俺の完璧な潜入作戦が、いつも謎の令嬢にめちゃくちゃにされる件について

YY

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第8話:監視対象の暴走

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公爵令嬢リリアーナの監視任務が始まって数日。俺の日常は、二つのまったく異なる戦場に引き裂かれていた。

一つは、王国を蝕む結社『ノクティス』との、影の戦い。そしてもう一つは、あの理解不能な令嬢との、神経をすり減らす戦いだ。この二つの戦場は交わるはずがなかった。だが現実は非情だ。彼女という存在が、二つの戦線を無理やり連結させ、俺の精神を両側から侵食し始めていた。

本来の任務は、待ってはくれない。情報部から、結社の末端構成員が学園周辺で動きを見せているという情報がもたらされた。俺は直ちにそいつの追跡を開始する。もちろん、最重要監視対象であるリリアーナから、一瞬たりとも目を離さずに、だ。

一つの頭で、二つのまったく違う事象を同時に追う。右目で結社の男の微かな動きを追い、左目でリリアーナの突飛な行動を警戒する。それは、拷問に近い任務だった。集中力が分散されれば、どちらも見失う。俺がこれまで培ってきた全ての技術が、この無意味な状況で無駄に消費されていく。

俺が結社の男の動きをうかがっていると、必ず、視界のどこかにあの女、リリアーナが現れる。

物陰から男の接触相手を待てば、彼女は少し離れた場所で、なぜか懐中時計を片手に衛兵の交代時間を熱心に計測している。それだけではない。スケッチブックには、衛兵の巡回ルートや監視の死角となる柱の位置まで、驚くほど正確に書き込まれていた。

俺が男の逃走経路を予測し、先回りしようとすれば、彼女は建物の構造を、専門家のような緻密さでスケッチブックに書き写している。窓の配置、壁の厚さ、屋上への最短経路。まるで、これからこの建物に侵入でもするかのような、周到な調査だった。

その行動の一つひとつは、俺が特殊部隊で叩き込まれた諜報員のそれと酷似していた。潜入、情報収集、そして状況分析。彼女の動きには、素人とは思えないほどの周到さと目的意識が感じられた。

(やはり、結社の協力者か…?)

その疑念が、俺の中で再び色濃くなっていく。彼女は俺と同じように、この学園で何らかの諜報活動を行っている。そしてその目的は、俺とは正反対のところにある。そう考えれば、これまでの不可解な行動すべてに説明がついた。あの無邪気な笑顔も、常軌を逸した言動も、すべてはこの諜報活動を隠すための完璧な擬態なのだ、と。

そう、思いかけた矢先だった。

彼女は、仲間らしき令嬢たち――確か、先日彼女が「同盟」を結成すると叫んでいた時のメンバーだ――を集めると、こともあろうに、白昼堂々、人目につく庭園の真ん中で「作戦会議」を始めたのだ。

その声は、拡声器でも使っているのかというほど大きく、庭園中に響き渡っていた。

「同志の諸君!これより、『オペレーション・フェライン・エクスプレス』の第一段階を開始いたしますわ!」

意味不明な作戦名を、彼女は連呼している。隣では、一人の令嬢が頭を抱え、もう一人の侍女は胃のあたりを押さえている。どう見ても、まともな会議ではない。

諜報活動の基本である隠密行動という概念が、彼女の頭の中にはまったくないらしい。あれが演技だとしたら、あまりにもふざけすぎている。

一体、何なんだ、あの女は。

やっていることは、一流のスパイのように周到で、計算高い。

だが、そのやり口は、三流以下の道化のように、派手で、無防備だ。

高度な訓練を受けた工作員が、俺を欺くために、わざと馬鹿を演じているのか?だとしたら、彼女は俺が想像する以上に危険な敵だ。俺の常識や警戒心を逆手に取る、恐るべき心理戦を仕掛けてきていることになる。

それとも、ただの、どうしようもないほどの馬鹿が、偶然にも核心に近い場所をうろついているだけなのか?だとしたら、それはそれで別の意味で危険だ。予測不能な行動で、いつ俺の任務を根底から破壊するか分からない。制御不能な災害のようなものだ。

「結社のスパイか?それとも、ただの馬鹿か?」

俺の思考は、その二択から完全に抜け出せなくなっていた。

どちらにせよ、厄介なことこの上ない。俺は、遠くで高らかに笑う彼女の姿を睨みつけながら、深く、重いため息をついた。
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