ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第1章:炎上プロジェクトと問題児(エリート)たち

第6話:アサインされた問題児たち

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国王との謁見から三日後。昼下がりの王城で、佐藤健司は会議室の椅子に座っていた。重厚なオークの長テーブルに並んだ、美しい彫刻が施された椅子。窓から差し込む柔らかな夏の終わりの陽光が、室内に穏やかな光の筋を落としている。

テーブルの上には、几帳面に並べられた数枚の羊皮紙。ケンジが三日かけて準備した、完璧な計画の証だ。書記官に頭を下げて融通してもらった上質な羊皮紙とインク、書きやすい羽ペン。もちろん、すべて「プロジェクト予算」で経費申請済みだ。

(まずは目標の再確認と、現状の課題の共有だな)

ケンジは心の中で、完璧に整えられた羊皮紙をなぞる。
プロジェクト名:世界安定化に向けた“魔王”プロセスの正常化
プロジェクト目標:“魔王”の完全消滅による、恒久的な世界の安定確保
現状の課題:基礎情報が不足しすぎている。リスク評価もスケジューリングも、現時点では不可能。

(達成率…現時点で99%不可能だな。魔王の居場所すら不明なのだから)

彼は冷静に現状を分析し、次にチームメンバー用の【自己紹介シート】に目をやった。プロジェクトの成功は、初期のチームビルディングで八割が決まる。互いの能力と弱点を正確に把握し、共通の目標を設定する。そのための合理的なツールだ。

(伝説級の魔法を操る、冷静沈着な大魔導士…)
(百戦錬磨の、寡黙な剣士…)
(大陸中の情報に通じる、知的な密偵…)

ケンジの頭の中には、すでに美しいガントチャートが描かれ始めていた。潤沢な予算、クライアントの全面協力、そして最高の人材。これほど恵まれたプロジェクトは初めてかもしれない。プロジェクトの成功は準備と人材選定にかかっている。そう信じて疑わなかったケンジにとって、この日が全ての始まりだった。

コン、コン。

静かなノックが、彼の思考を中断させた。来たか。
ケンジは背筋を伸ばし、椅子から立ち上がる。最高の笑顔をドアに向けた。「どうぞ。お待ちしておりました」

重厚なオークの扉が、ゆっくりと開く。そこに立っていたのは、ケンジの想像を遥かに超える男だった。

身長はケンジの胸ほどだが、横幅は常人の倍はあろうかという分厚い体躯。鎧の下でも分かる、岩のように隆起した筋肉。床まで届きそうな、見事に三つ編みにされた赤銅色の髭。古井戸の底のように静かな双眸は、一切の感情を読み取らせない。背中には、自身の身長ほどもある巨大な戦斧。ドワーフ。国王の言っていた「千の魔物を一人で薙ぎ払う、重戦士」に違いない。

(……すごい。これが、本物のエリート…)

ケンジは笑みを保ったまま、男に歩み寄る。「はじめまして。私が、今回のプロジェクトのマネジメントを担当する、佐藤健司です」日本のビジネス流儀で丁寧にお辞儀をし、親睦の証として右手を差し出す。

ドワーフの男、ゴードンは差し出された手とケンジの顔を数秒見つめ、おもむろに、その岩のような手で応じた。

「…ゴードンだ」

短い自己紹介と共に、ケンジの右手に万力のような圧力がかかる。「ぐっ…!」骨が軋む嫌な音。ケンジは悲鳴を上げそうになるのを、必死に奥歯を噛みしめて耐えた。ゴードンの握力は、人間とは次元が違う。その時、ケンジはゴードンの胸ポケットに、二匹の小さなウサギが跳ねる可愛らしい紋章の刺繍があるのに気づいた。(え? ウサギ…?)

呆然とするケンジをよそに、ゴードンの手がテーブルの天板にめり込む。ミシリ、と、木材の断末魔のような音が響いた。

握手が終わり、ケンジは赤く腫れあがった右手と、無残に砕けたテーブルの角を交互に見て絶句した。王城の頑丈なオーク材のテーブルが、まるで粘土細工のように破壊されていたのだ。ゴードンは悪びれる様子もなく、壁際まで歩いていき、腕を組んだまま石像のような沈黙に戻ってしまった。

(……でも、大丈夫。コミュニケーションが不器用な人はよくある。想定内だ。これはトラブルじゃない、想定範囲内…!)

ケンジは、使い物にならなくなりそうな右手をそっと押さえながら、ひきつった笑みを浮かべることしかできなかった。彼が最初の衝撃から無理やり立ち直ろうとする間もなく、次の「エリート」がやってきた。

今度は、扉が内側から、魔法の風にでも押されたように華々しく開け放たれる。きらびやかな光の粒子と共に、一人の女性が舞台女優のように部屋の中央へ歩み出た。月光を思わせる銀色の長い髪。すらりと伸びた手足。人間とは明らかに違う、優美な曲線を描く長い耳。エルフ。国王の言っていた「天才エルフ魔術師」だろう。

彼女、ルリエルはケンジのことなど眼中にないかのように部屋を見回し、不満げに鼻を鳴らした。手には、美しい宝石が埋め込まれた白樺の杖が握られている。(彼女の弱点は…)ケンジは羊皮紙に目を落とす。【弱点:プライドが高く承認欲求が強い】(うわ、弱点がすでに顔を出している…)「ふぅん。ここが、私たちの新しいアトリエというわけね。思ったより地味だわ。なんだかマナが淀んでる気がする」ルリエルは楽しそうにそう言うと、杖の先端をこつんと床に打ち付けた。自己紹介の代わりに、魔術を披露するのだろう。

ケンジの脳裏を嫌な予感がよぎる。「あ、あの、お待ちくださ…!」制止の声は、間に合わなかった。

ルリエルの杖から放たれた小さな光の蝶が、不自然に軌道を外れ、天井の豪華なシャンデリアへ吸い込まれていった。

次の瞬間、閃光と、ガラスが砕ける甲高い音が部屋中に響き渡った。「キャッ!?」バチバチッ!と火花が散り、無数のクリスタルがテーブルの上に降り注ぐ。数秒後、シャンデリアの光は完全に消え、部屋は薄暗い夕闇に包まれた。焦げ臭いオゾンの匂いが立ち込める。「な…」

ケンジが見上げると、無数のクリスタルが抜け落ち、無残に黒焦げになったシャンデリアの残骸がぶら下がっていた。当のルリエルは、自分の杖とシャンデリアの残骸を見比べると、ぷいっとそっぽを向いてこう言った。「なによ。私の完璧な魔術が、こんなことになるなんて、ありえないわ。この部屋、マナの密度が低すぎて術式が不安定になったのよ」彼女は自らのミスを棚に上げ、すべての責任を部屋のせいにして、近くの椅子に腰を下ろした。

(伝説級の魔法を操る、冷静沈着な大魔導士…)
(現れたのは、部屋の備品を破壊する、承認欲求とプライドが高すぎるトラブルメーカーだった…)

ケンジは、呆然とその光景を見つめていた。開始、わずか十分。高級テーブルは半壊し、シャンデリアは黒焦げ。アサインされた「エリート」の一人は、コミュニケーション能力に致命的な問題を抱えた歩く破壊兵器。もう一人は、自らのミスを認められない、傲慢なトラブルメーカー。(これが…国王が言っていた、エリート…パーティ…?)

完璧に整頓されたプロジェクト計画書の上に、パラパラと、シャンデリアの煤が汚らしい斑点となって降り注ぐ。その一枚を手に取ると、計画書に描かれた美しすぎるガントチャートが、まるで泥で汚されたかのように滲んで見えた。「いや、きっと…そう、まだ“次の一人”に期待すればいい。彼こそが、きっとまともな――」ケンジの心の中で、無理やりポジティブに変換しようとする声が響いた。
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