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107. 読み違え
しおりを挟む「……クチョン!!
うぅ……何ニャ!
誰か、私の噂をしているのね!
多分、牛田あたりニャ!
この戦いが終わった後、腹いせに、チンコを固結びに結んでやるのニャ!」
ブリトニーが、また恐ろしい独り言をブツブツ言っている。
現在、『犬の尻尾秘密基地』最下層の会議室で、『シルバーウルフ』が攻めてくるのを待ちながら待機している。
「グランドマスター。斥候から、5分程で、『シルバーウルフ』の本隊800人が、ダンジョンの入口に到着すると連絡がございました。
手筈通り、ダンジョンに『シルバーウルフ』の全部隊が入るまで、様子を見たいと思います」
ゴキ男爵が現在の状況と、これからの予定を説明する。
「了解だ! ゴキ男爵の作戦に従う」
ーーー
「 バハオウよ!
ダンジョンの中は、どうなっておるのじゃ?」
『シルバーウルフ』800人の本隊の中央辺りに、屈強な護衛に護られながら走る一際豪華な馬車の中で、『シルバーウルフ』団長、不死の魔女ブリジアがバハオウに質問した。
馬車の中には、ブリジア、バハオウの他に、幹部の獣王トラタマ、大賢者サリサリ、精霊魔術師カサノバが乗っている。
「ハッ! ブリジア様。
私が気付いた時にはダンジョンの最下層に連れて来られていたので、最下層以外は、実際どうなっているのか分かりません!」
「フム。しかし、最下層からどうやって逃げて来たのじゃ?」
不死の魔女ブリジアが、不思議に思ったのか質問してきた。
「皆にゴキ男爵と呼ばれていた、ダンジョンマスターが生み出したデーモンの1人を捕まえて、ダンジョン出口に繋がる移転装置に案内させ、そのままデーモンを脅して、出口まで移転して逃げて来ました」
バハオウは、適当に作り話をして誤魔化した。
「フム……ここのダンジョンマスターはデーモン男爵じゃったか。
『犬の尻尾』は、ダンジョンマスターも仲間に引き入れておったか。
B級ダンジョンのダンジョンマスターとしては、格は高いようじゃな!
先にダンジョンを調べさせた先遣隊の話とも一致する!
ダンジョンマスターが爵位持ちのデーモン男爵だとしたら、ダンジョン内の魔物もA級ダンジョン並にしか強くなっていない筈じゃ!
『犬の尻尾』のギルドメンバー以外は、我が『シルバーウルフ』にとっては、カスに等しい!
ダンジョンに着いたら、30名程をモフウフの伝令役としてダンジョンの入口に残して、それ以外の本隊は、結界が張ってあるという92階層まで、一気に進むとしようかのう!」
「ブリジア様の仰せの通りに!」
馬車に乗る『シルバーウルフ』の幹部の面々は、不死の魔女ブリジアに、深々と頭を下げた。
『シルバーウルフ』の団長、不死の魔女ブリジアは、ここで重大なミスを犯した事には、全く気づいていない。
ゴキ男爵を名前から推測して、ただの爵位持ちのデーモン。
しかも一番下の位の男爵デーモンだと、勘違いしている事を。
ゴキ男爵は確かに、一番最初にサイト達と会った時は、デーモン男爵だったが、今はデーモンロードに進化している。
ゴキ男爵という名前は、デーモンロードになったからといって、絶対に変える事などない。
何故なら絶対の服従を誓っている、姫が命名した名前なのだから。
それに本人も、ゴキ男爵という名前を相当気に入っている。
少し蔑まされた感じが、心地良いらしいのだ……
それから、ゴキ男爵が生み出した配下のデーモンは、全員爵位持ちだ。
しかし、男爵の爵位は誰にも付けられていない。
男爵という呼び名は、ゴトウ族のデーモンの中では、自分達の産みの親、ゴキ男爵の事を指す至高の名なのだ。
なのでそもそもの話、『犬の尻尾秘密基地』には、男爵の爵位のデーモン自体が存在しない。
実際には、男爵以上の爵位のデーモンが300人以上いるデーモンの巣窟で、ブリジアが予想したようなA級ダンジョンではなく、超最難関のSSSSSダンジョン、つまり5Sのダンジョンになっている。
コンコン。馬車の窓が叩かれた。
「申し上げます! もう少しで目的地に到着致します!」
馬車の外から通る声で、そろそろ到着する事が伝えられる。
「そろそろ準備をしようかのう」
不死の魔女ブリジアは、走っている馬車の扉を開け、フワリと飛び上がった。
そのまま軍の先頭までフワフワ飛んで行き、空中に浮かんだまま、振り返り、大きな声で号令を発した。
「今から、我ら『シルバーウルフ』に舐め腐った行いをした、『犬の尻尾』とかいう、腐れギルドに正義の鉄槌を与える!
大手ギルドの何たるかを、骨の髄迄味わえさせるのじゃ!!」
そう言うと、不死の魔女ブリジアは、ストン! と、地上に降りた。
「ハァハァ……聞いたか! 我らの傘下ギルド『ホワイトウルフ』の弔い合戦だ!
『犬の尻尾』の関係者は、誰であろうと皆殺しだ!
今こそ、ギルドランキング第2位『シルバーウルフ』の実力を見せつけるのだ!」
ブリジアが馬車から飛んで行った後、急いで追いかけてきていた獣王トラタマが、息を切らせながら続けて号令をかけた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
『シルバーウルフ』本隊800人の怒号がダンジョンの奥まで響き渡るのだった。
ーーー
「クッ! どういう事だ!
ここはB級ダンジョンではなかったのか?」
獣王トラタマが敵を殴りつけつつ、声を張り上げる。
3階層までは、確かにB級ダンジョンに出現するモンスターしか出てこなかった。
しかし、4階層に下って一変する。
突然S級モンスターが出現したのだ。
「糞ッ!! 嵌められた!
バハオウ、このダンジョンのダンジョンマスターはデーモン男爵ではなかったのか?」
トラタマはキレ気味に、バハオウを怒鳴りつける。
「デーモン男爵かは、分かりませんが、『犬の尻尾』の人達には、ゴキ男爵と呼ばれておりました……」
バハオウが申し訳なさげに答える。
「これは、一旦ダンジョンの外に出て、作戦を練り直した方が良さそうじゃな」
不死の魔女ブリジアが、現在の状況を分析し、冷静に判断する。
「ハァハァ! 申し上げます!
ダンジョン入口が、いつの間にか結界で封鎖され、現在ダンジョンの外に出られない状態になっております!」
4階層から強力なモンスターが出てきた辺りで、悪い予感がしたブリジアが、念の為、配下の者にダンジョン入口を調べに行かせていたのだが、悪い予感は的中し、配下の者は、最悪の事態を伝えに戻ってきた。
「これは、完全に嵌められたようじゃな。
どの道、ダンジョンからは『犬の尻尾』を倒さねば出られぬか……
バハオウ! お前は、2軍、3軍を連れて一旦ダンジョン入口に戻り【一撃】で結界の破壊を試みるのじゃ!
破壊できたのなら、2軍、3軍をダンジョンの外に逃がし、モフウフのガリクソンの軍と合流させてから、モフウフにおる戦力になりそうな一軍だけを連れて、再びこちらのダンジョンに合流するのじゃ!
もし、結界の破壊が不可能のようなら、そのまま2軍、3軍は足でまといになるので、1階層に待機させ、バハオウだけは再びここに戻ってくるように。
妾と主力一軍は、このままダンジョンの攻略を続け『犬の尻尾』を叩く!」
「ハッ! ブリジア様の仰せのままに!」
『シルバーウルフ』は『犬の尻尾』の戦力を読み違えたまま、益々混迷を極める事になる。
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