DOUBLE!!

神山小鬼

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「でよー。そいつ人見知りが激しくってさ、ロック外された途端に自分の姿消しちまうんだ。だからウチのピンクはいつも一人足りねーの!」
「わははは、逆座敷童かってーの!」
 翌日の四年一組は至って平和だった。わいわいと賑やかな会話が聞こえてくる中、俺は自分の席でぼんやりと肘をつき、体調不全の原因を分析していた。
 何だろな……。頭痛はパワーロックの外れたカラー授業の時のみで。力の暴走?あと棗といると治まっている気も……。
 まじまじと片手を広げて見つめてみる。パワーを使う時は意外なところに負担がかかっている場合がある。全て精神からくるものだから、……単に俺、疲れてるだけなのかな。
 手の甲を自分に向け指から指へと視線を流していると、何やら変な画像が飛び込んできた。指の間に焦点が合って教室の扉が見える。そこからなぜか無言で、こちらに向かってピースを突き出している小柄な人物が佇んでいたのだ。いやあの……、俺別に高広先輩に向かって手を振ってたワケじゃあないんですけど。
「何スか、センパイ?」
 どうも間が悪いなあと赤面しつつ入口に歩み寄る。というより俺が気づかなかったら、そのまま銅像になっているつもりだったのか。
「あっれー、棗ちゃんはー!?」
「あいつは二組っスよ。通常授業は別クラスですから」
「あ、なんだあ隣かあ」
 こんな所にいるという事はまさかまだ追試受かってないんじゃあ……?本当に大丈夫なのかな、この人?心配になって訊ねようとしたのだが、聞くだけ聞くと先輩はさっさときびすを返してしまった。
「んじゃな」
「おっ……」
 ちょっとちょっと、俺にはそれだけですか?何てあっさり味なんだ。
 思わず引き止めようとした時、俺の声に重なって四方から輪唱のように先輩を呼ぶ声が轟き渡った。
「先輩!先輩!」
「高広先輩!」
 どっとみんなが押し寄せる。廊下と教室内の生徒達に流され、高広先輩はまた入口に押し戻されてしまった。
「先輩、追試どうなりました!?」
「落ちた!?受かった!?」
「今回の戦利品は!?見せてー!!」
「お、おいっ、おいっ!」
 全員と扉に挟まれて先輩がもがく。上げられた手がかろうじて居場所を示してはいたが、遠巻きに離れた俺はあえて助けようとしなかった。この勢いと元気さは本人の影響なんだろうが、どうも高広先輩のファンは迫力がありすぎて怖い。
「また変なモン取ってきたんでしょ!?」
「見せてー!」
「ねえ、せんぱーい!」
 多大な人気に気を良くしたらしい。おチビのヒーローはにんまり笑うと、べいべぇ~と洩らしながら軽く気取り始めた。
「ち、可愛い後輩共め……」
 よくよく聞いていると「何かくれー」とか「先輩のあほー」だのの声も混じってはいたのだが、当人の耳には届いていなかったようだ。
「そこまで言うならいいだろう、見て驚け!!」
 やっぱり今回過去から持ってきた物も証拠品ではなかったらしい……。後方で呆れる俺とは反対に、ノリにノリまくった熱狂ファン達がぐぐっと身を乗り出させた。高広先輩はもったいぶりながら両手を背中に回す。どうやらズボンに挟んで持ち歩いていたようである。
「今回の戦利品は……」
 ばっ、と勢い良くお宝が突き出された。両手に一つずつの黒い物体。先輩に言われた通り、全員が驚いて一斉にあとずさった。
「試験官、桃山先生のおみ足からだあーっ!!」
「……っぎゃ~~~~~~っ!!」
 桃山先生は年配の枯れた男の人。一年前の桃山先生と格闘でもしてきたのか、先輩の手には黒いビジネスシューズが握られていた。みんなが驚いたのは見た目ではなく、強烈には漂う悪臭だ。


 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てて逃げまどう後輩達へ、先輩はじりじりと距離を縮めて楽しんでいた。が、突然。
 ズパパーンッ!!
 二連発の物凄い音がして、悪の怪人の動きが止まった。見ると、桃山先生のシューズは背後から現れた合紅先生の手に渡り、交差しながら先輩の後頭部を駆け抜けて行ったところだった。匂いと痛みのダブルパンチ。お見事な二刀流。
 そのまま合紅先生は先輩の首をしめつつ、げんこつでぐりぐり頭をいびりながら、廊下を引きずり去ってしまった。
「うーん、さすがはアイコちゃん……」
 みんなが唸る中、高広先輩の「いてーよー、いてーよー」という声だけが力なくこだまして遠ざかる。先輩の追試担当は合紅先生らしい。いい加減腹に据え兼ねているのだろう。
 愉快な嵐はあっさり過ぎ去り、ギャラリーもバラバラと散ってゆく。俺だけが取り残されたように教室の入口で立ち尽くしていた。
「結局、何だったんだ……?」
 本来の高広先輩の目的が謎に終わり、ヒントを頼りに隣の教室へと視線を送ってみた。
「棗が、どうかしたのか……?」



 可愛い女の子からの手作り料理のプレゼント。男なら誰だって一度は夢に見るもんだ。
 ……まあ可愛いはこの際譲歩するにして。それでもやっぱり悪い気はしない。
「家庭科でカップケーキ作りました。食べて♪」
 同日の移動教室の廊下。上目遣いでちょっと首を傾げたいつもの笑顔が、リボンのついた小さな包みを両手に乗せて差し出してきた。思わず口元が緩んでしまう。
「……お前が作ったのかよ?ちゃんと食えんのかな」
「ひっどー!食べられるに決まってるでしょ!すっごくおいしいんだからー」
 平常心、平常心と唱えながらも内心わくわくで包みを開いた。……撃沈!
「カップケーキ……計量カップ、ケーキ……」
 銀の輝きと色気のない調理用の目盛りが俺の淡い夢をしたたかにぶち壊してしまった。入れ物に何を使ってやがるんだよ……。
「や、カップ忘れちゃってさー!調理室から拝借してきちゃいました。あははっ」
 それにしたってもう少しどうにかしてきて欲しいもんだ。耐熱温度三百度、何だこの計量カップ。何やら出来の方も疑わしくなってきた。
「……毒味はしたんだろうな?」
 壁に寄りかかって脱力しながら、それでも一口食べてみる。
「お、うまい!」
「でしょー!?」
 ナゼダ!?
「見た目と味なんて関係ないもん。でも面白いからさ、今度一口ケーキって事で計量スプーンででも作ろうかってみんなと話してて……」
「やめとけ、アホらしい」
 ぼそぼそとかじりながら、浮かれて喋りまくる棗の様子をさり気なく観察してみる。特に変わったところはない。高広先輩がわざわざ訪ねて来たから何事かとも思ったが、別に何か問題があったなどという訳でもなさそうだ。
「そういやさ、今日……」
 先輩の話を持ち出そうとした瞬間、声が出せなくなってしまった。同時に扉を開けた五組の教室。間違いなく、頭痛は日増しに悪化している。さっそく女子共がこちらを見ながら何か囁き合っていた。またもや立ち眩みそうになり、とりあえず落としたくない大事な物を隣の友人に預ける事にする。
「わりぃ、またあとで食う……」
「え?ど、どしたの!?」
「いや何でもねぇから、またあとでな」
 あまり心配させたくはないので無理やり笑顔を作り、そのまま席へついた。と同時に号令がかかって授業が始まる。棗も最初こちらを気にしてはいたが、担任に説明中は前を向くよう注意されてから視線はこなくなった。 頭痛の原因に身に覚えは全くない。普段の体調は至って健康だった。
 ……でも、ただ一つだけ。実はずっと不安な要素があったのだ。それは「まさか」ではなく「嫌だ」という思いによって否定し続けられた、自分とは全く無縁と信じ切っていた特別な症例。本当は心配させたくなかったというよりも、はっきりさせるのが怖かったんだと思う。しかし、答えがそれだと考えれば全てつじつまが合ってしまうのだ。他人にしてみればやっぱり名誉な事なんだろうか。だけれど、今の自分にはタイムオーバーへのカウントダウンにしか聞こえない。認めたくはなかった。
 ここには、棗がいるから……。



 引き続き本日の授業も針と糸が使われている。昨日の今日で担任の目も厳しく、静かに実習は行われていた。残念な事に環境とは関係のないこの痛みは、俺のやる気など見事に削いでしまっている。グラグラと椅子を揺らしながら頭上で教材を動かしていた。
 針穴に糸を通し、輪を作ったらもう一回通す。三回、四回……。ゼンマイ状になった先で宙に『なつめ』の糸文字を書いた。教室に入った時からの慢性的な痛みは、細かいコントロールに使う神経と連動してはいない。
(やっぱり力の暴走じゃないな……)
 ならば認めたくない結論にまた一歩近づいてしまった事になる。重い気分で呟いた。
「予兆…………」
 せめてあと半年、学年が変わる四月まで、何とか騙し騙しもたせる事ができれば……。
 ところが、そんな考えは甘い、と誰かに怒鳴られたようなタイミングだった。また突然に頭痛の波がパワーアップして、仮定の正しさを証明するかのような嘲笑が耳に入ってきたのだ。
「やだー。小路さんの机、臭~い!」
 朱門の取り巻きである一人の女子が、小さくではあるが教室中に聞こえるくらいの声で嫌がらせのネタを作り始める。
「ほえ……?」
 今回棗は必要な道具だけ持つと、教室の隅に自ら移動して静かに活動していた筈なのに。わざわざ攻撃をしかけて優越感を味わおうとする行為が、俺の胃にまで影響してきりきりと痛み出す。先ほどまで棗が座っていた席に、数人の女子が群がってはまた訳の分からない悪口を言い合っていた。
「何か腐った物でも持ってんじゃない?」
「ほらこれよ!今日二組調理実習だったじゃない。多分カップケーキ」
「うわー、何か変な物入れたとか?」
 うっとうしい事この上ないが、珍しく棗も相手にせず放置しているものだから俺もあえて口を出さなかった。それどころではなくなっていたのも事実。保健室で鎮痛剤を貰えば少しは楽になるだろうか?そう思いついた時。
「さっき夏目君に食べさせてたわよ。あーあ、可哀想に!」
 突然、後頭部を物凄い衝撃が襲った。力一杯岩で殴られたような激痛。机に突っ伏しそうになって、頭を抱え込んでしまう。今までの痛みの比ではない。あまりの急激な変化に、硬直したまましばらく残された余韻を味わう。
(……いきなり何だ?何々だ、この衝撃は……!?)
 だがやがて波は小さくなって、また緩やかな頭痛へと変わっていった。声もなく脂汗を垂らしていると、さっきまで反応していなかった棗の参戦宣言が耳を通り抜けていく。敵陣には男子の援軍が加わった。
「あははー、あたしのおいし~いケーキは特別製だから防腐剤なしでも十年はもつの!一時間くらいで腐る訳ないっしょー!」
「んな訳ねーだろ!てか十年物のゴミ夏目に食わせたのかよ!?腹壊すぜあいつ!」
 恐る恐る耳を通していた声に重なってまた突然の巨岩再来。頭蓋骨が叩き壊されるような勢いに、血の気を引かせて俺はやっと事の重大さを知った。
(まずい、これは尋常じゃない……!)
 来年まで騙し騙しなんてとんでもないぞ、今この時間ですら無事でいられる自信がなくなってきた……。
 顔を上げるとみんなの視線はくせ毛の少女に集中していて、棗も後ろを向いているから、こちらには気づいていない。助けを呼ぼうにも声が出なかった。
 ……この痛み、確かにみんなのセリフと連動している。そこまでは推測済みであったが、ならばこの突然の激しさは?
(……もしかして、俺の事を話しているからなのか……?)
 みんなの『悪意』がこちらに向いたから。この教室中を渦巻く、全員の悪意が……!!
「ムリヤリ食わせたんだろ?」
「夏目が死んだらお前のせいだぜー!」
「おーいおいおい、光二を勝手に殺すなよ!」
「夏目君も災難ね」
「毒入りじゃねーのかあ?」
「そうかもよ、だってほら……」
 一人の女子が言いながらこちらを指差した、気がする……。
「夏目君具合悪そう」
「……え?」


 大きな音を立てて椅子が倒れた。握りしめていた机の上の教科書類が床に落ちる。わっと教室中が大騒ぎになって、最後に見たのは駆け寄る棗と、その後ろの驚いた朱門の表情。すぐに何も考えられなくなり、そのあとは記憶にない。
「先生、先生ー!」
「夏目っ!」
「うわ、頭打ったんじゃないか!?」
「誰か……、保健委員!保健室に……!」
「光二っ!?光二!!光二ーっ…………」
「…………………!」

 ふわりと俺の顔に誰かの髪が当たった。その柔らかい軽さは少しだけ俺の痛みを持っていってくれた気がする。
 きっと、今そばに棗がいるんだ……。



『発現』。
 薄闇の中で俺はその言葉をひたすら繰り返していた。何度も何度も、諦めるように。闇を切り取る四角い光が近づいてくる。あれは……壁に貼られた成績表……?
「朱門!」
 じっと見つめるボブの後ろ姿に、俺は声をかけた。
「すげーな、あんたがここまで教えたんだろ?あいつドン尻だったってーのに」
 朱門は静かに佇んで何も答えない。
「あんたの教え方がうまいって、喜んでたぜ」
「そう……かしら?」
 謙遜と取った俺は、まだ笑顔を返している。その後ろから棗が駆け寄って来た。
「あ、見て見て朱門さん!あたし成績上がったよー!」
 棗の成績はドン底だった。棗に勉強を教えたのは朱門だった。しかし朱門が感じた、そのバランスの理不尽さが表面化した時も、俺はただただ唖然として見守る事しかできなかったのだ。
 次席の座を奪い取った人物に朱門は顔を向けた。それは一瞬だったので棗は気がつかなかったようだが、俺は見てしまっていた。振り返った彼女の形相を。
 舌打ちでも聞こえそうな歪んだ口元、美しい鼻筋に力みで深く刻まれた皺、言葉を失わせるに充分な憎悪に満ち溢れた炎の両眼。
 棗の成績に心底驚いたのは朱門だったに違いない。決してここまで上がる筈はない、そんな確信の元に親切な協力を申し出たのだから。
 自分の『いい人』アピールが裏目に出、馬鹿にしていた者に追い越された現状。プライドの高い人間に許せる筈もない。
 壁に貼られた成績表は多分彼女の中の人格レベル表。
 朱門は最初から棗を見下し、自分の為の小道具として扱っていたのだ……。



 ガバリと起き上がった所は、教室ではなかった。ベッドに寝ていたので保健室かとも思ったが、見慣れた小物類で居場所が判明する。
「寮の……、俺の部屋か」
 ひとまずはあの痛みと無縁な場所らしい。ほっとして肩の力を抜いた。倒れたのは覚えているがそのあとの事は分からない。
「みんなびっくりしただろうなあ……」
「棗ちゃん、ボロ泣きで心配してたぜ」
「うわっ、びびったあ!」
 独り言に返事があったので、思わず飛び上がりそうになってしまう。ベッドのすぐ脇の椅子に高広先輩が座っていたのだ。洗面器にタオル。どうやら看病してくれていたらしい。
「何だっけなあ、えーとカップケーキがどうとか……」
「カップケーキィ……??」
 ………あんの馬鹿。それは関係ないってーのに。自分が原因だと本気で思っていたのか。
 あ。そういやあいつ、席移動が許されてからも俺の所に来なかったな。……もしかして、突き返されたと思ったとか?更にはみんなのセリフでむちゃくちゃ不安になりやがったな。おいおい全く、何でお前があんなくだらない悪口を一番信じちまってるんだよ。ほんっとお馬鹿な奴なんだから……。
 この推測は多分当たっているだろう。棗らしさに苦笑しつつも、その前に割り出したもう一つの推測に、俺は考えを巡らさざるを得なかった。大きく溜め息を吐く。
「……『悪意』か……」
「あ、何だって?」
 今回の一件ではっきりしたと言えるだろう。これ以上意地を張っても、回りに迷惑がかかるだけとなってしまう。
 けれど、認めるという事は棗を見離す事に他ならない。罪悪感に打ちのめされながら俺はひたすら後悔した。こんな状態になる前に何かしてやれば良かった……。
 落ち込みモードに入る直前横を向くと、先輩が置いてけぼりを食らったような顔をしていたので慌てて頭をさすりながら笑顔を向けた。
「頭、大丈夫かよ?」
「アホみたいに言わんでください」
「倒れた時打ったんだろ?」
「……平気っスよ」
 真剣に心配されてしまい、俺はそっぽを向きながら答えた。
 少々疑わし気な顔の先輩ではあったが、元気そうなのを確認するとにんまり笑って俺に重大な報せを伝えてきた。
「ちなみに夕食の時間は終わった!」
「げげ」
 先輩が「一食くらい抜いても平気だろ」といった表情で楽しそうにイジメへと走る。参ったな、そんなに長い時間眠っていたのか俺は。まあ食欲もないから大して問題はないけれど。それよりも、明日の為に聞いておきたい重要な話があった。
「先輩」
「お前の分を誰が食ったかは言いっこナッシング!」
「いやあの……、高広先輩」
 両手でバッテンを作ってあとずさるのを何とか引き止め、俺の飯をもちろん喜んでむさぼったりはしないと言い張りたいらしい信頼のおける先輩殿に相談を持ちかけた。
「教師ってみんなホワイトかレッド上がりですよね。ちょっと相談したい事があるんですけど、ホワイトで誰かいい先生って知りません?」
「何だよいきなり。お前カウンセリングでも受けたいの?」
「いえ、……というかできれば能力的な方面でも」
 何人かは自分でも知っている。だがこのナーバスな時期、できれば一番相性の良さそうな人を選びたかった。
 叱られ尽くして教師にも顔の広い先輩が、頭をかきつつその中で好みの対応をしてくれた人物をピックアップし出す。
「……んーと、アイコちゃんはレッドだし……。あ、そーだ。テレパシストの第一人者っていやあ緑川先生だろ。ほら、よく保健室でサボってるのほほーんとした人!あの人は?」
 緑川先生……?ああ、思い出した。あのホントにのほほんとした、カウンセラーとしても生徒からの指名率が高い……。



 常に笑顔の人、緑川先生は女性的な穏やかさがウリとなっている。だがれっきとした男の先生だ。たまに怒る事もあるようだが、聞いた話によると笑顔のままで怒るらしいので実はあなどれない人として密かに生徒達から恐れられていたりもする。容姿は合紅先生と同じくらいの二十代半ば……に見えるが、はっきり言って年齢不詳。緑川先生の方がずっと年上らしい。女子に言わせると『おちゃめ』な先生で、パワーロックのかけ忘れナンバーワンとしても有名だった。他の事には意外と抜けているところはないらしいが。
「マル……、ナミ……、サンカク……」
 翌日俺は緊張の面持ちながら、さっそく頭痛の原因を緑川先生に確かめて貰いに行った。やっぱりしっかり保健室でサボっていた先生は、俺から事情を聞くとロックを外して机の前についたてを置く。俺達は向かい合って座り、先生がこちらには見えない位置でカードを一枚一枚手にしていった。これは透視力のテストカードなのだが、今回のような場合にも度々使われるのだ。
「マル……、ホシ……」
 ある程度試されたところで、緑川先生は一息ついた。そしてこちらを見てにっこりと笑う。
(はい、終了。光二君OK!全問正解だよ)
「ほ、本当ですか!?」
 椅子を押しのけ思わず立ち上がった俺に、奇妙な感覚がよぎった。先生の声は耳から入ったものではなかったのだ。
「あ、今の……もしかして……」
「うん、ちゃんと聞こえたみたいだね。これで確実。受信する側にも能力がないと聞こえないんだ」
 緑川先生は壁に近づくと、珍しくロックをかけ忘れずにカードキーを操作ボードへ差し込んだ。
 実感が湧かない。身近な人物では高広先輩がいるけれど、自分の可能性などあまり考えた事はなかった。俺にも、そんな能力があったなんて。
「そうだなあ。まあ何だかんだで一週間くらいはかかるけれど……」
 俺は聞きたくなかったその先の言葉を、立ち尽くしたままでじっと待つ。欲しくはなかった特別な才能。なぜ今頃になってから発現したのか。
「とにかく君は来週から、サイコキネシスの『ブルー』とテレパスの『ホワイト』、二色持ちの……『ダブル』だよ」



次回「ダブルカラー」へ続く。



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