白童子見聞録

荒谷創

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尾びれ留置所

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湊町グルリは大小様々な船舶が行き交う半島状の地形に発展した、漁業都市だった。
内陸部に一番近い玄関口の『おかしら門街』
内陸の産物を扱う店が立ち並ぶ『鰓ぶた商街』
内陸客向けの『中トロ場外市場』
中央公園のある『背骨大通り』
問屋/業者向けの『赤身場内市場』
船員とその家族が済む『背しも街』
行政区の『腹かみ官庁街』
船着き場が存在する『大トロ港』
治安組織詰所がある『腹しも衛区』
そして入管審査で引っ掛かった奴を留め置く『尾びれ留置所』
……判るね?
そう、つまり私はその尾びれ留置所に絶賛収監中なのだ。

いやぁ、参ったねぇ
とは言うものの、別に扱いが悪い訳じゃない。
牢屋みたいな所かと思ってたら、いやいや壁こそまんまの石壁だけど、ちょっとした宿屋ホテルと言える部屋ですよ。
食事も美味しいし、シャワーもトイレも、小さなキッチンもある。
中庭は開放されてるし、なんと図書室で本も読めちゃう!
帝国の八等臣民だった身からすれば天国みたいなもんだ。
いや、ほんとに。
多分、この部屋なんか帝国だと五等臣民クラスだよ?
もう、ここに定住したい気分だ。
驚いたのは、帝国でいう亜人族も、ここでは人族とされているという事。
帝国で獣人の事を人族だ、なんて言ったら、すぐに捕まって教育園送りだよ。
帝国で人なのは、ヒト族とエルフ族だけ。獣人、ドワーフは人に似た亜人。巨人に至っては、労働用家畜魔物の一種でしかない。
凄く失礼な感想だけど、わたしも普通に服を着て事務仕事すら出来る巨人なんて居ると思わなかったよ。
帝国では大体裸で、管理用のチップで色々制限されながら、ずっと鉱山と農園で働いているイメージしか無かったからね。
正直、言葉を話せる事すら知らなかった。
つくづく、追放されて良かったよ。
早いところ、この新世界を直に歩いて探訪したいね~
なんか、わたしの身体的な特徴はここ、アサビではない土地、ガモウという所のヒトに近いらしい。
ガモウのヒト族は引きこもり気質で、滅多にアサビには来ない……というか、ガモウから出ないんだって。
つまり、出てくるとすればそれは相当な変わり者か、逃亡者。
いま、指名手配犯とかじゃないかをアサビの新都リョクオウという所に問い合わせてるらしい。
なんか遠隔地とのやり取りは難しくて、時間が掛かるんだそうで、もうしばらくこの施設暮らしは続くんだそうだ。
ま、問題ないね~

え?
乗ってきた船を買い取りたい?
良いですよ?しばらく使う予定なんか無いですし、買ってくれるなら寧ろ助かります。


《特報! 幻の魔導船が実在!》

魔導機関という存在をご存知だろうか。
魔力という目には見えないがヒト族とエルフ族に宿るという力で動く動力機関で、千二百年前の文明大崩壊時に失われ、僅かにガモウに基礎技術が残されていたが、現在までに復活は出来ていない幻の技術である。
その出力は蒸気機関を遥かに越え、かつては星の世界にすらヒトを運んだという。
その現物。
それも稼働している本物がアサビの湊町グルリで発見されたのだ。
土に埋もれていたのでも、倉庫に眠っていたのでもない。
6月14日の夕刻に水平線の彼方から水面を滑る様に現れたのだという。
目撃した漁師のトウコウ氏にインタビューした。

そんなに速かったんですか?

[おう、カモメより速かったんだぜ!芥子粒みたいに小っちゃく見えたと思ったら、あっという間に目の前よ]

船の大きさや型は?

[大きさはオレっちの船(漁船)より一回り小っせえくれえでよ、帆もオールも外輪もねえのよ。タイラギみてぇに先端が尖ってて、ぴったり蓋みてぇな屋根が付いててよ]

乗っていたのはどんなヒトでした?

「オレっちは見てねぇよ。こう、ビューンって通り過ぎちまったからよ。ただ、港の方で見たっていうダチは真っ白い髪だったって言ってるぜ」

今、その船がどこにあるかご存知ですか?

[知らねぇな。多分、尾びれか腹かみのどっかじゃねぇの?]


このインタビューの後、グルリ役所および尾びれ留置所へ問い合わせたが、現在までに返答は無かった。
本記者は引き続き幻の魔導船と、その所有者の行方を追う事とする。
ご期待下さい。

                                  アカブチ新報社アサビ版  くらんど特派員


「珍しいな、おめぇが新聞読むなんて」
「ぁあ?っせぇな。暇なんだよ」
「ちげぇねぇ。こう雨続きじゃなぁ……」
「今年はなんか、やたら降るなぁ」
「んで?なんか面白れぇ話しでも載ってたかよ……なんだ吹かし記事のアカブチじゃねぇか」
「いいんだよ、暇潰しなんだから」
「……オオヌキ山に巨大怪鳥あらわる?」
「カナン湖のカッシー、なんてのもあるぜ」
「闇森さまの正体に迫るだぁ?バチ当たんぞ」
「それ、村の古老のインタビューだったぜ」
「誰だよ、このあたりに古老なんて居ねぇだろ」
「村外れの森の中、近隣の住人が唐蔦屋敷と呼ぶ家に……」
「二年前に潰れた奴か?」
「おう。今、集会所になってる」
「トバすなぁ」
「この無責任さが面白れぇのよ」























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