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巻き戻った世界
もう一人の逆行者 3
しおりを挟む彼女の元に行けると思っていた。
そのくらいは許されるのではないかと弱りきった身体と心で願った。
だというのに、目が覚めれば見覚えのある豪奢な部屋だった。
その光景に眩暈がする。ふと目に入った自分の手が小さくて驚きの声をあげると、その声は高い。
窓に映る自分の姿が幼くて、「一体、何が」と呟く。
ノックをする音が聞こえて名を呼ばれる。声の正体に私は込み上げてくる何かを感じて困惑する。
「ジェラルド殿下」
現れたのは私の乳母だった女性だ。
心配そうに近づいてくる彼女に震えが止まらない。触れられた瞬間、その手を払い除ける。
そう。そうだ。
彼女の息子が私の愛するマーガレットをあんな地獄に向かわせたのだ。
王子を守ろうとする、側近としては正しかったのかもしれない。私はただ一人の男としては生きられない身であったのだから。
そんな風に思ったあと、あることを思い出して笑った。ああそういえば声を出すのは久しぶりであったかもしれない。
私はこの時期、本来は両親や周囲の愛情を疑うことなく受け取り、楽しく生きていた。
けれど、記憶を辿れば今の私はどうしてか、生まれたその瞬間からこの国の人々。特に女をひどく怖がったようだ。唯一、兄だけには懐いていたようだが。
勉強も遅れがちで刃物を怖がり、血を見ると倒れるその臆病さと繊細さ。当然、以前の私のように大切にされはしなかった。両親にとって自分は出来の良い人形だったのかもしれない。
その分、前はいなかった弟が産まれており、かつての私のように可愛がられていた。兄は弟を警戒するような顔で見ていたが。
良くわからないが、きっと私よりも脅威になる何かがあるのだろう。
それに今の私は処理待ちの身のようだ。
狂った王族など幽閉か療養と見せかけた暗殺と相場が決まっている。
できればメグをこの国から出してやってから死にたいが。
そんな事を考えていた私を、その日朗報が待っていた。
光魔法の所持者のリストに、メグの名はは見つからなかったのだ。
光魔法の所持者の魔力量に顔を顰めている両親を見ながらも嬉しくて嬉しくて、その場で泣きそうになった。
その瞬間、私には不思議と確信めいたものがあった。
メグ、私の愛しいマーガレットもまた記憶を持ったままこの世にいるのだと。
彼女が生きていると思えたからこそ、私の世界はまた色付いた。
「ジェリー、お前はこの国の王子でなく、貴族でもなく、ただの平民のジェラルドになる覚悟はあるか」
そして、思い詰めた顔の兄がそう私に問うて来たのもその頃だった。きっと、私をどうするかについての決定があったのだろう。
そして兄にそう問われたことで、自分が王子ではなく、ひとりの女を愛するただの男になれることに思い至ってしまった。
普通、これからの自分を心配したりするのだろうに。
「ジェリー?」
「すみません。つくづく私は愚かなのだなぁと気づいただけですので」
そう。愚かだからあんなにも簡単に愛する人間を奪われたのだ。
国も窮地を迎え、兄はあの後どうなっただろうか。そう考えて胸に手を当てる。
そこに、ここにあるはずのない物を見つけて目を見開いた。
「お前、それをどこで…!?」
古めかしいシンプルだった時計に、花のような紋様が刻まれている。
どこか魔力を感じさせるそれを見た兄は顔色を変えた。こうなっては、と私は躊躇いがちにあの人生を話し出した。
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