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040話

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翌日。太陽が少し出始めた頃、ゴードンがテントから出てきた。

「おはよーさん。えらい早起きだな」

「…起こせって言ったのに。ま、お陰さんでぐっすり眠れたからな。勝手に目が覚めたのさ」

「魔物の襲撃もなかったからね。起こす必要が無かったんだよ」

「アルスは寝たのか?村に着いて眠いですとか言っても寝れねーぞ?」

「大丈夫だよ。仮眠は取ったし眠気は無いよ」

焚き火の前に座ったゴードンにスープを渡す。一晩煮込んだので、中身はドロドロだが寝起きには心地の良い味だ。

「ゴードン。今日の流れは?」

「ふぅー。……今日の昼頃にはイイ村に着くだろう。着いたら村長に話を聞きに行って場所を特定する。そこからは、臨機応変ってとこだな。数が多けりゃ一度撤退するし、少なければ即戦闘だな」

「…その飛竜ってのはゴードンからするとどのくらいの強さなんだ?」

「1対2ならギリギリ勝てる。ネルとなら4匹まで対処可能だな」

「…となると、俺達が1匹ずつ相手すると考えて7匹までは大丈夫だな」

「単純計算ではな。まー、アルス達の強さを考えると10匹までは対処出来そうだけど、安全策を取らせて貰うよ」

「そうだな。いざとなったら俺が出るけど、基本俺は参加しないからなぁ」

「ああ、あの獣人の子供の事だろ?ちゃんと理解しているよ」

「そりゃ助かるよ。……ああ、そうそう。昨日考えてたんだけど、ゴードンに貸すヤツがあるんだよ」

「貸す??何をだ?」

リストを開き、目当ての物を取り出す。ゴードンの実力が分からないので複数の候補を準備しておいた。

「俺が持っている武器だ。正直、レインを危険な目に合わせるのを極力減らしたいからな。戦力増強って意味で貸そうと思ってな」

「そりゃあ嬉しい事だがよ、アルスの武器はオレ装備出来ないんだぜ?」

「複数用意してるから装備出来るのを見つけてくれ。…まずはコレだな」

リストからバトルアックスを取り出す。ただし、このバトルアックスは竜属性に効果がある魔法が付与されており、今回の討伐では役に立つはずだ。

「どうだ?装備出来るか?」

「…うーん。装備は出来るけどよ、なんて言うかフィーリングが合わないんだよなぁ。重さも少し足りないな」

「……そうか。なら次はコレだ」

今度は先程の物よりも少しレアな方を渡す。ゲーム感覚で言うなら、最初のがN、これはRだ。

「…これも違うな」

「それじゃコレはどうだ?段階的にはそこそこ上だが」

次に取り出したのはSSRのバトルアックス。氷属性付与がされており、体力が15%自動回復するそこそこ良い武器だ。

「…おお!こりゃあ良いぞ!?重さといいリーチといい、俺好みだ」

「そうか。ゴードンはその武器と相性が良いんだな。……となるとネルさんもこの辺りだな」

「ああん?ネルがどうしたって?」

「ネルさんにも弓矢を貸そうと思ってな。ゴードンとコンビ組んでるなら同じランクの武器だろうと思ってさ」

「あー…ネルの武器はすげー難しいぞ?アイツは魔法主体で戦うんだが、弓矢には魔法を付与させっから半端もんの武器じゃすぐ壊れちまうんだよ」

「なるほど、そういう使い方をするのか。ならチカと似た武器を準備した方が良さそうだな。……ところで飛竜は弱点とかあるのか?」

「弱点は雷と氷だな。火は耐性を持ってるから全く効かん。それに鱗が地味に硬いから生半可な攻撃じゃ傷1つ付けられねぇ」

「…そこらへんは変わらないんだな。ゴードン、そのバトルアックスは元から氷属性が付与されてるからダメージが入るぞ。それに、自動回復も付いてるからかなり楽に戦えるぞ」

「………は?も、もう一度言ってくれねぇか?」

「そのバトルアックスは氷属性の攻撃が出来る。それに自動回復が付いてるから、多少の傷は治してくれると思う」

「……おいおい、それって『魔剣』って事じゃねえのか?」

「『魔剣』?それは分かんねーけど、結構使い勝手がいい武器だ。まぁ、俺には弱過ぎて扱えないんだけどさ」

「…はぁー。『魔剣』ってのは何かしら付与されている武器の総称なんだよ。この国にも数えきれる程しか流通してねぇんだけどな…」

「へぇー。そんなにレアなのか。…でも、使わないよりは使えるヤツに貸した方が得だろ?」

「損得の話じゃねぇと思うんだけどなぁ……。ん?待て。この武器は『弱い』って言ったよな?ならコレよりも『強い』魔剣を持ってるのか!?」

「ああ、勿論だとも。ただ、それは貸せないよ?」

「どーせ装備出来ないんだ。借りるつもりは毛頭ねぇよ。…ちょっと見せてくれねーか?」

「見せるだけならな。ちょっと待ってな………ああ、コレだわ」

『斧』という分類では何故か『ミノタウルスの斧』しか無いが、『打属性』の武器なら沢山ある。神話に斧ってあんまり存在しないのがネックだよなぁ…。

「バトルアックスじゃないけど、似たような武器で『ハンマー』ってのがある。斬属性はねーけど、打撃として最高の武器だ」

そう言って取り出したのは『ミョルニル』。ゲームではお馴染みの武器だな。

「…おいおい、コレはお前さんが持ってたあの武器と同じぐらいの強さじゃねーのか?」

「いや、アレは俺が持っている中で最強の武器だ。その次ぐらいにコレだろうな」

…まぁ、ジョブごとに武器が違うんで最強とは言えんけどね。アレは凡庸性という意味では限りなく最強に近いけど。

「となると…これはアレだな。『神話』の武器か」

「よく分かったな。コレは雷神トールってヤツが持ってた武器だ。性能もピカイチさ」

「……ほんとアルスは何者なんだよ…。詮索するつもりはねぇが、ここまで来ると聞きたくなっちまうよ」

「……………」

…さて、どうするか。今までは秘密にしていたのだがゴードンには話しても大丈夫だろうと俺の直感が囁いている。ただ、どう受け取られるかは分からないが、根拠の無い自信が何故かある。

「…すまんな。余計な詮索だっ--
「なぁ、ゴードン。……秘密に出来るか?」

ゴードンは俺の目を真っ直ぐに見つめる。普通なら好奇心などが浮かぶはずだが、その目には何も浮かんで無く、純粋に俺を見つめていた。

「……俺は、さ。この世界で生まれた存在では無いんだ。……なんて言えば良いかな、『転生』みたいなモンだと思う」

「……それで?」

そして、俺は今まで起こった事を全てゴードンに話した。ただ、『Destiny』の事は伝えずに前世の記憶から話した。

「--で今に至るって事だ。ぶっちゃけ、右も左も未だに分かってねーし、この世界のルールも何も知らねーんだよ」

「…………そういう理由だったのか。……ちょっと考える時間をくれ」

そういうと、ゴードンは腕を組み考えに没頭する。新しく注いだスープが完全に冷めた頃、話し始めた。

「……こういっちゃなんだが、オレはそういう話を聞いた事がある。…いや、俺だけじゃねぇな。この国に住むヤツなら全員聞いた事があるだろう」

「…どういう事だ?」

「まず先に言っておく事がある。お前が話した内容は今から話す事には一切関係ねぇ。ただ、お前の境遇に似た話を知っているって事だ」

「……………」

「なぜ全員知ってるだろうと言ったのは、『お伽話』、『神話』、『伝説』、『伝承』に載っている話だからだ。オレも正直、お前の話だけを聞いていたらホラ話だと思ってただろうな。…だがよ、お前の持っている『神話』の武器、『伝説』の魔法を目の当たりにしたらこの話が当てはまるんだ」

「……どういう話だ?」

「……『勇者』の話だ。かの勇者もお前と似たようなモノかもしれんな。数多の武器、数多の魔法を使いこなしていたこの世界の『伝説』さ」

「…………」

静寂が2人を包む。目の前の焚き木がパチンッと弾ける音が続きの合図だったかのようにゴードンが口を開く。

「……お前が『勇者』なのかは分からねぇ。ただ、それに近い人物ではあるとオレは考える。持っているモノを全て目の当たりにしたからな…」

「……そう。…なら。なら俺はこれからどうすれば良いと思う?」

「分からん。お前が『勇者』だとしても『お前』は『アルス』だ。お前が望む通りに、『アルス』がしたいようにすれば良いんじゃないか?」

「……………」

ゴードンの言葉が染みていく。昨日一晩中考えていた事はこの事であった。もし、俺が『勇者』だった場合にはこの世界を救うべく行動しなければならないだろう。しかし、それが俺に出来るのであろうか?

考えてみて欲しい。もし、自分が転生、或いは異世界転移した時に勇者だと言われる。だが、某勇者などはあまり良いエンディングを迎えた試しがない。それに、自ら進んで危険な所へ進み人々を助けるなど、根っからの正義感溢れる人物で無ければ無理だろう。

そして自ら進んで危険な所へ行くのはある意味自殺行為に等しいはずだ。そんな事をしたいと思うか?俺は最強の力を手に入れたら面白おかしく生きていきたい。金もあるし力もある。何だったらどこかの土地を買って村なんかを作ってみたい。そういう夢を持つのでは無いだろうか?

けれど、ゴードンの言葉で救われた気がした。例え俺が勇者だったとしても『俺』は『俺』だ。流れに任せても良いし、自分で決めても良いんだ。この国には何も愛着は湧かないが、俺が関わりを持った人に危害が及んだ場合は助けようと思う。ゴードンの言葉を借りるのならば、『俺』は『アルス』なのだ。

ゴードンの言葉を噛みしめる様に呟く。すると心の靄が少し晴れた様な気がした。深く息を吐き、空を見上げると澄み切った青空が広がる。

「……ま、お前らしく過ごして行けばいいのさ」

「……ああ、そうだな。…ありがとう」

テントに目をやり、隠れている人物に声をかける。

「…チカ出てきていいよ。それに…ネルさんも」

「…ははは。盗み聞きするつもりは無かったんだけどネ」
「…アルス様申し訳ありません」

両方のテントからチカとネルさんが、申し訳なさそうな顔で出てくる。

「気にすんなって。…遅かれ早かれこの問題は俺1人では解決出来なかっただろうよ」

「私達にもっと力があれば…」

「いや、それは違うよ。俺はチカ達が居てくれたから助かってるんだ。それはこれからも変わらないよ」

「…なーんか重大な秘密が出来ちゃったネ。ま、ワタシ達は口が固いから安心しな」

「はは…。その時があるか分かんないけど、それまでは秘密でよろしく頼むよ」

再び静寂が訪れる。気がつけば焚き火は消えかけており、新たに焚き木をくべる。

「……おはよぉーご主人様ぁー。朝ご飯まだぁー??」

テントから目を擦りながらローリィが寝ぼけた声を出す。その光景に少し笑いが込み上げてきた。

「…おはようローリィ。今から急いで準備するから待っとけ」

「…はぁーい。あたし朝ご飯はパンが食べたいなぁー」

「ふふ、はいはい。了解しましたよ」

朝食の準備をゴードン達に手伝ってもらいながら、今心に決めた事を俺は守っていこうと存在するか分からない神に誓ったのであった。
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