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魅惑のサマーバケーション
第9話
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「クソ野郎がッ! ただで済むと思ってンのか!?」
「一体誰の許しが必要なんだ?」
「教えてあげようかしら?」
言い返したのはSAYURIだった。その背後にはズラリと並ぶ警察官の姿。一体いつの間に呼んだのか。
「正解わね、権力よ。あの男を捕まえて。暴行の現行犯よ」
「どこまで腐ってるのよッ!?」
「口は慎みなさい。今あなたは自分がどんな状況にいるのかも分からないの? その男に暴行を命令したのはあなた。ならあなたも連れて行こうかしら?」
一気に血の気が引いた。憤りを通り越して思考が停止する。理解が追いつかない。
「あの男一人で、あなたの悪態を水に流してあげる。感謝して欲しいわね」
警察官が横を通り過ぎていく。掴みかかろうかという葛藤に揺れる。勝てるなんて思ってない。所詮無駄、それこそSAYURIの思う壺だと理解している。
「ッ!」
だが、自分がこのまま何もしないのは許せなかった。近くのグラスを掴み、先頭の警官の目の前に投げつける。液体とガラス片が飛散し、警官が動きを止める。
「逃げるわよッ!」
その隙に流斗の手を取って逃げようとするが、
「逃がさねエよッ!」
晃輝に蹴られそうになるところを、流斗に突き飛ばされて何とか回避した。
明らかな暴力行為。だが目の前の警官がそれを取り締まることはない。
「残念だったな。こいつらは全員こっちの息がかかったやつらだ。多くを望まない方が身のためだ。まぁ、もう遅えがなッ!」
周囲を警官に囲まれる。全て屈強な男たちであり、逃れる隙間もない。
「警察関係者に知り合いでもいるのか?」
「いたらなんなんだ?」
警官たちの背後に立ち、晃輝が愉悦の顔を浮かべる。
「鍋島宗司、あんたの伯父だな。その役職は副警視総監」
流斗の言葉に晃輝の表情が一瞬強張る。
「今まで何十にも及ぶ不祥事が表に出なかったのは、そいつのおかげだろ? 伯父のすねかじりとは恐れ入った」
「それがどうした? てめえみたいな一般庶民とは生まれた環境が違うンだよ」
「なるほど。それじゃあ生まれた環境から得た力で、最大限努力すれば良いんだな?」
この時、流斗の顔が少し笑って見えたのが不気味だった。
「どんな生まれ方したのかしらねえが、今のテメーに何が」
晃輝のそばを、警官の一人がキリモミ状態で吹き飛んだ。
「でき――え?」
警官は床を数メートル激しくバウンドした。首がヤバイ方向に曲がっていたように見えたが気のせいだろうか。そのままテーブルに突っ込み、盛大な音とともに料理や皿を飛散させて、仰向けの状態で停止した。顔面には踏まれたような跡があった。
ゴリラのようながっちりとしたガタイの警官の意識は、当然ない。
「こういう環境だが、次はどいつだ?」
振り上げた足を下ろし、流斗はクルリと残りの警官に向き直る。
「なっ! あんたたちどこ行くの!? 私たちを守りなさいよッ! 警官でしょ!?」
SAYURIの制止も空しく、警官が脱兎の如く逃げ出すのに時間はいらなかった。
「さて、振り出しに戻った訳だが?」
「いいだろう。テメーを俺のぶち殺すリストにいれてやるよ」
「お前をぶち殺すリストじゃなくて?」
「やってみろやァッ!」
上着を脱ぎ去り、晃輝がファイティングポーズを取って接近する。遊ぶやふざけが一切ない、ボクシング世界王者の姿がそこにはあった。気付けば流斗も上着を脱いでいる。顔には先ほどまでの笑みは無い。
対峙する両者。彼我の距離は1メートルもない。素人からしたら放てば余裕で当たると思える距離だ。何故撃たないのか理解ができない……はずだった。
先に動いたのは晃輝だ。牽制で左のジャブを放ったかと思うと、右のアッパーへのコンビネーションが炸裂。それを流斗は掻い潜る。ジャブを右手でいなし、上半身を引きアッパーを回避。鼻先を拳が通過する。腕を振り上げた隙に今度は流斗のジャブが放たれるが、首だけの回避で直撃には至らない。
晃輝が仕掛け、つなぎ、トドメを狙う。流斗が避け、捌き、反撃を狙う。その構図が繰り返される。一息もないほどの間。二人の間に流れる時間がとても同じものとは思えない。
SAYURIも民恵も、この場にいる者全てが固唾を呑んでいる。素人が立ち入ることができない領域。ただ見ていることしかできない時間。
やがて弾丸のような晃輝の拳が止む。双方まともな被弾は一発もない。
「ハッハッハ! こいつはおもしれえ!」
声を上げて笑う晃輝は挑発するように手首を二回返した。
「チャンスをやるよ。俺を一発殴りな。素人に避けられてるなんざプロの名折れだ」
晃輝が構えを解く。両腕を下げてノーガードをアピールする。
「後悔するなよ?」
流斗が躊躇いもなく晃輝の顔面に拳を叩き込む。苦悶する晃輝の姿が目に浮かぶが、
「すんのはよ、テメーだよッ!」
晃輝の体が蛇のようにうねる。勢いよく振り被った流斗の拳をかいくぐり、がら空きになった懐に入り込んだ。「卑怯者ッ!」という声が届くよりも先に、晃輝の拳が流斗のボディーに叩き込まれる。
カカッと笑う晃輝。
そこに〝待ち構えていたような〟流斗の振り下ろしが突き刺さった。
「え」
歪む顔。軋む首。何かがずれる不気味な音。一瞬右足一本で耐えたが、背中を引っ張られたかのように千鳥足を踏んで、晃輝は尻餅をついた。
「ふざけ……んな……」
「やめたほうが良いぞ。脳震盪を起こしてる。生まれたばかりの小鹿みたいに足が震えてのが証拠だ」
何度も、何度も晃輝は立ち上がろうともがくが、それが叶うことない。
「てめぇ……いったい……なにを……」
「訓練するに越したことは無いってことだ」
訓練、そして先ほどの違和感。まさか、という思いが頭を過ぎる。
「なる……ほど……始めから……狙ってやがったわけか」
納得の顔をし、晃輝の体から力が抜けた。
「さてと」
晃輝のダウンを確認して流斗がこちらに向き直る。正確には、床にぺたんと座っているSAYURIに向けてだ。髪は乱れ、顔は蒼白、体の震えが止まらない。
「権力も、暴力も、お前を守るものは全部なくなった」
身包みを全てはがされ、残ったのはただの小娘一人。
「他に誰の許しが必要だ?」
「一体誰の許しが必要なんだ?」
「教えてあげようかしら?」
言い返したのはSAYURIだった。その背後にはズラリと並ぶ警察官の姿。一体いつの間に呼んだのか。
「正解わね、権力よ。あの男を捕まえて。暴行の現行犯よ」
「どこまで腐ってるのよッ!?」
「口は慎みなさい。今あなたは自分がどんな状況にいるのかも分からないの? その男に暴行を命令したのはあなた。ならあなたも連れて行こうかしら?」
一気に血の気が引いた。憤りを通り越して思考が停止する。理解が追いつかない。
「あの男一人で、あなたの悪態を水に流してあげる。感謝して欲しいわね」
警察官が横を通り過ぎていく。掴みかかろうかという葛藤に揺れる。勝てるなんて思ってない。所詮無駄、それこそSAYURIの思う壺だと理解している。
「ッ!」
だが、自分がこのまま何もしないのは許せなかった。近くのグラスを掴み、先頭の警官の目の前に投げつける。液体とガラス片が飛散し、警官が動きを止める。
「逃げるわよッ!」
その隙に流斗の手を取って逃げようとするが、
「逃がさねエよッ!」
晃輝に蹴られそうになるところを、流斗に突き飛ばされて何とか回避した。
明らかな暴力行為。だが目の前の警官がそれを取り締まることはない。
「残念だったな。こいつらは全員こっちの息がかかったやつらだ。多くを望まない方が身のためだ。まぁ、もう遅えがなッ!」
周囲を警官に囲まれる。全て屈強な男たちであり、逃れる隙間もない。
「警察関係者に知り合いでもいるのか?」
「いたらなんなんだ?」
警官たちの背後に立ち、晃輝が愉悦の顔を浮かべる。
「鍋島宗司、あんたの伯父だな。その役職は副警視総監」
流斗の言葉に晃輝の表情が一瞬強張る。
「今まで何十にも及ぶ不祥事が表に出なかったのは、そいつのおかげだろ? 伯父のすねかじりとは恐れ入った」
「それがどうした? てめえみたいな一般庶民とは生まれた環境が違うンだよ」
「なるほど。それじゃあ生まれた環境から得た力で、最大限努力すれば良いんだな?」
この時、流斗の顔が少し笑って見えたのが不気味だった。
「どんな生まれ方したのかしらねえが、今のテメーに何が」
晃輝のそばを、警官の一人がキリモミ状態で吹き飛んだ。
「でき――え?」
警官は床を数メートル激しくバウンドした。首がヤバイ方向に曲がっていたように見えたが気のせいだろうか。そのままテーブルに突っ込み、盛大な音とともに料理や皿を飛散させて、仰向けの状態で停止した。顔面には踏まれたような跡があった。
ゴリラのようながっちりとしたガタイの警官の意識は、当然ない。
「こういう環境だが、次はどいつだ?」
振り上げた足を下ろし、流斗はクルリと残りの警官に向き直る。
「なっ! あんたたちどこ行くの!? 私たちを守りなさいよッ! 警官でしょ!?」
SAYURIの制止も空しく、警官が脱兎の如く逃げ出すのに時間はいらなかった。
「さて、振り出しに戻った訳だが?」
「いいだろう。テメーを俺のぶち殺すリストにいれてやるよ」
「お前をぶち殺すリストじゃなくて?」
「やってみろやァッ!」
上着を脱ぎ去り、晃輝がファイティングポーズを取って接近する。遊ぶやふざけが一切ない、ボクシング世界王者の姿がそこにはあった。気付けば流斗も上着を脱いでいる。顔には先ほどまでの笑みは無い。
対峙する両者。彼我の距離は1メートルもない。素人からしたら放てば余裕で当たると思える距離だ。何故撃たないのか理解ができない……はずだった。
先に動いたのは晃輝だ。牽制で左のジャブを放ったかと思うと、右のアッパーへのコンビネーションが炸裂。それを流斗は掻い潜る。ジャブを右手でいなし、上半身を引きアッパーを回避。鼻先を拳が通過する。腕を振り上げた隙に今度は流斗のジャブが放たれるが、首だけの回避で直撃には至らない。
晃輝が仕掛け、つなぎ、トドメを狙う。流斗が避け、捌き、反撃を狙う。その構図が繰り返される。一息もないほどの間。二人の間に流れる時間がとても同じものとは思えない。
SAYURIも民恵も、この場にいる者全てが固唾を呑んでいる。素人が立ち入ることができない領域。ただ見ていることしかできない時間。
やがて弾丸のような晃輝の拳が止む。双方まともな被弾は一発もない。
「ハッハッハ! こいつはおもしれえ!」
声を上げて笑う晃輝は挑発するように手首を二回返した。
「チャンスをやるよ。俺を一発殴りな。素人に避けられてるなんざプロの名折れだ」
晃輝が構えを解く。両腕を下げてノーガードをアピールする。
「後悔するなよ?」
流斗が躊躇いもなく晃輝の顔面に拳を叩き込む。苦悶する晃輝の姿が目に浮かぶが、
「すんのはよ、テメーだよッ!」
晃輝の体が蛇のようにうねる。勢いよく振り被った流斗の拳をかいくぐり、がら空きになった懐に入り込んだ。「卑怯者ッ!」という声が届くよりも先に、晃輝の拳が流斗のボディーに叩き込まれる。
カカッと笑う晃輝。
そこに〝待ち構えていたような〟流斗の振り下ろしが突き刺さった。
「え」
歪む顔。軋む首。何かがずれる不気味な音。一瞬右足一本で耐えたが、背中を引っ張られたかのように千鳥足を踏んで、晃輝は尻餅をついた。
「ふざけ……んな……」
「やめたほうが良いぞ。脳震盪を起こしてる。生まれたばかりの小鹿みたいに足が震えてのが証拠だ」
何度も、何度も晃輝は立ち上がろうともがくが、それが叶うことない。
「てめぇ……いったい……なにを……」
「訓練するに越したことは無いってことだ」
訓練、そして先ほどの違和感。まさか、という思いが頭を過ぎる。
「なる……ほど……始めから……狙ってやがったわけか」
納得の顔をし、晃輝の体から力が抜けた。
「さてと」
晃輝のダウンを確認して流斗がこちらに向き直る。正確には、床にぺたんと座っているSAYURIに向けてだ。髪は乱れ、顔は蒼白、体の震えが止まらない。
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