悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫

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水上庭園2

「後はこっちでやる。
お前たちも寛いでくれ」

「恐れ入ります。
では御用の際は、いつでもお声かけくださいませ」
そう言って給仕たちが、遊覧船に引き下がると。

 久しぶりの2人っきりに、胸が一気に騒ぎ出すヴィオラ。

 今さら緊張して、何か話さなきゃと焦り。
そうだ!と、かねてから憂慮していた事を切り出した。

「ところで殿下、陛下のご容態はいかがですか?」

 それは両陛下を意味しており。
国王の病気は公にされていないため、敢えてそうまとめたわけだが……
その意図を、ちゃんと汲み取るサイフォス。

「……相変わらずだ。
引き継ぎ医師と大魔導師が、治療法を模索しているところだ」

「そうですか……
早く見つかるといいですね」

「ああ……」

「殿下は大丈夫ですか?」

「俺か?
俺はとっくになんともない」

「そうではなくて……
またひとりで抱えて、無理をされたり。
その事で辛い思いを、していませんか?」

 するとサイフォスは目を大きくしたあと。
酷く切なげに愛しげに、その目を細めた。

「……そうだな。
だが落ち込んでいても仕方がない。
出来る限りを尽くすしかない。
それにヴィオラがそうやって心配してくれるだけで、元気が出てきた。
ありがとう」

「そんなっ……
むしろ、少しは頼ってください。
それとも、私ではお力になれませんか?」

「いや、言っただろう?
ヴィオラがいてくれるだけで、その顔を見れるだけで。
いくらでも力が湧いてきて、なんだって乗り越えられると」

「……でしたらなぜ、しばらく会いに来てくださらなかったのですか?」
それほど忙しかったのだと察しながらも。
話の流れに押されて、ついそれを尋ねてしまうと。

 思わぬ問いかけに面食らって、胸を思い切り鷲掴まれるサイフォス。
なぜならそれは、会いに来て欲しかったと言ってるも同然だからだ。

「いえそのっ、責めているわけではありませんっ」
困惑しているようなサイフォスを前に、慌ててそう弁解するも。

「っわかっている。
ただ、あまりに嬉しくて……
それより、寂しい思いをさせてすまなかった。
ヴィオラといると、離れ難くて……
だから少しでも長くいられるように、ずっと公務を前倒しで片付けていたんだ」

 その返答に、今度はヴィオラが胸を掴まれる。
しかし嬉しい反面。
ここしばらくの間、ずっと公務を詰め込んでいた事になるため。

「っそんな事のために、無理をしないでください!」
そう怒るヴィオラ。

「無理はしていない。
ちゃんと食事も休養も、充分に取っていたし。
もう倒れる事にはならないようにすると、約束しただろう?
だからこそ、会う時間を犠牲にするしかなかったのだ」

「それなら、構いませんが……
私も何か、お手伝いしたかったです」

「……ならば、膝枕でもしてくれ」

「はいっ?
それがお手伝いになるのですかっ?」

「ああ、これまでの疲れが癒される」

 本来はヴィオラを労うのが目的だったが……
このままではヴィオラの気が済まないだろうと判断し、自身の要望も混じえてそう妥協策を講じるサイフォス。

「……わかりました。
ですが、今ここでするのですか?」

「ここなら誰にも見られないし、ロングソファだから問題ないだろう?
ただ、するのは食べ終わってからでいい。
まずは茶会を、存分に嗜んでくれ」

「ありがとうございます」

 そうしてヴィオラは、サイフォスの厚意を無駄にしないように……
まるでアートのような、美しすぎるスイーツや。
心がときめくような、可愛いらしいスイーツや。
見るからに美味しそうな、真新しいスイーツなどを、次々と喫した。

ーーどれもなんて美味しいの!
リモネや侍女たちにも、食べさせてあげたいくらい。
でもさっきから黙々と食べまくってるのに……
そのうえ持ち帰りたいなんて言ったら、卑しいと思われるかしら?

 そう、引き続き悪妃を演じる身としては……
侍女たちにもお裾分けしたいといった名目で、行動するわけにはいかず。
余り物をリモネに押し付け、リモネが皆に分け与えるといった形をとろうと考えていたのだ。

 そこで。

ーーそうよ悪妃なんだから、卑しいと思われた方がいいじゃない!
と、恥ずかしさを押し切って頼む事にしたヴィオラ。

「あの、殿下……
こんなにあってはとても食べ切れないので、持ち帰ってもいいですか?」

「もちろんだ。
後で給仕たちに手配させよう」
そう言ったサイフォスは、どこか嬉しそうで……

 そう、卑しいなどとは当然思うはずもなく。
むしろ。
初めて食を共にした時は、料理に不満を零して、ほとんど口にしなかったヴィオラが……
美味しそうにひたすら食べて、持ち帰りたいとまで言ってくれた事に、感無量な思いでいた。


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