お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ

アキナヌカ

文字の大きさ
57 / 128

2-24死の森を走り抜ける

しおりを挟む
「いいや、必要ない。俺は大魔法使いだぞ、だから『鑑定アプレイゾル』だって使える。これは本物のエリクサーだ」

 ジーニャスはそう誇らしげに言い放った、確かに『鑑定アプレイゾル』が使えるのなら本物だとすぐに彼には分かるのだ。これで僕たちの目的は一つは叶った、無事に僕たちはエリクサーを手に入れた。正確にはジーニャスが手に入れたのだが、僕たちも手助けをした分だけ何か対価を貰いたいところだ。でも僕がそう交渉する前にジーニャスから、そのことについてとんでもないことを言いだした。

「もちろん、リタとソアン。お前たちの助けには感謝する、俺にできることならなんでもしよう」
「そのお言葉を忘れないでください、ジーニャス」
「はい、そうです。リタ様にお考えがあるようなので、覚悟しておいてくださいね」

「ふはははっ、それは怖いな。だが、このエリクサーにはそうしてもいいだけの価値がある」
「ええ、シャールさんの命そのもの、そう言ってもいいでしょう」
「絶対に失くさないでください!! そして三人で生きて帰りますよ!!」

 僕たちはそれから祠から出ることにした、祠の最初に広場ではまだフォルクが気絶していた。魔法の効果を最大にしていたから、ちっとやそっとの刺激では目が覚めないのだ。ジーニャスはフォルクに手をのばしたが、どうしていいか分からなかったようでその手を引いた。ジーニャスが望んでいる過去の兄はもういないのだ、権力欲に支配されてそこにいるのは殺人もじさない危険な人物だった。

「………………さようなら、俺の兄上だった人」

 ジーニャスは辛そうにそのフォルクの姿を見ていたがやがてこちらを向いた、そう今はこの男に構っている暇はないのだ。外からの悲鳴や怒号が聞こえなくなっていた、それはつまりジーニャスたちを守るはずの者、屈強な剣士たちや魔法使いの全滅を意味していた。だから、僕たちはそうっと祠の入り口から外を見てみた。

 予想通りだった剣士や魔法使いは全滅していて、もうそこには生きている人間はいなかった、もし生きていたならこの場から逃げ出していたはずだ。そこには十数頭のデビルベアがいた、これはまずいことになった、僕たちの考えではデビルベアを上手く誘導してある場所に誘い込むつもりだった。だがこうやって祠の前に居座られては、僕たちが逃げ出すこともできなかった。

 精霊術も今の僕には使えなかった、なぜなら呼び出した光の精霊がシャールについていたからだ。あの光の精霊は何も考えずにシャールついていったわけじゃない、その命を少しでも長くこの世に繋ぐためにあの子の傍に残ったのだ。光の精霊に帰ってもらうわけにはいかなかった、今のシャールにはあの精霊がどうしても必要だったからだ。

「ジーニャス、貴方は大魔法使いだと言いましたね。具体的にあとどれくらいの魔法が使えます?」
「…………腕から出血で体力をかなり奪われた、集中してあと上級魔法なら1回、中級魔法なら5回といったところか」
「もう、しっかりしてください。大魔法使い!!」

「上級魔法をあと1回、それに賭けるしかない。今の僕には精霊術は使えない、改良したクレーネ草の薬も効果が不確かだ」
「攻撃の上級魔法で入り口のデビルベアだけなら倒せる、だが他に何頭デビルベアがいるのか分からん」
「とにかくこの祠から脱出しましょう、助けは期待できないから自分たちでどうにかするしかありません」

「それではジーニャス。何の魔法でもいいですからお願いします、入り口にいる十数頭のデビルベアを倒してください。あとはソアンに貴方のことは任せます」
「分かった、それだけしか今の俺にはできん。あとは走って逃げるだけだ」
「はい、任されました。リタ様。ジーニャスさん、いざとなったら私が貴方を担いでいきますからね!!」

 祠の入り口でそう僕たちは話し合って、ジーニャスが集中して上級魔法の詠唱をはじめた。僕も別の魔法をいつでも使えるように準備していた、ソアンはジーニャスが失血のせいで走れないなら、本気で彼のことを担いでいくつもりのようだった。僕としてもそうして貰えるとありがたかった、さすがに動けない人間を一人庇いながらではデビルベアの群れからは逃げきれなかった。

「リタとソアンよ、耳を塞げ!!『抱かれよエンブレイス煉獄ヘルの熱界雷ライトニング!!』」

 ジーニャスの指示通り僕は思わず耳を両手で塞いだ、その次の瞬間には頭の奥まで響くような激しい雷の音がした。そうしてジーニャスの上級魔法が広範囲に激しい雷を落とした、音がおさまってから耳鳴りがするような気がしたが外を確認した。ジーニャスの魔法は確かに十数頭いたデビルベアを全て倒してくれていた、だから僕とソアンはジーニャスを両側から引っ張りながら外へと飛び出した。

 外は相変わらず所々に血だまりができていた、バラバラになった人間の体の一部が落ちていたりもした。僕たちはそれらからなるべく目をそらし、他のデビルベアを警戒しながら進んでいった。どうしてもジーニャスの足には遅れが出た、そこでソアンが痺れをきらしてジーニャスを背負って走り出した、僕はそんなソアンに遅れないように警戒しながらついていった。

「ジーニャスが上級魔法を一度でも使えて良かった、僕たちだけでは逃げ出すのは難しかった」
「そうですね、ジーニャスさんも大魔法使いというのも嘘ではありませんね」
「当たり前だぞ、俺は大魔法使いだ。だが今はソアン、お前のお荷物にすぎんな」

「ソアンが力持ちで本当に良かった、ソアンを生み出した優しいご両親に心から感謝します」
「ジーニャスさんの方がリタ様より少し重いです、ダイエットをおすすめしますね」
「だいえっと? それは一体何なのだ??」

「ソアン、残念だがお喋りもここまでだ。どうやら僕たちについてきている影がいる」
「デビルベアですね、いきなり襲ってこないのは仲間を集めているのでしょうか」
「ここのデビルベアは何故か集団行動をする、それには必ず理由があるはずなんだが」

 僕たちを追いかけてくる黒い影がだんだんと増えていった、すぐ後ろから生臭い息遣いが聞こえてくるようだった。デビルベアの足ならもう追いつかれてもいいはずだが、彼らはなぜか数を増やしていったが僕たちを襲ってこなかった。だが近づいてきているのは間違いない、僕は今できる魔法をいつでも使えるようにした。

「ソアンよ!! 右だ!?」
「くっ!? ジーニャスさん、しっかり捕まっていてください!!」

 ふいに右側にあった茂みからソアンとジーニャスが狙われた、僕はそこで用意していた魔法を使った、僕の魔法は仲間にデビルベアの爪や牙が届く前に間に合った。

「『沼地化スワームシング!!』」

 ソアンたちを襲おうとしたデビルベアは、沼地と化した大地に首まで沈んでいった、今の魔法は効果範囲は狭く威力は強くして使った。それからはソアンに合図して細かく進路を変えさせ、僕は追ってくる複数のデビルベアたちが、自然になるべく一カ所に集まるようにした。そこで僕は素早くもう一度同じ魔法を使った、今度は範囲は広く効果は弱めて、地面を沼地にしてしまう魔法を使ってみせたのだ。

「『沼地化スワームシング!!』」

 今度はデビルベアたちは腰の辺りまでしか沈まなかった、だがそれで十分な足止めにはなったようだ。デビルベアたちは思うように動けずに苛立って叫びをあげた、それから沼地からどうにか抜け出してまた僕たちを追いかけてきた。僕は自分の豊富な魔力量をいかして、何度も地面を沼地化させてデビルベアをその場に足止めした。

 やがて僕たちが目をつけていた森が目の前にきた、だから僕はソアンとジーニャスに近づいて別の魔法を使った。

「世界の大いなる力よ、僕たちをお守りください、『聖なる守りホーリーグラウンド!!』」

 僕たちは見えない聖なる結界で包まれた、そのままで森の中をつっきっていった。デビルベアたちはそれでも当然追いかけてきた、中には森の木々に八つ当たりするものもいた。僕はこの森を抜けるまでが勝負だと思っていた、だから『沼地化スワームシング』をまた使いながらソアンたちと一緒に走り続けた。そうしてついに目をつけていた森を抜けた、そう目的であった森を抜けた途端に僕は振り返った、そうして今度は違う魔法をデビルベアたちに使った。

「『水竜巻ウォータートルネード!!』」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...