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3-30やがて向こうから迎えにくる
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「『完全なる封じられた結界』」
それは人間であるジーニャスが完成させた魔法だった、僕は事前に聞いていたこの魔法が使われる時、その時は他の人間やエルフあらゆる魔法使いの魔法が封じられるのだ。イデアも『飛翔』の魔法が維持できずに地面へと降り立った、彼はまだ戦う意思を捨ててはいなかった。そして、こう言い放った。
「俺の敵を切り裂け!! シルフ!!」
それは魔法ではなかった、イデアは精霊使いでもあったのだ。僕を複数の風の刃が襲おうとしていた、だが僕もこれは予想していたのだ。僕だって精霊使いなのだから、同じエルフであるイデアがそうでないとは限らなかった。だから最初から呼んでおいた、幸いにも今夜も素晴らしい精霊が僕を守ってくれた。イデアの風の刃は突然現れた幾つもの土壁、それに阻まれて僕には届かなかった。
「ありがとう、ノーム」
半透明の力強い男性のような透き通った精霊が僕の肩に乗っていた、イデアは女性のような透き通った風の精霊であるシルフを連れていた。僕の思わぬ反撃にイデアは怒りで頭がいっぱいになったのか、更に風の精霊であるシルフに命令した。
「あいつを殺せ!! ズタズタに切り裂いてしまえ!!」
「…………ノーム、僕を守ってどうか彼を捕まえておくれ」
再び風の刃が飛んできたがまた土壁で防いでみせた、更にノームはイデアの足元を泥土に変えた。そうしてイデアの足が沈んだ瞬間、その時を逃さずまた元通りの硬い大地に戻した。僕は早めに勝負をつける気だった、なぜならこの魔法の結界が張られている間中、ジーニャスが魔力を使い続けているからだった。勝負を決めるなら今しかなかった、これ以上イデアを自由にはさせておけなかった。
「シルフ!! お前は帰れ!! ノームよ、来い!! 来るんだ、来いぃぃぃ!!」
「もう終わりだよ、イデア。君の殺人はもう終わりなんだ、誰も君を助けには来ない」
この結界が作用している間、精霊がどうなるのかもジーニャスは予想していた。この魔法が使えなくなる結界は一時的に世界の大きな力を制限するものだ、使用者以外の全ての魔法使いの力の源を制限して使えなくするのだ。それは精霊も同じことだった、既に呼んでいたものは結界内で自由に動ける、だが新しい精霊を召喚することは叶わなかった。
僕はいつでも攻撃できる範囲までイデアの近くにいって、そして短剣を彼に向かってつきつけてこう聞いた。
「イデア、君に聞こう。生きて捕まりたいかい、それとも死を望むかい」
「………………二度と人間に捕まるなんて嫌だ!!」
「そうか、それなら」
「だからこうしてやる!! 喜べリタ!!」
イデアは僕の思ってもいない行動に出た、いきなりまだ何とか動く左腕に短剣を持ち換えて、それから自分の両耳をそぎ落としたのだ。更にイデアは動いて僕が止める暇もなく、彼は次に短剣を自分の胸に深く突き刺したのだ。イデアの口から真っ赤な血が零れた、その体は足を土に埋めたままでパタンと後ろに倒れた。僕は慌ててイデアに駆け寄った、彼は血を吐きながらまだ生きていた。
「イデア、一体何で!?」
「エルフが犯人だと、お前たちは都合が悪い。そうだろう、がはっ!?」
「一体君は何がしたいんだ、僕たちを殺そうとした。でも、次は僕たちを庇うつもりか」
「………………何がしたかったか、俺は何がしたかったんだろうな」
イデアは自分でも何がしたかったのか分からなかった、復讐にかられて行動して最期には何が正しいのか分からなくなった。そんな顔をしていた、だから僕たちを庇うような真似をした。イデアにも同族を思う心はあるのだ、ただそれが歪んでしまっていた。僕たちを殺そうとしたのは、同族が幸せで羨ましかったからかもしれなかった。彼の心はもう破綻していた、でも確かにまだ同族を思う気持ちもあったのだ。
「イデア、この傷だと君はもうすぐ死ぬよ。最期に、最期に何か望みはあるかい?」
「はっ、同情か。俺がとっくの昔に捨てた感情だな、……だが悪くない」
イデアはしばらく考えていた、今までの長い一生を振り返っているのかもしれなかった。そうして、最期にイデアが望んだのは本当に些細なことだった。
「歌ってくれ、リタ。お前の歌が俺は好きだ、どうかあの曲以外を歌ってくれ」
「ああ、分かった。イデア、君の為に歌おう」
イデアは今度は狂気じみた笑いではなく、最初に会った時のように嬉しそうに笑っていた。だから僕は彼のために歌った、彼が好きだと言っていた。僕は高音がとても生きる、伝説を語る曲を歌っていた。そうしたらイデアが笑った、とても楽しそうに笑った。それからこう言った、誇り高い吟遊詩人のような顔でこう僕に言った。
「下手くそだが悪くない、その曲はこう歌うんだ」
「ああ、そうだね。イデア、そのとおりだ」
僕とイデアは最期に一緒になって歌った、僕の精一杯の高音とそれよりも澄んだイデアのボーイソプラノ、それらが一体となって素晴らしい歌になった。イデアが今まで歌った曲のなかで最高の歌だった、歌い終わってもイデアはまだ生きていた。そうして満足そうに笑っていたのに、突然またキョトンとした顔をした、そうして震える左腕を何もない宙にのばした。
「なんでお前が迎えに来る、俺はお前を好きじゃないって言った、愛せないって言った……だ……ろ…………」
「イデア?」
宙へとのばされたイデアの腕がパタンとやがて地に落ちた、イデアは目を見開いたまま死んでいた。まるで誰かを見て驚いたようだった、誰かにすがるように伸ばされた左腕はもう動きはしなかった。やがてジーニャスの結界が解けた、彼の魔力の限界が来たのだろう、それに目的はもう達成されていた。連続殺人犯だったイデアは完全に死んでいた、子どものように驚いたような顔のままで亡くなっていた。
「終わったか、リタ」
「リタ様、ご無事ですか!?」
「ああ、全て終わったよ。ジーニャス、そしてソアン」
ジーニャスはイデアの遺体を確認していた、僕はソアンを抱きしめてありがとうと、さっき助けてくれた槍のお礼を言った。そうしてから、僕はソアンを抱きしめたまま泣いた。涙が溢れて止まらなかった、それはティスタやアウフへの涙だった、それにイデアという哀れな仲間への涙でもあった。シャールも塔から降りてここにやってきて、ジーニャスが慌ててイデアの遺体を自分の着ていたマントで隠した。
「そこに眠っているのは新しいお友達でしゅか?」
「ああ、そうだ。シャール、今は深く眠っているから起こすな」
シャールはジーニャスにそう言われて、その言葉を素直に信じた。そうしてからジーニャスに抱きかかえられて、新しいお友達の眠りの為に歌い出した。それはシャールにイデアが教えた歌だった、安らかな眠りを願う優しい子守歌だった。シャールの無邪気な歌声が夜空に響いた、それはイデアにとっての鎮魂曲になった。
「どうか、お休みなさい。大きな世界の力に帰るまで、緑の木々に守られて、多くの精霊が見守る、豊かな森に感謝して、そう優しい風が頬を撫で、光が私たちを照らすなか、そう安らかにお休みなさい、私の愛しい者たちよ、もう誰も貴方たちを傷つけることはない……」
それは人間であるジーニャスが完成させた魔法だった、僕は事前に聞いていたこの魔法が使われる時、その時は他の人間やエルフあらゆる魔法使いの魔法が封じられるのだ。イデアも『飛翔』の魔法が維持できずに地面へと降り立った、彼はまだ戦う意思を捨ててはいなかった。そして、こう言い放った。
「俺の敵を切り裂け!! シルフ!!」
それは魔法ではなかった、イデアは精霊使いでもあったのだ。僕を複数の風の刃が襲おうとしていた、だが僕もこれは予想していたのだ。僕だって精霊使いなのだから、同じエルフであるイデアがそうでないとは限らなかった。だから最初から呼んでおいた、幸いにも今夜も素晴らしい精霊が僕を守ってくれた。イデアの風の刃は突然現れた幾つもの土壁、それに阻まれて僕には届かなかった。
「ありがとう、ノーム」
半透明の力強い男性のような透き通った精霊が僕の肩に乗っていた、イデアは女性のような透き通った風の精霊であるシルフを連れていた。僕の思わぬ反撃にイデアは怒りで頭がいっぱいになったのか、更に風の精霊であるシルフに命令した。
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「…………ノーム、僕を守ってどうか彼を捕まえておくれ」
再び風の刃が飛んできたがまた土壁で防いでみせた、更にノームはイデアの足元を泥土に変えた。そうしてイデアの足が沈んだ瞬間、その時を逃さずまた元通りの硬い大地に戻した。僕は早めに勝負をつける気だった、なぜならこの魔法の結界が張られている間中、ジーニャスが魔力を使い続けているからだった。勝負を決めるなら今しかなかった、これ以上イデアを自由にはさせておけなかった。
「シルフ!! お前は帰れ!! ノームよ、来い!! 来るんだ、来いぃぃぃ!!」
「もう終わりだよ、イデア。君の殺人はもう終わりなんだ、誰も君を助けには来ない」
この結界が作用している間、精霊がどうなるのかもジーニャスは予想していた。この魔法が使えなくなる結界は一時的に世界の大きな力を制限するものだ、使用者以外の全ての魔法使いの力の源を制限して使えなくするのだ。それは精霊も同じことだった、既に呼んでいたものは結界内で自由に動ける、だが新しい精霊を召喚することは叶わなかった。
僕はいつでも攻撃できる範囲までイデアの近くにいって、そして短剣を彼に向かってつきつけてこう聞いた。
「イデア、君に聞こう。生きて捕まりたいかい、それとも死を望むかい」
「………………二度と人間に捕まるなんて嫌だ!!」
「そうか、それなら」
「だからこうしてやる!! 喜べリタ!!」
イデアは僕の思ってもいない行動に出た、いきなりまだ何とか動く左腕に短剣を持ち換えて、それから自分の両耳をそぎ落としたのだ。更にイデアは動いて僕が止める暇もなく、彼は次に短剣を自分の胸に深く突き刺したのだ。イデアの口から真っ赤な血が零れた、その体は足を土に埋めたままでパタンと後ろに倒れた。僕は慌ててイデアに駆け寄った、彼は血を吐きながらまだ生きていた。
「イデア、一体何で!?」
「エルフが犯人だと、お前たちは都合が悪い。そうだろう、がはっ!?」
「一体君は何がしたいんだ、僕たちを殺そうとした。でも、次は僕たちを庇うつもりか」
「………………何がしたかったか、俺は何がしたかったんだろうな」
イデアは自分でも何がしたかったのか分からなかった、復讐にかられて行動して最期には何が正しいのか分からなくなった。そんな顔をしていた、だから僕たちを庇うような真似をした。イデアにも同族を思う心はあるのだ、ただそれが歪んでしまっていた。僕たちを殺そうとしたのは、同族が幸せで羨ましかったからかもしれなかった。彼の心はもう破綻していた、でも確かにまだ同族を思う気持ちもあったのだ。
「イデア、この傷だと君はもうすぐ死ぬよ。最期に、最期に何か望みはあるかい?」
「はっ、同情か。俺がとっくの昔に捨てた感情だな、……だが悪くない」
イデアはしばらく考えていた、今までの長い一生を振り返っているのかもしれなかった。そうして、最期にイデアが望んだのは本当に些細なことだった。
「歌ってくれ、リタ。お前の歌が俺は好きだ、どうかあの曲以外を歌ってくれ」
「ああ、分かった。イデア、君の為に歌おう」
イデアは今度は狂気じみた笑いではなく、最初に会った時のように嬉しそうに笑っていた。だから僕は彼のために歌った、彼が好きだと言っていた。僕は高音がとても生きる、伝説を語る曲を歌っていた。そうしたらイデアが笑った、とても楽しそうに笑った。それからこう言った、誇り高い吟遊詩人のような顔でこう僕に言った。
「下手くそだが悪くない、その曲はこう歌うんだ」
「ああ、そうだね。イデア、そのとおりだ」
僕とイデアは最期に一緒になって歌った、僕の精一杯の高音とそれよりも澄んだイデアのボーイソプラノ、それらが一体となって素晴らしい歌になった。イデアが今まで歌った曲のなかで最高の歌だった、歌い終わってもイデアはまだ生きていた。そうして満足そうに笑っていたのに、突然またキョトンとした顔をした、そうして震える左腕を何もない宙にのばした。
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「リタ様、ご無事ですか!?」
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