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第7章 建国
第238話 -始動-
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「おい……そろそろ起こした方がいいんじゃねーか?」
「でもよぉ……あんな気持ち良さそうに寝てると……」
何やらヒソヒソとした声が聞こえる。薄目を開けると眩しい光が差し込んでくる。しかし、その眩しい光は俺の身体をポカポカと暖めており、目は完全に開くことはなかった。
(………あったけぇ)
「けど……もう昼だぜ?そろそろ起こさないと……」
「陛下達はもう起きてるもんな…」
ヒソヒソとした声がハッキリと聞こえ、ゆっくりと脳内へと流れ込んでくる。そして今の時刻を理解すると勢いよく目を見開く。
「んあっ!!?」
「「うわっ!!!?」」
起き上がると共に柔らかい何かがパサリと地面に落ちる。
「……毛布?」
「お、おはようございますアルス様…」
「……おはようございます」
地面に落ちた毛布を拾うと先程の声の主が挨拶をしてくる。それに寝ぼけながらもしっかりと挨拶を返すとキョロキョロと辺りを見回す。
太陽は高い所に昇っており周囲に明かりを照らしていた。先程の会話の意味を理解するとゆっくりと起き上がり毛布を畳み、兵士へと話しかける。
「………今何時?」
「今は13時ですね」
「…ヤバっ。ヒ、ヒースクリスさん達は?」
「陛下は今食事中ですが」
「分かった!ありがと!……あ、あとこの毛布の片付け頼んでいい?」
「は、はい……」
「ごめん!」
綺麗に畳んだ毛布を兵士に預けると俺は慌てて王城の中へと入って行く。
「……おい、この毛布すげぇぞ!」
「あん?何が?」
「いや……暑いはずなのに、この毛布冷たいぞ!?」
「……何バカなこと言ってん…………ホントだ」
「これ……貰ってもいいかな?」
「?! バカ!やめとけって!もしかしたらあい様の私物化もしんねぇだろ!?」
そんな兵士達の会話を聞くことなくアルスはヒースクリス達の元へと駆け出すのであった。
♦︎♢♦︎♢
「…………おはようございます」
「おはようございます寝坊助マスター」
「うぐっ…」
扉を少し開け中を覗くとヒースクリスさん達が食事をしていた。小声で挨拶すると『あい君』が毒を吐いた。
「アルスったらどこで寝てたのよ?」
「どこって……花が植えてあるあそこだよ」
「……ああ。あそこね?寝るんだったらちゃんと自分の部屋で寝なさいよ」
「『あい君』と話してたんだからしゃーねーだろ」
「まぁまぁ二人とも。とりあえずアルスさん、食事をどうぞ」
ヒースクリスさんの隣に座り朝食…もとい昼食を取る。
「いただきまーす」
手を合わせてから食事を取る。メニューはステーキとサラダ、大量のパンだ。恐らくこれは俺の皮袋から取り出したものだろう。パンの山にひっそりとプリンが見えるからね。
「……あれ?マクネアさんとトーマスさんは?」
食卓を囲みながらマクネアさんとトーマスさんの姿が無いことに気付く。
「マクネアなら先に帰ったわよ?あい君のお陰で色々とやる事が増えたからってさ」
「あ、そうなんだ……」
「どういう手を打ってくるか楽しみですね」
「…また含みがあったの?」
「いえいえ。私はマクネア様にちゃんとお伝えしましたよ?まぁ、正攻法でアルゼリアルの国王は落とせないでしょうが」
「…含んでんじゃん」
「いえ。出発前にお話ししましたよ?『理解している』と言っていたので大丈夫だと思います」
「…マクネアさんも頭良いけど『あい君』みたいに性格悪くないからなぁ」
「失礼ですね。私は性格は良い方ですよ?皆様が勘繰り過ぎなんですよ」
「いやいやいや!何でもかんでも含みを持つ様な言い方だろ!ねっ?ヒースクリスさん」
「ぼ、僕に振らないで下さいよ…。まぁ確かに含みがあるってのは分かりますけど…」
「あい君は胡散臭いもんね…。アルスと一緒」
「はぁ?!なんで俺まで!!俺は胡散臭くなんかねーぞ!?」
「違いますよミリィ様。マスターは胡散臭くなんか無いです。ただのバカなんですよ」
「…それは否定しないわ」
「なんでディスられなきゃならねぇんだよ…」
「でぃす?何ですかそのでぃすって?」
「気にしないで…」
食事を済ませ、食後のお茶を飲みながら『あい君』が口を開く。
「さて……本日はどのような行動をしますか?」
「あん?」
「…私はいつも通り外に出ます。あい君が指示した場所を開墾せねばなりませんから」
「儂も陛下と一緒じゃな。…所で前も確認したのじゃが塀は造らんくても良いのか?」
「マスターも来た事ですし、一走り取りに行かせます」
「??? 何の話だ?」
「今現在キルリアの裏側にて開墾作業を行なっています。兵士を総動員しているのですが、やはり砂地という事で時間が掛かるのですよ」
「まぁ…そりゃ砂漠だし」
「それで私が他国へと転移し土を持ってきて砂地と入れ替える予定です。一応、砂地の下には赤土も有るのですが深くて時間が掛かるんですよ」
「………いや、それは魔法を使えば良くない?」
「キルリア国の民が魔法をバンバン使えるならば考えますけど、どちらかとちうと魔法は苦手の様ですから」
「ヒースクリスさんも?」
「ハハッ…お恥ずかしい話ですが、強化系以外は自信有りませんね」
「あ、そうなんだ…」
「ただキルリアの民達は手先が器用でしてね。今は測量させ、全体図を作り上げている途中です」
「んで?俺を一走りさせるってのは?」
「木材と土、あとは塀を造る材料を取ってきてもらおうかと。アルゼリアルになら廃材がごまんと有るでしょう?」
「………あるにはあるけど、学園内のは使い切ってるぞ?」
「タイリークにでもあるでしょう?マスターなら廃材を貰って来ても誰も不審に思わないでしょうし」
「……どれくらいいるの?」
「あればあるほど助かりますね」
「へぇい。………ってか、『あい君』が転移して取りに行けば良いんじゃねーの?」
「……私の素性を誰も知らないでしょ。怪しまれるに決まってるじゃないですか」
「…俺とそっくりなんだから大丈夫じゃね?」
「私はマスターみたいに話せませんので。それに言っちゃなんですが、アルゼリアルに行ったら私暴走しますよ?」
そうだった。そういや『あい君』はクソ野郎よりもタチの悪い計画を考えてるんだった!こりゃ王都に行ったらそのまま陛下に一言言いに行きそうだもんな…。
「………なら適任は俺しかいねぇか。転移も使えんし…」
「ええ。分身とは言えオリジナルとは雲泥の差ですからね」
「そういや聞きたいんだけど、俺の分身で出来ないのって何?」
「マスターの能力ですかね。マスターが今覚えている魔法などは使用できますが、オリジナルは出来ません」
「………………なるほどね」
「では飲み終えたら各自仕事に移りましょう。ミリィ様には民衆の事をお任せしても?」
「ええ。今まで通りって事でしょ?それと元気な民が居たら裏に送れば良いのね?」
「よろしくお願いします」
「じゃああの皮袋を持っていくわね。夕方ぐらいには返しに来るから」
そう言うとミリィはカップを置き、テーブルの上に置いてある皮袋を取り、部屋から出て行った。ヒースクリスさん達も飲み干すとミリィの後を追って行った。
「………んじゃ俺も行くとするかね」
「ちなみにどこへ?」
「どこへって……廃材貰いにタイリークだろ?んでもって、土と木材はシュピーに行こうかと」
「満点でございますマスター!」
「………昨日からずーっとバカにしてるよね?」
「いえいえ。…………マスター、少し行ってもらいたい場所があるのですが」
「ん?どこ?」
「…………キルリアの北の向こう側なのですが」
「なんかあんの?」
『あい君』はカップを置くと周囲に目配せをした後、直接語りかけてくる。
(この大陸の事をマスターは知ってますか?)
(……漠然としてて意味がわからん)
(…地図は見た事ありますか?)
(……んにゃ?)
(キルリアの北側には大きな山が有るのですが、その向こう側に『海』らしき物が広がっているんです)
(………海?海って……あの海?)
(はい。ですが、私も調査ついでで見ただけですので何とも言えませんが、マスターに暇があれば調べてきて欲しいのです)
(……海か。でも何で?)
(海であればキルリアが潤いますので…。自国で消費しても良いし、輸出出来ますので)
(……あーはいはい、なるほどね。んじゃチャチャっと終わらせてそこに向かうわ)
「よろしくお願いします」
直接語りかけるっつーことは重要な事なのだろう。ともあれ、海が存在するならば『あい君』も言った通り食糧事情は変わる。湖でも良いけど、海であれば資源が見つかる可能性もグンと上がる。それこそ素人目線だがガスとかね。
「んじゃ行ってくるわ。一度戻ってきた方がいい?」
「はい。荷物を卸してからでお願いします」
「あいよ」
お茶を飲み干しすぐさま学園へと転移する。学園は以前より少しグレードアップした様な光景が広がっており、近くにいた生徒にクロノス達が何処にいるのかを聞いた。どうやらクロノス達はマクネアさんの指示でエドと一緒に結界を張ってるらしい。クロノスの知識とエドの錬金術の技術を詰め込み、あの様な事態でも安全に避難出来る様に動いているらしい。
クロノス達も暇してるなら連れて行こうかと思ったけど、居ないならいいや。そのまま学園内に残っている廃材を皮袋へと詰め込みタイリークへと出る。学園と比べてまだ街並みは完全に戻ってないが、まぁ見れる程度には回復している。近くにいた兵士に廃材がどこにあるかを聞き、回収していくと告げて皮袋へと投げ込んでいく。あんまり使いたくないのだが、こういう時って顔を知られてると楽に進むよね。なぁーんにも疑われないし。
一応捨てるかどうかを聞いてから廃材を回収し終えると、そのままシュピーへと転移する。前にアーサーと合宿した場所へと着くと森へと向かい魔法で伐採していく。結構な本数を伐採した時にとある事に気付く。『あれ?これって環境破壊じゃね?』と。シレッと伐採していたが、ここはシュピーの領地だ。バレたりすれば問題となるだろう。そこで閃いたのが『複製』だ。試しに伐採した樹に『創造魔法』を掛けてみたところ、瓜二つの樹が隣にならんだ。今度は個数を想像しながら魔法を掛けると10本程出すことが出来た。
流石の『あい君』も複製を閃くとは思わなかっただろう。となれば俺の仕事は簡単だった。複製が出来るって事は、区画という範囲にも適用される筈だ。試しに伐採してしまった区画の土を魔法を使って回収する。んでもって、その区画の隣に生い茂っている森を同じ区画で複製し、回収した区画に嵌め込む。すると、俺が伐採した場所は何事もなかったかの様に元通りになっており、危惧した環境破壊の可能性は無くなった。まぁこの場合は複製というか『復元』と言った方が良いかもしれない。でも『復元』は創造出来なかったんだよね。何で?と言われても説明は出来ないんだけど…。
とまぁ、新しく出来た魔法はとても使いやすい。木材、廃材、土と『あい君』に頼まれた物は回収したので一度キルリアに戻ろうと思う。すぐさま転移し、裏側に回ると『あい君』達がせっせと走り回ってた。
「持ってきたよー」
「お帰りなさいマスター」
「はい。こん中に入ってるからね」
『あい君』に皮袋を渡し周囲を見回す。結構広い範囲に所々棒が刺さっており、トーマスさんとヒースクリスさんが何やら話し合っていた。
「……すっげぇ広いね」
「田畑と塀を造りますからね。これはまだ序盤に過ぎません」
「序盤?…つーことはまだ造るの?」
「ここが完成したらあと4つ程造る予定です。それでもまだ足りませんけど」
「はぇー…すっごい…」
「………あれ?マスター、木材が少ない様ですけれど」
皮袋の中身を出していた『あい君』が尋ねる。
「ああ…ちょっと聞いてくれよ。俺、天才的な閃きをしちまったんだ」
「閃き?お聞きしても?」
「見とけよ見とけよー?」
そう言って木材に複製の魔法を掛ける。
「…なるほど。流石マスターですね」
「だろぉ?俺も頭を使えばこんなのちょちょいのちょいさ!」
『あい君』が褒めるなんて珍しい。散々馬鹿にしてくれたけど、俺だって頭良いんだぜ?
「……………………………………なるほど」
「ん?」
『あい君』は顎に手を当てたあと木材に手を当てる。すると俺が複製したように、『あい君』も複製出来た。
「……え?」
不思議がっていると『あい君』が微笑みながら喋る。
「この考えは私もあったのですが、マスターでなければ出来ませんからね。いやぁ、早い段階で閃いて頂いて助かりますよ」
「どういうこと?」
「物を複製する考えは当初からありました。しかし、それを考えていても私には出来ないのです。マスターが大量に持ってきた場合は助言しようかと思ってましたが……いやはや、大助かりですね」
「???」
「つまり、私では新しい技術を創り出す事はできないのですよ」
「あー……そういや能力使えないって言ってたね」
「そういう事です。マスターが使える様になった事で私も出来る様になったのですよ」
『あい君』の話で理解した。つまり、俺が創造した事で、『あい君』も使える様になったという事だ。無から有を創り出すのは『あい君』は出来ないけど、俺であったら出来るっつー話だ。その出来た物を『あい君』は使用できるって事だな。
「ふむ……………とりあえず別々に取り出し加工してから複製するとしましょう」
『あい君』は皮袋から木材と廃材を取り出すと邪魔にならない場所へと置く。そして、木材--まだ枝や葉っぱが付いている--を風魔法で丸太にしていくとそれらを複製する。
「マスター。ヒースクリス様を呼んできて貰えますか?」
「あ、はーい」
ヒースクリスさんに声を掛けに行き、『あい君』の元へと連れて行く。ヒースクリスさんは大量に置かれている資材に驚いていたが、何も言及しなかった。
「あい君、どこから手を付けるのかい?」
「人数はどれ程集まってますか?」
「全て同時に出来るほどは集まってないね。規模から考えると………田畑の方が良いかも」
「では田畑から取り組みましょう。指示を任しても?」
「うん。それは任せて」
『あい君』は皮袋をヒースクリスさんに渡すと再び木材の加工へと戻る。
「……んじゃ俺は頼まれた用事を済ませてくるわ」
「お願いします。あと、出来れば海かどうかを調べたいので採取もお願いします」
「採取ってーのは海の水とか海藻とか?」
「水もそうですが中の岩石なども欲しいですね。海藻もですが、魚などが居ればそれらも」
「…全部ってことね?」
「はい。全てです」
「分かった。……向こう側だっけ?」
「ここからひたすら直進すれば山が見えます。ただし、山といっても樹々は生えておりません。岩石などで出来た山の様な物ですね」
「その向こう側ってことね?乗り越えて行けばいいの?」
「……それじゃ面倒ついでに山の大きさも調べてください。…ああ、別に書き記したりはしなくて結構です。マスターの目で見てくれればいいので」
「……なるほどね。共有してるからってことか」
「はい。ではよろしくお願いします」
『あい君』に別れを告げてから俺は外へと出て行く。山が見えると言ったが前方は平坦な砂漠が続くだけであった。
「こりゃ遠い感じだな……」
強化魔法を掛けて目的地へと全力疾走する。魔法のお陰で息一つする事も無かった。こんな魔法が前世でもあったら金メダル余裕で取れてたな。
変わり映えのしない光景をひたすら走る事30分程。ようやく遠目にもっこりとした物が見えてきた。目に魔力を流し視認すると、それは横に大きく広がっており『あい君』が言っていた山だと理解する。
「…強化魔法を掛けなかったらどんだけ時間かかるんだろう?『あい君』は海だったら輸出したいって言ってたけど無理じゃねぇかな?」
まぁそんな事は前もって理解している『あい君』なら考えてるんだろうな。じゃなきゃ出来ないことを言わないだろうし。
再び疾走し1時間ほど掛けて目的地へと辿り着いた。岩石の山と言っていたが、これって一枚岩じゃねぇかな?想像していた岩石が積み重なっているって訳でもないし……。
とりあえず俺はこの山の下を往復する。これが結構な長さでゴールの見えない走りに辟易とした。まぁ見るだけでいいって言ったから気持ち的には楽だけどね。
んでもって往復しながら分かった事は『乗り越えなくても大丈夫』という事。岩の端っこには砂浜の様な光景が見れたし、潮風の臭いもしたので確実に海だという事。『あい君』にしては杜撰な調査でもしたのかな?と思うほど答えは簡単に出ていた。んで、俺が最初に感じた一枚岩ってのは恐らく正解。端っこから見てみたけど、そりゃすんげぇデカくて視界に収まらない程に奥行きがあった。どうやって出来たんだろうと疑問に思うほどだったが、前世でも自然に出来た一枚岩があったし、これも同じなのだろうと納得する。興味はあるけど調べる程ではないって事だね。
「ンァーーーーーーーーッ!!……疲れたぁー」
一枚岩の幅も視認したしちょっと休憩をしようも思う。魔法のお陰で疲れは一切無かったが、気持ち的な意味では疲れていた。
砂浜に腰を下ろしボーッとしていると、遠目に何かが跳ねるのが見えた。ザザーンッと波の音が聞こえる中、俺は無意識にポケットを漁った。
「…………ハッ!そういや持ってなかった!」
煙草を創造するか迷ったが、ここん所全然吸ってなかったからな。禁煙していたっつー訳じゃないけど、こんなに禁煙出来たのは初めての事だった。
「…ま、いいや。吸わないでおこうっと」
そう考えてポケットから手を出すが、一度喫煙の事を思い出すと無性に吸いたくなってしまった。恐らく脳みそが喫煙の快感を思い出したのだろう。目の前に広がる絶景よりも俺の脳内は煙草で埋め尽くされていった。
「………………………………………………………ええい!!」
結局誘惑に負け一本だけ創造すると火を付ける。案の定一口目で盛大に咽せ、ゲロが出そうな気持ちになる。
「ヴォエッ……………」
しかし、染み付いた習慣とは恐ろしい物だ。気分を悪くしたというのに自然に二口目を吸い、咽せる事なく肺に煙を落とす。
「フゥーーーー………」
モクモクと煙を漂わせながらとある事を思い出す。
「そういや……ガガは元気してんのかな?」
王都襲撃の際にガガの村が襲われていたという事をクロノスから聞いていた。しかし、クロノスが村に結界を張り、ティナちゃんやガガは無事だという事を聞いて安心していた。
「……ガガに会いにいかねぇとな。なんだかんだ言っても心配だし」
煙草の火を消し吸殻を仕舞う。そしてゆっくりと背伸びをして、『あい君』に頼まれていた仕事へと移る。
「………しょっぺぇ!!」
皮袋に水を入れながら興味本位で味見をしてみる。すると水は塩辛く、確実に海水だと実感した。
「岩石とかもってこいって言ってたけど…………潜らないといけないのか?」
適当に砂浜の石を採取していたが、やはり海中にある岩石も回収した方が良いだろう。だが、一つの問題がある。そう、それは俺がカナヅチだという事だ。
「………どーすっかなぁ。ゴーグルとかあってもまず泳げねぇし……潜水なんて沈んでいかねぇし…」
できるとしたら犬カキぐらいだ。ビート板があれば泳げるけど、アレは泳ぐのが目的だしなぁ……。
「うーん…………………あっ!そうだ!!!」
何か良いアイディアが無いかと考えていると、とある話を思い出した。
「潜らなくても割ればいいんだ!」
俺が思い出したのは前世の『モーセの十戒』という話だ。十戒はわからねぇけど、モーセと言ったら海割りだろ!
そう閃いた俺は海割りを想像する。ただし、海を割り採取しているときに元に戻ってしまうことを考えると恐怖しか湧かない。
「……凍らせよう!」
海を割る想像をしながら手で仕草を行う。先ずは縦に手を入れ、某アニメのシールドをこじ開ける様な仕草をする。想像通りに海が割れるとそのままポッカリと割れた側面に氷魔法を付与する。パキパキと音が鳴り、長方形の隙間が無事に出来上がると汗を拭う仕草をする。
「フゥ………やれば出来るじゃん俺」
皮袋を取り、凍らせた道を歩いて行く。海底?と言えば良いのか分からないが、地面はヌルヌルしており、中々にグロテスクな生物が存在していた。もちろん、岩もゴロゴロ転がっており、いくつか皮袋へと投げ込み、ビビりながらも生物も皮袋へと投げ入れていく。それとビタンビタンと地面で飛び跳ねている魚らしき物も入れて行く。……想像していたのと違うんだよ。すんげぇトゲトゲしてるからさ。毒持ってそうじゃ無い??
「うぅー……海だと思ってたけど異世界の海だな……」
そそくさと採取し終えると浜辺に戻り魔法を解除する。ザッパーンッと元通りになったが、大きな波が煙草を吸っていた場所まで延びてきた。
「あぶねっ!?……なんだよ、すんなり元通りになるんじゃねぇのかよ…」
最後は予想出来なかったが、何はともあれ採取は終わった。あとはこれを『あい君』に届け-----
「ッ?!」
帰り支度をしていた時、俺は何かを感じ横に回避する。ザシュッとした音が聞こえ目を動かしてみると、俺が居た場所に三又の槍が刺さっていた。
「?????」
槍の刺さり方的に海側から投げたれたのだろう。ゆっくりと振り返ってみると、そこには驚く光景が広がっていたのだった。
「おい……そろそろ起こした方がいいんじゃねーか?」
「でもよぉ……あんな気持ち良さそうに寝てると……」
何やらヒソヒソとした声が聞こえる。薄目を開けると眩しい光が差し込んでくる。しかし、その眩しい光は俺の身体をポカポカと暖めており、目は完全に開くことはなかった。
(………あったけぇ)
「けど……もう昼だぜ?そろそろ起こさないと……」
「陛下達はもう起きてるもんな…」
ヒソヒソとした声がハッキリと聞こえ、ゆっくりと脳内へと流れ込んでくる。そして今の時刻を理解すると勢いよく目を見開く。
「んあっ!!?」
「「うわっ!!!?」」
起き上がると共に柔らかい何かがパサリと地面に落ちる。
「……毛布?」
「お、おはようございますアルス様…」
「……おはようございます」
地面に落ちた毛布を拾うと先程の声の主が挨拶をしてくる。それに寝ぼけながらもしっかりと挨拶を返すとキョロキョロと辺りを見回す。
太陽は高い所に昇っており周囲に明かりを照らしていた。先程の会話の意味を理解するとゆっくりと起き上がり毛布を畳み、兵士へと話しかける。
「………今何時?」
「今は13時ですね」
「…ヤバっ。ヒ、ヒースクリスさん達は?」
「陛下は今食事中ですが」
「分かった!ありがと!……あ、あとこの毛布の片付け頼んでいい?」
「は、はい……」
「ごめん!」
綺麗に畳んだ毛布を兵士に預けると俺は慌てて王城の中へと入って行く。
「……おい、この毛布すげぇぞ!」
「あん?何が?」
「いや……暑いはずなのに、この毛布冷たいぞ!?」
「……何バカなこと言ってん…………ホントだ」
「これ……貰ってもいいかな?」
「?! バカ!やめとけって!もしかしたらあい様の私物化もしんねぇだろ!?」
そんな兵士達の会話を聞くことなくアルスはヒースクリス達の元へと駆け出すのであった。
♦︎♢♦︎♢
「…………おはようございます」
「おはようございます寝坊助マスター」
「うぐっ…」
扉を少し開け中を覗くとヒースクリスさん達が食事をしていた。小声で挨拶すると『あい君』が毒を吐いた。
「アルスったらどこで寝てたのよ?」
「どこって……花が植えてあるあそこだよ」
「……ああ。あそこね?寝るんだったらちゃんと自分の部屋で寝なさいよ」
「『あい君』と話してたんだからしゃーねーだろ」
「まぁまぁ二人とも。とりあえずアルスさん、食事をどうぞ」
ヒースクリスさんの隣に座り朝食…もとい昼食を取る。
「いただきまーす」
手を合わせてから食事を取る。メニューはステーキとサラダ、大量のパンだ。恐らくこれは俺の皮袋から取り出したものだろう。パンの山にひっそりとプリンが見えるからね。
「……あれ?マクネアさんとトーマスさんは?」
食卓を囲みながらマクネアさんとトーマスさんの姿が無いことに気付く。
「マクネアなら先に帰ったわよ?あい君のお陰で色々とやる事が増えたからってさ」
「あ、そうなんだ……」
「どういう手を打ってくるか楽しみですね」
「…また含みがあったの?」
「いえいえ。私はマクネア様にちゃんとお伝えしましたよ?まぁ、正攻法でアルゼリアルの国王は落とせないでしょうが」
「…含んでんじゃん」
「いえ。出発前にお話ししましたよ?『理解している』と言っていたので大丈夫だと思います」
「…マクネアさんも頭良いけど『あい君』みたいに性格悪くないからなぁ」
「失礼ですね。私は性格は良い方ですよ?皆様が勘繰り過ぎなんですよ」
「いやいやいや!何でもかんでも含みを持つ様な言い方だろ!ねっ?ヒースクリスさん」
「ぼ、僕に振らないで下さいよ…。まぁ確かに含みがあるってのは分かりますけど…」
「あい君は胡散臭いもんね…。アルスと一緒」
「はぁ?!なんで俺まで!!俺は胡散臭くなんかねーぞ!?」
「違いますよミリィ様。マスターは胡散臭くなんか無いです。ただのバカなんですよ」
「…それは否定しないわ」
「なんでディスられなきゃならねぇんだよ…」
「でぃす?何ですかそのでぃすって?」
「気にしないで…」
食事を済ませ、食後のお茶を飲みながら『あい君』が口を開く。
「さて……本日はどのような行動をしますか?」
「あん?」
「…私はいつも通り外に出ます。あい君が指示した場所を開墾せねばなりませんから」
「儂も陛下と一緒じゃな。…所で前も確認したのじゃが塀は造らんくても良いのか?」
「マスターも来た事ですし、一走り取りに行かせます」
「??? 何の話だ?」
「今現在キルリアの裏側にて開墾作業を行なっています。兵士を総動員しているのですが、やはり砂地という事で時間が掛かるのですよ」
「まぁ…そりゃ砂漠だし」
「それで私が他国へと転移し土を持ってきて砂地と入れ替える予定です。一応、砂地の下には赤土も有るのですが深くて時間が掛かるんですよ」
「………いや、それは魔法を使えば良くない?」
「キルリア国の民が魔法をバンバン使えるならば考えますけど、どちらかとちうと魔法は苦手の様ですから」
「ヒースクリスさんも?」
「ハハッ…お恥ずかしい話ですが、強化系以外は自信有りませんね」
「あ、そうなんだ…」
「ただキルリアの民達は手先が器用でしてね。今は測量させ、全体図を作り上げている途中です」
「んで?俺を一走りさせるってのは?」
「木材と土、あとは塀を造る材料を取ってきてもらおうかと。アルゼリアルになら廃材がごまんと有るでしょう?」
「………あるにはあるけど、学園内のは使い切ってるぞ?」
「タイリークにでもあるでしょう?マスターなら廃材を貰って来ても誰も不審に思わないでしょうし」
「……どれくらいいるの?」
「あればあるほど助かりますね」
「へぇい。………ってか、『あい君』が転移して取りに行けば良いんじゃねーの?」
「……私の素性を誰も知らないでしょ。怪しまれるに決まってるじゃないですか」
「…俺とそっくりなんだから大丈夫じゃね?」
「私はマスターみたいに話せませんので。それに言っちゃなんですが、アルゼリアルに行ったら私暴走しますよ?」
そうだった。そういや『あい君』はクソ野郎よりもタチの悪い計画を考えてるんだった!こりゃ王都に行ったらそのまま陛下に一言言いに行きそうだもんな…。
「………なら適任は俺しかいねぇか。転移も使えんし…」
「ええ。分身とは言えオリジナルとは雲泥の差ですからね」
「そういや聞きたいんだけど、俺の分身で出来ないのって何?」
「マスターの能力ですかね。マスターが今覚えている魔法などは使用できますが、オリジナルは出来ません」
「………………なるほどね」
「では飲み終えたら各自仕事に移りましょう。ミリィ様には民衆の事をお任せしても?」
「ええ。今まで通りって事でしょ?それと元気な民が居たら裏に送れば良いのね?」
「よろしくお願いします」
「じゃああの皮袋を持っていくわね。夕方ぐらいには返しに来るから」
そう言うとミリィはカップを置き、テーブルの上に置いてある皮袋を取り、部屋から出て行った。ヒースクリスさん達も飲み干すとミリィの後を追って行った。
「………んじゃ俺も行くとするかね」
「ちなみにどこへ?」
「どこへって……廃材貰いにタイリークだろ?んでもって、土と木材はシュピーに行こうかと」
「満点でございますマスター!」
「………昨日からずーっとバカにしてるよね?」
「いえいえ。…………マスター、少し行ってもらいたい場所があるのですが」
「ん?どこ?」
「…………キルリアの北の向こう側なのですが」
「なんかあんの?」
『あい君』はカップを置くと周囲に目配せをした後、直接語りかけてくる。
(この大陸の事をマスターは知ってますか?)
(……漠然としてて意味がわからん)
(…地図は見た事ありますか?)
(……んにゃ?)
(キルリアの北側には大きな山が有るのですが、その向こう側に『海』らしき物が広がっているんです)
(………海?海って……あの海?)
(はい。ですが、私も調査ついでで見ただけですので何とも言えませんが、マスターに暇があれば調べてきて欲しいのです)
(……海か。でも何で?)
(海であればキルリアが潤いますので…。自国で消費しても良いし、輸出出来ますので)
(……あーはいはい、なるほどね。んじゃチャチャっと終わらせてそこに向かうわ)
「よろしくお願いします」
直接語りかけるっつーことは重要な事なのだろう。ともあれ、海が存在するならば『あい君』も言った通り食糧事情は変わる。湖でも良いけど、海であれば資源が見つかる可能性もグンと上がる。それこそ素人目線だがガスとかね。
「んじゃ行ってくるわ。一度戻ってきた方がいい?」
「はい。荷物を卸してからでお願いします」
「あいよ」
お茶を飲み干しすぐさま学園へと転移する。学園は以前より少しグレードアップした様な光景が広がっており、近くにいた生徒にクロノス達が何処にいるのかを聞いた。どうやらクロノス達はマクネアさんの指示でエドと一緒に結界を張ってるらしい。クロノスの知識とエドの錬金術の技術を詰め込み、あの様な事態でも安全に避難出来る様に動いているらしい。
クロノス達も暇してるなら連れて行こうかと思ったけど、居ないならいいや。そのまま学園内に残っている廃材を皮袋へと詰め込みタイリークへと出る。学園と比べてまだ街並みは完全に戻ってないが、まぁ見れる程度には回復している。近くにいた兵士に廃材がどこにあるかを聞き、回収していくと告げて皮袋へと投げ込んでいく。あんまり使いたくないのだが、こういう時って顔を知られてると楽に進むよね。なぁーんにも疑われないし。
一応捨てるかどうかを聞いてから廃材を回収し終えると、そのままシュピーへと転移する。前にアーサーと合宿した場所へと着くと森へと向かい魔法で伐採していく。結構な本数を伐採した時にとある事に気付く。『あれ?これって環境破壊じゃね?』と。シレッと伐採していたが、ここはシュピーの領地だ。バレたりすれば問題となるだろう。そこで閃いたのが『複製』だ。試しに伐採した樹に『創造魔法』を掛けてみたところ、瓜二つの樹が隣にならんだ。今度は個数を想像しながら魔法を掛けると10本程出すことが出来た。
流石の『あい君』も複製を閃くとは思わなかっただろう。となれば俺の仕事は簡単だった。複製が出来るって事は、区画という範囲にも適用される筈だ。試しに伐採してしまった区画の土を魔法を使って回収する。んでもって、その区画の隣に生い茂っている森を同じ区画で複製し、回収した区画に嵌め込む。すると、俺が伐採した場所は何事もなかったかの様に元通りになっており、危惧した環境破壊の可能性は無くなった。まぁこの場合は複製というか『復元』と言った方が良いかもしれない。でも『復元』は創造出来なかったんだよね。何で?と言われても説明は出来ないんだけど…。
とまぁ、新しく出来た魔法はとても使いやすい。木材、廃材、土と『あい君』に頼まれた物は回収したので一度キルリアに戻ろうと思う。すぐさま転移し、裏側に回ると『あい君』達がせっせと走り回ってた。
「持ってきたよー」
「お帰りなさいマスター」
「はい。こん中に入ってるからね」
『あい君』に皮袋を渡し周囲を見回す。結構広い範囲に所々棒が刺さっており、トーマスさんとヒースクリスさんが何やら話し合っていた。
「……すっげぇ広いね」
「田畑と塀を造りますからね。これはまだ序盤に過ぎません」
「序盤?…つーことはまだ造るの?」
「ここが完成したらあと4つ程造る予定です。それでもまだ足りませんけど」
「はぇー…すっごい…」
「………あれ?マスター、木材が少ない様ですけれど」
皮袋の中身を出していた『あい君』が尋ねる。
「ああ…ちょっと聞いてくれよ。俺、天才的な閃きをしちまったんだ」
「閃き?お聞きしても?」
「見とけよ見とけよー?」
そう言って木材に複製の魔法を掛ける。
「…なるほど。流石マスターですね」
「だろぉ?俺も頭を使えばこんなのちょちょいのちょいさ!」
『あい君』が褒めるなんて珍しい。散々馬鹿にしてくれたけど、俺だって頭良いんだぜ?
「……………………………………なるほど」
「ん?」
『あい君』は顎に手を当てたあと木材に手を当てる。すると俺が複製したように、『あい君』も複製出来た。
「……え?」
不思議がっていると『あい君』が微笑みながら喋る。
「この考えは私もあったのですが、マスターでなければ出来ませんからね。いやぁ、早い段階で閃いて頂いて助かりますよ」
「どういうこと?」
「物を複製する考えは当初からありました。しかし、それを考えていても私には出来ないのです。マスターが大量に持ってきた場合は助言しようかと思ってましたが……いやはや、大助かりですね」
「???」
「つまり、私では新しい技術を創り出す事はできないのですよ」
「あー……そういや能力使えないって言ってたね」
「そういう事です。マスターが使える様になった事で私も出来る様になったのですよ」
『あい君』の話で理解した。つまり、俺が創造した事で、『あい君』も使える様になったという事だ。無から有を創り出すのは『あい君』は出来ないけど、俺であったら出来るっつー話だ。その出来た物を『あい君』は使用できるって事だな。
「ふむ……………とりあえず別々に取り出し加工してから複製するとしましょう」
『あい君』は皮袋から木材と廃材を取り出すと邪魔にならない場所へと置く。そして、木材--まだ枝や葉っぱが付いている--を風魔法で丸太にしていくとそれらを複製する。
「マスター。ヒースクリス様を呼んできて貰えますか?」
「あ、はーい」
ヒースクリスさんに声を掛けに行き、『あい君』の元へと連れて行く。ヒースクリスさんは大量に置かれている資材に驚いていたが、何も言及しなかった。
「あい君、どこから手を付けるのかい?」
「人数はどれ程集まってますか?」
「全て同時に出来るほどは集まってないね。規模から考えると………田畑の方が良いかも」
「では田畑から取り組みましょう。指示を任しても?」
「うん。それは任せて」
『あい君』は皮袋をヒースクリスさんに渡すと再び木材の加工へと戻る。
「……んじゃ俺は頼まれた用事を済ませてくるわ」
「お願いします。あと、出来れば海かどうかを調べたいので採取もお願いします」
「採取ってーのは海の水とか海藻とか?」
「水もそうですが中の岩石なども欲しいですね。海藻もですが、魚などが居ればそれらも」
「…全部ってことね?」
「はい。全てです」
「分かった。……向こう側だっけ?」
「ここからひたすら直進すれば山が見えます。ただし、山といっても樹々は生えておりません。岩石などで出来た山の様な物ですね」
「その向こう側ってことね?乗り越えて行けばいいの?」
「……それじゃ面倒ついでに山の大きさも調べてください。…ああ、別に書き記したりはしなくて結構です。マスターの目で見てくれればいいので」
「……なるほどね。共有してるからってことか」
「はい。ではよろしくお願いします」
『あい君』に別れを告げてから俺は外へと出て行く。山が見えると言ったが前方は平坦な砂漠が続くだけであった。
「こりゃ遠い感じだな……」
強化魔法を掛けて目的地へと全力疾走する。魔法のお陰で息一つする事も無かった。こんな魔法が前世でもあったら金メダル余裕で取れてたな。
変わり映えのしない光景をひたすら走る事30分程。ようやく遠目にもっこりとした物が見えてきた。目に魔力を流し視認すると、それは横に大きく広がっており『あい君』が言っていた山だと理解する。
「…強化魔法を掛けなかったらどんだけ時間かかるんだろう?『あい君』は海だったら輸出したいって言ってたけど無理じゃねぇかな?」
まぁそんな事は前もって理解している『あい君』なら考えてるんだろうな。じゃなきゃ出来ないことを言わないだろうし。
再び疾走し1時間ほど掛けて目的地へと辿り着いた。岩石の山と言っていたが、これって一枚岩じゃねぇかな?想像していた岩石が積み重なっているって訳でもないし……。
とりあえず俺はこの山の下を往復する。これが結構な長さでゴールの見えない走りに辟易とした。まぁ見るだけでいいって言ったから気持ち的には楽だけどね。
んでもって往復しながら分かった事は『乗り越えなくても大丈夫』という事。岩の端っこには砂浜の様な光景が見れたし、潮風の臭いもしたので確実に海だという事。『あい君』にしては杜撰な調査でもしたのかな?と思うほど答えは簡単に出ていた。んで、俺が最初に感じた一枚岩ってのは恐らく正解。端っこから見てみたけど、そりゃすんげぇデカくて視界に収まらない程に奥行きがあった。どうやって出来たんだろうと疑問に思うほどだったが、前世でも自然に出来た一枚岩があったし、これも同じなのだろうと納得する。興味はあるけど調べる程ではないって事だね。
「ンァーーーーーーーーッ!!……疲れたぁー」
一枚岩の幅も視認したしちょっと休憩をしようも思う。魔法のお陰で疲れは一切無かったが、気持ち的な意味では疲れていた。
砂浜に腰を下ろしボーッとしていると、遠目に何かが跳ねるのが見えた。ザザーンッと波の音が聞こえる中、俺は無意識にポケットを漁った。
「…………ハッ!そういや持ってなかった!」
煙草を創造するか迷ったが、ここん所全然吸ってなかったからな。禁煙していたっつー訳じゃないけど、こんなに禁煙出来たのは初めての事だった。
「…ま、いいや。吸わないでおこうっと」
そう考えてポケットから手を出すが、一度喫煙の事を思い出すと無性に吸いたくなってしまった。恐らく脳みそが喫煙の快感を思い出したのだろう。目の前に広がる絶景よりも俺の脳内は煙草で埋め尽くされていった。
「………………………………………………………ええい!!」
結局誘惑に負け一本だけ創造すると火を付ける。案の定一口目で盛大に咽せ、ゲロが出そうな気持ちになる。
「ヴォエッ……………」
しかし、染み付いた習慣とは恐ろしい物だ。気分を悪くしたというのに自然に二口目を吸い、咽せる事なく肺に煙を落とす。
「フゥーーーー………」
モクモクと煙を漂わせながらとある事を思い出す。
「そういや……ガガは元気してんのかな?」
王都襲撃の際にガガの村が襲われていたという事をクロノスから聞いていた。しかし、クロノスが村に結界を張り、ティナちゃんやガガは無事だという事を聞いて安心していた。
「……ガガに会いにいかねぇとな。なんだかんだ言っても心配だし」
煙草の火を消し吸殻を仕舞う。そしてゆっくりと背伸びをして、『あい君』に頼まれていた仕事へと移る。
「………しょっぺぇ!!」
皮袋に水を入れながら興味本位で味見をしてみる。すると水は塩辛く、確実に海水だと実感した。
「岩石とかもってこいって言ってたけど…………潜らないといけないのか?」
適当に砂浜の石を採取していたが、やはり海中にある岩石も回収した方が良いだろう。だが、一つの問題がある。そう、それは俺がカナヅチだという事だ。
「………どーすっかなぁ。ゴーグルとかあってもまず泳げねぇし……潜水なんて沈んでいかねぇし…」
できるとしたら犬カキぐらいだ。ビート板があれば泳げるけど、アレは泳ぐのが目的だしなぁ……。
「うーん…………………あっ!そうだ!!!」
何か良いアイディアが無いかと考えていると、とある話を思い出した。
「潜らなくても割ればいいんだ!」
俺が思い出したのは前世の『モーセの十戒』という話だ。十戒はわからねぇけど、モーセと言ったら海割りだろ!
そう閃いた俺は海割りを想像する。ただし、海を割り採取しているときに元に戻ってしまうことを考えると恐怖しか湧かない。
「……凍らせよう!」
海を割る想像をしながら手で仕草を行う。先ずは縦に手を入れ、某アニメのシールドをこじ開ける様な仕草をする。想像通りに海が割れるとそのままポッカリと割れた側面に氷魔法を付与する。パキパキと音が鳴り、長方形の隙間が無事に出来上がると汗を拭う仕草をする。
「フゥ………やれば出来るじゃん俺」
皮袋を取り、凍らせた道を歩いて行く。海底?と言えば良いのか分からないが、地面はヌルヌルしており、中々にグロテスクな生物が存在していた。もちろん、岩もゴロゴロ転がっており、いくつか皮袋へと投げ込み、ビビりながらも生物も皮袋へと投げ入れていく。それとビタンビタンと地面で飛び跳ねている魚らしき物も入れて行く。……想像していたのと違うんだよ。すんげぇトゲトゲしてるからさ。毒持ってそうじゃ無い??
「うぅー……海だと思ってたけど異世界の海だな……」
そそくさと採取し終えると浜辺に戻り魔法を解除する。ザッパーンッと元通りになったが、大きな波が煙草を吸っていた場所まで延びてきた。
「あぶねっ!?……なんだよ、すんなり元通りになるんじゃねぇのかよ…」
最後は予想出来なかったが、何はともあれ採取は終わった。あとはこれを『あい君』に届け-----
「ッ?!」
帰り支度をしていた時、俺は何かを感じ横に回避する。ザシュッとした音が聞こえ目を動かしてみると、俺が居た場所に三又の槍が刺さっていた。
「?????」
槍の刺さり方的に海側から投げたれたのだろう。ゆっくりと振り返ってみると、そこには驚く光景が広がっていたのだった。
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