13 / 21
13
しおりを挟む
王妃殿下もといルアード様は、ロイ様が腰掛ける寝台まで近づくと、ロイ様のシャツの首元を掴み、立ち上がらせる。
「トールに、何もしていないだろうな!?」
「何も、とは?」
ロイ様は長身だが、ルアード様は頭一つ大きい。たぶん、二メートル近くあるんじゃないのか?しかも、細マッチョのロイ様と違い、筋肉ダルマ……いや、ガッシリとしたタイプのマッチョだ。迫力が違う。
「とぼけるな!お前まさか、無理やり……」
「挿入はしていませんが」
「そ、そう、そ……」
真顔でまたとんでもないことを言い出したロイ様にルアード様は顔を赤らめる。
可愛い。
いや、決して可愛くはない。本来、ルアード様は格好良い。
その体格もそうだが、灰色の髪はいつも短く切り揃えられ、翠色の切れ長の瞳、高い鼻梁、薄い唇、いつも凛々しく、男の憧れる漢って感じだ。
もちろん、体格は飾りじゃなく、その剣術は雄々しい。ルアード様の本気の一発で吹き飛ばないのは、この国の騎士団でもロイ様だけだ。
ちなみに、元騎士団長。ロイ様の前任になる。
そんなルアード様を可愛いと思っているのはこの城内で国王陛下と俺だけかもしれない。みんな、ルアード様の中身の可愛さに気づいていない。
とても純粋な方で、剣術以外は不器用だ。あと、ご飯をいっぱい食べる。ものすごい笑顔で。
俺は騎士団、特にルアード様に高タンパク質の料理を提供する関係で懇意になった。ルアード様はそれまで焼いた肉をとにかく食べるということだけをされていたので、俺が塩や薬草で香り付けしたサラダチキンや鶏ハムを作ると、一瞬でなくなるほど喜んで食べてくれた。
俺は前世で男は筋肉があった方がモテると思って、よく当時流行ってたサラダチキンや鶏ハムを作っていた。鶏肉、安いし。
まぁ、俺に筋肉は結局つかなかったけど、こうして今ルアード様やロイ様、騎士団のみなさんの筋肉になっている。
「と、とにかく、トールの意思を無視して無体なことはしていないな?」
「無体……?まぁ、兄上のように媚薬を盛ったりはしてませんけど」
「えぇ!?」
思わず声が出た。
国王陛下、ルアード様に媚薬を盛ったりしたのか!?
「あっ、トール、ちがっ、いや、違わないん、だが……あの、それはもうちゃんと、ラズとは話し合っててっ、あいつは悪いヤツじゃ……」
驚愕した顔でルアード様の顔を見た俺に、なんとか国王陛下の名誉を挽回しようと必死になっている。俺なんか適当に嘘だってあしらえばいいのに。
この人の良さもルアード様の可愛らしい所だ。
いまだに国王陛下の良い所を必死で俺にアピールするルアード様を慈愛の眼差しで見ていると、ロイ様から不穏な空気が漂う。
「無駄話は良いので、もう出ていってもらえますか?幸せな朝が台無しです。そもそも、入室の許可も出していない」
「何をっ!お前がトールを部屋に引きずり込んでなければ入ったりなどしないっ。そもそも、俺が昨日壮行の義に出られさえすればこんなことには……」
ルアード様は再び鬼の形相でロイ様に掴みかかる。
そうだ。ルアード様は昨日悪阻で壮行の義に出られていなかった。
「あの、お身体は大丈夫ですか?差し入れ、少しは食べられましたか?」
バイト先のパートさんが初めての妊娠で悪阻に苦しんでいた時に、先輩ママさんが酸味のある物が意外と食べられると言っていたのを思い出し、酸味のある果実を寝室に届けるために侍従さんに渡していた。
「トール!本当にありがとう。何も口に出来なかったのに、あの果実はいくらでも食べられた!そのおかげで少し他の物を食べようと意欲も出てきたのだ。本当にトールにはいつも助けられる」
「そう言って貰えるだけで、俺は嬉しいです」
俺でも、人の役に立てる。誰かに必要とされることが、こんなにも満たされるなんて、異世界転生するまで知らなかった。
ルアード様と微笑み合う。
「……義兄上、久しぶりに手合わせでもします?今、ものすごく義兄上をぶちのめ……いえ、義兄上と稽古したい気分です」
「おっ、そうか。珍しいな?いいぞ」
「いやいやいや、ダメですよ!?」
何か不穏な言葉が聞こえた気がするし、手合せなんてしたら、国王陛下が飛んでくる。
ただでさえ国王陛下はルアード様のことを溺愛されているのに、今はご懐妊されているから余計に過保護だ。
あ、ご懐妊されているといっても、もちろんルアード様は男性だ。この世界では、どちらの性でも妊娠できる。一時的ではあるが、魔法で子宮のような物を造るらしい。だから、このルアード様の筋骨隆々なお身体に赤ちゃん……ってことは、ルアード様が国王陛下に抱かれ……。
「トール、助けに来るのが遅くなってしまったが、本当に大丈夫、か?」
「え?あ、大丈夫、です」
気遣わしげなルアード様の問いかけに、いろいろなことを想像していたため、少し顔を赤らめながら頷く。
「やはりっ、何かされたのだろう!?」
誤解したルアード様が慌てて俺の身体を確認しようと手を伸ばす。その手をロイ様が思い切り叩き落とした。
「触れないでもらえますか?何か、したに決まっているでしょう?愛する人と共寝して何もしない男がいるとでも?」
「ロイ!貴様っ」
ルアード様がまたロイ様の襟元を掴み、殴りかからんばかりに詰め寄る。
ロイ様は動じることなく平然と見返し、むしろ挑発的に笑んだ。
元騎士団長と現騎士団長、この国の最強の騎士二人だ。
そして、王妃殿下と王弟殿下、この国で国王陛下に次ぐ地位の二人でもある。
この二人の争いを止められる人はこの国にいないっ。
一人どうしようもなく最弱部類の平民がオロオロしていると、先ほどルアード様が開け放った扉から呆れた声が響く。
「朝っぱらから、むさ苦しい戦い止めてもらえますか?」
「「ミハエル!」」
止められる人、いたー!
「トールに、何もしていないだろうな!?」
「何も、とは?」
ロイ様は長身だが、ルアード様は頭一つ大きい。たぶん、二メートル近くあるんじゃないのか?しかも、細マッチョのロイ様と違い、筋肉ダルマ……いや、ガッシリとしたタイプのマッチョだ。迫力が違う。
「とぼけるな!お前まさか、無理やり……」
「挿入はしていませんが」
「そ、そう、そ……」
真顔でまたとんでもないことを言い出したロイ様にルアード様は顔を赤らめる。
可愛い。
いや、決して可愛くはない。本来、ルアード様は格好良い。
その体格もそうだが、灰色の髪はいつも短く切り揃えられ、翠色の切れ長の瞳、高い鼻梁、薄い唇、いつも凛々しく、男の憧れる漢って感じだ。
もちろん、体格は飾りじゃなく、その剣術は雄々しい。ルアード様の本気の一発で吹き飛ばないのは、この国の騎士団でもロイ様だけだ。
ちなみに、元騎士団長。ロイ様の前任になる。
そんなルアード様を可愛いと思っているのはこの城内で国王陛下と俺だけかもしれない。みんな、ルアード様の中身の可愛さに気づいていない。
とても純粋な方で、剣術以外は不器用だ。あと、ご飯をいっぱい食べる。ものすごい笑顔で。
俺は騎士団、特にルアード様に高タンパク質の料理を提供する関係で懇意になった。ルアード様はそれまで焼いた肉をとにかく食べるということだけをされていたので、俺が塩や薬草で香り付けしたサラダチキンや鶏ハムを作ると、一瞬でなくなるほど喜んで食べてくれた。
俺は前世で男は筋肉があった方がモテると思って、よく当時流行ってたサラダチキンや鶏ハムを作っていた。鶏肉、安いし。
まぁ、俺に筋肉は結局つかなかったけど、こうして今ルアード様やロイ様、騎士団のみなさんの筋肉になっている。
「と、とにかく、トールの意思を無視して無体なことはしていないな?」
「無体……?まぁ、兄上のように媚薬を盛ったりはしてませんけど」
「えぇ!?」
思わず声が出た。
国王陛下、ルアード様に媚薬を盛ったりしたのか!?
「あっ、トール、ちがっ、いや、違わないん、だが……あの、それはもうちゃんと、ラズとは話し合っててっ、あいつは悪いヤツじゃ……」
驚愕した顔でルアード様の顔を見た俺に、なんとか国王陛下の名誉を挽回しようと必死になっている。俺なんか適当に嘘だってあしらえばいいのに。
この人の良さもルアード様の可愛らしい所だ。
いまだに国王陛下の良い所を必死で俺にアピールするルアード様を慈愛の眼差しで見ていると、ロイ様から不穏な空気が漂う。
「無駄話は良いので、もう出ていってもらえますか?幸せな朝が台無しです。そもそも、入室の許可も出していない」
「何をっ!お前がトールを部屋に引きずり込んでなければ入ったりなどしないっ。そもそも、俺が昨日壮行の義に出られさえすればこんなことには……」
ルアード様は再び鬼の形相でロイ様に掴みかかる。
そうだ。ルアード様は昨日悪阻で壮行の義に出られていなかった。
「あの、お身体は大丈夫ですか?差し入れ、少しは食べられましたか?」
バイト先のパートさんが初めての妊娠で悪阻に苦しんでいた時に、先輩ママさんが酸味のある物が意外と食べられると言っていたのを思い出し、酸味のある果実を寝室に届けるために侍従さんに渡していた。
「トール!本当にありがとう。何も口に出来なかったのに、あの果実はいくらでも食べられた!そのおかげで少し他の物を食べようと意欲も出てきたのだ。本当にトールにはいつも助けられる」
「そう言って貰えるだけで、俺は嬉しいです」
俺でも、人の役に立てる。誰かに必要とされることが、こんなにも満たされるなんて、異世界転生するまで知らなかった。
ルアード様と微笑み合う。
「……義兄上、久しぶりに手合わせでもします?今、ものすごく義兄上をぶちのめ……いえ、義兄上と稽古したい気分です」
「おっ、そうか。珍しいな?いいぞ」
「いやいやいや、ダメですよ!?」
何か不穏な言葉が聞こえた気がするし、手合せなんてしたら、国王陛下が飛んでくる。
ただでさえ国王陛下はルアード様のことを溺愛されているのに、今はご懐妊されているから余計に過保護だ。
あ、ご懐妊されているといっても、もちろんルアード様は男性だ。この世界では、どちらの性でも妊娠できる。一時的ではあるが、魔法で子宮のような物を造るらしい。だから、このルアード様の筋骨隆々なお身体に赤ちゃん……ってことは、ルアード様が国王陛下に抱かれ……。
「トール、助けに来るのが遅くなってしまったが、本当に大丈夫、か?」
「え?あ、大丈夫、です」
気遣わしげなルアード様の問いかけに、いろいろなことを想像していたため、少し顔を赤らめながら頷く。
「やはりっ、何かされたのだろう!?」
誤解したルアード様が慌てて俺の身体を確認しようと手を伸ばす。その手をロイ様が思い切り叩き落とした。
「触れないでもらえますか?何か、したに決まっているでしょう?愛する人と共寝して何もしない男がいるとでも?」
「ロイ!貴様っ」
ルアード様がまたロイ様の襟元を掴み、殴りかからんばかりに詰め寄る。
ロイ様は動じることなく平然と見返し、むしろ挑発的に笑んだ。
元騎士団長と現騎士団長、この国の最強の騎士二人だ。
そして、王妃殿下と王弟殿下、この国で国王陛下に次ぐ地位の二人でもある。
この二人の争いを止められる人はこの国にいないっ。
一人どうしようもなく最弱部類の平民がオロオロしていると、先ほどルアード様が開け放った扉から呆れた声が響く。
「朝っぱらから、むさ苦しい戦い止めてもらえますか?」
「「ミハエル!」」
止められる人、いたー!
83
あなたにおすすめの小説
転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています
柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。
酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。
性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。
そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。
離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。
姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。
冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟
今度こそ、本当の恋をしよう。
「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす
水凪しおん
BL
体に災いを呼ぶ「禍の刻印」を持つがゆえに、生まれた村で虐げられてきた青年アキ。彼はある日、不作に苦しむ村人たちの手によって、伝説の獣人「銀狼王」への贄として森の奥深くに置き去りにされてしまう。
死を覚悟したアキの前に現れたのは、人の姿でありながら圧倒的な威圧感を放つ、銀髪の美しい獣人・カイだった。カイはアキの「禍の刻印」が、実は強大な魔力を秘めた希少な「聖なる刻印」であることを見抜く。そして、自らの魂を安定させるための運命の「番(つがい)」として、アキを己の城へと迎え入れた。
贄としてではなく、唯一無二の存在として注がれる初めての優しさ、温もり、そして底知れぬ独占欲。これまで汚れた存在として扱われてきたアキは、戸惑いながらもその絶対的な愛情に少しずつ心を開いていく。
「お前は、俺だけのものだ」
孤独だった青年が、絶対的支配者に見出され、その身も魂も愛し尽くされる。これは、絶望の淵から始まった、二人の永遠の愛の物語。
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる