お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ

アキナヌカ

文字の大きさ
107 / 128

4-9犯人が見つからないが分かっている

しおりを挟む
「リタ、街の方でも嫌な感じがビリビリする!!」
「どのあたりでする、ジェンド」

「神殿のあたり、あのあたりがビリビリする!!」
「ジーニャス、ここをお願いします!! 僕たちは神殿へ!!」

 ジーニャスはわかったと頷いて首を斬り落とされた黒いドラゴンを調べていた、僕たちはジェンドの案内するままに神殿へと向かった。ジェンドは一人で、僕はソアンを抱えて『飛翔フライ』の魔法を使って急いだ。行ってみると神殿の広場にも黒いドラゴンが現れていた、神殿の広場には既に息をしてない神官たちが倒れていた。ジェンドがそれを見ると怒って、そのままその怒りを黒いドラゴンにぶつけた。

「『抱かれよエンブレイス煉獄ヘルの火炎フレイム!!』」

 ジェンドが放った魔法で黒いドラゴンだけが炎に飲み込まれた、他の人間は傷つけずジェンドは黒いドラゴンだけを狙った。その魔法の一撃が消えても黒いドラゴンはまだ生きていた、だが今度はソアンが飛び出していって脆くなっていたその首を大剣で斬り落とした。ジェンドはまだ生きている神官を何人か僕のところに連れてきた、僕は慌てて癒しの魔法を使った。

「『完全なるパーフェクト癒しヒーリングの光シャイン』」

 既にこときれている神官も少なくなかった、ジェンドはそれを見て泣いていた。詳しく話を聞いてみるとその神官は神殿の孤児院を担当していた人間だった、ジェンドとも顔見知りで何度も子どもたちのことについて話し合った仲だった。だから悲しくてジェンドは泣いていた、まだ素直に感情が出せる子どもなのだ。

「リタ、ソアン。犯人はひどいやつだ」
「ああ、ジェンド。本当に許しておけない、このまま放っておけないよ」
「ジェンド、悪いことが起こることをよく知らせてくれました」

「もうあまり嫌な感じはしない、でもまた起こりそうな気がする」
「そうだね、犯人が捕まるまできっと事件が起こり続ける」
「リタ様、どうすれば犯人がわかるでしょうか」

 僕はソアンの質問に考え込んだ、以前のように犯人を怒らせる曲を歌ってみようか、いやこの犯人はとても用心深そうだ。まず自分の手は汚さずに全てを召喚獣にやらせている、自らの手は汚したくない者なのだろう、こんな犯人を捕まえるなんて良い案は思い浮かばなかった。とりあえず僕たちは神殿の人たち、彼らが黒いドラゴンの被害の後始末をするのを手伝った。

 亡くなってしまった人たちには上級の回復魔法も効かない、ジェンドは泣きながら遺体を運びソアンはそんな彼を宥めていた、そうして僕はだんだん怒りがわいてきていた。彼らは神殿に仕えている神官で悪いことは何もしていなかった、それにこの神殿にはジェンドが大切にしている孤児院もあった。子どもたちが殺される危険もあったのだ、僕はこの状況を引き起こしている犯人に激しい怒りを感じていた。

 だが犯人を捕まえる良い案も浮かばなかった、そうして日常へと僕たちは戻った。だがやはり黒いドラゴンが現れたことは噂になっていて、冒険者は自分がドラゴンを倒す夢をみて張り切った。それ以外の者たちは怯えが見えるようになった、ただでさえフェイクドラゴンのせいで物流が悪いのに、更に人々は家に閉じこもるようになっていった。そんな中、僕たちはジーニャスに呼び出された。

「どうやら、犯人が見つかったぞ」

 僕たちはジーニャスのその言葉に驚いた、召喚獣を使い自分の手を汚さない犯人を、彼はどうやって見つけたのか気になった。ジーニャスは国に召喚の上級魔法が使える者を問い合わせた、オラシオン国では上級魔法が使える人間は登録されることになっていた。それだけ上級魔法が使える人間は脅威で、逆にいえば国の力になるからそうしているのだった。犯人はその中にいた、一人の男性だった。

「王宮に仕える魔法使いだったが、権力争いに巻き込まれて追放された男だ。名前はバントル、今はこの街に滞在しているらしい。街に入った後のことは分からんが、ここにいるのは間違いない」
「それでは警備隊の出番ですね」
「犯人を見つけるための人海戦術ですか」
「えっと、それどういうこと?」

「簡単に言えばジェンド、沢山の人を使って犯人を見つけ出すんだ。それとこのゼーエンの街が恨まれている理由はエリクサーだ、以前に王家に献上したエリクサーについて奴は否定的な態度だったそうだ」
「それで権力争いに敗れ、逆恨みでこの街を狙っていると」
「これだから貴族とか王族って嫌いです、無駄に争いごとを起こすんだから」
「沢山の人間で犯人をみつけだすのか、その後はどうするんだ?」

「リタ達には悪いが犯人を捕まえるのを手伝って欲しい、召喚術が得意らしいが上級まで魔法が使える人間は厄介だからな」
「もちろん手伝います、ジェンド。君はどうする?」
「人間の争いごとですから、無理はしなくていいんですよ」
「いや、俺も戦う。その犯人は俺の親しい人間を殺した、俺の大事な孤児院だって危なかった」

 こうして犯人であるバンドルを探し出すことになった、ただし相手は上級魔法が使えるので警備隊たちが密かに探していた。迂闊に追い詰めて上級魔法を使われてら大惨事だった、だから情報をしぼって警備隊に関する者だけが探していた。だが不思議なことにどこの宿屋にもバンドルはいなかった、長い黒髪に紫の瞳をしているという話だったが、そんな人間はどこを探しても見つからなかった。

「あ~ら、お久しぶり。どうあたしに会いたくなった?」
「またお前か、お前なんかに用はない」

 ジーニャスが犯人を捜しに街に来るようになると、以前にミーティアの結婚式で会ったマーニャという女性、彼女がジーニャスに絡んでくるようになった。どういう手段を使っているのか分からないが、ジーニャスの居場所を探し出して話しかけてくるのだった。マーニャという女性はジーニャスを気に入っているのかもしれない、でもジーニャスのマーニャの印象は最悪だった。

「犯人は見つからないのに、女と遊んでいる暇があるか!!」

 マーニャの方はそんなふうに怒るジーニャスをよく笑っていた、そうしてふらっと現れては声をかけてくるのだった。男女の仲は難しいが、この二人では上手くいきそうになかった。まずジーニャスがマーニャに興味を持っていなかった、マーニャはジーニャスを気にしていたが、ほとんど相手にはされなかった。

「人間の繁殖は難しいんだな、ソアンに怒られた意味がよく分かった」
「そうでしょう、ジェンド。女の子っていうのは、謎がいっぱいなのよ」
「確かに女性は不思議な存在だ、同じ種族でも分からないことがある」

「リタも分からないのか、俺と同じだな!!」
「ジェンド、リタ様はこういう方面だけは察しが悪くて……」
「そうなんだ、僕もジェンドと同じ子どもみたいだね」

「でもリタはソアンを好きなんだろ? それにソアンもリタが大好きだろ?」
「ええ!? なんで!? そんなこと分かるの!?」
「ああ、ジェンドはドラゴンだから、匂いで発情しているか分かるんだろう」

 僕がそう言ったらソアンが真っ赤になってしまった、良かった真っ青になられてしまったら僕は失恋だ。ソアンは無言で恥ずかしいのかぼかぼかっと、顔を隠して僕の背中を容赦なく叩いてきた。僕はソアンが僕のことを少しでも好きでいてくれた、そう分かって幸せだったからその容赦ない攻撃にも耐えた。ジェンドは両方が発情してるのに、なぜ交尾しないのかと不思議がっていた。

「ジェンド、発情しているからといって、すぐに交尾するものじゃないんだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...