上 下
22 / 25

正体を隠すべし!

しおりを挟む
 僕が話し終えた部屋はシーンと静まり返っていた。みんながこちらをじっと見ている。

「ね、面白い話でもないでしょう?」
「……そう、だな。……ヴィント殿はその、つらいとか思ったりしなかったのか?」
「特には。それが普通だったし」

 その言葉にまた部屋は静まり返った。
 しまった。また空気を悪くしてしまった。僕は空気を読むということができないらしい。

「あ~……。ほんとに気にしなくていいよ?大丈夫だから」
「……ヴィント。お前はその、女扱いされるのは嫌とかあるのか?」
「ううん。ないよ」
「そうか」

 テオがほっとしたような顔を見せた。
 みんな気にしてくれてるようだけど本当に僕は大丈夫なんだよね。小さいころから当たり前だったし。それに嫌もいいもないっていうか。まあ、みんなの気遣いはありがたく受け取らせてもらうけどね。

 しかし、この城にしばらく置いてもらうことになったのは別にいいけど他の貴族とかは気になるな。僕がヴァンパイアだっていうのは見た目ですぐばれるだろうし……。どうしたものか。目の色を変える魔法とかあるかな?
 なくてもせめて公の場で目を隠す許可が欲しい。ばれるとロレンツ君みたいなめんどくさいのが出てきそうだし。

「ねえ、見た目を変える魔法ってある?」

 皇帝がしばらく考え込む。

「……聞いたことがある。たしか東の異国に見た目を変える不思議な術があると。すまない。どのようなものかは詳しくは私も知らないんだ」
「そっか。じゃあ他の貴族に城の中で会うとあまりよくないでしょ?目を隠して過ごす許可が欲しいんだけど……」
「うむ。それは構わないが……。どうするつもりだ?」
「布か何かで目隠ししておくよ。僕とミリアンヌの感知スキルのレベルは結構高いからね。相当な隠密スキルがないと僕たちに見つかるだろうし、日常生活に全く支障はないよ」

 僕の発言にミリアンヌも後ろでこくりと頷き、ユアン皇国側も納得したようだった。

「貴族と城の中で鉢合わせた場合はどうしたらいい?僕たちのことはなんて説明するの?ヴァンパイアだってばれるのは僕たちも、そっちとしても良くないでしょ?」
「そうだな……。ふむ。身分は明言せずに異国から来た尊き身分の者、と知らせておくのはどうだろう?」

 尊き身分の者……。なんか恥ずかしいけどなかなかにいい考えかもしれない。相手からすれば尊き身分、つまり王族かもしれないと疑うだろうからこちらに対して失礼な言い振る舞いはできなくなるだろう。

「いいと思うよ。後は僕たちの正体を知っている騎士団に箝口令でも敷けば大丈夫じゃない?誰かがばらさない限り」
「そうだな。といっても騎士団の一部の者にしか正体も知られていないだろうから再度言い聞かせておこう。テオ、頼んだぞ」
「はっ!」

 皇帝の言葉にテオが姿勢を正す。
 おぉ、なんかテオが騎士っぽい。いや、騎士団長なんだけども。

 とりあえず、僕たちの正体はばれたらダメってことで。
しおりを挟む

処理中です...