33 / 44
32.地仙、決定する
しおりを挟む
「この世界の神の、創造種族!?」
「ああ。」
南極大陸に住んで居る竜人は、知識の継承に文字を使用していなかった。
「産まれた際に、ある程度記憶の継承が為されるらしい。」
「へ~」
「シュ~」
「そいつによると、現在住んでいる人間は、後からやって来た神が連れていた者の末なんだそうだ。」
かつて、この世界の神として在ったのは『黒き竜神』
その後、天より六柱の神が降り立ち、竜神に世界の明け渡しを迫ったらしい。
「争ったの?」
「いや。竜神は自分の創造した者達を全て南極大陸に移し、六柱の干渉を封じた上で世界そのものは明け渡したそうだ。」
神が治める地を明け渡す事は、無い訳ではない。
だが、争わないというのは珍しい。
「黒竜や赤竜は、特に気性が激しいって聞くし、よく穏便に明け渡したわね。」
「ああ。俺もそこは気になったが…」
もしも、南極大陸の地脈が滞りなく流れ続けていたなら、おそらくこの世界でもっとも肥沃で、富んだ大陸になっているだろう。
「それを見越しての事なのかもしれん。それに…」
「それに?」
「竜人の気質が、黒竜のものを引き継いでいるとするならだが、純朴で真面目、根本的に争いを嫌う性格だな。身体的にはすこぶる頑丈そうなんだが。」
竜を祖とする竜人は他の世界にも居るが、大抵は身体的にも術的にも強く、誇り高さが傲慢の域にいっていたりする。
だが、ナカーラ世界の南極大陸にひっそりと暮らすもの達は性格も穏やかであり、必要以上の殺生を嫌っていた。
「今は六千人程が、半地下に暮らしていたよ。」
「少ないわね。」
「いや、昔からその位だそうだ。」
生活空間の規模からも、食料面からもそれで適当なのだろう。
「会ってみたいけど…」
「その内な。俺が押し掛けてしまったばかりだからな…」
南極に住み始めて以来、始めての来訪者であったらしい。石蛇などをけしかけたのも、聖地と一族を守ろうと、半ばパニックになった結果だ。
「こんな目付きの悪い、物騒な男が押し掛けたんですもんね。仕方ないか。」
「シュ。」
「ひでぇ…」
「それにしても、さっき六柱の神って言っていたわよね?」
「ああ。」
「四女神じゃ無くて?」
ドラゴニュートの記憶によれば
『支配の女神コッズ』
『木の女神ダニータ』
『沼の女神イゲイタ』
『石の女神ウウワ』
『蛍火の神アラクゥ』
『調律の神ジンブ』
の六柱であったという。
「ジンブ様!?」
「知っているのか?」
「…天の庁で、ずっと行方を探している神よ。」
思わず声を上げた稀華に目を丸くしつつ訊ねてみれば、また剣呑な話が増えそうだ。
「ジンブ様は、かなり古い…それこそ大じじ様と同じ位の世代の方よ。」
それが、しばらく前から急に姿を見せなくなり、連絡もつかなくなっていたのだと言う。神は気紛れで時々様々な世界を放浪したり、勝手に小さな世界に籠ってしまったりもする。
ただ、ジンブという神は調律を司る権能を持つ、それこそ穏やかで真面目な神であった。
「過去に一度も、連絡が取れなくなる様な事が無かったと聞いているわ。だから私みたいな者にも、もし、連絡があったら必ず上に報告をする様にって、通達が来ていたのよ。」
「…なるほど。蛍火の神アラクゥという方は?」
「そっちは、聞いた事がないわ。」
「そうか。だが、この分だと無事とは思えんな。」
「シュ~…」
師匠ですら、ナカーラ世界の管理者は四柱の女神だと言っていた。
四女神は、さほど位階の高い女神では無い。
世界の管理者に成れるのは、かろうじて支配の女神コッズ位だ。
あとの三柱はコッズの腰巾着であるが故に、引き立てられた口だろう。
つまり…
「本来の管理者はジンブ神で、コッズが補佐。以下は属神だったって事か!」
「その可能性は、高いわね。ジンブ様の格から見ても、主神以外には考えられないし。」
だが実際には、管理者は格落ちの四女神であり、ジンブ神は行方不明。更にアラクゥという神と、星の元々の神である黒い竜神も行方が判らない。
「…ねえ、これ、大事よね?」
「ああ。少なくとも地仙の管轄じゃ無ぇ。」
「天仙でも、正直かなり上で扱う案件だわ。」
「こりゃ、なんとしても師匠に相談しなきゃいかんなぁ」
大仙ならば、対処方もあろう。だが、基本的に放任主義なので、次にいつ来るのかは判らない。
「ミゼット大陸の方も、放っておけないしなぁ。何か起きてからより、先に見ておきたい。」
「良いわ。大仙が来られたら、私が話をしておく。貴方はミゼット大陸の確認をしてきて。」
「シュ。」
「…二人とも、頼む。と、なればリュウグウも連れていきたいな。」
任せておけと胸を張る稀華とコルノに頭を下げる。
ミゼット大陸は人の住む地だ。雲に乗って空から見渡すだけでは判らない事も多いので、ある程度世慣れた案内人が欲しい。
更に生き残りの迷宮主とも話がしたいので、道案内にリュウグウはうってつけと言える。
【先程、馬明が稽古をつけていましたので、今頃は風呂であると思われます。】
となると、出発は早くて三日後位になるな。
「ああ。」
南極大陸に住んで居る竜人は、知識の継承に文字を使用していなかった。
「産まれた際に、ある程度記憶の継承が為されるらしい。」
「へ~」
「シュ~」
「そいつによると、現在住んでいる人間は、後からやって来た神が連れていた者の末なんだそうだ。」
かつて、この世界の神として在ったのは『黒き竜神』
その後、天より六柱の神が降り立ち、竜神に世界の明け渡しを迫ったらしい。
「争ったの?」
「いや。竜神は自分の創造した者達を全て南極大陸に移し、六柱の干渉を封じた上で世界そのものは明け渡したそうだ。」
神が治める地を明け渡す事は、無い訳ではない。
だが、争わないというのは珍しい。
「黒竜や赤竜は、特に気性が激しいって聞くし、よく穏便に明け渡したわね。」
「ああ。俺もそこは気になったが…」
もしも、南極大陸の地脈が滞りなく流れ続けていたなら、おそらくこの世界でもっとも肥沃で、富んだ大陸になっているだろう。
「それを見越しての事なのかもしれん。それに…」
「それに?」
「竜人の気質が、黒竜のものを引き継いでいるとするならだが、純朴で真面目、根本的に争いを嫌う性格だな。身体的にはすこぶる頑丈そうなんだが。」
竜を祖とする竜人は他の世界にも居るが、大抵は身体的にも術的にも強く、誇り高さが傲慢の域にいっていたりする。
だが、ナカーラ世界の南極大陸にひっそりと暮らすもの達は性格も穏やかであり、必要以上の殺生を嫌っていた。
「今は六千人程が、半地下に暮らしていたよ。」
「少ないわね。」
「いや、昔からその位だそうだ。」
生活空間の規模からも、食料面からもそれで適当なのだろう。
「会ってみたいけど…」
「その内な。俺が押し掛けてしまったばかりだからな…」
南極に住み始めて以来、始めての来訪者であったらしい。石蛇などをけしかけたのも、聖地と一族を守ろうと、半ばパニックになった結果だ。
「こんな目付きの悪い、物騒な男が押し掛けたんですもんね。仕方ないか。」
「シュ。」
「ひでぇ…」
「それにしても、さっき六柱の神って言っていたわよね?」
「ああ。」
「四女神じゃ無くて?」
ドラゴニュートの記憶によれば
『支配の女神コッズ』
『木の女神ダニータ』
『沼の女神イゲイタ』
『石の女神ウウワ』
『蛍火の神アラクゥ』
『調律の神ジンブ』
の六柱であったという。
「ジンブ様!?」
「知っているのか?」
「…天の庁で、ずっと行方を探している神よ。」
思わず声を上げた稀華に目を丸くしつつ訊ねてみれば、また剣呑な話が増えそうだ。
「ジンブ様は、かなり古い…それこそ大じじ様と同じ位の世代の方よ。」
それが、しばらく前から急に姿を見せなくなり、連絡もつかなくなっていたのだと言う。神は気紛れで時々様々な世界を放浪したり、勝手に小さな世界に籠ってしまったりもする。
ただ、ジンブという神は調律を司る権能を持つ、それこそ穏やかで真面目な神であった。
「過去に一度も、連絡が取れなくなる様な事が無かったと聞いているわ。だから私みたいな者にも、もし、連絡があったら必ず上に報告をする様にって、通達が来ていたのよ。」
「…なるほど。蛍火の神アラクゥという方は?」
「そっちは、聞いた事がないわ。」
「そうか。だが、この分だと無事とは思えんな。」
「シュ~…」
師匠ですら、ナカーラ世界の管理者は四柱の女神だと言っていた。
四女神は、さほど位階の高い女神では無い。
世界の管理者に成れるのは、かろうじて支配の女神コッズ位だ。
あとの三柱はコッズの腰巾着であるが故に、引き立てられた口だろう。
つまり…
「本来の管理者はジンブ神で、コッズが補佐。以下は属神だったって事か!」
「その可能性は、高いわね。ジンブ様の格から見ても、主神以外には考えられないし。」
だが実際には、管理者は格落ちの四女神であり、ジンブ神は行方不明。更にアラクゥという神と、星の元々の神である黒い竜神も行方が判らない。
「…ねえ、これ、大事よね?」
「ああ。少なくとも地仙の管轄じゃ無ぇ。」
「天仙でも、正直かなり上で扱う案件だわ。」
「こりゃ、なんとしても師匠に相談しなきゃいかんなぁ」
大仙ならば、対処方もあろう。だが、基本的に放任主義なので、次にいつ来るのかは判らない。
「ミゼット大陸の方も、放っておけないしなぁ。何か起きてからより、先に見ておきたい。」
「良いわ。大仙が来られたら、私が話をしておく。貴方はミゼット大陸の確認をしてきて。」
「シュ。」
「…二人とも、頼む。と、なればリュウグウも連れていきたいな。」
任せておけと胸を張る稀華とコルノに頭を下げる。
ミゼット大陸は人の住む地だ。雲に乗って空から見渡すだけでは判らない事も多いので、ある程度世慣れた案内人が欲しい。
更に生き残りの迷宮主とも話がしたいので、道案内にリュウグウはうってつけと言える。
【先程、馬明が稽古をつけていましたので、今頃は風呂であると思われます。】
となると、出発は早くて三日後位になるな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる