DOUBLE!!

神山小鬼

文字の大きさ
上 下
1 / 5
ダブルネーム

ダブルネーム

しおりを挟む


ブルーグループの首席の名は常に『夏目光二』。だがそれだけの話で、事実俺は肝心な問題に関して何の役にも立てていない。何もできない自分を恥と思っても、どう動いていいのか分からず途方に暮れている。
 あいつはいつも何も言わずに笑う。その度に安堵と自責の念が交差する。
 秋のセンチメンタリズムもプラスされて沈み込む俺に、活力を与えてくれる大きな存在。救われているのはどっちなのか。
 守りたいのは順位ではなくてこのポジション。滑稽なほどの無力さに押し潰されつつ今日も時間をやり過ごす。あいつにしてやれる事は何か。俺がそばにいる事に意味があるのか。
 どうかその答えを教えて欲しい……。



 空中で回転させる一枚のカード。上に向けた人差し指の先からは完全に離れている。本日使用する教材はトランプだった。
 俺が通う中高合併の学園はちょいと特殊な所で、ここの生徒達には必需の『カラー授業』という学科がある。
 わいわいと賑わう四学年の教室。一般でいうと高校一年生。今がそのカラー授業の時間だ。
 今日はこいつでピラミッドを作ってみる事に決めた。一度はやってみたかったという俺のロマネスクも込められて、作業は着々と進んでゆく。
 カラー授業の時は席移動が許されているから、集まって協力しあったり、一人で集中したりと各々のやり方でみんな能力向上に努めていた。俺は隅の席で取り残されたようにカード操作に没頭する。
「なあ夏目ー、こっち来て一緒にやらねぇ?カードダーツ」
「何やってんだよ、ピラミッド?そんなのお前なら三秒で作れんだろが」
 自分は決して人気者とは言えない、ごく普通の目立たない生徒。それでも何人かが熱中ぶりに興味を示してか近寄って来た。しかし生返事に呆れてすぐにいなくなってしまう。
 授業時間をフルに使い神経を研ぎ澄まし、少しずつ少しずつ三角形を増やしていった。細かく根気のいる作業は割と得意な性格。その究極さに挑んでいるのだ。時々顔を上げ、真剣な表情をほどいては修正を繰り返し、完成への近づき具合を確認する。ふん、俺もなかなかやるじゃないか、なんて一人でにんまり笑ってみる。
 見た目は普通のピラミッド作り。通常でもかなり困難な作業だが、手は一切使っていない。必要とするのは精神力のみだ。つまりこれこそがブルーグループの能力。全国から集められたサイキック達のクラスなのだ。
「全員、整列ーっ!!」
 背後からの突然の号令に思わずびくりと体が踊る。呼吸を止めて積んでいたから、危うく吹き崩してしまいそうになった。あ、危ねえなあ。完成まであと二枚ってえ時に。
 残りのカードを頭上に浮かせ、風を起こさないようゆっくりと振り返ると、そこでは「やっぱりな」な人物が楽しそうにカードを操り遊んで……もとい、コントロールの勉強をしているのが見えた

「さあ皆の者、この教室のパワーロックは解除された!今こそ………」
「……何やってんだ、棗?」
 熱中すると全く回りが目に入らない。肩までのくせ毛を揺らすだけで俺の問いは完全に無視される。
 名前に縁があってつるみ出した女生徒。毎度毎度おかしな発想で俺を驚かせ、更にはその後始末で俺を思い切り疲れさせてくれる、四六時中元気一杯な奴だ。また何を始めたのやら、オーバーヒートに警戒しつつも少し見守ってみる事にした。
「今こそ、出撃だあーっ!」
 彼女の号令に従うよう、トランプの入れ物からカード達が起き上がった。その様子はまさに『とことこ』。呼び出されたカード達は角でコツコツと音を鳴らし、一枚一枚机の上を立って歩いてゆく。軍隊の教官気取りな棗の前で、カード兵士達がビシリと列を揃えた。
 頭の中を『おもちゃのマーチ』が駆け巡り出す。
「わはははは。ちょっと面白いぞ、棗ー!」
 ところが賞賛の声はあっさり敵意で返された。
「む!出たなあ~、魔王コージィ!」
 ……俺の事かよ。どうやらいつの間にか俺も必要不可欠なメンバーとされているらしい。まあそんな事は放っておくとして。何だか外国人隊員が数名混ざっているような………。顔をしかめ、ピラミッドの横に置いた自分のトランプケースを確認する。あー、やっぱ足りねえ。
「棗、遊ぶのはいいけどよ、自分のカード使えよなあ。オラ、返せ!」
 くいと指で引き寄せる動作に二枚のカードが宙を移動して戻って来た。彼女が悲痛な叫び声を上げる。
「ああっ!ボビーとジョンがさらわれたー!」
 名付けるな!……と突っ込みたくもあったのだが、終業の鐘が鳴る前に、完成を急がねばならない。なので彼女に絡むのはそこまでにして、再度続きに集中し出す事にする。すでにかなりの時間を費やしてしまった筈だが、さて……?
「二人を人柱にする気だなあ?こうなったら……」
 ぶつぶつと聞こえてきた呪怨が現実にぞわりと背中を撫でた。顔を上げ時計を確認するつもりが、視線は思わず後ろへ走る。やばい……!と感じた時にはもう遅い。輝いた棗の瞳が、見事的中させた予感を誉めるようにしっかりとこちらを見定めていた。
「目標確認!攻撃態勢を取れーいっ!!」
「えっ……!?」
 下された命令でカード達が一斉に彼女の指差す方を向く。確認された方角は、どう見ても俺の机……。
「魔王・夏目光二が建築する悪の城に向かって……!」
「わ……、ちょ、ちょっと待て!」
 慌てふためいた俺は、自分の体を何とか棗と机の間にそろそろと差し込んで防御する。だが前方では、恰好の攻撃ポイントを見出した軍団長が俺の努力を嘲笑うかのように、無情なる号令を力強く下していた。
「正義の棗ちゃん軍団、突撃ーっ!!」
「わーっ!!」
 五十枚余のトランプ軍団が一斉に飛び掛かった。馬鹿力の棗に統制された最強のカード兵士達が猛スピードで落城にかかる。咄嗟に他の方法を思い付けず、俺は両手を前方へと突き出した。
「むんっ!」
 突進して来たカード群は新たな力に支配され、見えない壁に突き刺さるかのように俺の掌の直前で急停止してくれる。
 だがそのまま硬直状態に至る事は到底できない。何せ力だけでいうなら棗の方がずっと上なのだ。操縦者は技力の上で俺に及ぶ事はないが、パワーだけなら学年最強と言っても良い。無謀に思える猪突猛進な攻撃が、かなり有効だったりするのだ。止まっていたのはわずかの間。心中を読み取ったか、にやりと笑ったトランプ団長がじりじりと距離を縮め始めた。彼女が一歩進む毎に、強大なパワーに押し出された兵士達も目的達成の道へと近づいてゆく。ええい、落城に熱意なんか燃やすな!
「ほ~ら、ほ~ら!」
「っくぅ~っ!!」
 ピラミッドを乗せた机が背中に当たりそうになり、わっと汗が吹き出した。背水の陣じゃないか!楽しそうに牽制する棗を前に、俺は思考をフル回転させて別の防御手段を絞り出す。すぐさま別の机から、新たに編成された教科書兵士の援軍が音もなく頭上に移動してきた。
「こんにゃろっ!」
 群れに飛び込んだ数冊の教科書に叩き落とされ、カード兵士達は次々と撃沈。統制を欠いた棗軍団は一気に混濁した。
「うわおーっ!やったなあ、魔王コージィ!!」
 だが、ものともせずに再統制されかけ、焦りまくった俺は必死の体で新技を繰り出す。
「ちびっこヒーローショーのお姉さんかお前は!勘弁してくれー!」
 開いた一冊を、正義の指令を下すにわかジャンヌ・ダルクの顔面に貼り付けたところで、ようやく泣き入れ状態の説明に入る事ができた訳だ。
「ちょっと聞けってば!力でピラミッド型にしてんじゃねえんだ。パワーは手の代わりに使ってるだけで、コレ本当に積んでるんだから……!」
 パワーで組み立てたら本当に三秒だ。しかしそれではコントロールの勉強にならない。それ以前に、俺のロマネスクへの努力を理解して欲しい!
「ほおっ!?」
 ひょっこりと首をすくめ、棗の両目が見開かれた。やっとの事で攻撃も止まる。今度こそ言葉が通じたのを確認すると、俺はほっと溜め息をついた。うんうん、話せば分かるイイ奴なんだ。そして善人棗は両手を上げ、楽しそうに踊りながらのたまわるのだった。
「そんな事知ってる~♪」
「……って、知ってるんかいっ!どっちが魔王だーっ!!」
「魔王役・夏目光二♪」
 思い切り差し向けた指があっさりと差し返される。こ、こんのアマ~!俺が時間一杯集中して積み上げた努力の結晶を、水の泡に帰そうとする極悪邪悪な正義の味方め。非道は許さねえぞ!
 全く悪びれようとしない棗の頬を掴み上げると、耳元で必殺呪文を唸らせてみた。
「……え~かげんにせんと、嫁に貰うぞ!『夏目棗』と名乗りやがれ!」
「わー、わかったわかったあっ」
 慌てた様子で棗がばたばたと暴れ出す。『なつめなつめ』が嫌というより単に伸縮の限界に耐え兼ねてとうとう降伏してしまったという感じだったが「仕方無い、棗ちゃん軍団は撤退するよ」と言い残し、カード達を引き連れ敵は背を向け歩き去って行った。
 無駄に健闘しすぎて脱力しきった俺は、椅子に座り込むと片肘をそっと机に寄りかけて、安堵に深い溜め息を吐く。つ、疲れた……。
 瞬間、轟音と共に天地が逆転した。
 固い机と、中に入っていた道具一式と、寄りかかっていた俺の上半身、それにピラミッドを構成していたトランプが、一斉に床へと散らばったのだ。音は多分隣の教室まで響いた事だろう。当然、授業時間分の俺の努力は綺麗に無に帰してしまった。
 超能力による物質移動。もちろん俺の力じゃない。人間乗った椅子まで丸ごとひっくり返すなんて馬鹿力は……!!
 床に転がされる直前に聞いたのは「なーんちゃって♪」という棗の明るい声だった。ダブルクロス!『裏切り』やがったなぁ~。
「な、な……、棗のアホーっ!!」
 力一杯怒鳴りながら落ちたカードを連射する。しかし彼女は俺の憤怒など気にもせず、けらけらと笑いながら掌の前で攻撃を軽くはじいてしまっていた。こいつに俺のロマンを分からせようとしたのがそもそもの間違いか。あほうは俺の方なのか………。
 と、その時ようやく統制力に欠けていたと気づいたらしい担任が、怒鳴り散らしながらこちらに向かって来た。
「こらーっ!小路っ!!」
「あははははーって、あら先生……」
 ノリにノリまくっていた棗のお調子もやっとパワーダウンする。
「机をぶん回すなとあれほど言っているのに、お前は、毎度毎度~!!」
「たははっ、すみませーん」
 謝りつつも毎度毎度反省の色が全く見えない。結局先生も途中から諦め方向に持っていったらしい。ある程度お決まりの叱り文句を放ったら教壇へとUターンしてしまった。
 へえへえ、どーせ俺が我慢すればイイ事ですよ。俺も諦めモードに切り換えるしかなかった。最近ひねくれモードも入ってきたかもな。
 くすくすと女子の嘲笑が耳についた。
「……小路さんてさあ」
 また始まった……。
「なんかねぇー……」
 別の方からもお決まりのひそひそ話。男子達も加わって棗に冷笑を向けている。
 その中に、ひときわ険しい目つきで棗を睨む者がいた。クラスのリーダー的存在で、彼女を中心に回りの者達はたむろしていたのだ。
 騒々しさで迷惑人になってしまったのは申し訳なかったが、非難の方も度を越して良い筈はない。その分別を付けるのは難しくても、努力をしないのはまた違ってくる。……ああそしてほら、床にぶつけたせいもあるけれど、……また頭痛が始まり出した。
 丁度その時、救いの終業チャイムが鳴った。放免された棗が思い出したように俺のそばへと寄ってきて、にこにこ顔で先ほどの意図を伝えてくる。
「あ、だからあ。どうせもう片付けなんだから、最後くらいは華々しく~っとね♪」
 俺は戻した椅子にへたり込む。
「一言『時間だ』と言ってくれよ~。頭痛が……」
 痛みの原因はにかりと笑い、してやったりといった顔で自分の席に戻って行った。通常授業とカラー授業では生徒達の構成が違う。カラーでは一緒でも俺は四年一組、棗は二組。今使用しているのは五組の教室だった。
 ……それにしても、最近本当に頭痛が多くて参ってしまう。
 ズキズキと痛む頭を抱えていると、散らばったカードを拾ってくれる女子の手が視界に入ってきた。パワーを使って立ったまま拾っているから、顔を上げないと誰なのかが分からない。品の良い、ゆっくりとした動作。背も高めだ。いかにも優等生らしい知的なボブのストレートヘアがさらりと揺れて、高く穏やかな声が降ってきた。
「大丈夫、夏目君?」
「朱門……ああサンキュ、平気だよ」
 あまり目を合わせないようカードを受け取りながら、俺も後片付けに入り出す。
 朱門圭子とは特に仲が良いというほどの間柄ではない。彼女の成績が夏前までブルーグループ四年の次席であった為、時々勉強の話をするくらいだった。その容姿からも人気があって、グループ内ではリーダー格に収まっており、信頼度もかなり高い。ただし、プライドの高さも一級品のようで、現状に不満のある近頃の彼女からは、聞きたくもない話がかなりの回数で零れてくる。それは決まって頭痛の時と重なるから、非常に困っていたりもするのだ。
「夏目君もまとわりつかれて大変ね。小路さんて……どうしてすぐに力を見せびらかそうとするのかしら?」
 ズキリ、と圧迫感が押し寄せてきた。床の荷物を拾い立ち上がろうとした俺の、頭痛が突然酷くなったのだ。朱門のクールな表情に、渦巻く突風を感じてしまう。
「夏目君も相手にしなければいいのよ」
 軽いめまいを覚え再度かがみ込んでしまった俺へ、朱門が諭すように耳打ちしてくる。思考が鈍ってうまく言葉が出てこない。完全なる悪人なら対処も簡単だったろうか。しかし彼女の場合はまた対応が難しい。
「朱門……俺は別に……」
 それでも多少いらつきながら頭を動かそうと試みた。長い物に巻かれたところで俺のカラー授業は今のような楽しい時間になりはしないからだ。
 突然、苦心する俺の更に前方から、一番聞き慣れている声が響いてきた。わざとみんなに聞かせるよう、声を張り上げて。
「おーおー!今日も負け犬の遠吠えが心地良いなあーっ!」
 教室中の空気が一瞬でどす黒く変わった。帰りかけていた者達も、ぎょっとした顔で声の主に視線を送る。俺も血の気が引いたかもしれない。
 しかしそんな心配をよそに、当の本人はカラッとした表情でくせ毛を揺らしてこちらを見ている。朱門に向けられた言葉だったのだ。
「な……、何を言っているのよ、あなたは!?誰が……!」
 途端に朱門の顔色が変わり、震える手を握りしめてつかつかと棗に詰め寄り出した。そばにいた連中も改めて朱門サイドへと移動する。このフォーメーションが俺は嫌いなのだ。棗は完全に孤立した状態。にもめげず堂々たる態度は賞賛にも値するが、この馬鹿、いくら何でもわざわざ喧嘩売る必要はねえだろ……。
「わ、私は夏目君やみんなの為を思って……!あなた一体、どういうつもりで……!!」
「朱門!!」
 何とか絞り出した声は意外と大きく、自分でも驚いてしまうほどだった。それでも彼女が苛烈する前に立ち上がると、当たり障りのない言葉でその場を取り繕う。仲裁に入ったというよりは苦情の申し立てに近かったが。
「大声はカンベン……。頭痛に響く」
「あ……」
 すぐさま彼女は口を抑える。具合が悪そうだったのは気がついていたようだ。気遣いからくるこの反応は嘘ではない。なので、俺もあまり強く言えなくなってしまう。
 ただし、一番忘れてはいけない事があった。棗は何も悪い事をしていない。なのに、この現状を強制されているという事実。
「……行くべ、棗」
「はいはーい♪ほんじゃ朱門さん、また明日ーっ!!」
 俺達は教室を後にした。
 背中からの空気が気になり、入り口の前で一瞬振り返る。みんなの、特に朱門の切り刻むような冷たい視線が棗に突き刺さっているのが見えた。
 回りの仲間達が慰めの言葉を、心から信頼するリーダーへ口々に向けている。
「何あれ、ひっどーい!」
「小路サイテーだな。もう来るなっての!」
「大丈夫、朱門ちゃん?気にしちゃダメよ!」
 すがめていた俺の目に、最後に映った光景。密かに棗を睨みつけていた朱門がゆっくりと顔を上げる。そして声をかけてくれた味方達へ、歪んだ感謝の念を込めて女神のように穏やかな微笑みを与えていた。
「大丈夫よ……」
 こんな嫌悪感を伴う関係がこのところ毎日のように続いているのだ。



 事の起こりは一カ月前。夏のカラーテストの結果が出た時だ。成績順は例により、首席は俺、次席が朱門、そして棗も、指定席であるドン底……に、なる筈だった。しかし朱門を押し退け次席に上がったのは、驚く事に落ちこぼれだった小路棗。貼り出された成績表にみんなの前で恥をさらされ、プライドを傷つけられたのが誰だったかは言うまでもない。ここに至るまでいろいろとすれ違いや誤解があったにせよ、原因が朱門のひがみである事には変わりなかった。
 廊下を歩きながら、頭痛を気遣う棗をあまり心配させないようにして一人考え込む。
 俺はまだ首席から蹴落とされた事は一度もない。彼女の悔しさを体験した事がないのだから、知ったかぶりの忠告などできるものではないとも思ってしまう。
 そして棗。風当たりの強くなったこいつに、俺はまだ何もしてやれないでいた。多少荒々しいやり方だが、先ほどの売り喧嘩も俺を助ける為だったのだろう。逆に守られている自分があまりにも不甲斐なく感じてしまう。
 それにしてもこいつは………。
 肩越しにちらりと棗を盗み見る。彼女は自分の教室に着くまでは何とか一緒に歩こうと、必死に俺のあとを追っていた。くせ毛の軽さが性格にまで影響するなんて話は聞いた事ないが、やっぱり何事もなかったかのように鼻歌混じりで笑顔を展開させていた。
 グループ中の人間に敵意を向けられるというのがどれほどの圧迫を感じるか。それでもこいつは笑うのだ。なぜ棗はこんなに強くいられるんだろうか。こいつがへこたれるところなど、まだ見た事がない。俺までが今の現状に上乗せするよう、毎度の体調不全で迷惑ばかりかけてしまっている気もする。
 棗の隣にいる必要性を、俺はどうしても欲してしまうのだ。
 なあ、教えてくれ。俺にできる事を。お前が俺に欲する事は何かないものか……。

 頭痛はいつの間にか治まっていた。





次回「ダブルディーラー」に続く。
しおりを挟む

処理中です...