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6.馬車道中
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ユアナからの招待状を受け取って一週間後。マリアは馬車に揺られていた。
この馬車は、スプリングを改良し、一級品のクッションをつけた、マリア自慢のものだ。従来品よりも遥かに震動を感じない作りになっている。貴族向けの販売は好調なので、そろそろ商人向けにも販路を広げたいところ。
なんて、徒然に考えていたら、向かいに座るロイズから楽しそうな視線を受けた。マリアは小さく首を傾げる。
「何か面白いことでもあった?」
「いや、君が楽しそうでいいな、と思っただけだよ。また、新しい商売のことを考えていたのかな?」
「新しくはないわね。ただ、そろそろこの馬車の販路を広げようと思っていただけよ」
「それは良いことだ。この馬車は、本当に画期的なものだよ。これが流通すれば、皆もっと移動が楽になる」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
褒め言葉を素直に受け取り微笑む。
ロイズは子爵家の子息として、現在王城で働いている。各地のインフラ整備などの仕事をしているらしい。それ故か、移動手段の改善が、国内の流通に及ぼす影響の大きさを熟知しているのだ。
「――それにしても、よく急に予定が空けられたわね?」
「普段真面目に出仕しているからね。婚約者に付き合って、時々休むことくらいは許容されるさ」
「あなたが怒られないならいいのだけれど」
ロイズは軽く笑うが、一週間で休みをもぎ取れるのは凄いことだ。それだけロイズの意思を尊重してくれる職場なのだろう。
「怒られないさ。それに、今回のお茶会の招待は、あのメルシャン伯爵家なんだろう? 君が何かやらかさないか、心配だからね」
「……もう。私だって、ちゃんと貴族令嬢の仮面を被れるわ」
拗ねて顔を背けると、ロイズが軽やかに笑い声を上げた。マリアのそれが、ただのフリだと分かっているのだ。気安い仲故のじゃれあいともいう。
現在、マリアはロイズと共にメルシャン伯爵家のお茶会に向かっている。マリアが今注目しているゴシップの当事者に会いたいがために、忙しいスケジュールを調整して出席することにしたのだ。ロイズはその付き添いである。
「ロナルド殿とピア嬢のこと、だいぶ噂になっているようだからね。僕もこの話の帰結がどうなるかは多少気になる」
「あら! ロイズもゴシップ好きになったのね!」
「ははっ、ゴシップ好きというより、ただの仕事の延長だよ。今度、メルシャン伯爵家の領地の近くのインフラ整備を行うことになるからね。あまり騒ぎが拡大して、計画が頓挫することになったら嫌なんだよ。君とデートする時間がなくなってしまう」
「……私とのデートより、重要なことがあると思うけれど」
仕事熱心なのか、それとも色惚けしているのか、ロイズがよく分からないことを言う。マリアは苦笑してその話を聞き流した。ロイズの仕事について、マリアが何かを言うのはあまり良くないだろう。
「愛しい君との付き合い以上に、僕にとって大事なものなんてないさ」
「……口が上手いのね」
既に婚約者なのに、口説くようなことを言うロイズ。マリアは恥ずかしさと同時に嬉しさを感じて、頬を染めて呟いた。
この馬車は、スプリングを改良し、一級品のクッションをつけた、マリア自慢のものだ。従来品よりも遥かに震動を感じない作りになっている。貴族向けの販売は好調なので、そろそろ商人向けにも販路を広げたいところ。
なんて、徒然に考えていたら、向かいに座るロイズから楽しそうな視線を受けた。マリアは小さく首を傾げる。
「何か面白いことでもあった?」
「いや、君が楽しそうでいいな、と思っただけだよ。また、新しい商売のことを考えていたのかな?」
「新しくはないわね。ただ、そろそろこの馬車の販路を広げようと思っていただけよ」
「それは良いことだ。この馬車は、本当に画期的なものだよ。これが流通すれば、皆もっと移動が楽になる」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
褒め言葉を素直に受け取り微笑む。
ロイズは子爵家の子息として、現在王城で働いている。各地のインフラ整備などの仕事をしているらしい。それ故か、移動手段の改善が、国内の流通に及ぼす影響の大きさを熟知しているのだ。
「――それにしても、よく急に予定が空けられたわね?」
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「あなたが怒られないならいいのだけれど」
ロイズは軽く笑うが、一週間で休みをもぎ取れるのは凄いことだ。それだけロイズの意思を尊重してくれる職場なのだろう。
「怒られないさ。それに、今回のお茶会の招待は、あのメルシャン伯爵家なんだろう? 君が何かやらかさないか、心配だからね」
「……もう。私だって、ちゃんと貴族令嬢の仮面を被れるわ」
拗ねて顔を背けると、ロイズが軽やかに笑い声を上げた。マリアのそれが、ただのフリだと分かっているのだ。気安い仲故のじゃれあいともいう。
現在、マリアはロイズと共にメルシャン伯爵家のお茶会に向かっている。マリアが今注目しているゴシップの当事者に会いたいがために、忙しいスケジュールを調整して出席することにしたのだ。ロイズはその付き添いである。
「ロナルド殿とピア嬢のこと、だいぶ噂になっているようだからね。僕もこの話の帰結がどうなるかは多少気になる」
「あら! ロイズもゴシップ好きになったのね!」
「ははっ、ゴシップ好きというより、ただの仕事の延長だよ。今度、メルシャン伯爵家の領地の近くのインフラ整備を行うことになるからね。あまり騒ぎが拡大して、計画が頓挫することになったら嫌なんだよ。君とデートする時間がなくなってしまう」
「……私とのデートより、重要なことがあると思うけれど」
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「愛しい君との付き合い以上に、僕にとって大事なものなんてないさ」
「……口が上手いのね」
既に婚約者なのに、口説くようなことを言うロイズ。マリアは恥ずかしさと同時に嬉しさを感じて、頬を染めて呟いた。
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