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1-01最強だとは限らない

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 とある森のそのまた奥にある最奥の魔の森で、恐ろしい魔物が常にいるようなそんな危険な森の中で、なんとも気のぬけた緊張感のない声を上げる俺がいた。

「はぁ~、楽して強くなりたい。寝てるだけで最強になれる魔法とかないかな?」

 そう呟いたのは体は金色の蒼い瞳のやや小さなドラゴンである俺だった、犬でいえば伏せの体勢になってのんびりしていた。魔物や聖獣などの頂点に君臨しているとされるドラゴン、その最強たる種族のはずのドラゴンである俺がとっても小さな声で愚痴っていた。

「鍛練、鍛練って、俺は母さんの言うようにしているはずなのに、でも!! 一向に強くなれない、成長できないってつらいよね、はぁ~」
「いい加減にお黙りなさい、お前は鍛練中に寝ていたリ、さぼっていたり、逃げ出したり、それで強くなれるわけがないでしょう」
「まぁまぁ、セーメイオン様。シエルくんは彼なりに頑張っていますよ、……多分」

 俺が現状を愚痴っているといつの間にか来た、母である蒼いドラゴンのセーメイオンから、ビシッっとしっぽでとても強く頭を叩かれてしまった。その痛みに頭を抱える俺に向かって人間である女性、あかり姉さんが近づいてきた。彼女は母と違って俺に甘い姉のような人間である、5年ほど前に俺たちのところに突然現れた。胸のあたりまでの長い黒髪に黒い瞳を持つ今年で二十歳の迷い人だが、今も俺の近くに来て首筋辺りを慰めるように撫でてくれていた。

「そんな怠け者は放っておきなさい、あかり。このままだとアルカンシエルは成人して、独立して生きていけるかも怪しいわ!!」
「はぁ~、返す言葉もありません。母上」
「シエルくん、ちょっとは反論して!! 君はやる気は……まぁあるっと思いたいけど、ちょっと努力が実を結ばないだけよ!!」

 やる気は確かに遠い昔には俺にもあった、しかし年を重ねれば重ねるほどそれは失われていった。なにせもうすぐ百五十歳という成人にあたる年なのに、俺はまだいくつか初級魔法が使えるだけなのだ、それに俺の体は標準のドラゴンよりもとても小さく成長しなかった。これはかなり酷いことでとても異例なことなのだ、母さんであるセーメイオンはもちろん上級魔法まで簡単に使いこなすのに、その子どもである俺は下手をすると、母さんどころか人間であるあかり姉さんよりも弱いかもしれないのだった。

「もうわれは知りません、アルカンシエル!! お前は教えた鍛練に励みなさい、また鍛練を怠れば結局のところ後悔するのは貴方です!!」
「は~い、母上。仰せのままに~」
「え!? セーメイオン様!! シエルくんもちょっと本気でやる気を出して!! ほらっ、気を取り直して言われたとおりに鍛練でもしましょう!!」

 あまりに怠惰な俺の態度に母上は怒ってどこかに飛んで行ってしまった、縄張りであるこの辺り一帯の魔の森、そこでも見に行ったのかなぁと俺はぼんやりと思った。そして迷い人であるあかり姉さんへと俺は虚ろな目を向けた。あかり姉さんは俺よりも年下だが、俺よりには使えない上級魔法まで使えて、そして迷い人なので別の世界の知識に詳しかった。だから俺は年下だがあかり姉さんと呼んでいる、彼女はこんな出来損ないの俺にもとても優しい良い姉だった。

「それじゃ、シエルくん。どうしようか、私を乗せて空を飛ぶ練習をする? それとも魔法のことについて教えようか?」
「……他にもっと楽できて強くなる方法ありませんか?」

「そんな方法を知っていたらもう教えてるわよ、そうね。今日はどう? 人間の姿になって私と鍛練してみない?」
「空をできるだけ早く飛んだり、難しい魔法のわけわからん勉強よりはいいか。は~い、変身」

 俺はポンっという軽い音がしたとたんに、あかり姉さんと同じ人間の姿に変わっていた。金髪に蒼い瞳の虚ろな目の十二、三歳くらいの子ども姿である、服も適当に作って動きやすい服装にした。ため息をつきたい、本当ならもう数年は年を取った姿になれるはずなのだ。人間の姿でさえ俺の現状を残酷に伝えてくれる、どう考えても俺は成長不足なのだ。あれほど強い母からたっぷりと魔物を食事に貰っていたのに不思議だ、あかり姉さんがきてからは薬草もとり入れた食事もしてみたのだが、それでも俺の体は他のドラゴンより多分だが小さいままだった。

「シエルくんは大器晩成型なのよ!!」
「たいきばんせい?」

「そう若い頃は目立たないけど、いずれ成長して最強になるのよ!!」
「今日もあかり姉さんが優しくて……尊い」

「シエルくん、そんな言葉どこで覚えてくるの?」
「それはもちろん、あかり姉さんの言葉から」

 あかり姉さんは何か凄いことや感動したことがあると尊いと言う、だから俺にとってこんな出来損ないのドラゴンに優しくしてくれる、そんなあかり姉さんはとっても尊い存在なのだ。俺がそう言うとあかり姉さんは顔を赤くして、頭をぶんぶんと横に振っていた。照れているあかり姉さんも可愛い、俺とあかり姉さんの種族が違うのが悲しかった。俺はドラゴンの子どもが欲しかったから、あかり姉さんがドラゴンだったら良い交尾の対象になるのに残念だ。

「えーん、シエルくんがとっても可愛くてエモい!! ううん、去れ煩悩!! それじゃ、まずいっぱい走ってとそれから体術と剣術!! 最後に魔法の講義をするからね!!」
「わぁ、結構な鍛練だなぁ。うん、あかり姉さんについてくよ」

「ふふっ、素直でよろしい!! じゃあ、行くよ!!」
「は~い」

 こんな感じで俺はもうすぐ成人する期間を過ごしていた、ドラゴンは弱くて無知な者には無慈悲だ。正直なところ成人した俺がドラゴンとして生きていくのは難しい、ならばいっそあかり姉さんのように人間の姿で、ひっそりと魔の森で生きていくのもいいかもしれなかった。俺はもうドラゴンとして生きていくのは諦めて、人間として生きていこうかと考えはじめていたら、数日後にあかり姉さんが不思議なことを言いだした。

「あれっ、シエルくん。君は強くなってるよ」
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