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第五章 ヴェステ王国編
9.動かされ操られる
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「貴女はこの先、エリミアの王妃となり、2人の王子と6人の王女を授かるでしょう。でも最後の王女だけは貴女の望まぬ者になるわ…そして賢者の塔と共にこの国に滅びをもたらすでしょう。そして森の民の血を引き入れし曾祖母の汚名を再び貴女自身に浴びせかけ貴女を苛むわ。其を回避するためには排除する選択を厭う事無きよう正しき道を選びなさい」
アスタリティスは5才の時に言われた事など忘れていた。
エリミアの王都スフィアの街中で偶々出会った、美しい黒髪持つ高名な巫女と呼ばれる職業の者が口にした戯れ事。
子供ゆえに興味も無かったし気にもしていなかった。
だが他にも色々と不思議な未来の事を語っていた。
アスタリティス自身は詳細は覚えてなかったが、そのとき一緒にいたサルトゥス出身の叔母が予言をした者に大変畏まり敬っていたのを覚えている。
そして叔母は予言をした巫女…の話を全て書き留めていた。
踊る周囲に踊らされ、気にしていなかった事象が予言として当て填まるごとに、くっきりと先へ続く道が浮かび上がってくる。
そして自身がエリミア辺境王国王妃アスタリティス・ユレイナ・リトスとして王城へ納まる頃には予言は本物になっていた。
「私がこの場所にいるのは未来を導くため…予言に従い悪しき者、…事、排除するため…」
示された通りに事が進む程に、それが正しい事であり進めなければいけない…進むべき未来であると思うようになっていた。
だが、自身の産み落とした第六王女を抱きしめた時…方針が歪んだ。
『最小限の犠牲で済むなら…』
そう思った事もあった。
立場上、他人の人生を左右する…命の決断をすることもあるのに、アスタリティスは手にした自身の子を排除する選択は出来なかった。
そこに強い思いがあったのかは分からない…世間一般の倫理観に左右されただけかもしれない。
それでも、実際に命奪ったり他へやるような事はしなかった。
表面上とりつくろったが、異端の色合い持つ王女への対応は十分厭わしき扱いをしている様に周囲からは見えた。アスタリティス本人には欠片もその様なつもりは無かったし、むしろ予言に逆らってまで子を守る良き母親のつもりでいた。
だが、予言通りの風貌持つ子は明らかに運命に従い滅びへの進みを早めて行くように見え、同じ予言を信じる者達より追及される。
王妃アスタリティスは、巡る輪から逃れる手立てを探すしかないと決断した。
代わりに成すべき事を求めた結果として…塔を滅ぼす事へ考え至る。
それはアスタリティスの直線的思考にピタリと填まり、間違いのない正しい選択だと思えた。
「1つの個人的要因排するより、滅びを招く大本となる…この国の未来を遮る塔を…大賢者を…排すべきである」
そう声に出し密かに御旗を掲げる。
協力者現れ、それは予想外に大きな流れとなり此処まで至るのであった。
港から大分上に行ったところにある捕まっていた屋敷から脱出し、景色の良い石畳で整えられた道を普通に歩き戻る。リーシェとクリールと連れ立って歩くことに途轍もなく新鮮さを覚えるフレイ。
それだけの事が最高に嬉しく感じるのであった。
他の人たちが色々大変な状況にあるのは分かっている。それでも、フレイリアルにとって幸せを感じるこの瞬間を楽しみたかった。
綺麗に優しく微笑んでくれるリーシェライルの横を、腕を組み歩く。
ただ其れだけなのに世界が何倍にも輝き素敵なものに感じる。
「本当に歩いて帰るので大丈夫?」
「その方がリーシェと2人で過ごせる時間が長くなるもん」
「そうだね、今ここで一緒に居られるのは今だけだものね…」
「そう、今ここで一緒に海を見ながら一緒に過ごすのが最高なの!」
フレイリアルは今まであった嫌な事や、これから先立ち向かうべき困難も、一瞬だけ忘れたかった。
そして少しだけ自分が成し遂げられた事を実感したかったのだ。
隣でリーシェが居てくれるだけで全てが叶えられた。
「それじゃあ、もう少しだけその時間を延ばすために…其処で海でも見ながら休もうか?」
所々見晴らしの良い所に建てられている四阿を指さしリーシェライルが誘う。
「うん、ありがとう」
この、ひと時がそう長く続かない事をお互い知りつつも楽しむ。暮れゆく空の下、温もりを感じるように寄り添いつつお喋りする。
本当に他愛の無い時間…一番星輝く頃まで続けた。
そろそろ先へ歩みを進めるべきと判断し2人とも立ち上がる。
「僕はまた塔に縛られるけど、君の事を待っているよ。そして自分でも出来る事を探してみるよ」
「私はサルトゥスへ行って、囚われたアルバシェルさんを助け出す。インゼルで助けてもらったお返しを…」
「フレイっ」
話を遮るように、腕を引きいきなり強く抱き締める。そこにあるのは淡麗な顔を苦悶で満たし曇らせる、滅多に見ないリーシェライルの表情だった。
「リーシェ? 大丈夫?」
「とても心配で不安なんだ…色々と…あまり危ないことはしないでね…」
そのリーシェライルの思い籠る抱擁を受け、本当に嬉しそうに抱き締め返すフレイ。
「ありがとう、ちゃんと気を付けるよ! …終わったら必ずリーシェの所に行くからね…」
そう強く語る。
だが、ふと物思うフレイの表情が暗くなる。
「…リーシェは…リーシェが私と一緒に居たいと思ったのは…巫女の力が…及んでいるせい?」
抱き締められた腕の中で俯き、闇を揺蕩う瞳をして真剣に問う。
「ふふっ、僕がフレイと一緒に居たいと思ったのは、こうして思いや魔力が巡る前からだよ」
優しく美しく輝く宵闇色に光射す瞳で俯くフレイの顔を覗き込むリーシェライル。
「だってフレイを見つけたのは僕だよ…良く知ってるでしょ? それに僕は君を見つけたから僕を始めたんだよ?」
そのリーシェライルの言葉に全ての憂いが取り払われた。
リーシェライルを見つめるフレイリアルの表情には、心から溢れかえる喜びを表す微笑みが浮かぶ。
その喜ぶフレイリアルの顔に近付くため、リーシェライルは小さい頃の様に抱え上げ…そして、小さい頃とは違う熱い口付けを深く甘く注ぐのだった。
人少なくなった港へ戻ると、ナルキサ商会の桟橋検問前にキミアが子供姿のままではあるが、怒り顔で立っていた。
「フレイ! 心配したんだよ」
そう言って横にいるリーシェライルを無視しフレイリアルの腕の中に飛び込み埋まるキミア。明らかにリーシェライルへの牽制と嫌がらせである。
一応脱出叶った時点でリーシェライルからキミアへ連絡は入れてあった。
「このままリーシェと一緒に居たい…でも、突然居なくなっているから心配させてしまうから戻ったほうが良いのかも…」
「じゃあ、僕が連絡を入れておくよ」
そう言って心配するフレイの要望に応えて、ゆったりと帰れるように対処した。
連絡はリーシェライルがリャーフの港に潜ませているお人形により、ナルキサ商会の桟橋検問からキミアへ手紙を届けさせていた。
"フレイリアルは夕時3つには戻ります。心配しないでください"
それだけの簡素な連絡だった。
「あの内容じゃ、心配するでしょ。気配も追えないし…」
気配が追えないようにしたのはリーシェライル。
フレイには念のため…と言って広げた防御結界に隠蔽魔力練り込んでおいたのだ。
本気で心配し責めるキミアにリーシェライルが極上の笑み浮かべ小さく呟く。
「…遠見の鏡に…気配を感じたので状況はご存じかと思ったけど…」
その言葉と共にリーシェライルの笑みに、キミアを責めるような鋭さが入る。
「まさか青き奥つ城より出ていらっしゃるとは思いませんでした…直接お目にかかるのは150の年程前でしょうか…」
全く意に介さず、さり気ない侮蔑を込めて再開の弁を述べるキミア。
微妙な重々しさに気づき口を挟むフレイリアル。
「知り合いだったんだね! じゃあ何処かでジックリ話す?」
中々、空気読まない感半端ないフレイリアルの言動に思わずリーシェライルが優しく笑む。
「フレイ、そろそろ僕は戻ったほうが良い時間なんだ…次はいつになるか分からないけど、また鏡では会おうね!」
「うん、絶対だよ…それに終わったら必ず行くから」
いつの間にか抱えていたキミアを手放しリーシェライルの下へ赴くフレイ。そして固く強く抱きしめあっていた。
取り残されたキミアの瞳に揺らめくモノにリーシェライルは気づいている。
それでもフレイリアルの望みを叶えるべくキミアに願う…そして小さく釘を刺す。
「フレイリアルのことを頼むよ。…繋がりを持ってしまったなら、確かめすぎると囚われるから気を付けたほうが良いよ」
そうして青い輝き残し余裕の表情で立ち去るのだった。
『何故サルトゥスへ…あんな者に任せて…行かせたのか?』
転移陣でエリミアに戻る一瞬の中で巡る、リーシェライルを問い質す自身の心の囁きが強くなる。
心の中に余裕など欠片も無かった。
『僕がこの先支えきれるか分からないから…支えとなる者は複数必要じゃないか』
思うが故に先を心配する気持ち。
『200年近く眠って欲しいモノを得るため自分自身をやり直すと出張って来たのに…この体たらく、決意は何処へ行っちゃったのさ?』
自身の中から浮かび上がる責め苛む声が一層強くなる。
『フレイリアルを…自由を…自身の手にするのでは無かったの?』
自身の目指す光であり、温もり…希望であるモノについて問われる。
『十分待った…手加減もした…もう半分手に入ってる』
闇に傾きし内なる己が、言葉を続ける。
『それなのに、お前が手に入れぬと言うのならもう良い! お前では手に入らぬ…ならば強き意志持つ僕が手に入れれば良い』
自身の強き思いに押しつぶされながら、青き転移の魔力輝かせエリミアの賢者の塔入り口付近、魔力循環領界ギリギリに築いてあった終点へ辿り着いたリーシェライル。
そこには賢者の塔へ入れぬよう兵に入口塞がせる王妃が暗闇から現れた。
「此処に居られるなら王宮にもご招待できるのではないかしら?」
暗い笑み浮かべリーシェライルを問い質す。
賢者の塔の転移陣使わず、リーシェライルが築いた他の者知らぬ登録地点を終点として使ったのに、転移完了した瞬間に王妃がリーシェライルの前に現れた。そこに現れるのが必然であったかの様に。
此が過去に語られし時の断片…と言われる…予言…の力。
「大賢者リーシェライル様、ご一緒に来て頂こうかしら?」
こうしてリーシェライルは王妃により拘束された。
王妃個人で雇っている兵が、心ここに在らずなリーシェライルを王宮まで導く。
そして、軟禁予定の強固な結界施された部屋へ入れられる。
天空の天輝石の魔力が底を尽きるまで、あと1つ時程だった。
「貴方がここに存在することで全てが歪むのよ…正しき未来を…我が子達に続く世界を見せるためには…貴方は…貴方達、塔に繋がる者の存在は不要なの」
『何故、このような者如きに忌まれ蔑みを受けねばならぬ?』
リーシェライルの中に再び蠢き始めていた内に籠る闇に傾く思いが、向けられる負の感情を糧に活性化してくる。
『謂れなき憤りをぶつけられるのは何故なのだ…』
何も言葉生み出さぬリーシェライルに畳み掛ける様に王妃は言い募る。
「貴方が存在しない世界こそ、未来へと続き繋がる道」
王妃の言葉でリーシェライルの中の残っていた良識、暖かさが少しずつ壊れていく。
「運命なんてモノに道を定められてたまるものですか! この者を廃することで私は勝つの! 何者に阻まれる事なき未来を…過去の他の者の過ちにより忌まれ続けること無き自由を勝ち取るのよ! ほーほほほほっ」
あの子を自ら手放し闇に傾きつつあるリーシェライルは、王妃の高らかな笑い声と共に世界への執着が消えていく。
そしてこの時、一つの未来が閉ざされた。
穏便に進む穏やかな未来は、それを得ようと努力し藻掻く者の手によって完全に打ち壊された。
『お前は取れるものさえ取らなかった…手をこまねいて結局送り出してしまった。何年たっても成長せぬお前には任せられぬアレは僕が見つけた僕のモノだよ、他の者に与えるぐらいなら自らの手で縊り殺し世界を閉じた方がましさ』
リーシェライルの中の天秤が完全に負に傾いてしまった。元々あった非情さは強化され、目的のために冷徹な判断下す者となる。
リーシェライルの中で目覚める時に手に入れた情無き欲が再び湧き上がる。
「僕が、この欺瞞に満ちた生命活動の中に飛び出る切っ掛けとなった者を手に入れよう…」
美しき情を知る温かな者が消え、非情なる氷の思い持つ者に切り替わる。
アスタリティスは5才の時に言われた事など忘れていた。
エリミアの王都スフィアの街中で偶々出会った、美しい黒髪持つ高名な巫女と呼ばれる職業の者が口にした戯れ事。
子供ゆえに興味も無かったし気にもしていなかった。
だが他にも色々と不思議な未来の事を語っていた。
アスタリティス自身は詳細は覚えてなかったが、そのとき一緒にいたサルトゥス出身の叔母が予言をした者に大変畏まり敬っていたのを覚えている。
そして叔母は予言をした巫女…の話を全て書き留めていた。
踊る周囲に踊らされ、気にしていなかった事象が予言として当て填まるごとに、くっきりと先へ続く道が浮かび上がってくる。
そして自身がエリミア辺境王国王妃アスタリティス・ユレイナ・リトスとして王城へ納まる頃には予言は本物になっていた。
「私がこの場所にいるのは未来を導くため…予言に従い悪しき者、…事、排除するため…」
示された通りに事が進む程に、それが正しい事であり進めなければいけない…進むべき未来であると思うようになっていた。
だが、自身の産み落とした第六王女を抱きしめた時…方針が歪んだ。
『最小限の犠牲で済むなら…』
そう思った事もあった。
立場上、他人の人生を左右する…命の決断をすることもあるのに、アスタリティスは手にした自身の子を排除する選択は出来なかった。
そこに強い思いがあったのかは分からない…世間一般の倫理観に左右されただけかもしれない。
それでも、実際に命奪ったり他へやるような事はしなかった。
表面上とりつくろったが、異端の色合い持つ王女への対応は十分厭わしき扱いをしている様に周囲からは見えた。アスタリティス本人には欠片もその様なつもりは無かったし、むしろ予言に逆らってまで子を守る良き母親のつもりでいた。
だが、予言通りの風貌持つ子は明らかに運命に従い滅びへの進みを早めて行くように見え、同じ予言を信じる者達より追及される。
王妃アスタリティスは、巡る輪から逃れる手立てを探すしかないと決断した。
代わりに成すべき事を求めた結果として…塔を滅ぼす事へ考え至る。
それはアスタリティスの直線的思考にピタリと填まり、間違いのない正しい選択だと思えた。
「1つの個人的要因排するより、滅びを招く大本となる…この国の未来を遮る塔を…大賢者を…排すべきである」
そう声に出し密かに御旗を掲げる。
協力者現れ、それは予想外に大きな流れとなり此処まで至るのであった。
港から大分上に行ったところにある捕まっていた屋敷から脱出し、景色の良い石畳で整えられた道を普通に歩き戻る。リーシェとクリールと連れ立って歩くことに途轍もなく新鮮さを覚えるフレイ。
それだけの事が最高に嬉しく感じるのであった。
他の人たちが色々大変な状況にあるのは分かっている。それでも、フレイリアルにとって幸せを感じるこの瞬間を楽しみたかった。
綺麗に優しく微笑んでくれるリーシェライルの横を、腕を組み歩く。
ただ其れだけなのに世界が何倍にも輝き素敵なものに感じる。
「本当に歩いて帰るので大丈夫?」
「その方がリーシェと2人で過ごせる時間が長くなるもん」
「そうだね、今ここで一緒に居られるのは今だけだものね…」
「そう、今ここで一緒に海を見ながら一緒に過ごすのが最高なの!」
フレイリアルは今まであった嫌な事や、これから先立ち向かうべき困難も、一瞬だけ忘れたかった。
そして少しだけ自分が成し遂げられた事を実感したかったのだ。
隣でリーシェが居てくれるだけで全てが叶えられた。
「それじゃあ、もう少しだけその時間を延ばすために…其処で海でも見ながら休もうか?」
所々見晴らしの良い所に建てられている四阿を指さしリーシェライルが誘う。
「うん、ありがとう」
この、ひと時がそう長く続かない事をお互い知りつつも楽しむ。暮れゆく空の下、温もりを感じるように寄り添いつつお喋りする。
本当に他愛の無い時間…一番星輝く頃まで続けた。
そろそろ先へ歩みを進めるべきと判断し2人とも立ち上がる。
「僕はまた塔に縛られるけど、君の事を待っているよ。そして自分でも出来る事を探してみるよ」
「私はサルトゥスへ行って、囚われたアルバシェルさんを助け出す。インゼルで助けてもらったお返しを…」
「フレイっ」
話を遮るように、腕を引きいきなり強く抱き締める。そこにあるのは淡麗な顔を苦悶で満たし曇らせる、滅多に見ないリーシェライルの表情だった。
「リーシェ? 大丈夫?」
「とても心配で不安なんだ…色々と…あまり危ないことはしないでね…」
そのリーシェライルの思い籠る抱擁を受け、本当に嬉しそうに抱き締め返すフレイ。
「ありがとう、ちゃんと気を付けるよ! …終わったら必ずリーシェの所に行くからね…」
そう強く語る。
だが、ふと物思うフレイの表情が暗くなる。
「…リーシェは…リーシェが私と一緒に居たいと思ったのは…巫女の力が…及んでいるせい?」
抱き締められた腕の中で俯き、闇を揺蕩う瞳をして真剣に問う。
「ふふっ、僕がフレイと一緒に居たいと思ったのは、こうして思いや魔力が巡る前からだよ」
優しく美しく輝く宵闇色に光射す瞳で俯くフレイの顔を覗き込むリーシェライル。
「だってフレイを見つけたのは僕だよ…良く知ってるでしょ? それに僕は君を見つけたから僕を始めたんだよ?」
そのリーシェライルの言葉に全ての憂いが取り払われた。
リーシェライルを見つめるフレイリアルの表情には、心から溢れかえる喜びを表す微笑みが浮かぶ。
その喜ぶフレイリアルの顔に近付くため、リーシェライルは小さい頃の様に抱え上げ…そして、小さい頃とは違う熱い口付けを深く甘く注ぐのだった。
人少なくなった港へ戻ると、ナルキサ商会の桟橋検問前にキミアが子供姿のままではあるが、怒り顔で立っていた。
「フレイ! 心配したんだよ」
そう言って横にいるリーシェライルを無視しフレイリアルの腕の中に飛び込み埋まるキミア。明らかにリーシェライルへの牽制と嫌がらせである。
一応脱出叶った時点でリーシェライルからキミアへ連絡は入れてあった。
「このままリーシェと一緒に居たい…でも、突然居なくなっているから心配させてしまうから戻ったほうが良いのかも…」
「じゃあ、僕が連絡を入れておくよ」
そう言って心配するフレイの要望に応えて、ゆったりと帰れるように対処した。
連絡はリーシェライルがリャーフの港に潜ませているお人形により、ナルキサ商会の桟橋検問からキミアへ手紙を届けさせていた。
"フレイリアルは夕時3つには戻ります。心配しないでください"
それだけの簡素な連絡だった。
「あの内容じゃ、心配するでしょ。気配も追えないし…」
気配が追えないようにしたのはリーシェライル。
フレイには念のため…と言って広げた防御結界に隠蔽魔力練り込んでおいたのだ。
本気で心配し責めるキミアにリーシェライルが極上の笑み浮かべ小さく呟く。
「…遠見の鏡に…気配を感じたので状況はご存じかと思ったけど…」
その言葉と共にリーシェライルの笑みに、キミアを責めるような鋭さが入る。
「まさか青き奥つ城より出ていらっしゃるとは思いませんでした…直接お目にかかるのは150の年程前でしょうか…」
全く意に介さず、さり気ない侮蔑を込めて再開の弁を述べるキミア。
微妙な重々しさに気づき口を挟むフレイリアル。
「知り合いだったんだね! じゃあ何処かでジックリ話す?」
中々、空気読まない感半端ないフレイリアルの言動に思わずリーシェライルが優しく笑む。
「フレイ、そろそろ僕は戻ったほうが良い時間なんだ…次はいつになるか分からないけど、また鏡では会おうね!」
「うん、絶対だよ…それに終わったら必ず行くから」
いつの間にか抱えていたキミアを手放しリーシェライルの下へ赴くフレイ。そして固く強く抱きしめあっていた。
取り残されたキミアの瞳に揺らめくモノにリーシェライルは気づいている。
それでもフレイリアルの望みを叶えるべくキミアに願う…そして小さく釘を刺す。
「フレイリアルのことを頼むよ。…繋がりを持ってしまったなら、確かめすぎると囚われるから気を付けたほうが良いよ」
そうして青い輝き残し余裕の表情で立ち去るのだった。
『何故サルトゥスへ…あんな者に任せて…行かせたのか?』
転移陣でエリミアに戻る一瞬の中で巡る、リーシェライルを問い質す自身の心の囁きが強くなる。
心の中に余裕など欠片も無かった。
『僕がこの先支えきれるか分からないから…支えとなる者は複数必要じゃないか』
思うが故に先を心配する気持ち。
『200年近く眠って欲しいモノを得るため自分自身をやり直すと出張って来たのに…この体たらく、決意は何処へ行っちゃったのさ?』
自身の中から浮かび上がる責め苛む声が一層強くなる。
『フレイリアルを…自由を…自身の手にするのでは無かったの?』
自身の目指す光であり、温もり…希望であるモノについて問われる。
『十分待った…手加減もした…もう半分手に入ってる』
闇に傾きし内なる己が、言葉を続ける。
『それなのに、お前が手に入れぬと言うのならもう良い! お前では手に入らぬ…ならば強き意志持つ僕が手に入れれば良い』
自身の強き思いに押しつぶされながら、青き転移の魔力輝かせエリミアの賢者の塔入り口付近、魔力循環領界ギリギリに築いてあった終点へ辿り着いたリーシェライル。
そこには賢者の塔へ入れぬよう兵に入口塞がせる王妃が暗闇から現れた。
「此処に居られるなら王宮にもご招待できるのではないかしら?」
暗い笑み浮かべリーシェライルを問い質す。
賢者の塔の転移陣使わず、リーシェライルが築いた他の者知らぬ登録地点を終点として使ったのに、転移完了した瞬間に王妃がリーシェライルの前に現れた。そこに現れるのが必然であったかの様に。
此が過去に語られし時の断片…と言われる…予言…の力。
「大賢者リーシェライル様、ご一緒に来て頂こうかしら?」
こうしてリーシェライルは王妃により拘束された。
王妃個人で雇っている兵が、心ここに在らずなリーシェライルを王宮まで導く。
そして、軟禁予定の強固な結界施された部屋へ入れられる。
天空の天輝石の魔力が底を尽きるまで、あと1つ時程だった。
「貴方がここに存在することで全てが歪むのよ…正しき未来を…我が子達に続く世界を見せるためには…貴方は…貴方達、塔に繋がる者の存在は不要なの」
『何故、このような者如きに忌まれ蔑みを受けねばならぬ?』
リーシェライルの中に再び蠢き始めていた内に籠る闇に傾く思いが、向けられる負の感情を糧に活性化してくる。
『謂れなき憤りをぶつけられるのは何故なのだ…』
何も言葉生み出さぬリーシェライルに畳み掛ける様に王妃は言い募る。
「貴方が存在しない世界こそ、未来へと続き繋がる道」
王妃の言葉でリーシェライルの中の残っていた良識、暖かさが少しずつ壊れていく。
「運命なんてモノに道を定められてたまるものですか! この者を廃することで私は勝つの! 何者に阻まれる事なき未来を…過去の他の者の過ちにより忌まれ続けること無き自由を勝ち取るのよ! ほーほほほほっ」
あの子を自ら手放し闇に傾きつつあるリーシェライルは、王妃の高らかな笑い声と共に世界への執着が消えていく。
そしてこの時、一つの未来が閉ざされた。
穏便に進む穏やかな未来は、それを得ようと努力し藻掻く者の手によって完全に打ち壊された。
『お前は取れるものさえ取らなかった…手をこまねいて結局送り出してしまった。何年たっても成長せぬお前には任せられぬアレは僕が見つけた僕のモノだよ、他の者に与えるぐらいなら自らの手で縊り殺し世界を閉じた方がましさ』
リーシェライルの中の天秤が完全に負に傾いてしまった。元々あった非情さは強化され、目的のために冷徹な判断下す者となる。
リーシェライルの中で目覚める時に手に入れた情無き欲が再び湧き上がる。
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ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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