冷えた肌にぬくもりを

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冷えた肌にぬくもりを

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――梅雨の季節。

 日本列島はどこもかしこも雨だった。樹理が住んでいる田舎でも、雨はザアザアと降っていた。

「困ったな……」

 窓を眺めながら、ぽつりと樹理は呟く。

 毎朝ニュースも見るし、もちろん天気予報だって確認する。それなのに、だ。今日に限って、樹理は天気予報を確認せず家を出てしまった。理由は寝坊である。情けなくてため息が出る。

 眺めていても雨はやまない。クラスメイトも帰ってしまったようだ。しょうがない。ずぶ濡れになって帰るしか方法がない。樹理はカバンを持つと、教室を出た。


 土砂降りの雨は樹理のシャツも、身体も濡らしていく。前髪からぽたりと雨粒が落ちていく。シャツが身体に張り付いて気持ち悪いし、良いものでは無い。それでも雨の中をこうやって歩いていくしかないのだ。

 とはいえ、雨足が強くなって、横殴りの雨に変わってきた。風も少し吹いてきたし、これで前に進むのは少し気が引ける。適当な軒先で雨宿りすることにした。


 濡れたシャツが体温を奪っていく。六月といえど、水に濡れれば寒い。両手で腕をさする。

「なにしてんの?」

 寒い寒いと思っていた時、ひょっこりと現れたのは、樹理の恋人、透だった。

 透は、樹理の一個上の学年だ。受験生である為、下校時間が違うし、透は部活にも所属しているから、なかなか一緒に帰れないでいる。透は軒先に入ってくると、ずぶ濡れの樹理を見て、目を見開く。

「お前、タオルとか持ってないの?」

「透みたいに部活入ってねえから、ンなのいちいち持ってねえよ」

「まったく呆れた。体育の時とか汗かくだろうに」

 透は肩にかけていた、エナメルのスポーツバッグを地面に置くと、ごそごそとタオルを取り出す。そして樹理の頭に被せるとわしゃわしゃと頭を拭い始めた。

「わっ!少しは、優しくしろよ」

「文句言うな」

 透のおかげで樹理の髪の毛は少しだけ乾いた。

 樹理の濡れたシャツに目線が行く。シャツが透けて、肌が見えている。滴る水がいやらしい。こんな時になんてこと考えているのだろうと煩悩を消す。

 タオルでは追いつかない。どうすれば、樹理を、一時的に温められるのだろうか。少し思案したのち、透は樹理を抱きしめた。

「いきなりなにっ……、ってか!濡れる!」

「いいから。黙って俺に抱かれててよ」

 その言い方は照れるだろと樹理は肩口で言う。人肌を温めるには人肌だ。自分の服が濡れてもいい。

 樹理が少しでも、暖かくなれば――

樹理もぎゅうと強く抱きしめてきた。

「あったかい……、とおる、あったかいね」

「もっとあったまってよ、樹理」

 少し距離を取って、お互い見合うと、自然な流れで、唇を重ね合わせる。

 樹理の唇は少し濡れていて、冷たかった。

啄むようにして、まるで子供の遊びみたいなキスをする。樹理の唇をべろりと舐めると、樹理は口を少しだけ開いた。そこからにゅっと舌を挿入させる。あれだけ冷たかったのに、口内は暖かくてとろけそう。舌で執拗に口内をまさぐる。舌同士を絡めて、吸って。上顎を舌先でくすぐると、樹理は鼻に抜ける声を出した。それで透は気分がいい。

 ザアザアと降る雨の中で、くちゅくちゅと水音が小さく響く。

「あったまってきたじゃん……別の意味で」

 樹理の頬をゆるく撫でる。赤く上気していて、さっきまで冷えていたとは思えない。

「……透のせいだし」

「じゃあなによりだ」

 透はにやりと口角を上げた。そしてまたエナメルバッグを探ると、折り畳み傘を取り出してきた。

「俺はお前と違って、折り畳み傘持ってるからな」

「一言多い。――まあ、ありがとう」

 パッと傘を開くと、自然に二人は中に入る。折り畳み傘なので、当然互いの肩が出てしまう。それでも、少しでも雨避けにはなってくれるからないよりマシだ。

「俺んちおいで。お風呂入りなよ」

「……どうせ、さっきの続きしたいんだろ。盛りやがって」

「それは樹理だってそうじゃないの?」

顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。それにまた透は笑う。

梅雨でも、こんなことがあれば、嬉し楽しい。
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