守護者契約~自由な大賢者達

3・T・Orion

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おまけ 護衛契約書は大切に保管される 4

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モーイから…心配し思い遣る気持ちを向けられても、フレイリアルの意思が揺らぐ事は無く…思い秘めたまま1人立つ。

「私は此のまま…内在するリーシェと大賢者として2人で1人、終わり迎える日まで協力し…単独で過ごすつもりだよ。いずれリーシェが完全に統合された助言者コンシリアトゥールとなり…真実1人となったとしても、心強く持てば良いだけだから大丈夫だよ」

とてつもなく寂しい事を…笑顔で軽く語るフレイリアル。
モーイは心の奥底が締め付けられるような気分になる。

「リーシェは、私が寄り添うべき…隣に居たい相手だよ。たとえ寂しさが生まれるとしても…此の先後悔はしないつもりだよ…」

大賢者である事を受け入れ…長き時を過ごす覚悟も見える。
迷いや不安がある癖に、全て承知の上でのフレイリアルの決断。

フレイリアルがリーシェライルのみを見つめる理由。
思い思われる優しく繋がる思いと、差し出された犠牲に対する贖罪…とでも言えそうな2つの強き思いがフレイリアルの中に存在する。

リーシェライルは、フレイアルに初めて救いの手を差し伸べたモノである。
其の上…フレイリアルの巫女として失われそうになっていた命を…大賢者の命として新たに繋げるべく、リーシェライルは身の内の賢者の石を取り出し…捧げ…救った。

命捧げる…と言う見える形の犠牲は、リーシェライル自身が犯した罪への償いであり…決してフレイリアルに責のあるものではない。
それでも、感謝と負い目がフレイリアルを絡めとる。

命を賭しリーシェライルが創造したのは、フレイリアルを柔らかに捕らえる…足枷。
贈られた思いと繋がる。
目に見えぬ最大最強の鎖が、フレイリアルを縛り上げ…拘束する。
外からも内からも見えぬ此の連環は、意図無き結果なのか…目論見通りの成果なのか…リーシェライルだけが知る。

「それって本当に何処にも偽りの無い…フレイ自身の思いか? 近くにあっても近付けないし…いずれ同一化しちゃう存在なんだぞ? 結局1人と変わらないじゃないか! 其の贖いで気が晴れるのか? 一方が耐えて至る状態なんて歪なんじゃないのか?」

内在するリーシェライルが、フレイリアルにとって厳密に他者でない事をモーイは真に理解する。
だからこそ、フレイリアルの頑固な…自身拘束するような思いを切り崩したかった。

大賢者ではないモーイは、内なる存在など持たぬ。
だが…ヴェステで瀕死状態に陥った時、生き延びるため人形化したモーイが置かれた場所…其れがニュールの意識下だった。
だからこそ、モーイは其の在り方を知る。

意識下に存在する内なるモノとは…心寄り添う非常に近しき存在であるが、決して触れる事叶わぬ…遠きモノ。
外側から見つめるしかない存在なのである。
他者なのに…他者に成りきれぬ曖昧な距離感持ち、いずれ同一化の道を辿る。
だからこそモーイは心配しているのだった。

「リーシェはちゃんと私に寄り添っていてくれるよ。それに仲間は沢山いるし…作れるし…寂しくない…と思う」

何か表面だけを掠めるような…モヤッとする気持ち沸き上がるが、モーイは其れ以上問い詰める事はしなかった。
その代わりに、もう一度…フレイリアルを引き寄せ…抱きしめる。
只…受け入れ、強要も…叱咤も…強いる思いは手放す。

「それでも…フレイには長い道が続くんだ、常に自身の思いに正直に…慎重に選べ…」

力無き願いと思いだけを残して…。

「義務とか犠牲と言った…諸々の重しが消え、純粋に心から納得いく答えを得たら…また聞かせてくれ。それまでアタシが生きてる内なら、遠くにいようが…寂しくなったらアタシが寄り添ってやるからさ! 何時でも飛んでこい!」

「……あ…りがとう…」

少し言葉詰まらせ謝意を伝えるフレイリアル。
フレイリアルの心の中にある纏まらぬ思いを…全てひっくるめ、モーイは優しく包み込むのだった。


2人だけの女子会も終盤、他愛のない近況語りながら用意したものをつまみ…そのまま微睡そうな緩やかな時過ごす中…モーイが突然シャキリとした雰囲気で申し出る。

「所で…提案が有るんだけど…」

恋話も…深刻で真面目な話も…女子的戯れも…飲み食いも、一通り満喫した。
十分に遊び心満たし…盛り上がりを堪能した後であり、大概の内容ならば…今度ね…と言う気分になったであろう。

「帰る前にモモに会いたいなっ…て、会えたら嬉しい…と思ったんだ…」

「私も思ってた!!」

寝転がったまま…ダルダルな雰囲気の中…モーイが持ち出した新たなお楽しみ案。
一気に新たな気分が満ち満ちて瞳煌めき冴えわたる2人、ゆるりと眠りに落ちる流れは泡と消え去る。
ガバリっと起き上がり、顔を見合わせ再び話始める。

「ヤッパそうだよな! 折角なら3人女子会も有りだよな!!」

「うんうん!!」

大きく頷くフレイリアル。
そして少し首を傾げ思案した後、計画を持ち出す。

「直接行っちゃおうか」

「ニュールが帰国日はずらさない…って言ってたが、大丈夫そうか?」

「明日出発して1泊して戻れば良いんじゃない?」

「なぁ、ニュールも連れてかないか? モモも会いたがると思うんだ」

更なる提案に喜ぶが、少し驚くフレイリアル。

「そうだね。ニュールってば無理やり動かさないと逢いに行きそうもないもんね!」

そして…モーイの表情覗き込む様に確認の言葉発する。

「…でも、モーイは良いの?」

先程の話の流れから…モーイがミーティを共に歩むものとして視界に入れた事、そしてニュールへの思いが違う形に変化しつつあるが…未だ恋情の欠片残ると言った感じである事。
フレイリアルは察する。
自身に向けられる思いに対しては相当鈍い癖に…他者には妙に感が働く、此の微妙な鈍さが無意識複数モテ女子の定番能力なのかもしれない。
モーイはフレイリアルの配慮を覆すように、強気に振る舞う。

「完全に吹っ切れた訳ではないけど、自分の思いが変化した自覚もあるんだ。だから此の際…ニュール自身にもう少し自覚してもらうのと、モモの不安や色々な思いを学習してもらう機会になってのも良いのかなぁ…っと思ってる」

「そうだよね! さっきミーティへの熱烈な思いを聞いちゃったし、ニュールなんて過去の話だよね」

「ばっ、馬鹿言うな! 熱いのは向こうであってアタシじゃない」

「へぇーえ、ほぉーお。モーイの気持ちは普通~なんだぁ」

「あぁ、勿論さ! アッ…アタシの愛情を手に入れるなんて、10の年早いぞ」

自身の心情を把握したモーイは、自覚した故に虚勢張る。
もっともバレバレである。
良い機会とばかりに、フレイリアルはモーイを揶揄う。

「でっもぉお~モーイってばぁ年下は却下…とか言ってたのに、ミーティだってチョビっと年下だったよねぇ。そ・れ・な・の・に…、ミーティは受け入れちゃうってぇ…熱い思いがある…ってことじゃないの?」

「ミーティは1の年程度の差だから、年下じゃなくて同い年だ!」

言い訳が無理矢理で、何だかモーイが可愛い。

ニュールが何を思い留まるっているのかは、完全に普通の人間であるモーイであろうと…御同類の大賢者であるフレイリアルであろうと簡単に察しはつく。
其の能力や境遇…自身の存在そのものへ大切な者を巻き込むことへの、恐怖と戸惑いと罪悪感。
そしてモモハルムアとの間にある年齢差。
たとえ魂引かれるような存在であったとしても、現実が変わる事は無い。

もっとも年齢差は、ニュールが世界の外側に足を突っ込むモノであるが故…日々縮まっていく。
結局1歩踏み出し…境界を越えるか越えないか選ぶのは、自分自身の判断1つ。

だからこそ…引け目抱える心情理解しつつ、容赦しない2人。
腹を括りはじめた女子の行動は手強いのだ。

「へへっ、こんな感じで進めると良いんじゃないかと思ってる…」

2人しか居ないのにモーイはフレイリアルに顔寄せ耳元へ近付き、コショコショ小声で伝える。

「…で、…………て………って感じ」

「ソレ良いね! 私も賛成!! モモもきっと大賛成だよね」

「あぁ、モモは結構大胆だからな。ノリノリだと思うぞ」

「半日で連絡出来るかな…リーシェに手伝ってもらって…。あっ、リーシェも一緒に行くように誘っても良い?」

「勿論構わないが大丈夫なのか?」

「今は塔付きじゃないんだもん。問題ないよ! 今も機構の改修では色々と行ってるんだけど、泊りがけで旅行とかはしてないから!!」

「なら喜んでもらえるかもしれないな」

「絶対喜ぶと思うし、私もリーシェと一緒に皆で旅行って凄くスッゴク嬉しい!!」

先程の重苦しい気持ち渦巻く中での決断…と言った、問いへ答える姿とは違い…心から喜び望むフレイリアル。
リーシェライル自身へ、繋がり続く思いは明確に存在するようだ。
その思いに揺らぎを与えているのは、捌き切れていない現状なのか…しがらみなのか…思いの種類に変化があるためなのか…。
それはフレイリアルにしか分からない。

モーイは見守りながら思う。

『遠くても役に立てる関係ってあるのかもしれない』

「そう言えば話は逸れちまったけど、アタシとフレイの護衛契約って…」

「あのね…もしも…もしも迷惑でなければね…」

「あぁ、良いよ」

きょとんとした表情でフレイリアルはモーイを見つめる。そして突如として大声で笑いだす。

「あははははっはっ、モーイっては1の年前と変わらないよね!!」

「そうか?」

「そうだよ! あの時だって、引き受けてくれるか凄い悩んだのに、内容を申し出る前から了解してくれたんだもん」

「フレイとは、ずっと繋がっていたいんだ」

「じゃあ…」

「今のままで良い! それ以上は望まない」

何か新たな申し出をしようとしていたフレイリアルを遮るようにモーイは言葉返す。

「まったく何で分かるのかな! モーイってば心を読む能力でも持ってるの?」

「悪巧みには勘が働くんだよ」

「えーっ、悪巧みじゃないよ! 良い考えだよ! ちょーっと書類上で、姉妹になってもらおうかなーとか…養子になってもらおうかなーって思っただけだし…」

「誰の養子だよ! 油断出来ない奴だ。流石、前大賢者様の愛弟子だな」

突拍子もない思い付きに、思わず突っ込みを入れる。

「リーシェほど悪どくないもん」

「いやっ、悪どいって気付いてた事が驚きだよ」

「そりゃ大好きですから!」

大きさ同様に堂々と胸を張って主張するフレイリアルに、呆れつつ感心するモーイ。
もっとも…全ての悪どき所業に気付いているのかは疑わしい、それでも少しホッとするのだ。

「勿論…モーイの事も好きだから、今後も護衛契約は継続で宜しくお願いします」

「あぁ、分かったよ」

「それじゃチョイチョイっと追加項目足しちゃおう」

そう言うと最初に広げていた契約書を再度目の前に広げ、手をかざし…新たなる条件や変更点を魔力纏わせ紙に焼き付けていく。

     ──────────────────────────────
プラーデラ王国 モーイ 

      護衛雇用契約書


業務:エリミア辺境王国第六王女フレイリアル・レクス・リトスの警護業務
  (護衛、必要時依頼)  

報酬:エリミア辺境王国第六王女フレイリアル・レクス・リトスの間における
   友情と後援により支払い(必要時請求)


雇用者:エリミア辺境王国第六王女フレイリアル・レクス・リトス

被用者:プラーデラ王国 モーイ

契約期限:無期限(契約の解除は被雇用者側の判断による契約書の破棄にて成立)

     ──────────────────────────────


「自分で書き換えちゃって良いのか?」

「前は魔力による書類作成や刻印の遣り方知らなかったから、だからリオラリオ様…時の巫女様にやってもらったんだよ」

「でも国で発行するものなんだろ?」

「疎まれ王女とは言え、正式な王女なんだから権限はあるんだよ! しかも今は偉大なる大賢者様も遣っちゃってるんだからね!! …嘘くさいけど…」

デカい胸を更に張って主張するフレイリアルだが、自分で疎まれ…とか、嘘くさい…と言ってる時点で…語る立場が持つ権威と程遠い気がする。

「ふふっ、だから報酬は存分にお支払い致しますので…いつでも請求してね」

「じゃあ、まずは飛び切り面白い旅行にでも連れてってもらおうかな~」

「そだね! 豪華に楽しもう」

「そうだな! 2人ぐらい…嫌っ、3人4人楽勝で相手にする甲斐性持つべき国王様だってのに、潔癖純情を死守する御子様オヤジを全力で揶揄って遊ばなきゃ気が済まないからな」

「私も協力する!」

此れから始まる予定の、皆で楽しむ小旅行。
女子達の無理矢理な力業により、ニュールにとっては…災難と報酬をゴチャ混ぜにした気分もたらす事が確約された瞬間だった。
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