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水上庭園1
庭園の入口では、すでにサイフォスが待ち構えており。
「早かったな」
例のごとく、しばらく待たされると思っていたため、そう驚く。
「嫌味ですか?」
「っそうではない。
ただ、嬉しかっただけだ」
というのも。
ヴィオラが以前、気が乗らないと支度に時間がかかると言っていたため。
早いという事は、その逆になるからだ。
もちろんその発言は、悪妃に扮した嘘ではあるが……
そののろまな気質のせいで、支度に時間がかかるのは常であり。
もうサイフォスを待たせたくなかったヴィオラは、普段より倍早く取り掛かっていたのだった。
しかしサイフォスを喜ばせたとあらば、ラピズに怪しまれるため。
「っ、何か勘違いしているようですが。
私はただ、茶会をさっさと終わらせたいだけです」
そう誤魔化す。
対してサイフォスは……
ーー悪いが、早く帰すつもりはない。
そう思いながらも。
「ならば、さっそく行こう」と。
遊覧船への、乗船エスコートの手を差し出した。
けれどヴィオラは……
ラピズの手前、その手を取るわけにはいかず。
「ひとりで乗れますっ」
サイフォスに申し訳ない気持ちと、その手を取りたくてたまらない気持ちを、ぐっと抑えて断った。
ところが。
「危ないから駄目だ」
強制的に手を掴まれて。
ヴィオラの心臓が、大きく跳ね上がる。
慌ててそれを隠すように。
「っは、離してくださいっ」
そう抵抗すると。
「お離しください!」
ランド・スピアーズが割って入って、そう強く諫言した。
途端、ピシリと空気が凍りつく。
「……何の真似だ」
護衛騎士が自ら楯突くなど、本来なら許される事ではなかった。
「申し訳ございません。
ですが私は、妃殿下の護衛騎士ですので。
妃殿下が嫌がっているとなれば、見過ごすわけにはいきません。
なのでエスコートは、私にお任せください」
しかしサイフォスは、ヴィオラの手を離そうとはせず……
サイフォスを選べば、ラピズの憎しみが募り。
ラピズを選べば、サイフォスが傷つくため。
どうすればいいのか、戸惑っていたヴィオラだったが……
「図に乗るな。
護衛騎士など、俺の一存でいつでも解任出来ると覚えておけ」
サイフォスがそう制圧したため。
「……もういいです。
ランド・スピアーズを解任されては困るので、さっさとエスコートしてください」
それを口実に、サイフォスを選ぶ事が出来たのだった。
それでもラピズは……
人の女を奪った分際で偉そうに!と、結局は憎しみを募らせていた。
しかも遊覧船は、船頭を含めた3人乗りのものが、2艘しか用意されておらず。
1艘はサイフォスとヴィオラが乗り、もう1艘は給仕たちが乗り込んだため。
ラピズ・スピアーズは岸辺で待機する羽目になり、ますます憎しみを煽られていた。
そうとも知らず……
ヴィオラは遊覧船から眺める景色や体感する景観に、すぐさま心を奪われていた。
様々な噴水のオブジェや、噴水ユニットが織りなす光景は……
爽やかで、この上なく芸術的で。
光を溶かして、いくつもの虹を宿す情景は……
焦がれるほど眩ゆくて、形容し難いほど絶佳で。
その水音は、何もかも癒されるほど心地よくて……
花樹のトンネルをくぐると、はらはらと鮮やかな花片が降り注ぎ。
それらで彩られ、空を映し、風に揺らぐ水面は……
うっとりするほど風光明媚で。
「なんて、綺麗なの……」
至極当然に、感嘆の声が零れるヴィオラ。
サイフォスは、そうやって目を輝かせている姿に見惚れながら……
「気に入ってもらえたか?」
そう問いかけた。
そこでヴィオラは……
サイフォスがまた、自分を喜ばせるために尽力してくれたんだと。
そのために忙しい最中、それどころか両陛下が大変な時にもかかわらず、わざわざ茶会を開いてくれたんだと悟り。
嬉しくて泣きそうになる。
とはいえ悪妃として、慌ててそれを押し殺すも。
「っっ、はい、とても……」
そう答えずにはいられなかった。
するとサイフォスの方が、より嬉しそうに。
「よかった……!」
それを噛み締めるように、顔を綻ばせた。
ヴィオラはその笑顔に、そんなサイフォスに、胸をズキュンと射抜かれて。
愛しくてたまらなくなる。
「……なので、何かお礼をさせてください」
「お礼?」
そんな事は微塵も気にしなくていいと、断ろうとした矢先。
はたと思い付き。
「……ならば、手を繋いでいいか?」
そう尋ねるサイフォス。
「っ、そんな事でいいのですかっ?」
「そんな事?
俺にとっては、すごく幸せな事だ」
そう返され。
ヴィオラも、確かにそうだと思い知る。
繋がれた手は、すぐに指を絡められ。
互いにぎゅうと握り合い……
好きな人とそうやって、このような絶景を味わえる事に。
なんて幸せなんだろうと、束の間のそれを噛み締めていた。
それから程なくして。
庭園の中央にある、水上テラスに着くと。
「なんて素敵なのっ……」
またしても、感嘆の声を漏らすヴィオラ。
屋根のある、そのテラスは……
宮殿の一室のような、豪華な装飾を施されながらも。
リゾートのような雰囲気と、開放感を兼ね備えており。
噴水や花樹によって、橋や岸の船着場からは見えないように造られている事や。
水のカーテンによって、テラスの船着場からも目隠しと防音を施されている事から……
まるで水上に浮かぶ、秘密の楽園のようだった。
そしてテーブルには……
ヴィオラたちが遊覧している間に、給仕たちによって。
有り余るほどのスイーツや、果物などが並べられていた。
「早かったな」
例のごとく、しばらく待たされると思っていたため、そう驚く。
「嫌味ですか?」
「っそうではない。
ただ、嬉しかっただけだ」
というのも。
ヴィオラが以前、気が乗らないと支度に時間がかかると言っていたため。
早いという事は、その逆になるからだ。
もちろんその発言は、悪妃に扮した嘘ではあるが……
そののろまな気質のせいで、支度に時間がかかるのは常であり。
もうサイフォスを待たせたくなかったヴィオラは、普段より倍早く取り掛かっていたのだった。
しかしサイフォスを喜ばせたとあらば、ラピズに怪しまれるため。
「っ、何か勘違いしているようですが。
私はただ、茶会をさっさと終わらせたいだけです」
そう誤魔化す。
対してサイフォスは……
ーー悪いが、早く帰すつもりはない。
そう思いながらも。
「ならば、さっそく行こう」と。
遊覧船への、乗船エスコートの手を差し出した。
けれどヴィオラは……
ラピズの手前、その手を取るわけにはいかず。
「ひとりで乗れますっ」
サイフォスに申し訳ない気持ちと、その手を取りたくてたまらない気持ちを、ぐっと抑えて断った。
ところが。
「危ないから駄目だ」
強制的に手を掴まれて。
ヴィオラの心臓が、大きく跳ね上がる。
慌ててそれを隠すように。
「っは、離してくださいっ」
そう抵抗すると。
「お離しください!」
ランド・スピアーズが割って入って、そう強く諫言した。
途端、ピシリと空気が凍りつく。
「……何の真似だ」
護衛騎士が自ら楯突くなど、本来なら許される事ではなかった。
「申し訳ございません。
ですが私は、妃殿下の護衛騎士ですので。
妃殿下が嫌がっているとなれば、見過ごすわけにはいきません。
なのでエスコートは、私にお任せください」
しかしサイフォスは、ヴィオラの手を離そうとはせず……
サイフォスを選べば、ラピズの憎しみが募り。
ラピズを選べば、サイフォスが傷つくため。
どうすればいいのか、戸惑っていたヴィオラだったが……
「図に乗るな。
護衛騎士など、俺の一存でいつでも解任出来ると覚えておけ」
サイフォスがそう制圧したため。
「……もういいです。
ランド・スピアーズを解任されては困るので、さっさとエスコートしてください」
それを口実に、サイフォスを選ぶ事が出来たのだった。
それでもラピズは……
人の女を奪った分際で偉そうに!と、結局は憎しみを募らせていた。
しかも遊覧船は、船頭を含めた3人乗りのものが、2艘しか用意されておらず。
1艘はサイフォスとヴィオラが乗り、もう1艘は給仕たちが乗り込んだため。
ラピズ・スピアーズは岸辺で待機する羽目になり、ますます憎しみを煽られていた。
そうとも知らず……
ヴィオラは遊覧船から眺める景色や体感する景観に、すぐさま心を奪われていた。
様々な噴水のオブジェや、噴水ユニットが織りなす光景は……
爽やかで、この上なく芸術的で。
光を溶かして、いくつもの虹を宿す情景は……
焦がれるほど眩ゆくて、形容し難いほど絶佳で。
その水音は、何もかも癒されるほど心地よくて……
花樹のトンネルをくぐると、はらはらと鮮やかな花片が降り注ぎ。
それらで彩られ、空を映し、風に揺らぐ水面は……
うっとりするほど風光明媚で。
「なんて、綺麗なの……」
至極当然に、感嘆の声が零れるヴィオラ。
サイフォスは、そうやって目を輝かせている姿に見惚れながら……
「気に入ってもらえたか?」
そう問いかけた。
そこでヴィオラは……
サイフォスがまた、自分を喜ばせるために尽力してくれたんだと。
そのために忙しい最中、それどころか両陛下が大変な時にもかかわらず、わざわざ茶会を開いてくれたんだと悟り。
嬉しくて泣きそうになる。
とはいえ悪妃として、慌ててそれを押し殺すも。
「っっ、はい、とても……」
そう答えずにはいられなかった。
するとサイフォスの方が、より嬉しそうに。
「よかった……!」
それを噛み締めるように、顔を綻ばせた。
ヴィオラはその笑顔に、そんなサイフォスに、胸をズキュンと射抜かれて。
愛しくてたまらなくなる。
「……なので、何かお礼をさせてください」
「お礼?」
そんな事は微塵も気にしなくていいと、断ろうとした矢先。
はたと思い付き。
「……ならば、手を繋いでいいか?」
そう尋ねるサイフォス。
「っ、そんな事でいいのですかっ?」
「そんな事?
俺にとっては、すごく幸せな事だ」
そう返され。
ヴィオラも、確かにそうだと思い知る。
繋がれた手は、すぐに指を絡められ。
互いにぎゅうと握り合い……
好きな人とそうやって、このような絶景を味わえる事に。
なんて幸せなんだろうと、束の間のそれを噛み締めていた。
それから程なくして。
庭園の中央にある、水上テラスに着くと。
「なんて素敵なのっ……」
またしても、感嘆の声を漏らすヴィオラ。
屋根のある、そのテラスは……
宮殿の一室のような、豪華な装飾を施されながらも。
リゾートのような雰囲気と、開放感を兼ね備えており。
噴水や花樹によって、橋や岸の船着場からは見えないように造られている事や。
水のカーテンによって、テラスの船着場からも目隠しと防音を施されている事から……
まるで水上に浮かぶ、秘密の楽園のようだった。
そしてテーブルには……
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