地仙、異世界を掘る

荒谷創

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32.地仙、決定する

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「この世界の神の、創造種族!?」
「ああ。」
南極大陸に住んで居る竜人ドラゴニュートは、知識の継承に文字を使用していなかった。
「産まれた際に、ある程度記憶の継承が為されるらしい。」
「へ~」
「シュ~」
「そいつによると、現在住んでいる人間は、後からやって来た神が連れていた者の末なんだそうだ。」
かつて、この世界の神として在ったのは『黒き竜神』
その後、天より六柱の神が降り立ち、竜神に世界の明け渡しを迫ったらしい。
「争ったの?」
「いや。竜神は自分の創造した者達を全て南極大陸に移し、六柱の干渉を封じた上で世界そのものは明け渡したそうだ。」
神が治める地を明け渡す事は、無い訳ではない。
だが、争わないというのは珍しい。
「黒竜や赤竜は、特に気性が激しいって聞くし、よく穏便に明け渡したわね。」
「ああ。俺もそこは気になったが…」
もしも、南極大陸の地脈が滞りなく流れ続けていたなら、おそらくこの世界でもっとも肥沃で、富んだ大陸になっているだろう。
「それを見越しての事なのかもしれん。それに…」
「それに?」
竜人ドラゴニュートの気質が、黒竜のものを引き継いでいるとするならだが、純朴で真面目、根本的に争いを嫌う性格だな。身体的にはすこぶる頑丈そうなんだが。」
竜を祖とする竜人ドラゴニュートは他の世界にも居るが、大抵は身体的にも術的にも強く、誇り高さが傲慢の域にいっていたりする。
だが、ナカーラ世界の南極大陸にひっそりと暮らすもの達は性格も穏やかであり、必要以上の殺生を嫌っていた。
「今は六千人程が、半地下に暮らしていたよ。」
「少ないわね。」
「いや、昔からその位だそうだ。」
生活空間の規模からも、食料面からもそれで適当なのだろう。
「会ってみたいけど…」
「その内な。俺が押し掛けてしまったばかりだからな…」
南極に住み始めて以来、始めての来訪者であったらしい。石蛇などをけしかけたのも、聖地と一族を守ろうと、半ばパニックになった結果だ。
「こんな目付きの悪い、物騒な男が押し掛けたんですもんね。仕方ないか。」
「シュ。」
「ひでぇ…」

「それにしても、さっき六柱の神って言っていたわよね?」
「ああ。」
「四女神じゃ無くて?」
ドラゴニュートの記憶によれば
『支配の女神コッズ』
『木の女神ダニータ』
『沼の女神イゲイタ』
『石の女神ウウワ』
『蛍火の神アラクゥ』
『調律の神ジンブ』
の六柱であったという。 
「ジンブ様!?」
「知っているのか?」
「…天の庁で、ずっと行方を探している神よ。」
思わず声を上げた稀華に目を丸くしつつ訊ねてみれば、また剣呑な話が増えそうだ。
「ジンブ様は、かなり古い…それこそ大じじ様と同じ位の世代の方よ。」
それが、しばらく前から急に姿を見せなくなり、連絡もつかなくなっていたのだと言う。神は気紛れで時々様々な世界を放浪したり、勝手に小さな世界に籠ってしまったりもする。
ただ、ジンブという神は調律を司る権能を持つ、それこそ穏やかで真面目な神であった。
「過去に一度も、連絡が取れなくなる様な事が無かったと聞いているわ。だから私みたいな者にも、もし、連絡があったら必ず上に報告をする様にって、通達が来ていたのよ。」
「…なるほど。蛍火の神アラクゥという方は?」
「そっちは、聞いた事がないわ。」
「そうか。だが、この分だと無事とは思えんな。」
「シュ~…」
師匠ですら、ナカーラ世界の管理者は四柱の女神だと言っていた。
四女神は、さほど位階の高い女神では無い。
世界の管理者に成れるのは、かろうじて支配の女神コッズ位だ。
あとの三柱はコッズの腰巾着であるが故に、引き立てられた口だろう。
つまり…
「本来の管理者はジンブ神で、コッズが補佐。以下は属神だったって事か!」
「その可能性は、高いわね。ジンブ様の格から見ても、主神以外には考えられないし。」
だが実際には、管理者は格落ちの四女神であり、ジンブ神は行方不明。更にアラクゥという神と、星の元々の神である黒い竜神も行方が判らない。
「…ねえ、これ、大事よね?」
「ああ。少なくとも地仙の管轄じゃ無ぇ。」
「天仙でも、正直かなり上で扱う案件だわ。」
「こりゃ、なんとしても師匠に相談しなきゃいかんなぁ」
大仙ならば、対処方もあろう。だが、基本的に放任主義なので、次にいつ来るのかは判らない。
「ミゼット大陸の方も、放っておけないしなぁ。何か起きてからより、先に見ておきたい。」
「良いわ。大仙が来られたら、私が話をしておく。貴方はミゼット大陸の確認をしてきて。」
「シュ。」
「…二人とも、頼む。と、なればリュウグウも連れていきたいな。」
任せておけと胸を張る稀華とコルノに頭を下げる。
ミゼット大陸は人の住む地だ。雲に乗って空から見渡すだけでは判らない事も多いので、ある程度世慣れた案内人が欲しい。
更に生き残りの迷宮主とも話がしたいので、道案内にリュウグウはうってつけと言える。
【先程、馬明が稽古をつけていましたので、今頃は風呂であると思われます。】

となると、出発は早くて三日後位になるな。
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