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あなたの側にいられなくとも
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不治の病、そう診断された彼の病を治すために薬を探した。
医療や薬学、魔術のあらゆる文献を探し、読んだ。ある日、噂を耳にした。ある魔女が作る薬が万病に効くと…やっと見つけた。多分、それだわ!
噂をしていた人に詳しく聞かせてもらい、噂の出元まで遡って、その魔女について聞き出した。
同じ大陸の魔の森に住む変わり者の魔女、彼女が作る薬があらゆる病を治す薬だと…
私は、魔女の森まで行った。
魔女は私に言った。「彼の病を治したい?」と。
私は直ぐに答えた。「彼の病気を治したい。」と。
魔女は言った。「覚悟はある?貴女の命を賭ける覚悟。」
私は迷わずに頷いた。
ニコニコと笑顔を見せる魔女の顔が、一瞬だけど、陰りが見えた。気のせいかしら…
魔女に薬を作ってもらい彼の元へと帰った。
早速、彼の屋敷に訪問した。庭に通されると、彼は女性とお茶をしているところであったのか、白いガーデンチェアに座っていた。
「貴方の病を治す薬が手に入ったわ!」
「これで治りますわね!良かったですわね!!」
彼に寄り添う彼女は、目を輝かせて嬉しそうに言った。
私と彼の出会いはとても幼い時である。ずっと彼だけを見て来た。
彼は私の太陽だから…
幼い頃、私は人見知りで、よく親の後ろに隠れていた。彼と出会ったその日も、私は母の後ろにしがみついていた。母のスカートを小さな拳で力強く握り締めていた。母はいつもの事なので、仕様がないなという様に苦笑いを浮かべていた。
母が挨拶しなさいと促してきて、私は母の後ろから、ちらりと顔を覗かせた。緊張しすぎて心臓がバクバクと鳴っていた。瞳を母の正面に立つお客様へと向けると、瞳の先にキラキラと輝くモノが見えたのだ。その瞬間、時が止まったように感じた。太陽の光を受けてキラキラと輝く黄昏時のような金糸の髪を持つ少年に目を奪われたのだ。
その後、家族ぐるみの付き合いもあり、私とその少年は仲良くなる。最初は緊張し過ぎて上手に会話ができなかったが、そんな私を彼は嫌がることもなく、根気よく私に付き合ってくれた。彼のおかげで打ち解けられた私たちは、所謂、幼馴染と呼べる関係であろう。その後、私たちは幼馴染という関係から次第に恋人、婚約者という関係にもなったのだ。
恋人兼婚約者になってから1年ほど経ったある日、一人の少女が現れた。柔らかそうなふわふわした金色の髪、翡翠の瞳を持つ少女。笑顔が可愛いく、物怖じしない、誰とでも楽しそうにお話をする。陰気臭い私とは真逆の眩しい存在、それが彼女だ。彼女とは友人として付き合っていた。しかし、いつの間にか彼女が二人の間にズカズカと入って来のだ。最初は気のせいかと気にしてはいなかったのだが、気がついたら、彼の隣は彼女に奪われていた。そんな時だった、彼が病に侵されたと知ったのは…
彼が不治の病に侵されたのを知って、あらゆる文献を読み耽った。もともと勉強や本を読むのは好きであったし、彼の為ならば苦にはならなかった。不治の病、今すぐに死ぬ訳ではないらしく、まだ猶予があった。この病は、発症してから数年かけて徐々に身体機能が低下していき、最後には呼吸が止まってしまうらしい。
そんな彼の側に居て支えている彼女が羨ましい。そう思いながらも、側に居なくとも、私が出来る事をと思い、勉学に励んだのだ。側に居るのは私ではなく、彼女の特権だから。
「これがその薬です。」
懐から取り出して渡す。
「これは受け取れない。」
しかし、彼は受け取らなかった。
「どうして…」
思わず呟いた。
「どうしたんですの?この薬があれば、治るのよ?」
彼女も吃驚した様で、目を見開き、彼を見つめた。
「悪いが帰ってくれ…」
沈黙が降りる。そう言われて、私は帰るしかなかった。
後日、私は諦めきれず、彼の元を訪ねた。執事の後ろについて歩いていたら、彼の部屋から、咳き込む音が聞こえてきた。私達は彼の部屋に駆け込んだ。彼は車椅子から滑り落ちたのか、車椅子の近くの床に丸まって咳き込んでいた。執事は、彼の背中を摩り、声をかけていた。彼は、眉間に皺が寄り険しい顔付きに、目尻には涙が滲み出て、とても苦しそうであった。
私は、彼が車椅子でないと歩行出来なくなっていた事実を今知ったのだ。そういえば、発症したと知った時から、彼が私の前で一人で立っていた事はあっただろうか。
私は彼が病に罹ったと知ってからどうだったかを思い返した。屋敷を訪れると彼は座ってお茶を飲んでいたり、彼女と寄り添っている場面ばかりだった。彼は私が知る大分前から罹患していたのだ。ショックだった。私は罹患したことを後になってから人伝で知ったのだから…
苦しそうな彼を前に、私は今知った事にショックを受けている場合ではないと、頭を横に振り、切り替えた。
前回、受け取ってもらえなかった薬が、懐に入っている事を確認して、取り出した。そして、咳き込む彼に飲ませようとしたが、咳き込む状態では飲み込めなさそうだ。私は薬を口に含み、空気を吸う為に一瞬咳が止む瞬間に無理矢理彼の口に流し込み飲み込ませた。
執事は目を見開いて驚いた顔を見せたが、直ぐに表情を戻して、彼をベッドに運んだ。そして、メイドさんを呼び、彼の汗を拭く為のタオルや水などを用意させたり、訪問した私への対応を任せた。対応を任されたメイドさんは私を応接間へ案内しようとしたが、邪魔になると思い、断り、執事に私がしたことを彼には話さない様に釘を刺し、帰宅した。
だって、薬を飲ませる為でも、望まない相手からのキスは嫌だと思うから…
家に帰り、部屋に篭って、彼との思い出を振り返っていた。出会った頃の彼のキラキラした笑顔が懐かしい。二人で本を読んだ事、好きな本を貸しあって、感想を言いあって…時には意見が合わなくて…引っ込み事案な私の手を引いて、キラキラした世界を見せてくれた。とても幸せだった。もう、彼に手を引いて貰う事は叶わないけれど…
近くで彼が病が治って喜ぶ姿を見たいが、そうもいかない。布団に横になって目を伏せた。
本当に貴方と出会えて幸せでした。
ありがとう、私を産んでくれたお父さん、お母さん。
ありがとう、彼を産んでくれた彼のお父さん、お母さん。
ありがとう、彼と出会わせてくれて。
ありがとう、ーーーー様。
貴方の側に居られなくとも、貴方の幸せを願っています。
医療や薬学、魔術のあらゆる文献を探し、読んだ。ある日、噂を耳にした。ある魔女が作る薬が万病に効くと…やっと見つけた。多分、それだわ!
噂をしていた人に詳しく聞かせてもらい、噂の出元まで遡って、その魔女について聞き出した。
同じ大陸の魔の森に住む変わり者の魔女、彼女が作る薬があらゆる病を治す薬だと…
私は、魔女の森まで行った。
魔女は私に言った。「彼の病を治したい?」と。
私は直ぐに答えた。「彼の病気を治したい。」と。
魔女は言った。「覚悟はある?貴女の命を賭ける覚悟。」
私は迷わずに頷いた。
ニコニコと笑顔を見せる魔女の顔が、一瞬だけど、陰りが見えた。気のせいかしら…
魔女に薬を作ってもらい彼の元へと帰った。
早速、彼の屋敷に訪問した。庭に通されると、彼は女性とお茶をしているところであったのか、白いガーデンチェアに座っていた。
「貴方の病を治す薬が手に入ったわ!」
「これで治りますわね!良かったですわね!!」
彼に寄り添う彼女は、目を輝かせて嬉しそうに言った。
私と彼の出会いはとても幼い時である。ずっと彼だけを見て来た。
彼は私の太陽だから…
幼い頃、私は人見知りで、よく親の後ろに隠れていた。彼と出会ったその日も、私は母の後ろにしがみついていた。母のスカートを小さな拳で力強く握り締めていた。母はいつもの事なので、仕様がないなという様に苦笑いを浮かべていた。
母が挨拶しなさいと促してきて、私は母の後ろから、ちらりと顔を覗かせた。緊張しすぎて心臓がバクバクと鳴っていた。瞳を母の正面に立つお客様へと向けると、瞳の先にキラキラと輝くモノが見えたのだ。その瞬間、時が止まったように感じた。太陽の光を受けてキラキラと輝く黄昏時のような金糸の髪を持つ少年に目を奪われたのだ。
その後、家族ぐるみの付き合いもあり、私とその少年は仲良くなる。最初は緊張し過ぎて上手に会話ができなかったが、そんな私を彼は嫌がることもなく、根気よく私に付き合ってくれた。彼のおかげで打ち解けられた私たちは、所謂、幼馴染と呼べる関係であろう。その後、私たちは幼馴染という関係から次第に恋人、婚約者という関係にもなったのだ。
恋人兼婚約者になってから1年ほど経ったある日、一人の少女が現れた。柔らかそうなふわふわした金色の髪、翡翠の瞳を持つ少女。笑顔が可愛いく、物怖じしない、誰とでも楽しそうにお話をする。陰気臭い私とは真逆の眩しい存在、それが彼女だ。彼女とは友人として付き合っていた。しかし、いつの間にか彼女が二人の間にズカズカと入って来のだ。最初は気のせいかと気にしてはいなかったのだが、気がついたら、彼の隣は彼女に奪われていた。そんな時だった、彼が病に侵されたと知ったのは…
彼が不治の病に侵されたのを知って、あらゆる文献を読み耽った。もともと勉強や本を読むのは好きであったし、彼の為ならば苦にはならなかった。不治の病、今すぐに死ぬ訳ではないらしく、まだ猶予があった。この病は、発症してから数年かけて徐々に身体機能が低下していき、最後には呼吸が止まってしまうらしい。
そんな彼の側に居て支えている彼女が羨ましい。そう思いながらも、側に居なくとも、私が出来る事をと思い、勉学に励んだのだ。側に居るのは私ではなく、彼女の特権だから。
「これがその薬です。」
懐から取り出して渡す。
「これは受け取れない。」
しかし、彼は受け取らなかった。
「どうして…」
思わず呟いた。
「どうしたんですの?この薬があれば、治るのよ?」
彼女も吃驚した様で、目を見開き、彼を見つめた。
「悪いが帰ってくれ…」
沈黙が降りる。そう言われて、私は帰るしかなかった。
後日、私は諦めきれず、彼の元を訪ねた。執事の後ろについて歩いていたら、彼の部屋から、咳き込む音が聞こえてきた。私達は彼の部屋に駆け込んだ。彼は車椅子から滑り落ちたのか、車椅子の近くの床に丸まって咳き込んでいた。執事は、彼の背中を摩り、声をかけていた。彼は、眉間に皺が寄り険しい顔付きに、目尻には涙が滲み出て、とても苦しそうであった。
私は、彼が車椅子でないと歩行出来なくなっていた事実を今知ったのだ。そういえば、発症したと知った時から、彼が私の前で一人で立っていた事はあっただろうか。
私は彼が病に罹ったと知ってからどうだったかを思い返した。屋敷を訪れると彼は座ってお茶を飲んでいたり、彼女と寄り添っている場面ばかりだった。彼は私が知る大分前から罹患していたのだ。ショックだった。私は罹患したことを後になってから人伝で知ったのだから…
苦しそうな彼を前に、私は今知った事にショックを受けている場合ではないと、頭を横に振り、切り替えた。
前回、受け取ってもらえなかった薬が、懐に入っている事を確認して、取り出した。そして、咳き込む彼に飲ませようとしたが、咳き込む状態では飲み込めなさそうだ。私は薬を口に含み、空気を吸う為に一瞬咳が止む瞬間に無理矢理彼の口に流し込み飲み込ませた。
執事は目を見開いて驚いた顔を見せたが、直ぐに表情を戻して、彼をベッドに運んだ。そして、メイドさんを呼び、彼の汗を拭く為のタオルや水などを用意させたり、訪問した私への対応を任せた。対応を任されたメイドさんは私を応接間へ案内しようとしたが、邪魔になると思い、断り、執事に私がしたことを彼には話さない様に釘を刺し、帰宅した。
だって、薬を飲ませる為でも、望まない相手からのキスは嫌だと思うから…
家に帰り、部屋に篭って、彼との思い出を振り返っていた。出会った頃の彼のキラキラした笑顔が懐かしい。二人で本を読んだ事、好きな本を貸しあって、感想を言いあって…時には意見が合わなくて…引っ込み事案な私の手を引いて、キラキラした世界を見せてくれた。とても幸せだった。もう、彼に手を引いて貰う事は叶わないけれど…
近くで彼が病が治って喜ぶ姿を見たいが、そうもいかない。布団に横になって目を伏せた。
本当に貴方と出会えて幸せでした。
ありがとう、私を産んでくれたお父さん、お母さん。
ありがとう、彼を産んでくれた彼のお父さん、お母さん。
ありがとう、彼と出会わせてくれて。
ありがとう、ーーーー様。
貴方の側に居られなくとも、貴方の幸せを願っています。
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