俺の完璧な潜入作戦が、いつも謎の令嬢にめちゃくちゃにされる件について

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第28話:護衛団の噂に戦慄

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上層部の非情な「囮作戦」を拒否した手前、俺は自力で結果を出さねばならなかった。俺の騎士としての矜持が、俺自身を追い詰めている。だが、後悔はない。騎士の道に反する作戦で得た成果など、何の価値もない。俺は王都の裏社会に張り巡らせた情報網を駆使し、地道な捜査を続けていた。酒場の噂、チンピラの密告、闇市場の金の流れ。その全てを繋ぎ合わせ、一つの線を見つけ出す。それは、闇の中に散らばった無数の砂粒の中から、たった一粒の黒い石を探し出すような、気の遠くなる作業だった。だが、それこそが俺の専門分野だ。そして、ついに結社の連絡係の一人が、活気あふれる中央市場で情報を受け渡すという情報を掴んだ。

俺は、王城の地下にある冷たく湿った尋問室で、男と向き合っていた。石壁を伝う水滴の音だけが、重い沈黙を刻んでいく。男の口は固く、結社への忠誠心か、あるいはそれ以上の恐怖によってか、当初は俺の問いに何も語ろうとしなかった。だが、沈黙は俺の専門分野だ。俺はただ、無言で男の目を見つめ続ける。時間だけが過ぎていく中で、男の額にじわりと汗が滲み、やがてそのダムが決壊するかのように、ぽつり、ぽつりと情報を漏らし始めた。

地道な捜査は、着実に進んでいる。男の口から引き出した情報は、パズルのピースのように、少しずつではあるが、確実に結社の全体像を浮かび上がらせていた。王都内に隠された複数の武器庫の場所、貴族社会に深く潜み、奴らの活動に資金援助を行っている協力者の名、そして次の計画…王族の誰かを狙った、大規模なテロの断片。俺の頭の中では、光り輝く王都の地図が、どす黒い染みで次々と汚されていく。事態は俺の想像以上に深刻だった。

その一方で、俺の元には情報部から、本筋とは別に、にわかには信じがたい報告が、日に日に山のように積まれていった。それは、結社の脅威とは全く質の異なる、だが無視できない不穏な動きを示す報告書だった。最初は、疲労が見せた幻覚か、ただの笑い話として片付けていた。だが、その報告の数は、もはや現実として認めざるを得ないレベルに達していた。

「隊長、こちらを…」

部下の一人が、気まずそうな、そしてどこか深い同情を浮かべた顔で差し出してきたのは、王都の治安状況に関する最新の報告書だった。その羊皮紙は、他のどの報告書よりも妙に厚みがあり、不吉な存在感を放っていた。

王都で、特定の個人を崇拝する謎の集団が、急速に勢力を拡大している、と。その活動は日に日に過激化し、王城の警備隊や騎士団も看過できないレベルに達しつつあるという。最初は学園内での一部の生徒の悪ふざけと見られていたものが、今や明確な社会問題となりつつあった。

報告書を読み進める俺の動きが、止まった。指が、羊皮紙の上で凍り付く。血の気が、すうっと引いていくのが自分でも分かった。

その集団の名は、『ゼノン様護衛騎士団』。

…俺の、名前。

活動内容は、報告書によればこうだ。『対象(俺)の動向を分刻みで記録し、独自の暗号を用いて日報として共有』…つまり、組織的かつ計画的なストーキング。『対象に半径五メートル以内に接近する全ての女性を、潜在的な脅威とみなし、あらゆる穏便かつ陰湿な手段を用いて物理的に排除』…先日、俺が情報交換のために接触した情報部の女性騎士が、翌日、自宅の玄関に山のような黒薔薇の花束と「漆黒の騎士に近づく蝶は、その羽を毟られるであろう」という脅迫状(ただし、驚くほど流麗な美しい花文字で書かれていたらしい)を受け取って卒倒した一件も、こいつらの仕業か。そして、『対象を狙うと(彼らが一方的に思い込んでいる)敵対者の捜索と、独自の判断による捕縛、及びキャベツによる制圧』…先日、俺が何時間もかけて追っていた結社の連絡係を捕らえた、あの常軌を逸した一件のことだろう。

…学園でのあの狂気の集会が、ついに王都にまで進出し、実体を持つ制御不能な脅威と化してしまったというのか。

報告によれば、メンバーはもはや学園の生徒だけでなく、王都の一部の有力貴族の子弟まで含まれているという。侯爵家や伯爵家の、有り余る時間と財産を持て余した連中が、この最も危険で馬鹿げた遊びに加担している。そして、その常軌を逸した集団の統率者は、もちろん、リリアーナ・フォン・エルドラド。

俺は、報告書を机に置き、天を仰いだ。

あの女は、俺の名を無断で使い、王都に私設の軍隊を作り上げた。国家への反逆罪に問われかねない、危険極まりない行為だ。万が一、この集団が暴走し、他国の外交官にでも「ゼノン様をいやらしい目で見た」などという理由でキャベツを投げつけてみろ。即座に国際問題に発展しかねない。だが、彼女とその信者たちに、その自覚はおそらく微塵もないのだろう。なぜなら、その行動原理は、国家への忠誠でも、法でも、正義でもない。論理ではなく、「愛」だか何だかだ。予測も、制御も、不可能だ。

俺は、隣で次の報告を待っていた部下に、心の底から真顔で告げた。

「…結社の暗殺部隊より、こちらの方が危険だ」

部下は、俺の言葉の意味が分からず、ただ困惑した表情を浮かべている。だが、これは冗談でも比喩でもない。俺の本心からの分析だ。

結社『ノクティス』には、国家転覆という、まだ理解可能な目的がある。奴らの行動には、邪悪な悪意と、そして冷徹な論理がある。だからこそ、その動きを予測し、対策を立てることができる。奴らは、プロの犯罪者集団だ。

だが、あの集団にはない。あるのは、リリアーナという名の、予測不能な混沌(カオス)だけだ。善意と勘違いだけで構成されたその行動は、どんなテロよりも予測が難しく、そして甚大な被害をもたらしかねない。プロの悪意より、武装した素人の善意の方が、よほど手に負えないのだ。

王都の平和は、今や二つの脅威に晒されている。

一つは、闇に潜む結社『ノクティス』。そしてもう一つは、光の中で俺の名を高らかに叫ぶ、俺自身の狂信者集団だ。

俺の頭痛は、もはや薬では治まる気配を見せなかった。
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