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第一話
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「ここは、確か…」
目を覚ましてすぐに気づく。
見覚えのある景色。
私の大好きなゲームの世界の主人公の住む屋敷。
そして自分自身の変化。
滑らかで白い肌、豪華なドレス、青髪の一族に生まれた主人公に特有の青髪、
ではなく、燃えるような赤髪。
血の気が引く。湧いた喜びがすっと消える。
今の私は皆に好かれる主人公マーガレットではなかった。
傍若無人の最悪の令嬢、主人公の姉、スカーレットだった。
一度滅入ってしまった気持ちが再び盛り上がることはなかった。
どこに行っても周囲は私を避けて歩く。使用人たちは常にビクビクと顔色を伺い続ける。友人もおらず、孤独な日々が続く。
しかし私の気が沈んでいる理由は他にあった。
スカーレットは間も無く死ぬ。
妹のマーガレットに無実の罪を着せようとしたところ、協力者に裏切られたのち投獄され、間も無く処刑される。
ああ、どうせならマーガレットのなって、この世界を堪能したかったなあ。
だがその予想は外れることになる。
協力者だった人物がマーガレットを殺害しようとして捕まった。
そして、一つの違和感に気づく。
「この世界は、あのゲームそのものではない…?」
違和感は確信に変わる。
この世界には「魔法」が存在する。
元のゲームにはなかった概念だった。どころか戦闘シーンもほとんどなかったはずだ。
もしかしたらこの世界ではスカーレットは死なずにすむのかもしれない。
今まではできるだけゲームのシナリオを崩さないよう行動してきたが、ここからは自分の意思で行動しよう。
まずは情報収集。ゲームとの違いを明らかにしたい。人を相手にする情報収集には苦労しそうだと予感していたが、意外にも自宅にあった本から多くの情報を手に入れることができた。
結論から言うと、この世界は別のRPGゲームと混ざってしまっている。
小学生の頃にプレイした、迷宮の最深部の秘密を探し求めるというごく一般的なものだ。迷宮探索のため、国中から勇士が集められ、そのほとんどが命を落とす。それでも一発逆転を狙う荒くれ者や貧民たちが、毎年大勢参加する。
当然、貴族家は戦闘面においても優秀な人間が多いが、わざわざ死地に向かわせるようなことはしない。それでも向かうものといえば、よほどの物好きか、神に選ばれた勇者か、存在するだけで邪魔な厄介者くらいだろう。
そして危惧していた最悪の事態は訪れる。
スカーレットの迷宮行きが決まる。
貴族の中でも特に魔法の才に恵まれていたスカーレットは、王国公認の迷宮攻略パーティーに選ばれたということだった。迷宮行きの準備は瞬く間に進み、すぐさま出発の前夜祭が行われた。
「お嬢様、この度はおめでとうございます。」
「お嬢様のお帰りをこころよりお待ちしております。」
使用人たちの心からの笑顔を、私は初めて見た気がする。
吐き気がする。私じゃない私の行いのせいとはいえ、彼らを恨まずにはいられなかった。落ち込んだ気分のまま時間は進み、朝を迎える。
満面の笑みで私を見送る両親。娘を死地に送ろうとしているとは思えない態度だ。屋敷の全員が私の前に揃う。激励の言葉をかけているようだが、頭が言葉の理解を拒否する。
顔も合わせたくない。私は逃げるように馬車に乗り込み、出発を急かす。
唯一心配そうな顔をしていた妹の顔だけが、しばらく頭を離れなかった。
数時間ほど馬車に揺られ、迷宮の入口へとたどり着く。運転手に無言で会釈し、一人佇む。
「入り口は、案外小さいんだなあ…」
自分の状況についてはあまり考えたくないので、率直に目の前の感想を述べる。
迷宮は地下に進むに連れて広くなって行くので、地上には下り階段が一つあるだけ。当然周りには兵士たちが常駐しているが、ここがまさか地獄の入り口だと思う人はいないだろう。
そんな取り留めのないことを考えながら、「王国公認の迷宮攻略パーティー」とやらとの合流を待つことにする。
しばらくして2台の馬車が近寄ってきたことに気づく。並んで進んでいるが、よく見ると馬車の外装が異なっているようだった。
先頭は私が乗ってきたのと同じような馬車。貴族がよく使うものでかなり高級なものだ。
しかし後ろの馬車はそれですら比べ物にならないほど豪勢な馬車だった。美しい毛並みの白馬に引かれ、たくさんの黄金の装飾品がつけられていた。不謹慎だが、元の世界で見た派手な霊柩車を彷彿とさせる。
先に降りてきたのは2人の男性。服装や装飾品からそれなりの家系のものであることがわかる。二人とも腰に剣を据えており、その自然な足取りから戦闘経験の豊富さが伺える。
この人たちがパーティーのメンバーだろうか。あまり厳しそうではない。今後の不安がほんの少しだけ和らいだ。
確か人数は私を含めて4人だったはず。もう1人について尋ねようとしたところ、後方の馬車の扉が開く。
馬車を降りた男の顔を見て、固まる。
まさか、そんなはずが。
この人がこんな場所にいる訳がない。
しかし見間違えるはずもない。
「……チッ。」
全員に聞こえるように舌打ちが響く。
そして、確信する。何度も何度も聞いたその舌打ちで。
目の前に現れた、最後の仲間は。
「オリバー・キングズレー、様……」
のちのマーガレットの夫。ゲームのメインヒーロー。
王家一の問題児、「暴君」オリバーだった。
目を覚ましてすぐに気づく。
見覚えのある景色。
私の大好きなゲームの世界の主人公の住む屋敷。
そして自分自身の変化。
滑らかで白い肌、豪華なドレス、青髪の一族に生まれた主人公に特有の青髪、
ではなく、燃えるような赤髪。
血の気が引く。湧いた喜びがすっと消える。
今の私は皆に好かれる主人公マーガレットではなかった。
傍若無人の最悪の令嬢、主人公の姉、スカーレットだった。
一度滅入ってしまった気持ちが再び盛り上がることはなかった。
どこに行っても周囲は私を避けて歩く。使用人たちは常にビクビクと顔色を伺い続ける。友人もおらず、孤独な日々が続く。
しかし私の気が沈んでいる理由は他にあった。
スカーレットは間も無く死ぬ。
妹のマーガレットに無実の罪を着せようとしたところ、協力者に裏切られたのち投獄され、間も無く処刑される。
ああ、どうせならマーガレットのなって、この世界を堪能したかったなあ。
だがその予想は外れることになる。
協力者だった人物がマーガレットを殺害しようとして捕まった。
そして、一つの違和感に気づく。
「この世界は、あのゲームそのものではない…?」
違和感は確信に変わる。
この世界には「魔法」が存在する。
元のゲームにはなかった概念だった。どころか戦闘シーンもほとんどなかったはずだ。
もしかしたらこの世界ではスカーレットは死なずにすむのかもしれない。
今まではできるだけゲームのシナリオを崩さないよう行動してきたが、ここからは自分の意思で行動しよう。
まずは情報収集。ゲームとの違いを明らかにしたい。人を相手にする情報収集には苦労しそうだと予感していたが、意外にも自宅にあった本から多くの情報を手に入れることができた。
結論から言うと、この世界は別のRPGゲームと混ざってしまっている。
小学生の頃にプレイした、迷宮の最深部の秘密を探し求めるというごく一般的なものだ。迷宮探索のため、国中から勇士が集められ、そのほとんどが命を落とす。それでも一発逆転を狙う荒くれ者や貧民たちが、毎年大勢参加する。
当然、貴族家は戦闘面においても優秀な人間が多いが、わざわざ死地に向かわせるようなことはしない。それでも向かうものといえば、よほどの物好きか、神に選ばれた勇者か、存在するだけで邪魔な厄介者くらいだろう。
そして危惧していた最悪の事態は訪れる。
スカーレットの迷宮行きが決まる。
貴族の中でも特に魔法の才に恵まれていたスカーレットは、王国公認の迷宮攻略パーティーに選ばれたということだった。迷宮行きの準備は瞬く間に進み、すぐさま出発の前夜祭が行われた。
「お嬢様、この度はおめでとうございます。」
「お嬢様のお帰りをこころよりお待ちしております。」
使用人たちの心からの笑顔を、私は初めて見た気がする。
吐き気がする。私じゃない私の行いのせいとはいえ、彼らを恨まずにはいられなかった。落ち込んだ気分のまま時間は進み、朝を迎える。
満面の笑みで私を見送る両親。娘を死地に送ろうとしているとは思えない態度だ。屋敷の全員が私の前に揃う。激励の言葉をかけているようだが、頭が言葉の理解を拒否する。
顔も合わせたくない。私は逃げるように馬車に乗り込み、出発を急かす。
唯一心配そうな顔をしていた妹の顔だけが、しばらく頭を離れなかった。
数時間ほど馬車に揺られ、迷宮の入口へとたどり着く。運転手に無言で会釈し、一人佇む。
「入り口は、案外小さいんだなあ…」
自分の状況についてはあまり考えたくないので、率直に目の前の感想を述べる。
迷宮は地下に進むに連れて広くなって行くので、地上には下り階段が一つあるだけ。当然周りには兵士たちが常駐しているが、ここがまさか地獄の入り口だと思う人はいないだろう。
そんな取り留めのないことを考えながら、「王国公認の迷宮攻略パーティー」とやらとの合流を待つことにする。
しばらくして2台の馬車が近寄ってきたことに気づく。並んで進んでいるが、よく見ると馬車の外装が異なっているようだった。
先頭は私が乗ってきたのと同じような馬車。貴族がよく使うものでかなり高級なものだ。
しかし後ろの馬車はそれですら比べ物にならないほど豪勢な馬車だった。美しい毛並みの白馬に引かれ、たくさんの黄金の装飾品がつけられていた。不謹慎だが、元の世界で見た派手な霊柩車を彷彿とさせる。
先に降りてきたのは2人の男性。服装や装飾品からそれなりの家系のものであることがわかる。二人とも腰に剣を据えており、その自然な足取りから戦闘経験の豊富さが伺える。
この人たちがパーティーのメンバーだろうか。あまり厳しそうではない。今後の不安がほんの少しだけ和らいだ。
確か人数は私を含めて4人だったはず。もう1人について尋ねようとしたところ、後方の馬車の扉が開く。
馬車を降りた男の顔を見て、固まる。
まさか、そんなはずが。
この人がこんな場所にいる訳がない。
しかし見間違えるはずもない。
「……チッ。」
全員に聞こえるように舌打ちが響く。
そして、確信する。何度も何度も聞いたその舌打ちで。
目の前に現れた、最後の仲間は。
「オリバー・キングズレー、様……」
のちのマーガレットの夫。ゲームのメインヒーロー。
王家一の問題児、「暴君」オリバーだった。
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