お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ

アキナヌカ

文字の大きさ
110 / 128

4-12愛情と憎しみは同じである

しおりを挟む
「エリー!! エリー!! まだ俺はエリーと一緒にいたい!! ううん、ずっと一緒にいたいよ!!」
「ジェンド、私はまだ貴方が男性として好きかどうか分からないの。大切で可愛い養い子、それだけは確かなの、これだけは絶対に変わらないわ」

「うん、俺はずっと養い子でもいいから、子どもでいいからエリーと一緒にいたいよ」
「いつかきっとちゃんと返事をするわ、こんなに可愛い養い子ですもの、真剣に考えて私は返事をしたいのよ」

「俺は待ってる、ずっと待ってるから。エリー、もう俺のことを捨てないで」
「貴方は私の命より大切な子、私から貴方を捨てるわけがないわ」

 エリーさんは大切そうにジェンドの体を抱きしめた、彼女も少しだけ泣いていて可愛い養い子、ジェンドとまたいられることそれを純粋に喜んでもいた。それから僕たちはこの宿で3つの部屋に分かれて過ごすことになった、僕とソアンの部屋、ジェンドの部屋、エリーさんの部屋だ。ジェンドはよくエリーさんの部屋にいて、彼女にベッドで膝枕などしてもらって甘えていた。

 そうしているとジェンドがまだ成人前の子どもに見えた、エリーさんの言った通りジェンドは体は成人してしまったが、まだ養い親が必要な子どもなのだった。ジェンドはゼーエンの街をエリーさんに案内もした、孤児院のことはとてもよく話していた。養い親がいない子どもが多いんだと、エリーさんにそれに驚いたと語っていた。

 エリーさんは口数は少なかったが、ジェンドの話を真剣に聞いていた。人間の常識も彼女は理解していて、ジェンドが危なっかしい時には注意していた。人間はドラゴンを時に殺すこともある、ドラゴンの体という素材は人間の世界では貴重品だった。だから人間の世界で暮らすなら、人間らしく振る舞うように優しくジェンドに言い聞かせていた。

「エリーさんが来てくれて良かったよ、ジェンドも本当は寂しかっただろうから」
「はい、リタ様。本当にそうです、私も急にリタ様から嫌われたら泣いちゃいます」

「僕にとってソアンは大切で可愛い養い子だよ、それだけはずっと変わらないよ」
「ええ、リタ様。それが嬉しいのです、変わらないものって大切なものです」

 そんな一方でゼーエンの街の状況は悪くなっていた、フェイクドラゴンが現れ続けるものだから、商人たちがゼーエンの街を避けるようになっていった。僕たちもそしてジーニャスも、犯人であるバントルという男を探していた。だが誰が匿っているのか分からないが、全く彼は姿を現さなかった。それなのにフェイクドラゴンは街道に現れるのだ、全く厄介なことに変わりはなかった。

 だがそんな時に警備隊から知らせがきた、バントルらしき男を『貧民街スラム』で見かけたという話だった。本当だったのなら上級魔法が使える人間が相手だ、ジーニャスは僕たち皆に知らせてきた。僕たちはエリーさんを紹介し、僕とソアン、ジェンドにエリーさん、そしてジーニャスとで廃屋に踏み込んだ。

「バントル!! 貴様にはゼーエンの街に不利益な召喚を何度も行った疑いがかかっている!!」

 そこで皆で踏み込んでみたものはかなり不快なものだった、バントルという男は確かにそこにいた。だがその男はもう生きてはいなかった、何人かの人間と一緒にその男は死んでいた。亡くなって数日は経っていそうだった、その遺体はお互いに殺し合ったのか酷い有様だった。持ち物からその一人がバントルという男だとようやく分かったくらいだ、では誰がいったいどうして上級魔法が使える人間を殺した。

 謎がますます深くなった、ジーニャスはとりあえず間違いなく遺体がバントルだと確認した。オラシオン国の都から人を呼んで確認してもらった、上級魔法が使える人間は登録が必要だから、亡くなった時にも報告が要るのだった。そしてバントルは亡くなっていたのにフェイクドラゴンはまた現れた、僕たちは訳が分からなくなった。

「あ~ら、貴方たちも飲みにきたの?」
「お前は変わらんな、また酒ばかり飲んでいるのか」

 相変わらずジーニャスが街におりてくると、マーニャが現れて彼をからかった。ジーニャスは当然だが酒など飲んでいる場合じゃなかった、ゼーエンの街の経済が非常に危ない状況なのだ。最近では元気が良いのは、フェイクドラゴン退治で稼いでいる冒険者だけだった。それ以外の街の民はドラゴンの襲撃を恐れて、ますます家に閉じこもりがちになっていた。

「酒は弱い毒だぞ、そんなに飲むと危ない」
「心配してくれるの~、誰かと違って優しいわね。坊や」

 そんな中でマーニャはフェイクドラゴン退治で稼いでいた、そうしてその報酬で酒場で飲んでいることが多かった。それだけの実力がある銀の冒険者だった、ジーニャスへの態度は悪いが彼女も街を守るために働いていた。ジェンドが酒の飲み過ぎを止めようとすると、そんな時はジェンドに向かって優しく笑っていた。

 マーニャはジーニャス以外には良い人間のようだった、銀の冒険者としてソロでも動けるくらいに強かった。フェイクドラゴン退治にもソロで行っているようだった、そうして空を飛ばれる前に魔法で仕留めるのだと言っていた。空を飛ばれてしまっても魔法使いのマーニャなら、雷を落とすとか戦う術があった。

「あたしは儲かっていいけどね、領主さまの跡取りは大変ね」
「どうして俺のことを知っている?」

「もう何回街に降りてきたと思うの、警備隊からちょっと聞いたのよ」
「お前の態度は、貴族に対する不敬罪だと思わんのか」

「そ~んなちっちゃいことで、あたしを捕まえるほど暇じゃないでしょ」
「ふん、確かにな。それにお前と飲んでいる余裕もない」

 ジーニャスとマーニャはいつもこんな感じだった、マーニャがどうしてジーニャスに意地が悪いのか不思議だった。酒が入っていない時の彼女は頼れる冒険者だった、冒険者ギルドでマーニャの評判を聞いたが、おおむね腕が良い冒険者だという答えが返ってきた。僕にはマーニャの態度が小さな棘を飲みこんだ、そんなふうに引っかかっていた。

「あれは執着ですね、愛情を超えた執着です」
「あっ、エリーさんもそう思いますか」

「ソアンさんもそうですか、愛情が裏返れば憎しみに変わります」
「そうなんですよね、発情はしていないけどジーニャスさんに拘るってところが愛の裏返し」

「あれでは彼女自身も幸せになれません、もっと素直な気持ちに戻らなくては」
「あれだけこじれちゃったら、それも難しいかもしれないです」

 ソアンとエリーさんはそんな話を宿屋の部屋でしていた、そうかマーニャのジーニャスへの態度は愛情の裏返しなのだ。ジェンドは首を傾げていたが、確かに愛と憎しみは紙一重の感情でもあった。好きなぶん拒絶されたら嫌いになる、愛していた分忘れられたら憎みたくなる、そんな複雑な感情が愛でもあるのだ。

「あはははっ、愛って嘘でしょ。あたしはジーニャスをもっと深く想っているわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...