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呆気なく終了

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「わざわざお越し頂きありがとうございます」

淑女の笑顔を顔に貼り付け、王族に行う最上級の礼をする。
そんな私に目もくれず、ノマイ殿下はソファに腰をかけた。まぁ、いつも通りですね。

「こちらこそ、急な訪問でしたのにありがとうございます」

護衛騎士のライドゥ様が殿下の代わりに私にそう言い、礼をしてくれました。

「ライドゥ様、修行の旅から無事戻られたのですね。御無事で何よりですわ」

そういえば、ウィルがワの国に行ったくらいにライドゥ様も修行の旅に出かけたとか…
確かにこのクソ殿下の護衛とか、大変そうですものね。元々優秀な方でしょうに、修行に行かなきゃなんて本当に大変ですわ……

「そのお言葉を頂けただけで、修行の辛さなど吹き飛びます。ティア様も、ますますお綺麗になられて…お見合いの話が沢山舞い込んで来るでしょうなぁ」

もうライドゥ様ったら、口がお上手なんだから、、、

まぁ、お見合い話し何てソファでふんぞりかえっている奴のせいで、1度も来たことないですけどね……

「いつまで立って話しているんだ?」

殿下の機嫌が悪そうな声が聞こえます。

「ライドゥ出て行け、それからそこにいる奴も出て行け!」

はぁ、theわがまま坊ちゃんって感じですわね

「失礼ですが、それは出来ません」

ウィルが殿下に反論した。

「あ?執事風情が俺に口答えする気か?」

昔はここまでではなかった筈なんですけどね……はぁぁ、もうこうなったら仕方ない

「ウィル大丈夫よ。心配しなくても、殿下が私なんかに変な気を起こす事はあり得ませんから」

「気色悪いこと言うな!俺がこんな奴にそんな事思う訳ないだろ!目腐ってんのか」

お前はちょっと黙っとれバカ王子
本来はお前が間違っているんだからな。お前にウィルを責める筋合いはねぇんだぞ?

「ね?殿下もそう言ってるし大丈夫よ、ウィル」

「…………分かりました、お嬢様。廊下に待機してますので、何かあったらすぐ呼んでく」

「俺がこの血みどろ女に変な気起こすと本当に思ってんのか?頭おかしいんじゃねぇの?早く出てけ」

ウィルの体が固まった。

『バカ 口 黙らせ方』検索。
誰かいい方法教えてくれないかしら……

固まったウィルをライドゥ様が引きずる様にして部屋から出て行った。


さて、ウィルは大丈夫かしら?
余りのバカさ加減に固まってしまってたわね、可哀想に…
ウィルは何も間違って無いのに、全部目の前のコイツが悪いんだから気にしちゃダメよ?

「俺との婚約がうまく行かなそうだから次は護衛騎士狙いか?」

コイツ何言ってるんでしょうか…1発どころか10発ぐらい殴りたいんですけど、その気持ちをグッと抑えます。殿下の正面のソファに腰掛け、言葉に気をつけながら発言していきます。

「……私はあくまで婚約『候補者』ですからね。心配して下さっているのですね、ありがとうございます。でも、ご心配には及びませんわ」

「ほぅ、お前みたいな無気味な女が俺の婚約者になれるなど本気で思っているのか?」

ンな訳ねぇーだろ、バカ殿下。そんなのこっちから願い下げだわ…
おっとっと、口が滑ったら1発アウトでした。危ない危ない

「いいえ、微塵も思っていませんわ。私はあくまで『候補者』ですので、候補から漏れた時用に別の方がいるのですわよ」

まぁ、本当は居ないんだけどね……このぐらい言っとけばいいでしょう。

「……!そんなの聞いてないぞ!相手は誰だ。今すぐ言え‼︎」

「さぁ、私も詳しくは聞いてないのでお父様に聞いて下さいませ」

お父様巻き込みました。ごめんなさい。
後で誤りに行くし、ほっぺにチューもするから許してね?

「ふん…どうせ俺の気を引く為の嘘だろ。だから俺はお前が嫌なんだ」

コレはいつものパターンですわね…

「俺は美しく春を思い立たせる髪、希望や輝きを詰め合わせた様な瞳を持ち、学に優れ、優しく笑い寄り添ってくれる子がいいんだ」

そういえば、この言葉って殿下の誕生日後から言うようになったんですよね。あのドレス酷評でしたからね…
だからこの言葉って、『あのドレスが酷いんじゃなくて、それを着こなせないお前達が悪い。』って意味も含まれてそうですわね……ちっさい男……

「返り血を浴びたかの様なおぞましい髪に、美しいシェーン様や高貴なバーダー様に全く似ていない顔、この世の悪を煮詰めた様な無気味な瞳、優秀なシューの足元にも及ばない学の低さ。何故こんな奴が俺の婚約者候補なのか理解できないし、不愉快だ。」

いつもの殿下の決め台詞が決まった瞬間、部屋の温度が下がった。
気がするんじゃなくて本当に下がった……もしかして、お母様何処かで聞いてる?

「な、なんだ!急に寒くなって来たぞ」

「さぁ?丁度、大きな雲が屋敷の上を通ったのでは無いですか?」

「そんな訳ないだろう!だから嫌なんだ、お前と居るのは……」

まだ何か言ってますが、気にしません。
殿下本当に気がついてないんでしょうか?殺気で部屋の温度は下がるんですのよ?
多分何処かにお母様が隠れているだけなので、貴方が黙れば解決です。

そんな事を考え現実逃避をしていたのですが、その間にも部屋がどんどん寒くなっていきます。

ある程度したら、殿下の声がしなくなりました。現実逃避していた魂を、慌てて元に戻し殿下をチラッと見てみました。

ガタガタガタガ

青い顔して震えています。どうしたんでしょう?

「殿下?どうかされ……」

「お前の執事はどうなってるんだ‼︎」

殿下が大声で叫びます。

「私の執事?ウィルの事ですか?さっき固まってた所を、ライドゥ様が引っぱられるようにして部屋の外に連れて行かれましたけど……」

コイツ何言ってるの?オマエが命令したんだろ?もしかして忘れたの?

「俺をめちゃくちゃ睨んで、胸元からナイフを出してたぞ!」

「?ウィルは廊下にいる筈ですけど…いつ睨まれたんです?」

何?本当にどうしちゃったの?

「さっきだ!そこに映っていた」

殿下は窓を指差した。
廊下に居るのに窓に映るの?

「殿下、その執事は茶髪でフワフワした髪でしたか?」

「そんなの知らん!でも居たんだ!」

幻覚でもみたのかなぁ…なんか、余りにも怯えてて可愛そうになってきた…

私は立ち上がり扉の方に向かった。

「お、お前何してる?」

「何ってウィルに聞きに行くんですよ?」

なんか後ろで殿下が言ってますが、聞き取れません。というか、あの優しいウィルが人を睨む訳ないでしょうに……

ガチャ
扉を開けると音がなりました。

「ねぇ、ウィル?」

扉の横に居たウィルに声を掛けます。

「扉開けた?」

「いいえ、追い出されてから一度も開けていません」

そうよね……扉が開く音なんて一回もしなかったもんね

「じゃあ、何処かに行ってた?」

「いいえ。何かあった時のために此処でずっと待機してました」

「それは俺も証明するぜ!」

ライドゥ様もそう言ってくれました。
てことは、やっぱり殿下幻覚でもみたんでしょうね。

「お嬢様、どうかされましたか?」

ウィルが私の頭を撫でながら言った。
気持ちいい……

「……‼︎殿下がね、風邪を引いたみたい…急に寒い寒いって言い出すしね、窓に誰かいたっていうの」

「それは大変だ、熱があるのかも知れない……」

ライドゥ様がそう言い慌てて部屋の中に入って行きました。

「お嬢様、風邪が移ったら大変ですので部屋にお戻り下さい」

「分かりました。殿下の事よろしくお願いします」

ウィルも部屋の中に行ってしまいました……本当は風邪で寒いって行ってた訳じゃ無いと思うけど、幻覚見てたみたいだし本当に熱があったのかなぁ
まぁいいか。お開きになったし、ラッキーね!

「お嬢様、どうされましたか?」

扉の外でお開きになった喜びに浸って居たら、アンナがいた。

「うーん。何かね、殿下が熱出したみたいでお開きするみたい」

「そうなんですね……お嬢様に移ったら大変ですし、お嬢様のお部屋に行きましょう」

アンナと一緒に自室に戻った。そう言えば、何でアンナあそこに居たんだろう?まぁ、いいか……


後日、お父様から殿下が高熱をだし寝込んでいると伺いました。やっぱり、あの時、熱出てたんですね……

そしてそのあと郵便で殿下からプレゼントを頂きました。
中には趣味の悪い髪飾りが入っておりブチ切れたアンナが、その場ですぐ捨てたのは内緒のお話です。
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