魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第三章 インゼル共和国編

28.取り戻し進む

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闇石の魔力を感じ、アルバシェルとフレイリアル、モモハルムアの3人は警戒しながらも転移陣のあった建物の外に出る。

そして塔の方向へ皆で固まり、進む。
フレイリアルが持つニュールとの守護者の繋がりは、距離が縮まり明確にニュールの状況を感知する。

「きゃあぁっっ!ニュールに恐ろしいモノが入り込んで来る!!!」

フレイから叫びがあがった。
再びヴェステが用意した闇石がニュールを襲い、ニュールが感じる苦悶する感覚が入り込んで来たのだろう。
サルトゥスでは結界施された儀礼の間での事であり感覚が周囲に漏れる様な事は無かったのだが、結界無き此処では全てに影響が広がる。

「大丈夫か! こんな所で大した結界も作らず闇石を使うなんて常識知らずめが…」

フレイの安全の確認と共に、思わずヴェステの闇石の扱いの酷さに文句を言ってしまうアルバシェル。

防御結界を立ち上げアルバシェルは空間を遮る。
ニュールとの守護者の繋がりが遠くなりフレイリアルが落ち着く。
その明確な不快感ある魔力の感触を、間接的とはいえ体感しているフレイリアルは尋ねる。

「このままだとヤッパリ、サルトゥスの時みたいにニュールは倒れてしまうの?」

「あぁ、今回のも随分と濃密なものを用意したようだ。完全な塔付きになってない…取り入れに慣れてないニュール1人で全て取り入れるのは辛いだろう」

「じゃあまたアルバシェルさんが…」

「この魔力の流れの早さだと、辿り着いた時には終わっている」

その言葉通り闇石からの魔力の放出が既に収まりつつあり…話している間に完全に闇石の魔力は導き入れられた様だった。
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるアルバシェル。

『導き入れた魔力の状態によっては、ニュールだった者は消失したかもしれない…』

だが2人に対し口にすることは出来なかった。


そのおぞましい闇色の魔力の流れが落ち着いた後、今度は黄色の暴力的な強い輝き持つ魔力が瞬時に広範囲に立ち上る。
その範囲はほんの目の前…足先まで含まれた。

「危ない!」

叫びながらアルバシェルは防御結界を強め、足に魔力を纏わせ2人を抱え5メル程一気に後ろへ飛び退く。
フレイリアルとモモハルムアは何が起きているのかわからなかった。

範囲内に居た塔の方から逃げるように戻る者や、そこで作業していた者達の動きが一斉に止まる。
周囲の高まった魔力が、その者達の中に収まるように集まると、1人…また1人と足元に崩れ、夥しい数の人形が湖までの道のりに敷き詰められる事になった。

死んでは居ない…生きている。それを生きていると言えるなら…。

ニュールが大量の人々を人形に至らしめていた。
フレイリアルは自分がやったとされる事と同じ状態を目の当たりにし、再び心の揺らぎが大きくなり再び自身を手放してしまいたくなる。
アルバシェルが隣で呟く。

「分かち合い共に有る…安心しろ」

抱えられた肩が温かく、冷えていく心を繋ぎ止めてくれるのだった。
アルバシェルの思いと決意が嬉しかった。
そしてフレイも強い思いを呼び覚ます。

「ニュールだってこんなことは望んでないはず…止めないと」


モモハルムアは目の前で起こっている光景が人が関与すべき状態を越えている事に驚愕していた。
自分が追い求め辿り着こうとしている相手の行状に。
惨澹たる状況を引き起こす魔力は人の持つべきものではない。
噂で聞くのと目の当たりにするのでは全く違うのだと言うことを実感した。

モモハルムアは改めて自身に問う。

『此のような状態を引き起こす、最早、人では無いような者…私はどう選択すべきなのだろう…』

冷静な思考の自分が答えを探す…だけど探してもそこには判断しかなかった。
理屈でも理論でも正しさでも判断でも導き出せない答え。

『私が貴方の隣に居たい…ただそれだけ』

単純な思い。

『何者であっても関係ない』

自分の考え。

『…すべきが付く選択は答えじゃない!!理由なんてない!』

心の叫び。

『状況が許さないのなら、許される状況を作るまで…そのためには、まずは取り戻す』

望む現実を手繰り寄せるためのモモハルムアの決意は固まった。

その場の皆の意思は前へ進む事を選択した。



闇石の影響が消えた後にフレイが守護者の繋がりで確認したニュールの状態は、哀しみで沈んでゆく様な感覚があった…いつもの名残がちゃんとある。

「深く悲しんでいる…いつものニュールは表には居ない…でも中に居るはず」

あの闇石を全て取り込んだのなら消滅したとしても当たり前の状況。
無事とは言い難い事をフレイリアルもモモハルムアも言われなくとも察している。
それでも大丈夫である事に賭ける事にした。

ニュールの現在の状況を推察して、捕縛して意識を奪う事が最善であると言う結論に至った。魔物なニュールの自由を奪い、その中に居るはずのいつものニュールを助け出すと決意したのだ。
お人形が折り重なり転がる湖までの道を進む3人。
フレイリアルが陣を解除した湖の辺りまで行くと、塔の外周上に佇む人影を見つけた。

目にしたのは、無表情な中に浮かぶ哀しみと諦めと…それに削ぐわぬ歓喜の思い持つ魔物の目をしたニュールが立っていた。

思索なき思考で行動する魔物の目をしたニュールは、繋がりを掌中に収めた者達の回路の糸を断ち切る。その後、更なる破壊を…滅びを望むように魔力を塔と近隣より集め、自身に収め練り上げる。
そして攻め滅ぼそうとした者達である青の将軍の陣営目掛け、収束した魔力を撃ち込む。

だが、その魔力は途中に敷かれた防御結界陣に当たり吸収された。

「ニュール、駄目だよ…、ここから先の段階に進んでしまったら本当の殺戮者になってしまう」

陣を敷き魔力を吸収したのはフレイリアルだった。

その間にアルバシェルが魔力を収束し前へ出る。

「ニュール、戻って来てくれ!」

収束した魔力を八方から分けて撃ち込みニュールの集中力を妨げる。
だが魔力勝負ではニュールに分がある。
塔を支配下に収めている状態にあり、場からの魔力の取り出し制御が可能だ。

今、ニュールと塔に繋がりは出来てないようだが、一方的な圧倒的強制力で塔の魔力回路を支配している状態に見える。

「このような形態での繋がりかたが有るとは…」

アルバシェルの内なる記録を参照しても浅い部分の記録では探せなかった。
状況をさぐりながら仕掛けた攻防は続く。

魔物の思考で動くニュールにとって、敵対するものは排除対象である。
膨大な魔力を優位に働かせニュールはアルバシェル達に降り注ぐような攻撃を仕掛ける。だが全ての攻撃をフレイが築き繋がる陣が受け止め吸収する。

「大丈夫!弾くだけじゃなくて取り入れてるから元気モリモリだよ!!ニュールの力は野生に帰る気分にさせてくれるよ」

モーイとのインゼル迄の旅の中、元々得意な陣の勉強を進めたフレイは自身で陣の構造に改良をかけられるまでになっていた。

『私のこの吸収する力を武器にしたい』

フレイが散々エリミアで忌み嫌われた魔力吸収を、自分の利点として考えられるようになったのはモーイのお蔭だ。

「そんな凄く良い力が有るなら、使わなきゃ損だぞ!」

凄く良い力…そう言ってくれただけで心が晴れたのだ。
そして今この陣があり、生気あふれるフレイが出来上がった

最初から野性味持つフレイが活力を漲らせる事に、少々不安を感じ何だか困り顔になるアルバシェルであった。

「溜めた力は渡せるよ…アルバシェルさん、使ってくれる?」

フレイから提案があった。

「あぁ、有り難い…」

このまま陣の中に閉じ籠っても、埒が明かない。
攻撃に転じ決定打を得なければ永遠に終わらない。

「そろそろ決着をつけようか」

アルバシェルが決意する。
フレイがアルバシェルの両の手を掴み魔力の移譲を始める。
魔力が流れ込み始めると、まるで身体の中の魔石を直接掴まれ力を流し入れられた様な気がした。
体内魔石である賢者の石の中で魔力が膨れ上がり渦巻き昂る。
掴まれていた手からも魔力が溢れている。

「それじゃあ頼みます!」

決戦の不安を打ち消すように力強く見送るフレイに、気軽に意気揚々と楽し気に答えるアルバシェル。

「あぁ、少し揺さぶって寝ぼすけニュールを起こしてくるよ!」

結界陣の外に出ると嬉しそうに微笑む魔物の瞳をしたニュールの攻撃が、陣からアルバシェルへと移る。
まるで遊び相手を得たかのように、際限のない攻撃を多方面から撃ち込んでくる。
ほぼ隠れる所のない湖畔にて魔力の打ち合いによる攻防が展開した。

基本体内魔石からの魔力で応じ所々で攻撃魔石での攻撃を織り混ぜる。
足下には魔力を纏わせ、踊る様に飛び回りかわし攻撃を操る。
幻想奇術の様に飛び交う光は2人でくり広げる舞台舞踊の様であった。

手に汗握るようなやり取りを2人とも楽しんでいるようであったが、アルバシェルがあらかじめ多数の魔石に仕込んで置いた魔力と体内魔石の魔力を合わせ、多種多様な多重攻撃を一気に仕掛ける。
そして隙が出来たと思われた頭上より意識を奪うための魔力乗せた剣を振り下ろす。

だが無理やり作った一瞬の優勢を逆転させ、体制崩したアルバシェルに剣を振り下ろす魔物の目をしたニュールの剣。

「アルバシェル!!」

陣の内で見守っていたフレイから叫び声が上がる。その不安定な心情から陣の守りも解けていた。

その時振り下ろされる剣を弾く剣の音。
しっかりと斬撃を受け止めるタリクがそこにいた。

「遅くなりました。…後でゆっくりと、この状況の説明お願いします」

タリクからアルバシェルへのお説教は確定になった様だ。

そしてニュールの背後には、しっかりと首を抱え込みナイフをあてるモーイがいた。

「…望まぬ状況から抜けられないのならアタシがけりをつけてあげる…」

心から真剣に相手を思いやる言葉を、突き刺すような愛の告白としてニュールの耳に届ける。アルバシェルも体制をたて直し、魔力を収束し手に留めいつでも攻撃できることを示す。


その時フレイの解けた陣よりモモハルムアが、真っ直ぐな目をして、真っ直ぐな思いを向け、真っ直ぐに魔物の意思に取り込まれているであろうニュールへと近付いて行きその前に立つ。

そして無表情に立つニュールの頬へ手をあげ打ち抜く。

「このやり方はニュール様のやり方ではありません。本当にやりたいことは何ですか? 私はその為なら貴方の背中を守り、戦いたいと思います…だけど此れは違います!」

痛手としては微々たる物であろう…だが囚われて動けなくなっている心の鎖を切るための充分な威力を持っていた。その痛みと共にモモハルムアの決意と言葉がニュールの心に届く。

様々な欠片が合わさり扉にピタリとはまる鍵が出来上がりつつあった。

「今のニュールが好き…」

ディリの最期の言葉がニュールの心に響き、鍵が完成する。
差し入れられた鍵は扉を開き、ニュールの心に皆の声が染み渡る。

塔に繋がると決めた選択が、心から望むもので無いことは百も承知していた。


それでも最善の選択だと思い進んだ道。
でも、これは自分らしいやり方では無かった。

分かっている様で分かって無かった衝撃と、受け取った思いに奮起する。
自身のなかの魔物を押し込め、自分を自分自身の手に取り戻すため動く。

『今やらねば、自分を本気で許せない!』

強く自身を保ち、内で暴れる砂漠王蛇ミルロワサーペントと戦う。
まるで本物の砂漠の中で戦う様に。
剣1つで向かい合い、力を示しあの箱の中に自分の一部である魔物を押し込める。
魔物からの意思が伝わる。

『弱き心なればとって代わろう』

言葉として伝わってくる。
次があれば自分が取り込まれるであろうことが理解できた。

一度目を閉じ目を開けるとそこには現実に皆が居た。

「すまんな!ありがとう…」

仲間と繋がるニュールが帰ってきた。
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