦笑してみせる。
「しかし、あんな見事な黒髪を……」
「あ、切った髪、何かに使いますか? いつもは筆屋に売ると割といい値段で買ってくれるんで、
お礼としてロイ・アデルアにあげちゃうんですけど。ああ、でも、この辺で買ってくれる所ありますかねぇ」
「ア、アデルア殿に切らせたのですか?」
モーウェル騎士は目を白黒させている。
何か不味かっただろうか。
「なにか不味かったか? どこぞの姫や御令嬢でもあるまいし、剣士に髪の長いも短いもないだろ」
ロイがあくび混じりに私の心情を代弁すると、モーウェル騎士が睨みつける。
騎士様は女性の味方だものねー。
ロイはたいがいの女の敵だが、騎士の敵でもあるらしい。
だが、正直どうでもいい。
お腹が空いた。
「私、肉料理のセットで」
*****************
二日目なのに、またもや抜刀騒ぎに巻き込まれた。
次の集落を目指して歩いていると、数人の武器を持った集団に囲まれたのだ。
盗賊に襲われたのかと思ったが、盗賊よりは身なりが良い。太刀筋も良い。
「大人しく荷物を渡せ」
リーダーらしき男が凄む。
見せびらかすような筋肉だが、脂肪が多く乗り過ぎて動きが重い。
「ギルドの仕事の最中だと知っての狼藉ですか?」
とりあえず、おきまりの威嚇をしてみると効果覿面で、筋肉の人の顔色が変わる。
「ぐっ……ギルド?」
「そしてこちらは騎士の方々です」
一緒にいるので紹介してみる。
「王都の騎士が何故……」
出番とばかり、私を背に庇うようにして筋肉の人の前に躍り出るモーウェル騎士。
なんかいい匂いをさせながら皺一つないマントを翻す。
「お前達、盗賊の類でなければ傭兵だな。誰に頼まれてこんな事をしている? 女性に乱暴を働くつもりなら容赦はしない」
さらにモーウェル騎士は、所作も美しく剣を抜く。
こんなシーン、物語で読んだことがあるなぁ。
「俺たちにも守秘義務がある。だが、契約の内容と相違もあるのでとりあえず引きてぇ……。騎士までいるなんてきいてねぇし」
確かにそれに関してはこちらとしても想定外だ。
やっぱり面倒だから、同行を断れば良かった。
「いいでしょう。ギルドは無駄な争いは望みません」
どうやら筋肉の皆さんも、割の合わない仕事を請け負ったのであろう。
戦意のかけらもみせず、傭兵たちは帰り支度を始めている。
「タリム嬢、狙われたのに捕えなくてもいいのか?」
「この人達を捕らえても、運搬の邪魔になります。騎士様たちが連れ帰って下さるなら任せますけど。怪我させても、こんな所で放置して死なれたらご近所迷惑ですし」
「うるせぇ。小娘にやられるほど俺達は弱くねぇ」
ダミ声で怒鳴りつけてくるが、既に負け犬の遠吠え臭い。
「ギルドを通さない仕事を受けている時点で、実力は推して知るべし、です」
ギルドに所属するには様々な審査がある。
おそらく騎士として働く以上の過酷なテストが行われ、ギルドに認められた者しか仕事を受けられない。
まぁ、所属してからの訓練の方がきついのだが。
ちなみに向上心はそんなに必要は無い。
条件をきちんと満たせばよいのだ。
ただの傭兵だということは、ギルド組合員より能力が劣るということだ。
「騎士様たち以外にも荷物を狙っている者がいるんですね」
去っていく傭兵たちの背中が遠くなっていくのを見つめてぼやく。
「誤解無きように言うが、私たちはそれを狙っている訳では無いぞ」
そうでしょうか、狙ってないならもう帰ってほしいんですけど。
「……騎士様はタリムを狙っているんだろ」
意地悪そうに笑ってロイが茶化す。
「なっ……断じてっ! 騎士を愚弄するかっ!!」
モーウェル騎士がロイに食ってかかる図が何となく定着してきたようだ。
人と話している姿をめったに見ないロイにしてはめずらしい。
「ロイ・アデルア、国に尽くす騎士様に無礼ですよ。私たちが荷物を検めさせないから、渋々付いてきているだけなんですから。それに、こんなキラッキラの騎士様が、私みたいのに興味があるわけないです」
「タリム嬢、それも誤解だっ!!」
「いえいえ、分かっていますよ。騎士は女性に礼を欠く行いを戒められているのですよね。でも、女性なら口説くべしとか、私にはそういうの不要ですから、ご安心ください」
女性に無礼を働いたと狼狽しているのであろうモーウェル騎士に、慰めの言葉をかける。
「ち、ちがうんだ……」
できれば、もう少し離れてほしいだけだ。
「タリム……知っていたが、素で酷いな」
ロイが微妙な表情でモーウェル騎士に目配せすると、モーウェル騎士は殺気をまとって剣の柄に手を掛ける。
案外、仲がいいのかな?
「あー、お腹すいたな」
そんなことより、次の街の名物が気になる。
「ああ、おは……タリム嬢?!」
少し疲れた顔のモーウェル騎士は、朝食に降りてきた私を見て固まった。
「一体何があったんだ? 髪がこんな……」
「仕事の邪魔だから切ってもらったんですよ。床屋で切ると今の騎士様みたいな顔をされるので」
ははは、と苦笑してみせる。
「しかし、あんな見事な黒髪を……」
「あ、切った髪、何かに使いますか? いつもは筆屋に売ると割といい値段で買ってくれるんで、
お礼としてロイ・アデルアにあげちゃうんですけど。ああ、でも、この辺で買ってくれる所ありますかねぇ」
「ア、アデルア殿に切らせたのですか?」
モーウェル騎士は目を白黒させている。
何か不味かっただろうか。
「なにか不味かったか? どこぞの姫や御令嬢でもあるまいし、剣士に髪の長いも短いもないだろ」
ロイがあくび混じりに私の心情を代弁すると、モーウェル騎士が睨みつける。
騎士様は女性の味方だものねー。
ロイはたいがいの女の敵だが、騎士の敵でもあるらしい。
だが、正直どうでもいい。
お腹が空いた。
「私、肉料理のセットで」
*****************
二日目なのに、またもや抜刀騒ぎに巻き込まれた。
次の集落を目指して歩いていると、数人の武器を持った集団に囲まれたのだ。
盗賊に襲われたのかと思ったが、盗賊よりは身なりが良い。太刀筋も良い。
「大人しく荷物を渡せ」
リーダーらしき男が凄む。
見せびらかすような筋肉だが、脂肪が多く乗り過ぎて動きが重い。
「ギルドの仕事の最中だと知っての狼藉ですか?」
とりあえず、おきまりの威嚇をしてみると効果覿面で、筋肉の人の顔色が変わる。
「ぐっ……ギルド?」
「そしてこちらは騎士の方々です」
一緒にいるので紹介してみる。
「王都の騎士が何故……」
出番とばかり、私を背に庇うようにして筋肉の人の前に躍り出るモーウェル騎士。
なんかいい匂いをさせながら皺一つないマントを翻す。
「お前達、盗賊の類でなければ傭兵だな。誰に頼まれてこんな事をしている? 女性に乱暴を働くつもりなら容赦はしない」
さらにモーウェル騎士は、所作も美しく剣を抜く。
こんなシーン、物語で読んだことがあるなぁ。
「俺たちにも守秘義務がある。だが、契約の内容と相違もあるのでとりあえず引きてぇ……。騎士までいるなんてきいてねぇし」
確かにそれに関してはこちらとしても想定外だ。
やっぱり面倒だから、同行を断れば良かった。
「いいでしょう。ギルドは無駄な争いは望みません」
どうやら筋肉の皆さんも、割の合わない仕事を請け負ったのであろう。
戦意のかけらもみせず、傭兵たちは帰り支度を始めている。
「タリム嬢、狙われたのに捕えなくてもいいのか?」
「この人達を捕らえても、運搬の邪魔になります。騎士様たちが連れ帰って下さるなら任せますけど。怪我させても、こんな所で放置して死なれたらご近所迷惑ですし」
「うるせぇ。小娘にやられるほど俺達は弱くねぇ」
ダミ声で怒鳴りつけてくるが、既に負け犬の遠吠え臭い。
「ギルドを通さない仕事を受けている時点で、実力は推して知るべし、です」
ギルドに所属するには様々な審査がある。
おそらく騎士として働く以上の過酷なテストが行われ、ギルドに認められた者しか仕事を受けられない。
まぁ、所属してからの訓練の方がきついのだが。
ちなみに向上心はそんなに必要は無い。
条件をきちんと満たせばよいのだ。
ただの傭兵だということは、ギルド組合員より能力が劣るということだ。
「騎士様たち以外にも荷物を狙っている者がいるんですね」
去っていく傭兵たちの背中が遠くなっていくのを見つめてぼやく。
「誤解無きように言うが、私たちはそれを狙っている訳では無いぞ」
そうでしょうか、狙ってないならもう帰ってほしいんですけど。
「……騎士様はタリムを狙っているんだろ」
意地悪そうに笑ってロイが茶化す。
「なっ……断じてっ! 騎士を愚弄するかっ!!」
モーウェル騎士がロイに食ってかかる図が何となく定着してきたようだ。
人と話している姿をめったに見ないロイにしてはめずらしい。
「ロイ・アデルア、国に尽くす騎士様に無礼ですよ。私たちが荷物を検めさせないから、渋々付いてきているだけなんですから。それに、こんなキラッキラの騎士様が、私みたいのに興味があるわけないです」
「タリム嬢、それも誤解だっ!!」
「いえいえ、分かっていますよ。騎士は女性に礼を欠く行いを戒められているのですよね。でも、女性なら口説くべしとか、私にはそういうの不要ですから、ご安心ください」
女性に無礼を働いたと狼狽しているのであろうモーウェル騎士に、慰めの言葉をかける。
「ち、ちがうんだ……」
できれば、もう少し離れてほしいだけだ。
「タリム……知っていたが、素で酷いな」
ロイが微妙な表情でモーウェル騎士に目配せすると、モーウェル騎士は殺気をまとって剣の柄に手を掛ける。
案外、仲がいいのかな?
「あー、お腹すいたな」
そんなことより、次の街の名物が気になる。
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