ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

YY

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第4章:過去の呪縛、絆の証明

第124話:勇者パーティ法人化計画

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世界の真実を知ってから、数日が過ぎた。
ケンジたちが拠点とする安宿の一室は、嵐が過ぎ去った後のような静けさに満ちていた。しかし、それは穏やかなものではない。あまりにも巨大で絶望的な真実を前にした、息を殺すような緊張感だ。

【生命は欠陥なり、故に大いなる消去を始めよ】

ケンジが命を賭して持ち帰った、神の言葉を捻じ曲げる悪意の一行。彼らの本当の敵は、魔王という分かりやすい災厄ではなかった。この世界の設計図を書き換え、そこに生きるすべての生命を「欠陥品」と断じ、消し去ろうとする正体不明の“改竄者(ファルシファイア)”。

途方もない敵の存在を知って以来、仲間たちの間に軽口を叩く者はいなくなった。

部屋の隅の影で、シーナは黙々と短剣を研ぎ続ける。その翡翠の瞳には、かつてないほど冷徹で、深い怒りの炎が宿る。家族と故郷を地獄に突き落としたあの理不尽な悲劇。そのすべての元凶が、たった一行のコードだったという事実が、彼女のプロとしての魂に静かな殺意を研ぎ澄ませていた。

ルリエルは、ケンジが持ち帰った仕様書の写しを、その翡翠の瞳に焼き付けるように見つめていた。彼女が愛し、学んできたこの世界の美しく秩序だった魔法の理。それが、たった一人の悪意によって醜く歪められ、虐殺の道具へと変えられていた。この冒涜的な行為は、魔術師としての誇りを根底から揺さぶる。彼女は唇を固く噛み締め、この世界の歪みを正すという、新たな使命感を胸に刻んでいた。

ゴードンは部屋の入り口に微動だにせず立つ。その心の中では二つの感情が渦巻いていた。兄との絆を取り戻した達成感。そして、守り抜いたはずの故郷も、仲間も、この世界そのものもが、見えざる敵の気まぐれ一つで消え去ってしまうかもしれないという新たな恐怖。彼は二度と、かけがえのないものを失わないために、その守りをより一層固くしていた。

そして、ケンジ。
彼はテーブルの中心で、黙って仲間たちを見つめていた。プロジェクトマネージャーとしての頭脳は、この数日間、休むことなく回転し続けていた。

(……もう、これまでのやり方では、通用しない)

ゴブリンとの戦い、ワイバーンとの死闘、アルタイル商会との経済戦争。
それらは確かに困難な「プロジェクト」だった。だが、それはすべて、目の前に存在する具体的な「課題」を解決するための戦い。
しかし、今、彼らが対峙している敵は違う。姿が見えない。目的も、その正体さえも分からない。

それはもはや一つのプロジェクトなどという生易しいものではない。世界の運命そのものを背負う、終わりも見えない、壮大な「戦争」なのだ。

ケンジは静かに立ち上がった。彼の目の下には深い隈が刻まれ、顔は疲労にやつれている。だが、その瞳だけは、これまでにないほど力強く澄み切った光を宿していた。すべての絶望を受け入れた上で、なお先を見据えるリーダーの覚悟の光だ。

彼は仲間たち一人ひとりの顔を、その目に焼き付けるように見つめた。
そして静かに、しかし有無を言わせぬ力強さで告げた。

「―――これより、最終プロジェクトに関する、キックオフミーティングを開始します」

ケンジの静かな宣言が、部屋の重い空気を断ち切った。
仲間たちの視線が一斉に彼へと集中する。彼らの瞳には、これから語られるであろうあまりにも重い未来への覚悟と、このリーダーが示す道筋への揺るぎない信頼が宿っていた。

ケンジはテーブルに広げられた大陸の巨大な地図を指し示した。そこには、彼らがこれまで戦ってきたすべての場所が赤いインクで記されている。

「まず、我々がこれまで何と戦ってきたのか。その本質を再定義する必要があります」

ケンジの声は冷静だった。だがその響きには、世界の真実を知ってしまった者だけが持つ、静かな熱量が込められていた。

「ゴブリンの群れ、暴走したワイバーン、悪辣な商人ギルド、そして機能不全に陥った古代のシステム。我々はこれらを個別の『バグ』と捉え、対症療法に過ぎなかった対処を繰り返してきた」

彼は仲間たちの顔を一人ずつ見回す。
「ですが、我々が今対峙している敵は、もはや『バグ』ではありません。それは、明確な悪意を持って、この世界のシステムそのものを破壊しようとする、正体不明の『ハッカー』です。我々がこれから挑むのは、個別のインシデント対応ではない。世界の存亡をかけた、非対称な情報戦なのです」

その的確で、そして絶望的な定義に、ゴードンが重々しく頷く。シーナは舌打ちし、ルリエルは唇を噛み締めた。皆が敵のスケールを改めて理解し、喉の奥で息をのむ。

ケンジは、その張り詰めた空気の中で、本題を切り出した。

「そして、そのあまりにも巨大で狡猾な敵を相手にするために。僕は、我々のパーティの体制そのものを、根本から、再定義する必要があると考えています」

そのあまりにも唐突な提案に、シーナが先に口を開いた。
「…体制の、再定義、だと? おいおい、ボス。今さら何を言ってるんだい? あたしたちはあんたの指揮のもとで、これまでだってうまくやってきたじゃねえか」

「そうですわ、ケンジさん!」
ルリエルがすかさず続く。「私たちはもう、ただの寄せ集めではありません。心も、力も一つになっているはずですわ!」

彼らの言葉は当然だった。数多の死線を共に乗り越え、強固な絆で結ばれている。これ以上の何が必要だというのか。

だが、ケンジは静かに、しかしきっぱりと首を横に振った。

「皆さんの言う通りです。我々のチームの結束はかつてないほどに強い。ですが、それだけでは勝てません。我々のこれまでのやり方は、あまりにも場当たり的すぎた」

場当たり的。その言葉に、仲間たちの顔に困惑の色が浮かんだ。

「これまでの我々は、いわば優秀な専門家が集まっただけの、フリーランスの集団でした。発生した問題に対し、その都度、僕が指示を出し、皆さんが卓越したスキルで対応する。確かに、そのやり方で多くの危機を乗り越えてきた。ですが、そのやり方には致命的な欠陥がある。それは、すべての判断が、僕というたった一つの頭脳に依存しすぎている、ということです」

彼は自らの限界を、初めて仲間たちの前で正直に告白した。
「敵は我々の想像を遥かに超える存在です。僕一人の思考能力では必ず限界が来る。その時、我々のチームは機能を停止してしまうでしょう」

ケンジはそこで一度言葉を切った。そして、自らが描く未来のチームの姿を力強く提示した。

「我々は、一つの目的のために機能する、完全な『組織』になる必要があります」

その言葉に、ゴードンが門番のような立ち位置から一歩踏み出した。彼の重々しい視線がケンジに注がれる。ルリエルが息をのみ、シーナがフードの奥で目を細めた。

「フリーランスの集団から、プロフェッショナルの、法人へ。僕たちは、勇者パーティを、“法人化”するのです」

そのあまりにも突拍子もない、そしてどこまでも彼らしい提案。
それは、彼らがただの冒険者であることをやめ、世界の運命そのものに責任を負う、唯一無二の専門機関へと生まれ変わることを意味していた。

仲間たちはただ呆然と、その言葉のあまりにも壮大なスケールに、圧倒されることしかできなかった。
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