俺の完璧な潜入作戦が、いつも謎の令嬢にめちゃくちゃにされる件について

YY

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第1話:密命を帯びし騎士

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王城の光は、全ての部屋を照らしはしない。
俺、ゼノンは、窓一つない石造りの一室で、机の向こうに座る影と向き合っていた。蝋燭の頼りない灯りが、部屋の隅に溜まった埃を照らす。ここは、騎士団の華やかな詰め所ではない。王国がその存在を公式には認めない、暗部のための執務室だ。

「――これを」

影…俺の上官は、低い声でそう告げると、一枚の分厚い羊皮紙を滑らせてきた。儀礼的な挨拶でも、定例の警護任務の詳細でもない。記されていたのは、ただ一言、簡潔な命令。

『魔導結社〝ノクティス〟の動向を探れ』

与えられたのは、汚れ仕事――『密命』。王国という大樹に巣食う害虫を、誰にも知られず、光の当たらぬ場所で駆除する。それが、俺たち暗部に所属する騎士の役目だ。そして、この任務はいつもと同じく、俺一人に委ねられた。

執務室を出て、磨き上げられた大理石の廊下を歩く。きらびやかな装飾、談笑しながらすれ違う貴族や騎士たち。彼らが享受するこの平穏は、俺たちが影で流す血と汗によって成り立っている。だが、その事実を知る者は少ない。それでいい。光が強ければ、影もまた濃くなる。それが、この世界の理だ。

俺は、命令書に記された名…〝ノクティス〟という単語を、頭の中で反芻する。その名は、騎士団の中でも禁忌に近かった。表向きは、数年前に俺たち特殊部隊が中枢を叩き、完全に壊滅させたはずの組織。貴族社会の裏側に深く根を張り、禁忌の魔術で富と権力を貪り、果ては王国の転覆まで企んでいた、悪性の腫瘍。

その残党が、再び不穏な動きを見せている。奴らの手口は巧妙だ。表社会では善良な市民や貴族を装い、裏では政敵の暗殺、禁制品の密売、非人道的な魔術研究と、あらゆる悪事に手を染める。一度は断ち切ったはずの根が、再び芽吹き、この国を内側から蝕もうとしている。

俺の任務は、その実態を掴み、芽が大きく育つ前に根こそぎ摘み取ること。失敗は許されない。奴らの計画を看過すれば、王国は気づかぬうちに内側から崩壊し、この平穏は音を立てて崩れ去るだろう。重い責務が、いつものように肩にのしかかる。だが、感傷に浸る暇はない。俺がやるべきことは、ただ一つ。任務を遂行すること、それだけだ。

自室に戻り、俺はこれまでに集めた結社に関する資料を、壁一面に広げた。だが、捜査は膠着していた。奴らはあまりに用心深く、尻尾を掴ませない。数週間、ほとんど眠らずに情報を洗い直したが、得られたのは些細な噂ばかり。焦りが、胸の内で黒い染みのように広がっていく。

そんな折、一人の部下が、一枚の報告書を手に飛び込んできた。

「隊長、動きがありました」

もたらされたのは、膠着した状況を破る、一つの光明だった。近々、王立アカデミーで大規模な校外演習が行われる。王侯貴族の子弟が参加するその行事に、〝ノクティス〟の関係者が紛れ込んでいる可能性が極めて高い、と。

(アカデミーの、校外演習…)

学生たちの、平和で呑気な野外活動。それが、俺にとっては諜報戦の最前線へと変わる。ようやく掴んだ糸口だ。これを逃すわけにはいかない。俺は直ちに上官へ報告し、新たな指示を仰いだ。

返ってきた命令は、俺の予測通りのものだった。

「演習の警護騎士に扮し、対象を特定せよ」

表向きは、未来ある若者たちを魔物から守る、名誉ある盾。裏では、王国を脅かす見えざる敵を探し出し、切り捨てるための、冷徹な刃。二つの顔を使い分け、学生たちの輪に紛れ込み、結社の影を暴き出す。俺が最も得意とする任務だ。

俺は、自室で手入れを続けていた漆黒の鎧を身に纏う。光を吸い込むような、夜の闇そのものを鍛え上げたかのような鎧。それは、俺が〝漆黒の騎士〟と呼ばれる所以であり、幾多の影を葬ってきた、相棒ともいえる存在だ。

準備を終え、俺は王立アカデミーへと向かう。待ち受けるのが、狡猾な魔術師か、手練れの暗殺者か。あるいは、善良な学生の皮を被った、内なる敵か。いずれにせよ、やることは変わらない。この任務、抜かりなく遂行するのみだ。

まだ、この先に待ち受ける最大の『厄災』を知る由もなく――。

俺はただ、眼前に迫る任務のことだけを考え、静かに馬を進めた。
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