藤堂真樹の新・杜子春

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藤堂真樹の新・杜子春

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1.プロローグ
 この小説は唐代伝奇の杜子春伝の物語を書き直したものである。芥川龍之介はこれを翻案して日本に紹介したが、作者は芥川とは別の形で、このストーリーを書き直そうと思う。

2.トシハルと謎の男
 トシハルは横浜に住んでいた。若い頃から仕事もせず、気持ちばかり大きくて遊び回っていたため、財産を使い果たしてしまった。妻や親戚たちにもあきれられて、ホームレスとなった。冬の寒い夕方、ボロボロの服を着て、腹をすかせたまま、横浜の中華街の入り口で、天をあおいで深いため息をつくのだった。
 すると、どこからか耳に声が聞こえてきた。「お前のことは良く知っている。五体満足で、なおかつ学歴もありながら一度も働こうとしない。その見上げたナマケモノ根性に敬服して、おまえにチャンスを与えよう」。
 そう言われ、後ろを振り返るとそこに奇怪な身なりをした男が見えた。
 男は自分のことを「サルタン」という魔術師であると名乗った。男はトシハルに数万円の紙幣を渡し、「とりあえず今夜はこれで寝るところを探して明日の夕方、またここに来るが良い。絶対、遅刻してはならない」と言った。
 翌日、約束どおりにトシハルが行くと、男は金貨五百枚という大金を与え、「それを好きに使うが良い」と言って去った。トシハルは大金持ちになると、また浪費癖がよみがえった。美衣美食のぜいたくや豪華な宴会にふけり、ギャンブルなどで、半年もしないうちに、再びもとの貧乏に戻ってしまった。また横浜の中華街の入り口でボロボロの身なりでため息をつくと、すぐにあの謎の男がまた現れた。男は「また、こうなったのか。よくよく怠けものだね。お前は。では、また助けてあげよう。お金はいくらあればいいかい?」と聞いた。トシハルは恥じて答えなかったが男は無理やり、かさねて聞いた。トシハルは自分のふがいなさを恥じ、「すみません、もういいです」と答えた。しかし謎の男は「明日の夕方、またここに来るのだ」と命令した。トシハルは恥をしのんで行くと、前にもらった金額の三倍以上にあたる金貨で一億円以上の大金をもらった。
 最初、トシハルは「今度こそ、事業に投資して、大金持ちになるんだ」と思ったが、実際にお金を手にすると、もとの浪費癖がもどってしまった。一、二年もしないうちに、前よりいっそうひどい貧乏になってしまった。トシハルは前と同じ場所で、また謎の男と出くわした。あまりの恥ずかしさに、手で顔をかくしながら走り去ろうとしたが、男はトシハルのズボンのすそをつかんで引き留め、「ああ、ダメな男だなあ。今度こそまっとうな生活を送りなさい」と言って、今度は、数億円もの天文学的な大金をトシハルに与えた。
 トシハルは「親戚の有力者は、誰もぼくを助けてくれなかった。でも、この見ず知らずの男は、ぼくを三度も助けてくれた」と感激して、男に「いただいたお金で、この世での後始末をさせていただきます。そのあと、あなたのお好きなように私を使ってください」と言ったのだった。男は「そうだ、それでいい。人生の後始末が済んだら、来年の七月十五日に、横浜中華街の満陳楼の前で再会しよう」と言った。トシハルは自分が人間社会から姿を消す前に、横浜の郊外に宅地を購入し、大邸宅を建てた。そこに住宅を用意し、自分の一族を呼び寄せ、大邸宅の中の一戸建てを全員に分け与えた。甥や姪は結婚させ、恩人には恩返しをし、それぞれきっちりと今までの人生のかたをつけた。
 トシハルは約束通り横浜中華街の満陳楼の前に行って、男と再び落ちあった。二人は、そこから長野の県境の八ヶ岳に登った。山の奥に、秘密の実験室があって、そこに高さ九尺余の調薬用の爐があり、紫の炎をあげて輝いていた。装置のまわりには、九人の美少女がひかえていた。夕暮れどき、男は異国風の着物に着替えて、トシハルに、白い石薬、三丸を与え、酒といっしょに飲ませると、戒めて言った。「何が起こっても絶対に声を出してはいけない。これから、さまざまな鬼神や、そして身内の人間があらわれて、きみを苦しめようとするが、みな幻覚にすぎない。私の言葉を思い出して、声を出すな。そうすればきみを私のような魔術師にしてやろう。そうなれば、この世で叶えられないことはない。もし声を出せば、もうそれで終わり。元通りにはならなくなってしまうことを肝に銘ずるのだ」。そう言うとトシハルを残して男は立ち去った。

3.女への転生
「サルタン」と名乗る謎の男が去ると、おどろおどろしい鬼神の軍団が登場し、大将軍と名乗る異形の巨人があらわれた。鬼神の家来たちが「おまえは何者か、答えよ」と武器をかざして怒鳴り、トシハルを脅したが、彼は答えなかった。
 鬼神の軍団が去ると、無数の毒虫や毒蛇があらわれ、トシハルに襲いかかったが、彼が無視し続けたので、退散した。大雨がふりはじめ、暴風と雷がトシハルを襲ったが、彼は男との約束を思い、正座したまま無視し続けた。
まもなく、鬼神の軍団が戻ってきた。異形の化け物たちは武器を手にしてトシハルを取り囲み「名を言え。言わねば、きさまの心臓をえぐって、鍋で煮てやる」と脅した。しかしトシハルは無視して答えなかった。
化け物たちは、トシハルの別れた妻を連れてきて、トシハルの前にひきすえた。そしてトシハルに「名を言え。言えば、この女を助けてやる」と言った。
 しかし、トシハルは無視した。化け物たちは、トシハルの妻をムチで打ち、矢を射かけ、刀で切り、煮たり焼いたり、拷問のかぎりを尽くした。妻は泣き叫び「十年以上もあなたにつれそった私を、どうして助けてくれないの。たった一言、あなたが口を開いてくれれば助かるのに。どうして!」と、トシハルに呪詛の言葉を浴びせた。鬼神の軍団の将軍は、押し切りの切断装置で、トシハルの妻の体を、足のほうから一寸刻みで切断した。妻はますます泣き叫んだが、トシハルは無視した。
 将軍は「こいつは妖術を体得しているようだ。生かしてはおけない。この世から追い出してしまえ」と言い、部下にトシハルを斬り殺させた。トシハルの魂は地獄に落ち、閻魔大王に裁かれ、地獄の責め苦をすべて味あわされた。だがトシハルは心に男の言葉を念じ、苦痛に耐え、うめき声ひとつあげなかった。
地獄の刑罰は終わった。閻魔大王は「この人間は、陰の気をもつ賊であるから、女に生まれ変わらせよう。日本の神奈川の会社員の家の子としよう」と言った。
 こうしてトシハルは、女児に転生した。トシハルはヒロミと名ずけられた。
しかし、生まれつき病弱で、鍼やお灸などの治療を毎日のように受けた。またいつも転んだり、ベッドから落ちるなど、事故が絶えなかった。しかし女児に生まれ変わっても、トシハル(ヒロミ)は一言も声を出さなかった。家族は、この子は生まれつき口がきけないのだと思った。身内の意地悪な者からいじめられても、ヒロミは声をあげなかった。
 その後、ヒロミは成長して、たいそう美しい女性になった。
 ある日、家の前を掃除していると、大野という商事会社の社長が車で通りすがりにヒロミの姿を見染めたのであった。
 大野はヒロミの美しさを大いに気に入り、「わしの妻に迎え入れよう」と仲人を立ててヒロミに求婚した。彼は、いくつもの会社を経営する大金持ちであった。
 ヒロミの家族は、障がい者であることを理由に遠慮しようとしたが、大野は「口をきけなくてもかまわない。かえって賢い妻であってくれさえすれば、その方が世のおしゃべり女房どもの戒めになるのだ」と言って丁寧な態度でヒロミを妻に迎えたいと言った。
 20歳以上も年の差があるのでヒロミも迷ったが大野の強引な求婚に負け、結婚を承知したのであった。冬が過ぎ、春が来ると大野はヒロミと晴れて結婚した。結婚式の初夜、大野はホテルの豪華なスイートルームのベッドの上でヒロミの身体を抱いた。しかし激しい大野の愛撫にもヒロミは声を立てなかった。乳首を吸われ、膣に大野の逞しい男根が入ってくると最初は処女膜が破れる痛みを感じたが、大野の男根がヒロミの膣を往復するうちに段々と快感が湧いてきて、ヒロミはとても感じてしまい声をあげそうになったが、それも我慢した。
 夫はヒロミにとてもやさしかった。ヒロミを愛し、週に何度も浩美を抱いて、女の絶頂に導くのであった。しかしヒロミは歯を食いしばって声をあげないように努めるのであった。

4.女の悦び
 そんな、ある日、二人の寝室でいつものように大野はヒロミを抱いた。大野が激しくヒロミの女陰を突き始めるとヒロミは、快感が沸いてくるのを覚えていた。しかし、いつものようにそれを大野に悟られないようにしていた。
 いつもなら、あるところで快感は留まるところだった。しかし、その日は快感がどんどん激しくなっていった。男であったときの射精する瞬間の、あの快感が押し寄せてきたのだ。
 声を出さないように抑えていたのに、ついにヒロミは我慢できず、いつしか大きな喘ぎ声を上げていた。
 「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ~ん!」
 「ヒロミ。どうした?」
 大野が、いつもとは違うヒロミの様子に腰の動きを止めて尋ねた。
 あまりの快感に、謎の男との約束を忘れたヒロミは夫に対し声を上げた。
 「あなた、止めないで。もっと、もっと激しく突いて~」
 唖と思っていたヒロミから、初めてそう言われて嬉しくなり、大野はヒロミの女陰を再び激しく突き始める。 
 「ああ・・・・、い、イクっ~!」
  激しい快感がヒロミを襲った。それと同時に大野は射精していた。
ヒロミは、かつてないほどの快感を覚えていた。それは男であったときのトシハルの射精の瞬間と快感と同じなのだが、それがずっと続いていた。
 (気が狂いそう・・・・。これが女の快感なの?)
  快感の中でヒロミはぼんやりと、そう考えていた。
 去らない快感に酔いしれていると、どこからか「わしの言いつけを破りおって、とうとう声を出してしまったね。お前も所詮、人の子よのオ。もう、魔術師にはなれないし、元の男にも戻れないよ。これからきみは女としての人生を生きていくのだ」と謎の男の声が頭の中に響いた。しかしヒロミはそれで満足であった。女としての幸せを知ったからである。男のトシハルに戻りたいという気持ちはなくなっていた。
 刺激的なセックスの快感から声を出すようになって、この頃はヒロミの方から甘い声で大野にセックスをねだるようになった。「ねえ、あなた~。お願い。テレビなんか消して、早くう~」。大きな乳房が透けて見えるような絹の薄いネグリジェをつけたヒロミがセクシーな姿で大野を誘った。
 セックスの期待に、ヒロミの心の中から(あなた、私を抱いて。いっぱいおまんこして、私を何度もイカせて欲しいわ)という色欲に満ちた淫らな声が思わず湧きあがると、乳房を揉まれ、女陰を激しく突かれたいという受け身の女の性に体中が燃えてくるのを感じるのだった。股間が切なくて、膣を大野の逞しい男根で埋めて欲しくてムズムズする。太腿をねじりながら擦り合わせるとパンティの中の女陰から快感がじわりと湧いてくる。そんなとき、(私って、なんてはしたない女なのかしら)とヒロミは思うのだった。
 「すぐ行くよ」
  いつも仕事で疲れて帰ってくる大野は、三日に一度くらいしかヒロミを抱けない。しかし、その時は激しい。
 ヒロミは寝室の緋色の布団の上で大野と裸になって激しく体を絡ませあった。
 白い裸身がスタンドライトに映えて妙にエロティックだ。
 唇を合わせお互いに舌を差し入れて、音を立てるほど舌を激しく絡ませ吸いあったあと、そのまま、抱き合いながら激しくお互いの体を貪り合うと痺れるような快感が身体を突き抜ける。大野に敏感になった乳首を吸われ、男根がヒロミの身体の中に侵入してくると、「あああっ~、あなた、いい、いいわ~」と媚肉に与えられる快感にヒロミは喘ぎまくり、腰を激しく振りながら白い背中をのけぞらせるのだった。秘裂に挿入している大野の怒張がすざましい勢いで出入りすると、押し寄せる快感にヒロミはビク、ビク、ビクンと身体を激しく痙攣させた。男根が動くたびに形のいい乳房がブルブルと揺れ、先端にあるピンクの乳頭はビリビリと痛みを感じるぐらい勃起している。ヒロミは何度ものけぞり、女の極みに向かっていった。最後にヒロミは絶頂に達し「あ~、ああん~、イク~、イっちゃう。あなた~」と叫ぶのだった。
 浩美の膣のしめつけに、たまらず大野は射精した。亀頭部が大きな膨張を見せ、熱い精液がヒロミの膣の奥に向かって打ち放たれた。膣にねばっこい精液が染み込んでくる。その感覚はあまりに甘美でヒロミはすべてが満たされていくのを感じるのだった。ヒロミは何度も襲ってくる快感の波に体を引き攣らせた。大野との激しいセックスが終わってヒロミは、快感の連続に、まだ子宮の中に大野に与えられた快感の甘い痺れが残り火のように燃え、それが気持ちまでも蕩けさせ、女の悦びが湧いてくるのだった。
 情事の後、(こんなに激しく抱かれて、私、あなたにとても愛されているのね)と思うのだった。今や大野は20歳以上も年の差のあるヒロミの美しくセックスのときに激しく反応する敏感な肉体の虜になってしまったのである。 
ヒロミにとっても大野との濃厚なセックスは麻薬的な快感であった。最初は大野に強引に求愛されて結婚したのだけれど、最近では激しいセックスにヒロミは大野がとても好きになっていた。(いっぱい、おまんこされて、とてもうれしい。私もあなたをとても愛しているの)と。
 奥様になった今、淫らな欲望を身体の中で燃え上がらせていることを外には見せないようにしているが、しかし、ヒロミには肉欲に目覚めた身体は元には戻せないように思われた。ときどき(私、あの人にもっと激しく愛されたい)と思うことがある。ヒロミは大野から与えられる、痺れるようなセックスなしには生きていけないような感じがするのだった。
 もうヒロミは、声を出せる普通の女だった。そんなヒロミを大野は激しく愛した。それから間もなく、ヒロミは妊娠し、約十ヶ月後、元気な男の赤ちゃんを出産した。ヒロミは可愛い男の子に乳をやりながら思うのだった。
(私、女になってとても幸せ。夫からも、とても愛されて満足だわ)。
 大野はときどき、ヒロミを抱くのだが、ヒロミは昨夜の激しい情事を思い出すと思わず女陰の奥がじっとりと濡れるのであった。大野とのセックスでまた子供を孕まされると思うと、ヒロミにとって、それはエロティックな悦びでもある。(また、あの人の赤ちゃんが出来るかもしれないわ。今度は女の子がいいかしら)と思うのだった。そんなことを考えるとそれだけで、触れもしないのに女陰の奥が濡れてしまい、今夜もまた大野とセックスをしたくなるのだった。

5.エピローグ
 大野の妻になってヒロミは家事や料理や育児も一生懸命やるようになった。怠け者だったトシハルのときとは思いもよらぬ変身であった。
 ときどき可愛い赤ちゃんをベビー・カーに乗せて買い物に行くとき、近所の顔見知りの人たちと会うと、丁寧に挨拶をするのだった。
 そんなことから、近所では愛想のよい美人の働き者の奥さんと評判であった。
 ヒロミの耳に浴室からシャワーを浴びる音、歯を磨く音が聞こえていた。
 大野は時々、朝、シャワーを浴びる。
 「ヒロミ、コーヒーを淹れてくれないか」
 ヒロミはいつもコーヒーをいれさせられていた。「はあい♪」と言って、キッチンへ行ってコーヒーを淹れ始めた。コーヒーの茶色い液体がぽたりぽたりと落ちていくのを、ヒロミはいつまでも見つめていた。
 「コーヒーは、まだ?」
トランクス一丁で、バスタオルで髪の毛を拭きながら大野が聞く。
 「すぐ持っていきます」
 ヒロミは、コーヒーカップを抱えて、リビングへ運んでいった。大野は、ヒロミの下着が見えそうな薄手のブラウスにスリットの入ったタイトスカートのエプロン姿を見て、にやりと笑ってからカップを受け取り、美味そうに飲んだ。
 大野はエプロンの胸を持ち上げているはちきれんばかりのヒロミの乳房を見て満足そうだ。
 「ヒロミの淹れたコーヒーは、美味い」
 「ありがとうございます♪」
 ヒロミはにっこり笑うと、朝食の支度を始める。一緒に朝食をすませると大野が会社に行くのを手伝って、送り出す。
 「いってらっしゃい、あなた。早く帰ってきてね♪」
 自動車で会社に行く大野の後ろ姿を見送りながら、今夜の情事の期待に肉体が疼いてたまらない。膣の奥まで逞しい男根で貫いて、いっぱいおまんこして欲しいという欲望が突き上げ、思わずパンティの中の女陰を濡らしてしまうのだ。そっとスカートの上から手で自分の陰部を抑えると、女陰から滴らせた愛液でパンティが濡れていて、身体の芯から性の渇きが湧きあがるのを感じるのだった。こんなヒロミは大野の妻としての生活に十分、満足していた。
 大野の妻となったヒロミは、もはや自堕落な生活を送ることはないだろう。こうして、トシハルはヒロミという女性に生まれ変わったのだった。ヒロミは自分をこんな風にした謎の男に感謝するのだった。「私、女になれて本当に幸せ」と。
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