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11章 夏の海ではしゃいじゃお
444.ぷるっと現れる
おやつ休憩の後もバトルを続けて、いい感じにラッタンのレベルが上がってきた。
東の草原奥の草原狼とも戦ったんだよ。
最初の頃の僕とは違って、ラッタンは草原狼に対しても、のほほんと余裕な感じでバトルしてた。
僕とタマモが援護していたとはいえ、大物の風格を感じる。さすが竜種疑いのある種族だ。
〈ラッタンのレベルが10になりました〉
アナウンスが聞こえてきて、パチパチと拍手する。
「ラッタン、レベルアップおめでと~」
「らぴゅ(やったぁ)」
わーい、と両手を上げて喜ぶラッタンに、ご褒美のイカボールを渡す。
ラッタンはイカボールを気に入って、タマモに『もっとちょうだい』とウルウルお目々でねだってたから、なんとなく悔しくなって、僕も作ったんだよ。
「らぴゅ(うままぁ♪)」
「よかった。まだあるから、ゆっくりお食べ~」
ニコニコと微笑みながらラッタンの食事を見守る。
タマモも僕と同じく笑み崩れた表情でラッタンを見つめつつ、ちょっと首を傾げた。
「もうレベル10になったんですよね? これ以上は、ここだとレベルが上がりにくいのでは?」
「そうだよね。ノース・サウス街道に行くか、思い切って第二の街に進んでみるか、悩むなぁ」
はじまりの街・東の草原は初心者向けのバトルフィールドだ。
基本的にはレベル10までのプレイヤーに推奨されていて、それ以上のレベルになったら別のバトルエリアに移らないとレベルが上がりにくくなる。
ラッタンはレベルの割りにステータスが高いから、第二の街周辺でのバトルも問題ない気がする。もちろん、僕や他のテイムモンスターたちもサポートするし。
東の草原では第三陣のもふもふプレイヤーを発見できなかったし、そろそろ移動しようかなぁ。
「あ、それなら、海イベに取り組むのはどうです? 西の港はレベル15前後にちょうどいいみたいですよ」
「へぇ、掲示板情報?」
「はい。第三陣のプレイヤーが続々と海イベに参加してますし、お友だち作りとか、どうです?」
「行く!」
反射的に答えてた。
第三陣の人たち、もう初期レベリングを完了してるんだね。だから東の草原であまり姿を見なかったのかぁ。
僕の頃とスピード感が違うけど、経験値倍増キャンペーンの影響だろうな。
「ふふ、きっと可愛いもふもふさんにも会えますよ」
「あれ? タマモは第三陣の希少種プレイヤーの情報を持ってるの?」
「もちろんです。もふもふ教でレベリングのサポートをしているので、情報交換もバッチリですよ」
指でVサインを作るタマモを見て、僕は「さすがもふもふ教!」と拍手して褒めた。
もふもふ教が新たなもふもふ可愛いプレイヤーを見逃さないわけがなかったね。さっさとタマモに情報を聞いてればよかったかも。
「──まぁ、なかなかレベリングが進まなくて、まだ東の草原にいる方もいらっしゃるのですが……」
タマモがキョロキョロと何かを探す仕草を見せる。
どうしたのかなー? と僕が首を傾げたところで、草むらがガサガサガサッと揺れる音が聞こえてきた。
まさか、草原狼? 敵の気配は察知できてないんだけど──
「ふあーっ!」
「えっ……スライム?」
草むらからすごい勢いでコロコロと転がり出てきたスライムを見て、僕は目を見張った。
この子、フィールドでよく見る緑色のスライムじゃない。珍しい青緑色だ。
しかも、上にはプレイヤー名が出てる。つまり、希少種ガチャでスライムが出て、やり直さずにプレイしてる人なんだ。
そのスライムプレイヤーは近くの木にぶつかって止まった。
ちょっと目を回した感じでフラフラしながら、ぷるぷると身震いしてる。
「ひえー、やっと止まったぁ……あの狼、こわかったなー。咄嗟に転がって逃げたら、思いの外遠くまで来ちゃった気がするけど、追ってきてないよね……?」
キョロキョロと辺りを見回すスライムプレイヤーは、どうやら草原狼から逃げてきたらしい。
よっぽど強くなってないと、スライム一体で草原狼に挑むのは無茶だよ。
そんなことを考えながらじぃっと見つめていたら、スライムプレイヤーさんと目が合った。
一拍遅れて、スライムプレイヤーさんがポヨンと大きく跳ねる。あ、後ろの木にぶつかった。
ピタッと木の根にへばりつくような体勢で、スライムプレイヤーさんが目を丸くしてぷるぷると震える。そして、叫んだ。
「まさかのもふもふ神さまー!」
「あ、まさかのもふもふ教信徒?」
加入するの早いねぇ。
そのわりに、もふもふ教のレベリングサポートは受けてないみたいだけど? 周りに他のプレイヤーの姿はないし。
「ぷる君、サポートの方はどうしたんですか?」
タマモが不思議そうに尋ねた。
ちゃんとサポートはついてたみたいだ。よかったぁ。もふもふ教がスライム差別をしてるのかと思ったよ。スライムってもふもふじゃないし。
まぁ、僕のスラリンやユキマルを可愛がってくれてる人が多いから、そんなことはないだろうとは信じてたけどね。
「……わかんないですー」
木の根から離れて近づいてきたスライムプレイヤーさんが、平べったい感じにぺしょっと垂れた。
伸びてるスライムって見た目が面白いよね。でもラッタン、「らぴゅ(なぁに、これぇ?)」と突っつくのはやめてあげて。
そんなラッタンに対して、スライムプレイヤーさんは「ぺたぺたー」と小さな手のようなものを作って軽く弾き返して遊んでくれてる。すごく優しい。きっとこの子いい人(?)!
「あ、草原狼戦に突入した途端に、ぷる君が逃げてしまったから、皆さん姿を見失ったようですね。発見したとお知らせしておきます」
タマモが掲示板を確認して苦笑した。情報収集が早いね。
それにしても、スライムプレイヤーさんはぷる君って名前なの? 表示されてるプレイヤー名は違うんだけどなぁ。
「知ってるかもしれないけど、僕はモモだよ~。こんちゃー」
「わあ、その挨拶知ってます! こんちゃー!!」
本日二度目のデカボイス挨拶に脳を揺さぶられた。みんな元気だね……。
ちょっぴり耳を押さえながら、じっと見つめる。
「──あ、自己紹介を忘れてました。僕、プラトンと申します。プーさんでも、ぷる君でも、好きに呼んでください」
「プーさんはちょっと黄色い熊みたいだから、ぷる君にするね」
蜂蜜大好きってわけでもなさそうだし。
僕が答えると、ぷる君は「掲示板でもそう呼ばれてるんですよー」と僕の疑問を解消してくれた。
「あ、そうだ。お会いできたら、一つお願いしたいと思っていたことがありまして」
ぷる君が期待に満ちた目で見つめてくる。
なぜかタマモがギョッとした表情でぷる君に掴みかかった。すぐさま「はわわっ、口がどこかわからないから塞げないっ!」とパニック状態になってる。
「よくわかんないけど、とりあえず言ってみて」
キョトンとしながら僕が願い事を促したら、ぷる君は目を一層輝かせて僕を見つめる。
タマモに抱っこされていろんなところを押さえられても全然気にしてないの、強い。
「あの──僕のこと尻に敷いてくれませんか!?」
「……なんて???」
ちょっと耳が悪くなってたみたい。変な言葉が聞こえた気がしたんだもん。
……え、ほんとに、耳のせい、ってことでいいんだよね?
東の草原奥の草原狼とも戦ったんだよ。
最初の頃の僕とは違って、ラッタンは草原狼に対しても、のほほんと余裕な感じでバトルしてた。
僕とタマモが援護していたとはいえ、大物の風格を感じる。さすが竜種疑いのある種族だ。
〈ラッタンのレベルが10になりました〉
アナウンスが聞こえてきて、パチパチと拍手する。
「ラッタン、レベルアップおめでと~」
「らぴゅ(やったぁ)」
わーい、と両手を上げて喜ぶラッタンに、ご褒美のイカボールを渡す。
ラッタンはイカボールを気に入って、タマモに『もっとちょうだい』とウルウルお目々でねだってたから、なんとなく悔しくなって、僕も作ったんだよ。
「らぴゅ(うままぁ♪)」
「よかった。まだあるから、ゆっくりお食べ~」
ニコニコと微笑みながらラッタンの食事を見守る。
タマモも僕と同じく笑み崩れた表情でラッタンを見つめつつ、ちょっと首を傾げた。
「もうレベル10になったんですよね? これ以上は、ここだとレベルが上がりにくいのでは?」
「そうだよね。ノース・サウス街道に行くか、思い切って第二の街に進んでみるか、悩むなぁ」
はじまりの街・東の草原は初心者向けのバトルフィールドだ。
基本的にはレベル10までのプレイヤーに推奨されていて、それ以上のレベルになったら別のバトルエリアに移らないとレベルが上がりにくくなる。
ラッタンはレベルの割りにステータスが高いから、第二の街周辺でのバトルも問題ない気がする。もちろん、僕や他のテイムモンスターたちもサポートするし。
東の草原では第三陣のもふもふプレイヤーを発見できなかったし、そろそろ移動しようかなぁ。
「あ、それなら、海イベに取り組むのはどうです? 西の港はレベル15前後にちょうどいいみたいですよ」
「へぇ、掲示板情報?」
「はい。第三陣のプレイヤーが続々と海イベに参加してますし、お友だち作りとか、どうです?」
「行く!」
反射的に答えてた。
第三陣の人たち、もう初期レベリングを完了してるんだね。だから東の草原であまり姿を見なかったのかぁ。
僕の頃とスピード感が違うけど、経験値倍増キャンペーンの影響だろうな。
「ふふ、きっと可愛いもふもふさんにも会えますよ」
「あれ? タマモは第三陣の希少種プレイヤーの情報を持ってるの?」
「もちろんです。もふもふ教でレベリングのサポートをしているので、情報交換もバッチリですよ」
指でVサインを作るタマモを見て、僕は「さすがもふもふ教!」と拍手して褒めた。
もふもふ教が新たなもふもふ可愛いプレイヤーを見逃さないわけがなかったね。さっさとタマモに情報を聞いてればよかったかも。
「──まぁ、なかなかレベリングが進まなくて、まだ東の草原にいる方もいらっしゃるのですが……」
タマモがキョロキョロと何かを探す仕草を見せる。
どうしたのかなー? と僕が首を傾げたところで、草むらがガサガサガサッと揺れる音が聞こえてきた。
まさか、草原狼? 敵の気配は察知できてないんだけど──
「ふあーっ!」
「えっ……スライム?」
草むらからすごい勢いでコロコロと転がり出てきたスライムを見て、僕は目を見張った。
この子、フィールドでよく見る緑色のスライムじゃない。珍しい青緑色だ。
しかも、上にはプレイヤー名が出てる。つまり、希少種ガチャでスライムが出て、やり直さずにプレイしてる人なんだ。
そのスライムプレイヤーは近くの木にぶつかって止まった。
ちょっと目を回した感じでフラフラしながら、ぷるぷると身震いしてる。
「ひえー、やっと止まったぁ……あの狼、こわかったなー。咄嗟に転がって逃げたら、思いの外遠くまで来ちゃった気がするけど、追ってきてないよね……?」
キョロキョロと辺りを見回すスライムプレイヤーは、どうやら草原狼から逃げてきたらしい。
よっぽど強くなってないと、スライム一体で草原狼に挑むのは無茶だよ。
そんなことを考えながらじぃっと見つめていたら、スライムプレイヤーさんと目が合った。
一拍遅れて、スライムプレイヤーさんがポヨンと大きく跳ねる。あ、後ろの木にぶつかった。
ピタッと木の根にへばりつくような体勢で、スライムプレイヤーさんが目を丸くしてぷるぷると震える。そして、叫んだ。
「まさかのもふもふ神さまー!」
「あ、まさかのもふもふ教信徒?」
加入するの早いねぇ。
そのわりに、もふもふ教のレベリングサポートは受けてないみたいだけど? 周りに他のプレイヤーの姿はないし。
「ぷる君、サポートの方はどうしたんですか?」
タマモが不思議そうに尋ねた。
ちゃんとサポートはついてたみたいだ。よかったぁ。もふもふ教がスライム差別をしてるのかと思ったよ。スライムってもふもふじゃないし。
まぁ、僕のスラリンやユキマルを可愛がってくれてる人が多いから、そんなことはないだろうとは信じてたけどね。
「……わかんないですー」
木の根から離れて近づいてきたスライムプレイヤーさんが、平べったい感じにぺしょっと垂れた。
伸びてるスライムって見た目が面白いよね。でもラッタン、「らぴゅ(なぁに、これぇ?)」と突っつくのはやめてあげて。
そんなラッタンに対して、スライムプレイヤーさんは「ぺたぺたー」と小さな手のようなものを作って軽く弾き返して遊んでくれてる。すごく優しい。きっとこの子いい人(?)!
「あ、草原狼戦に突入した途端に、ぷる君が逃げてしまったから、皆さん姿を見失ったようですね。発見したとお知らせしておきます」
タマモが掲示板を確認して苦笑した。情報収集が早いね。
それにしても、スライムプレイヤーさんはぷる君って名前なの? 表示されてるプレイヤー名は違うんだけどなぁ。
「知ってるかもしれないけど、僕はモモだよ~。こんちゃー」
「わあ、その挨拶知ってます! こんちゃー!!」
本日二度目のデカボイス挨拶に脳を揺さぶられた。みんな元気だね……。
ちょっぴり耳を押さえながら、じっと見つめる。
「──あ、自己紹介を忘れてました。僕、プラトンと申します。プーさんでも、ぷる君でも、好きに呼んでください」
「プーさんはちょっと黄色い熊みたいだから、ぷる君にするね」
蜂蜜大好きってわけでもなさそうだし。
僕が答えると、ぷる君は「掲示板でもそう呼ばれてるんですよー」と僕の疑問を解消してくれた。
「あ、そうだ。お会いできたら、一つお願いしたいと思っていたことがありまして」
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「よくわかんないけど、とりあえず言ってみて」
キョトンとしながら僕が願い事を促したら、ぷる君は目を一層輝かせて僕を見つめる。
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