獣人王に溺愛され、寵姫扱いです

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救難で拾った生き物

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「生きてる、よね?」

恐る恐るそのもふもふに触れてみる。
暖かいし、お腹の部分が動いているので呼吸はしているようだ。
まだこの世界のことが分かっていないけれど、生き物であることは間違いなさそうだ。
生き物だということは、もしかして、あの女性が言っていた「あのこ」だろうか?
自分の最期に探す存在だから、きっとあの女性の子供なのかなと思っていた。周囲を見る限り、人影はない。
しかし、目の前で寝ているもふもふな生き物は、完全に動物で人ではない。
完全な獣体はあまりいないと神様は言っていたから、あの女性の家族のように思っているペットみたいな存在かな?
でも、あまりいないだけでその珍しい完全な獣体の獣人である可能性もゼロではない。

改めて袋を覗き込む。
その生き物は茶色のもふもふの毛並でとても小さい。
寝ているので瞳の色は分からないが、知っている生き物に当てはめるなら猫、だろうか?
野菜も微妙な違いがあったから、生き物も同じように違いがあると思っておいた方がいい。

……しかし、可愛いな。

生活に余裕がなかったから、生き物は飼えなかった。
たまに地域猫に遭遇して、コンビニに猫缶を買いに走ったことは何度かあり、そのせいで自分が昼ご飯抜きになったとしても満たされるくらいには好きだ。

すやすやと寝息を立てているこの生き物の眉間から鼻先を指裏で触れる。袋の中で僕の指裏の刺激に反応して体制を変えようとして小さな足を動かした。
その様子に思わず笑みがこぼれた。
心の中が温かい何かに包まれるような感覚に浸っていると、突然あの女性の言葉を思い出す。

「にげて」

冷水を浴びたかのように、全身に緊張が走る。
そうだ。
逃げてって言い残したということは、誰かに追われていたってことだ。
消えたあの女性が目当てだったのだとしたら、あの子を連れて逃げろとは言わないはず。
追われている目的はこの子だった?
いや、あの女性が消えたことによって危険は去った可能性もある。正直、分からない。

……この子を、守らないと。

湧き出る使命感のようなものに突き動かされ、その場に立ち上がる。

家に帰ろう。まず、この子を見えない所まで連れて行ってからまた考えればいい。

寝ている様子を確認した後、袋をまた閉じ起こさないように慎重に持ち上げる。
しっかりとした命の重みを胸に感じながら、また冷たい川へと戻る。
少し身体を丸め、なるべく遠くからもこの袋自体が見えないように、周囲の気配にも気を遣いながら足早に川を渡る。
この川の深さは一番深い所で腰くらいあったので、袋が飛沫などで濡れないように胸の高い位置まで上げる。
その時にふと、あの女性はこの袋を水に濡らさないように頭の上まで持ち上げて、水の中を運んでいたんじゃないかと思った。この袋が倒れていた女性の頭部の辺りにあり、最初はフードかと勘違いしたからだ。
あの女性がこの小さな生き物を慈しみ、少しも濡らすまいとこの川を渡っていた光景を思い浮かべ、ますますこの小さな生き物を守らなければと唇を引き結ぶ。

行きは近いとさえ感じていた川幅が、周囲に気を配り少しの物音も見逃すまいと気を張った状態で渡ると、かなり遠くに思えた。
それでも渡りきり、もう一度あの女性がいた辺りを振り返り伺うも人影も見えない。
少し安堵を覚えつつ、とにかく家の中へ入ろうと足早に戻る。
念の為、家の周囲にも人影や物音などないか気を配りつつ、やっとの思いで家の中に戻り、扉を閉める。

全身から力が抜けるようだった。
小さな生き物の入った袋を胸に抱えた状態でその場にへたり込む。
緊張のあまり呼吸も浅くなっていたのか息も荒く、強ばっていた身体も震えが止まらない。
なんとか部屋まで戻ってこられた。
なぜか勝手に達成感のようなものまで湧いてくる。
「良かったぁ……」
思わず声が漏れ、顔が安堵の笑みを浮かべた時に抱えていた袋が僅かに動いた。
そうだ。狭い袋から早く出してあげないと。

抱えていた袋を床に起き、開く。
小さな生き物はまだ寝ているようだった。
なるべく起こさないように袋にそっと手を差し入れ、抱き上げる。
フワフワの毛並みと温かさに思わず笑みが零れた。
胸に抱き、寝室で寝かそうと立ち上がった時に突然耳がプルルと動く。
立ち上がる時に力が入ってしまったのかもしれない。
しまった、と思った瞬間にその小さな生き物が瞳を開けた。
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