俺の完璧な潜入作戦が、いつも謎の令嬢にめちゃくちゃにされる件について

YY

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第21話:王都の不穏な空気

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王都に到着した。

陽光を浴びて輝く白亜の王城、活気に満ちた大通り、着飾った貴族たちの華やかな馬車。見かけは平和そのものだ。しかし、俺の目には、その光が生み出す濃い影が見えていた。裏社会に流れる空気は淀み、路地裏の闇には、猜疑と欲望の匂いが染みついている。大通りの喧騒は、まるで巨大な生き物の呼吸のようだ。その呼気には富と繁栄の香りが混じる一方で、吐息には見過ごされた者たちの澱んだ溜息が感じられる。この国の心臓部は、見えない病巣に蝕まれ始めている。

俺は公爵家が用意したという過剰に豪奢な屋敷にリリアーナ嬢を送り届けると、すぐさま夜の街へと溶け込んだ。情報屋との接触。奴が指定した安酒場は、むせ返るような汗と安酒、そして煮込み料理の匂いで満ちていた。こういう場所こそ、情報の交差点となる。俺は隅の席で、外套のフードを目深に被り、存在を消す。やがて現れた情報屋は、ネズミのように絶えず周囲を窺い、俺の前の席に滑り込んだ。

「…思った以上に、根が深い」

情報屋は震える声でそう告げた。すでに結社『ノクティス』の痕跡が、市内の複数箇所で確認されている、と。貴族街のサロンでは、彼らの息のかかった者が有力貴族の醜聞を収集し、それを元に脅迫を行っている。港の倉庫では、禁制の魔道具が密かに取引され、その利益が奴らの活動資金となっている。そして、最も憂慮すべきは、王城に納品される物資の中にまで、奴らの息がかかったものが紛れ込んでいるという事実だった。「奴らは、もはやただの秘密結社じゃない。王都の血流にまで巣食う寄生虫だ。どこを切っても、奴らの毒が噴き出してくる」。

一刻も早く、本格的な調査を開始せねばならない。俺は静かな緊張と共に、決意を固めた。

本来であれば、俺は闇に紛れ、誰にも気づかれずに情報収集を行うはずだった。夜は俺の領域だ。影から影へと渡り、敵の懐に深く静かに潜行する。それが、俺のやり方であり、俺が王国暗部として存在価値を示してきた唯一の方法だ。だが、今の俺には「リリアーナ様の護衛」という、光の当たる忌々しい任務がある。

翌日から、俺の捜査は開始と同時に頓挫した。

その監視対象は、なぜか常に俺の腕を組み、片時も離れようとしないのだ。まるで、俺が逃げ出さないように監視しているかのようだ。どちらが監視対象なのか、分からなくなる。「護衛対象から離れるなど、騎士としてあるまじき行為」という正論を振りかざされれば、俺も無理に振り払うわけにはいかない。

「ゼノン様、あちらのケーキ屋さんが素敵ですわ! 王都で一番と評判ですのよ! わたくし、あそこのミルフィーユをあなた様といただくのが夢でしたの!」

「まあ、この通りは、なんてロマンチックなのでしょう。恋人たちのための道のようですわね! まさに、わたくしたちのためのデートにぴったりですわね!」

…仕事にならん。

俺が、大通りを行き交う群衆の中から結社の協力者と思わしき男、高価な宝石を不釣り合いなほど身につけた羽振りの良さそうな商人の姿を捉え、その動向を追おうとすれば、彼女は「あら、あんな怪しい方より、こちらの宝石店を見ましょう!」と、俺の腕を力強く引きずる。その無邪気な力は、鍛え上げた俺の体幹をしても無視できないほどに厄介だった。「あなた様にふさわしいカフスボタンを探して差し上げますわ! 漆黒の鎧に合うのは、やはり夜空色のサファイアかしら!」などと叫び、俺は人々の生暖かい視線に晒される羽目になる。その注目は、隠密行動の天敵だ。

俺が、情報屋との次の接触地点である人通りの少ない寂れた裏通りへ向かおうとすれば、「まあ、なんて寂しい場所なのでしょう! こんなところに、わたくしたちお二人きりだなんて…! もし悪党に襲われたら、危険ですわ!」と、静かな路地に響き渡るほどの大声で叫ぶ。その声に、物陰に潜んで俺を待っていた情報屋の気配が、驚いた猫のようにさっと消えた。貴重な情報源が、また一つ潰えた。

同行するリリアーナという存在が、邪魔すぎて、捜査が全く進まない。

彼女は、俺の任務を妨害するために、神が遣わした厄災か何かなのか。彼女の行動には悪意がない。それどころか、善意と好意に満ち溢れている。だからこそ、手に負えない。悪意ならば斬り捨てられるが、善意はただ受け流すしかないのだから。

このままでは、情報を集めるどころか、俺の正体が結社に割れるのも時間の問題だ。いや、それどころか、王都の民衆に「公爵令嬢と白昼堂々イチャつく不真面目な騎士」として、俺の顔が完全に覚えられてしまうだろう。そうなれば、俺の暗部としてのキャリアは終わる。王国暗部の騎士が、ゴシップ記事の主役になるなど、前代未聞の失態だ。

どうにかして、この女を屋敷に閉じ込めて、単独で動く時間を捻出しなければ。病気を理由にするか? いや、彼女なら「わたくしがつきっきりで看病いたしますわ!」と、特製の(そしておそらく致死量の)薬草を手に押しかけてくるだろう。緊急の呼び出しがあったと嘘をつくか? それも、彼女なら「パートナーであるわたくしも参ります!」と、目を輝かせてついてくるに違いない。あらゆる策が、彼女の善意の前に無効化される未来しか見えない。

俺は、腕にまとわりつきながら「次はどこへ参りましょうか?」と、花が綻ぶように無邪気に微笑む彼女の笑顔の裏で、心底うんざりしながら、次の一手を考えていた。この女の管理は、結社の幹部を一人暗殺するよりも、よほど困難な任務かもしれん。
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