ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

YY

文字の大きさ
36 / 156
第2章:赤いタスクと二つの正義

第36話:潜入調査と世界の“歪み”

しおりを挟む
ワイバーン討伐プロジェクトの始動が決定し、会議室には張り詰めた空気が漂っていた。ケンジは、皆の期待と不安が入り混じった視線を感じながら、プロジェクトの最初の一歩として情報収集の重要性を説き始めた。

「皆さん、ワイバーンという強敵を相手にするには、事前の情報が不可欠です。ワイバーンの生態、巣の位置、弱点……。これらを正確に把握しなければ、それは冒険ではなく、ただの無謀な突撃になりかねません」

定例会議の議長席で、ケンジは穏やかながらも強い意志を込めた声で語りかける。彼はホログラムで投影されたワイバーンの三次元モデルを指し示しながら、プランを提示した。

「ワイバーンは、風を操る竜族。その一撃は岩をも砕き、その咆哮は、たとえ百戦錬磨の冒険者であっても心を折る。無策で挑めば、全滅は必至です。まずは情報、次に作戦。そして最後に実行。この順番を絶対に間違えてはならない」

ケンジの言葉は、まるで過去の失敗を繰り返すなと諭しているかのようだった。しかし、その冷静な分析は、ルリエルの苛立ちをさらに煽る結果となった。

「ふん! そんなことは分かっていますわ!」

ルリエルは机を叩き、鋭い視線をケンジに向けた。

「しかし、どこでその情報を手に入れるというのです? 王立魔術院の文献には、ワイバーンの生態について簡単な記述しかない。あとは、過去の討伐隊が記した、勇者の武勇伝ばかり……。わたくしが求めているのは、もっと具体的な魔法的なデータ、たとえば魔力の流れや耐性に関する学術的な分析ですわ!」

彼女の言う通り、魔術師にとって重要なデータは皆無に等しかった。シーナもまた、深い不満を抱えながら腕を組んだ。

「騎士団の奴らが書いた報告書も、まるで使い物にならないぜ。いつ、どこでワイバーンを目撃したかっていう、当たり障りのない内容ばかり。肝心の戦い方や、有効な攻撃方法、弱点については何も書かれていないんだ。まるで、戦う前から負けることが決まってるみてぇだ」

シーナの言葉は、騎士団への軽蔑と、現状への強い憤りを示していた。ゴードンは何も言わなかったが、その表情は険しい。彼は、過去に幾度となく行われたワイバーン討伐が、情報不足のまま敢行され、多くの犠牲者を出してきたことを知っている。その悲劇の記憶が、彼の心を重くしていた。

ケンジは、皆の意見に静かに頷いた。彼はすでに、騎士団から提出された公式レポートに目を通していた。その内容は、シーナが言う通り、作戦立案には全く役立たない、誰が読んでも問題のない当たり障りのない内容ばかりだった。

(これは、この世界の『システム』の一部なのか? 無能な役人による、無意味な報告書。それは、前世で俺が散々苦しめられてきた、あの非効率的な業務フローに酷似している……)

ケンジは、この世界が持つ根深い「システム」――形だけのルールや、責任の所在を曖昧にするための無意味な手続きが、彼の前世で経験してきたあらゆる非効率的な業務フローを内包しているのではないかと、改めて感じていた。それは、個人や組織の能力を鈍らせる、悪しき慣習そのものだ。

「ええ。その通りです。既存の情報は役に立たない。だからこそ、私たちが独自に情報を収集しなければならないんです」

ケンジは、そう言って皆の顔を一人ずつ見回した。彼の視線は、それぞれの得意分野を見抜くように鋭かった。

「ルリエルさんには、王立魔術院の図書館にある文献を徹底的に洗い出してほしい。たとえ取るに足らない伝説や詩であっても構いません。魔法的な観点から、ワイバーンの隠された弱点を探してください。ゴードンさんには、ワイバーンの巣の位置を特定するための、地形や風向きの情報、過去の目撃情報を統合して、行動パターンを割り出してほしい。そして、シーナさんには……」

ケンジは、そこで言葉を区切り、シーナを真っ直ぐに見つめた。彼の目は、彼女の持つ特別な能力を見抜いていた。

「ワイバーンに関する、騎士団が意図的に隠している非公式な情報、あるいは裏社会に流れている信憑性の高い噂など、あらゆる情報を集めてきてほしいんです」

シーナは、ケンジの言葉を聞くと、口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。

「ふん。ようやく分かったかい、ボス」

彼女は、そう言ってケンジに手を差し伸べる。その仕草は、もはや単なる会議ではなく、密約を結ぶかのように見えた。

「ただ、プロの情報は、タダじゃ手に入らないぜ。特に、騎士団が隠しているような情報なら、な」

シーナの鋭い視線は、ケンジの懐に向けられた。その目には、金銭を要求する明確な意図が宿っていた。

「……プロの情報は、プロから買うしかない。それも、かなりの高値で、な」

彼女の言葉には、確かな自信が漲っていた。シーナは、王都の裏社会に精通している。その情報網は、騎士団や王立魔術院のような公的な機関のそれとは全く質の違う、生々しく、時には命の危険を伴う情報だ。

ケンジは、一瞬、顔を曇らせた。彼の視界(UI)には、ワイバーン討伐プロジェクトの予算が表示されている。そこにシーナが要求するであろう高額な情報収集経費を計上すれば、プロジェクト全体の予算を圧迫することは間違いない。

(……だが、背に腹は代えられない。彼女の情報網は、このプロジェクトを成功させるための、不可欠なリソースだ)

ケンジは、プロジェクトマネージャーとしての冷静な判断で、そのコストを容認することにした。情報収集の失敗は、討伐そのものの失敗を意味する。その代償は、予算の圧迫などよりも遥かに大きい。

「……分かりました。シーナさん。経費はあなたの要求通りに承認します。ですが、その代わり、この情報収集がワイバーン討伐プロジェクトの成功に繋がることを、証明してください」

ケンジは、そう言ってシーナの手に、ずっしりと重い金貨の入った革袋を渡した。その革袋は、彼女が要求した金額を上回る額だった。それは、ケンジが彼女の能力にどれだけ期待しているかの表れでもあった。

シーナは革袋の中身を確認すると、満足げに口角を上げた。

「ふん。任せときな、ボス。プロの仕事ってやつを、見せてやるぜ」

シーナはそう言って、人波に紛れるように夜の闇へと溶け込んでいった。ケンジは、シーナが消えた後も、その場に立ち尽くしていた。彼の心には、ワイバーン討伐という重いタスクと、そして、シーナがもたらしてくれるであろう、未知の情報への期待が渦巻いていた。この一歩が、世界を動かす歯車となることを信じて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...