青春狂想曲

伸近藤

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トビといつもの場所にバイクを隠し、駐輪場をいつもの様に歩いていた。

「今日3年いなくね?」

ジンがトビに話しだすが、クスクスとトビが笑い出した。

「今日3年は、修学旅行準備の休みだろ!」

その時ジンの部屋で全く起きない真理の理由が繋がっていた。
それと同時に、自分の目が届かない所に行ってしまう事にジンは不安を抱いていた。
それほど真理は、美しく、可愛らしい子だった。

「修学旅行いつ?」
「どこ行くの?」

トビがさらに「アッハッハ」と笑出す。

「来週の月曜日からだよ!」
「行き先は東京らしいよ!」
「東京懐かしいな!」

トビは小学5年の時にこのど田舎に越してきた、シティーボーイだった。

「トビ東京詳しいの?」

ジンが、トビの過去を覗き込む。

「俺元々東京出身だよ?」
「親父がいきなり死んで、こっちに来たんだよ!」
「で、長男だから空手を始めたのよ!」

ジンは、トビの格闘慣れしている事に納得したと同時に、トビが背負っている重さを感じた。
いつも真理が待つ校門前に3人の一年が並んでいた。
そしてチャラチャラした深々とジンとトビに頭をさげ口を開く。

「俺らをヤンキーにしてください!」

そう言って3人は二人に自己紹介を始めた。
左から太っちょ、チャラ男、ジンの小学生の唯一の友達一幸がいた。

「よろしくお願いします。」
「橋本祐樹です。」

太っちょならではの息の詰まった話し方だった。

「ウィッス!荒江徹っす!」
「まずモテたいっす!」

一幸が話そうとした時に、ジンが遮る。

「カズ、お前はダメだ!」
「ジィちゃんバァちゃん心配するからやめろ!」

一幸が強く首を横に振った。

「俺は、ジン君のダチダカラ…」

少し、一幸は知能が足りない、特別学級と普通クラスの間に居るような子だった…
ただ、ジンが親父に習った急所を責めても、一幸には効かない特殊な強さを持っていた。

「そもそも‼︎俺の軍はトビだけでいいんだぜ?」

チャラ男が、土下座してトビの足にしがみついた。
まるで幼い子供が、おもちゃ欲しさに駄々をこねる様に。

「トビ副長…仲間にしてくださいな…」

頭をポリポリ掻きながら、綺麗な空を見上げ、ジンと目を合わせる。

「だって!」

ジンがカッとなり、口を鋭く尖らせた。

「待てよ!俺は子分とかいらねぇし、一緒に肩を並べられるダチがいればいいし、何より、副長…その響き…俺がいい‼︎」

ジンの子供らしい瞬間に、太っちょ、チャラ男、一幸が驚くが、冷静に肩をフゥーと落とし、トビがジンの肩をポンと叩く。

「ジン、お前は富山さんの、右腕、富山派の副長!」
「鬼馬軍の隊長!」
「そして俺が、鬼馬軍の副長で、富山派の特攻隊長!」

ジンは、さらに口を尖らせると同時に、顔を赤くした。

「ズリィよ!何かカッコいい響き全部持ってかれた…」

「まぁいいじゃん楽しくなりそうじゃん!」

そう言ってトビが、二階の教室を見てニヤリと笑う。
二階からは、佐藤隼人がトビを睨みつけていた。
5人で、下駄箱まで向かうと、剛力弱し派の、残党が待ち構えていた。

「今日から鬼馬派でおねげぇしゃす!」

20人位の2、3年が、1年に頭を下げると同時に、ジンとトビ以外の3人はゾクゾクと鳥肌を立たせていた。

「ごめんなさい!」
「俺の軍は少数派だから、富山総本軍に入って下さい!」
「じゃ!」

ケロっとした顔で、ジンが20人を適当にあしらい逃げた。
そして5人は、階段を降りてくる佐藤隼人に出くわす…

「飛仁はテメェか?」
「俺の可愛い可愛い妹が、おにぃちゃんに勝った人見つけたよ!凄く好きになっちゃっただぁ?」
「昨日麻由子のパンツ見たのか?」
「体育館で、俺を倒したあとギャラリーにいただろ?俺の可愛い妹がぁ?」

トビは、とっさに理解した。
佐藤隼人は、佐藤麻由子のお兄様で、今後お兄様と呼ぶであろう偉大な存在と。

「お兄様!」
「麻由子さんは、私が幸せにします。」
「麻由子さんのパンティは、まだ汚れを知らないホワイティでした。」

その言葉を言い終えると同時に、トビは隼人の顎を目がけハイキックをかます。
隼人は、鈍い音を立て、廊下に舌を出し寝転んだ。

「トビ!シスコン置いて行くべ!」

後ろから可愛らしい声と同時に麻由子が、トビの腕に抱きつく。

「トビ君?」
「でいいかな?」

トビの顔が赤くなると同時に、中学生とは思えない胸を押しつけた。

「今日放課後屋上で待ってるね!」

言葉が詰まるトビはコクコクと頷いた。

「クゥ~ヤンキーモテますな~」っとチャラ徹は、ヤンキー生活に夢を抱き始めた。
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