悪役令嬢に転生した私は真っ当な人生を歩めるのでしょうか

第一話

「ここはどこだろう…」
　馴染みのないベッドの上で周囲を確認する。
　間違いなく見覚えのある部屋だった。
　しかしどこか現実離れしている。
　教室ほどはある空間の中に大きなベッドが一つ、周囲には収納具や机の他に花瓶などがきれいに並べられている。その全てが美術館にでも来たかのような豪華なもので、一般人の私は正直すでに頭が痛い。

「夢？にしては意識がはっきりしてるような…」

　思考を整理するように独り言をつぶやき、ベッドから降りる。柔らかい手触りのカーテンに触れ、外を見るといまは朝方のようだ。窓は開け方がわからなかったので反対側のドアノブに手をかける。
　自分の足取りに若干の違和感を感じつつ、扉を開ける。

　長い長い廊下。
　そこにつながる一室に私はいたようだった。とりあえず話し声の聞こえる方へと歩きはじめる。

　声のする部屋へたどり着き、中を覗く。数人の執事とメイド(のような服を着た人)が慌ただしく何かを準備しているようだった。

「あ、あの。」
「お嬢様！？ ず、随分と早いお目覚めでございますね。」
「お、お嬢様？」
「申し訳ございません。まだ朝食の準備ができておりませんので、お召し物をお着替えになって、もう少々お待ちいただけますでしょうか。」

　私が呼び方に困惑している間に別のことを言われてしまい、とりあえず返事をしてしまう。

「わ、わかりました。朝食の準備、よろしくお願いします。」
「え？ …………他に何か仰らないので？」
「え、ええ。では、後ほど。」

　執事たちは目を丸くして顔を見合わせたかと思うと、すぐにまた作業を再開し始めた。
　これ以上邪魔をするのはと思い、一礼して部屋を後にする。
　後ろから大きな声が上がった気がしたが、内容までは聞き取れなかった。

　部屋に戻った私はタンスを開き、困惑する。豪華な装飾のついた服が大量にある、そしてほとんどがいくつかのパーツから成っている。明らかに日本のものではない。どうやって着るんだろう。
　数十分にらめっこを続けていたが、諦めてワンピースタイプの服を着て外に出ることにする。ワンピースというよりドレスだ、これは。

　部屋を出た私は、窓から見えた庭のような場所へと向かう。屋敷は広いが構造自体は単純だったので、たどり着くのにそれほど時間はかからなかった。
　綺麗に切りそろえられた木に、所狭しと咲き乱れる花。その隣にはティーパーティーにでも使いそうな白い机と椅子。
　まるっきりゲームやアニメで見るような光景が目の前にあった。しばらくその光景に見入っていると。

「お嬢様。珍しくこちらにいらっしゃったのですか。お食事の用意ができておりますので、どうぞこちらへ。」

　背後から聞き覚えのある声。さっきの執事だ。目を向けると少し息を切らしているようだ。探させてしまったかもしれない。

「すみません。少し気になったもので。」
「い、いえ。お嬢様がお謝りになることでは…」

　執事はまたもや困惑した表情を浮かべたが、すぐに切り替え私を案内し始めた。