現代最強とかなりたくない

アキナヌカ

文字の大きさ
2 / 20

02ささら先生の魔法教室

しおりを挟む
 ささらが『氷撃槍アイススピア』と唱えると、一瞬凄く寒い風を感じたような気がした。そしてこちらに向かってきてた豚のような化け物は氷の矢に貫かれて、いや体ごと氷に閉じ込められて死んでいるようだった。

「……………すっげー、ささら。お前を現代最強の賢者と認めよう」
「何のんきなことを言ってるの!? ほらっ、誰にも見られないうちに逃げるよ!!」

「了解!!」
「人がいないところに隠れよう!!」

 そうして俺たちはその場からそそくさと逃げ出した、ささらにできるなら多分俺にも同じことができるはずだ。でも俺たちはそれを絶対に見つかりたくない、こんな非常事態の英雄なんて命がいくらあっても足りないからだ。

「ふぅ、もう夜ね。いや~、刺激が多いと時間が早く感じるわ」
「ささら、さっきの魔法? あれって俺にも使えるのか?」

「多分、できると思うよー。これって絶対にあのふわふわを集めたせいだもん」
「そうか、それじゃ命が危ない時のために練習しておきたいんだが……」

 俺がそういうと埃臭い化学準備室でささらが机の上に立った、そうして俺を見下ろして両手を腰にあてこう言った。

「ついにささら先生の魔法教室のはじまりかな!?」
「ささら、スカートが短い、……見えてる」

 俺がそう言ってささらから目をそらした、俺にはばっちりささらの可愛いパンツが見えていたが、俺は何にも見なかったことにすることにした。ささらはちょっと耳を赤くしていたが、机に座って気にしないことにしたみたいだった。

「まっ、見られたのが和樹ならいいか。コホンッ、ささら先生の魔法教室としてはね。なんとなくできるのよ!!」
「なんとなくできる? それじゃ参考にならんような?」

「自分が使いたい魔法の姿を思い描くのがコツね!! 和樹、ここに氷を一個出してみて!!」
「………………『氷撃塊アイスブロック』」

 俺はささらに言われたようにしてみて驚いた、勝手に言葉がでてきて氷の塊を生み出しそれはゴトリと床に落ちたからだ。なるほどなんとなくできるという意味が分かった、本当にしようとすることが力のある言葉になるのだ。

「ほらっ、和樹にもできたじゃん!! 私達って言うとなんかダサいけど魔法使いよ」
「これは自由な場所で練習がしておきたいが、今は無理だな」

「ここ避難所だもんね、皆に忘れ去られたこんなとこしか練習場所が無いよ」
「俺は何も気がつかなかったが、ささらは他に何か気づいたことがあるか?」

「そうね、体全体が強化されてるって感じ、今なら綺麗に拳で殴れば木の壁くらい粉砕できそうかな」
「身体強化までされているのか、そうかあとで軽く筋トレでもして確かめてみよう」

「それじゃ、皆に怪しまれるとまずいし。ささら先生の魔法教室は今日は終了」
「うん、勉強になった。ありがと、ささら」

 そう言って俺が頭をなでてやるとささらはにこにこと笑顔でそうされていた、なんでもささらにとっては見た目が違っても自分をいじめなかった俺のことは親友なのだ。俺にとっては体の成長が人より早くて周囲の子どもには怖がられていたから、そんな俺を怖がらないささらはやっぱり大事な親友なのだ。

「それじゃ、くれぐれも目立たないようにね。和樹」
「ささらもな、あとスカート短くしすぎだ。直しとけ」

「和樹だけなら見せてあげてもいいよ?」
「俺も一応男に分類されるんだ、変な誘惑はよしてくれ」

「うーん、もう堅物なんだからぁ!?」
「………………それは悪いことじゃない」

 それから一週間、俺とささらは避難民向けに開放された運動場で、見よう見まねで格闘術などを試していた。おかげで体の動かし方がかなり上手くなったと思う、俺たちは走るスピードも何か遭った時の反射神経も向上していた。街の方は出てきた化け物、モンスターたちは数少ない不思議な力に目覚めた覚醒者と言われる者たちが退治したそうだ。この辺りは覚醒者が少なくて他の県からまわしてもらったらしいと、皆がそう噂しているのを聞いたがスミマセン。それ多分、俺とささらのせいです。

「明日から避難解除だって、いや~覚醒者様に感謝、感謝!!」
「これでようやく自由に動けるから、俺はできればゲートに行ってみたいな」

「和樹が行くなら私も行くもんね!!」
「ゲート、魔物がでてくる場所らしいけど、一体どこらへんにあるんだろう」

「それと覚醒者を登録する法律ができたみたいだね」
「やっぱり俺とお前も登録するしかないか」

 俺としては誰にも知られずに自由に行動したかったが、国がこの非情事態に合わせて覚醒者の登録、ゲートの登録・報告義務などを普段の政府は行動が遅いくせに今回は素早く法律にしたのだ。今のところ覚醒者の隔離とかにはなっていないので、登録をしてもそれほど心配することはないはずだ。そうして俺たちは避難所での最後の夜を過ごして、それぞれの家に帰ることにした。

「やっと、外だ。俺はとりあえず自分の家を片付ける」
「私もそうする、その後は分かってるよね」

「ああ、覚醒者として登録だ」
「電話かメールして、絶対一緒に行こうね!!」

 俺はこうして自分の家に帰った、俺の天涯孤独で身寄りがひとりもいなかった。だから部屋の片づけもうっすら積もっている埃を払うくらいですんだ。ささらには日本人の母親とアメリカ人の父親がいるが、どちらも放任主義でささらが何をしても別に気にされていなかった。だからよけいに親友の俺にささらが懐いているのかもしれなかった、俺としてもささらがいなかったらと思うと人生がつまらないものに思えた。そうして次の休日に身支度を終えると俺はささらに連絡した、すぐに返事がきて俺達は覚醒者登録に行くことになった。

「おおっ、ここが覚醒者登録の場所かー!!」
「いつもの役場の隣の運動場じゃないか、ささら大騒ぎするな」

「身近に一人や二人、覚醒者がいるってことかな?」
「そうかもな」

 俺が気が付くまでにふわふわした光が見えて吸収した者もいるだろう、そうして俺とささらは覚醒者登録をした、テストは色々あって、蝋燭に火をつけてくださいとか、土人形を動かしてくださいとか、風車をできるだけ沢山回してくださいとか、小さな氷を生み出してくださいとかだった。

「それじゃ、俺は氷で」
「私も私も、氷で」

俺たちのテストは小さな氷を生み出すという簡単なものだった。俺たちは覚醒者カードというのを貰ってそこまでは良かった、その後がまずかった。黙っていれば可愛いささらを見ていた男たち三人が絡んできたのだ、当然ささらは俺の後ろに隠れて防御体勢をとった。

「何か用ですか? 俺たちは覚醒者ですよ?」
「奇遇だな、俺らも覚醒者さ。なぁこんなでくの坊といないで、女の子は俺らと遊ぼうぜ!!」
「ぜぇーたい!! 嫌!! 生理的に無理ぃ!!」

 相手がささらに手を出そうとしたので、俺はちょっと足をひっかけて相手を転ばせた。そうした隙に俺たちが彼等から逃げようとした時だった、ぐにゃりと空間が歪んだ。これがゲートの発生だった、そうして俺たちは全員ゲートに吸い込まれた、次に俺が目を覚ました時には手は何かで拘束され、そしてささらが男に押し倒されて大声で喚き散らしていた。

「ふざけないでよ!? ゲートの中だって強姦していいわけがない!! とっととこの汚い手を放しなさいよ!! っ和樹!!」
「………………全く一体何をやってるんだ、ささら」
「これからささらちゃんは俺達と楽しむのさ!!」

 俺はようやくゲートが開いてからの事態を理解したが、キャーキャーと悲鳴を上げるささらに俺が言ったのは一言だった。

「ささら、お前一人で完勝できるだろ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...