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2巻
2-3
「倉庫も欲しいんだけどなぁ」
眺めるのは設備【倉庫】の表示。作物や農業関連の道具を百種百個ずつ収納できるらしい。問題は、設置するのに二千リョウがかかること。払えないわけじゃないけど、余裕があるわけでもない。
「うーん……料理を作って、商業ギルドに売りに行ってみるか!」
作製したアイテムを売るのがどんな感じかも気になるし、金策も兼ねてやってみよう。
そうとなれば、ホームへ戻らないと。死に戻りに備えて、ほとんどの素材をストレージに預けてるから、今の状態だと何も作れない。
「また来るからね、僕の農地くん」
名残惜しさを感じながらも、ホームまで飛翔スキルでひとっ飛びした。
ホームの工房でストレージから素材を引き出し、ひたすら錬金術と料理スキルで作業をする。この地道な感じ、嫌いじゃない。なんか無心になれるんだよね。
幸い、素材はたくさんあった。はじまりの街ではよく魚釣りをしてたし、僕がテイムしたスライムのスラ君の協力もあって毎回大漁だったから。
「魚料理ばっかりっていうのは、ちょっと寂しいけどね……」
アイテムボックスにしまった料理の数々を思い出して苦笑いしちゃう。
魚を使った料理ばかりだけど、一応味付けとか調理方法とか変えて、種類だけはたくさんある。
最後に作った料理『金鰺の刺し身』はそのまま自分の口へ。ぷりっとした食感で程よい脂のりだ。
「ん、やっぱりうまうま!」
何度食べても、ゲーム内で食べるご飯は驚くほど美味しい。
「あ、お米ゲットしないと!」
忘れてたことを思い出した。
第二の街にはお米があるはずなんだ。日本人として必須の主食は確保しないと。農業ギルドにはお米の苗はなかったから、稲作をするには条件があるのかな。とりあえず、市販のお米を探そう。
そんなことを考えながら、まずは金策のために商業ギルドがある中心街に向かう。
飛翔スキルで飛んで行くよ~。
「ママ、見て、ウサギさんが空飛んでる!」
「ウサギが空を飛ぶわけないでしょ――って、飛んでる!?」
道を歩いていた親子に目撃された。男の子が手を振ってくれたから、僕も振り返す。ママさんは驚いてるみたいだけど、僕、危ないモンスターじゃないから安心してね。
愛想を振りまきながら街を進んでたら、電卓みたいなマークの看板が見えた。商業ギルドだ。一旦ここに転移ピンを設定。
商業ギルドにはひっきりなしに人が出入りしてる……ちょっと緊張してきたぞ?
考えてみたら、商人とがっつり話すのは初めてかもしれない。ボッタクリされないよね?
「……たーのもー!」
気合いを入れて中に進む。決して、道場破りをするつもりはない。
カウンターにいるたくさんの受付さんや、そこに並んでる人たちから視線が集まって、ちょっぴり恥ずかしくなった。
調子に乗ってごめんなさい……そそくさと【商品買取カウンター】と書かれているところに並ぶ。
「あんた、異世界からの旅人ってやつ?」
僕の前に並んでる女の人がわざわざ振り返って尋ねてきた。猫系の耳と尻尾がある獣人さんだ。
「そうだよ。僕は冒険者のモモ。今日は僕が作った料理を売りにきたんだ」
「へぇ、そりゃいいね。私はヒョウ族のマナって言うんだ。まだ駆け出しの米農家さ」
「お米!」
思わずマナさんの方に身を乗り出した。僕の勢いに、マナさんが目を丸くして驚いてる。
「そ、そうだけど……米農家って、そんなに驚くもの?」
「ううん。ただお米欲しいなってちょうど思ってたから。お米売ってくれる?」
期待を込めて聞いてみた。でも、マナさんは「あー……それは難しいな」と言って苦笑いしてる。
「この街じゃ、米は商業ギルドが一括で買い上げて、各店舗に卸すんだよ。知り合いにちょっとあげるくらいは見逃してもらえるけど、売るのはルール違反なんだ」
「へー、そんなルールがあるんだ……」
店舗で買うしかないのか。しょんぼりしちゃう。
「【マイドン米店】はいろんな品種の米を取り扱ってて、リーズナブルだよ」
苦笑いしたマナさんが教えてくれた店をマップで確認すると、ここに来るために通ってきた道沿いにあった。見逃してたな。
「あ、近いね。後で行ってみる!」
「――お次の方、どうぞ」
「おっと……お先に失礼」
「うん、教えてくれてありがと」
マナさんがカウンターへ進む。手を振ってお礼を言ってたら、すぐに僕も呼ばれた。三人体制で受付してたみたい。
僕の担当をしてくれる受付さんは、緑色の髪の女性だった。
「本日の商品はどのようなものでしょうか?」
「いろいろな料理なんだけど」
言いながら、僕はアイテムボックスから食料ボックスを五個取り出した。
食料ボックスは、五種類の食料アイテムを各種五十個までまとめて保存できるアイテムだ。
受付さんは食料ボックス内のアイテムを鑑定できるのか、すぐに紙に何か書き始める。
「魚料理ばかりということは、はじまりの街からいらしたんですね」
「そうだよー。第二の街じゃ、魚は獲れないの?」
「西の岩場を越えると海がありますが、道中のモンスターが強いので、わざわざ魚を獲りに行く人はいませんね」
受付さんが肩をすくめる。なんだか嬉しそうな顔をしてる気がする。
「……もしかして、魚料理、この街で大歓迎?」
「はい。はじまりの街から魚を入手していたのですが、交易を妨げるモンスターが現れてからは難しくなってしまったのです。そのモンスターは討伐されたようですが、その後、別のモンスターがやってきているらしく、以前通りの交易にはならない感じですし。それでも、近日中にある程度回復する予定です」
別のモンスター? 岩犀じゃないやつってことか。街開放のワールドミッション達成後に新たに設定されたエリアボスって感じかな。
岩犀は一度倒されたら復活しないタイプの敵だったってことだ。
「新しく来たモンスターって、岩犀くらい強いの?」
「いえ。この街の一般的な冒険者パーティで対応できるのですが、退治してもすぐに復活するようで。一度倒したことがある人だと、モンスターの方が恐れを感じるのか襲ってこないらしいですよ」
戦うのは一回限りでいいってことか。レベリング目的でバトルを挑むことはできるんだろうけど。
僕の場合どうなんだろう。その新たなモンスターとは戦ったことないし、バトル必須な気がする……ますますはじまりの街に戻りにくくなってるじゃん!
「今は、はじまりの街に出向いているこの街の冒険者が、仲良くなった異世界出身冒険者と協力して、ひたすらモンスターを倒すという方針のようです。ついでに、損傷が大きい街道整備もしてくれるといいのですが」
「共闘ってことかぁ」
僕がイグニスさんに戦ってもらって、クリアしたのと同じ感じかな。
プレイヤーだけだとクリアするのが難しい難易度に設定されてるんだと思う。共闘するにも、バトルチュートリアルで出会った指南役との友好度を高める必要があるみたいだ。
街道整備の必要性が出たのは、イグニスさんの攻撃による影響な気がする……ちょっと責任を感じるし、僕も整備に参加できそうならやってみよう。
「そうですね――査定が終わりました。料理二十五種、四百三十二品でお間違いないですね?」
そんなに作ってた? 改めて数字で聞くと、膨大な量だなぁ……
「うん、たぶん合ってる」
「現在、魚料理の買取額を増額していますので、総額七万四千リョウでの買取になります。すべて買い取らせていただいてもよろしいですか?」
紙を示された。それぞれ料理名と買取額が書いてある。真鰺のお刺身が百二十リョウだって。自分で買うってなったら躊躇しちゃう高さだけど、買い取ってもらえるなら嬉しい。
「あ、刺身は一部、買取に出さないでおこうかな」
近々お米が手に入る予定であることを思い出して、海鮮丼を食べたいあまりに刺身各種を返してもらった。今はじまりの街に気軽に行けない以上、魚は僕にとっても貴重だし。まだ少しストレージに残ってるけどさ。
「わかりました。ではお刺身代を引いて――七万三千リョウでいかがですか?」
ちょっとおまけしてもらってるような? ありがたく受け取ろう。
「それでお願いします」
「では、こちら代金です――今後もいいお取引をよろしくお願いします」
所持金の桁が上がった。一気に大富豪になった気分!
「こちらこそー。ありがとね!」
お互いにいい気分になってお別れ。商業ギルドはフランクに利用できそうなところだったな。
帰りに、マナさんにオススメされた店でお米を買った。そして、ホームで早速料理を始める。
「モモのちゃちゃっとクッキングの時間だよー!」
拳を握って宣言してみたけど、一人でテンションを上げてるのは虚しい……ホーム内を見渡して、僕はため息をついた。
はじまりの街で買っておいたホームインテリアを並べて、結構快適な空間になってるけど、なんか物足りない。やっぱり招く友だちがいないから? リリとルト、早く第二の街に来ないかなー。
「気分を上げて楽しもう」
うん、と頷いて、キッチンでアイテムボックスから食材を取り出す。
「品種はよくわかんなかったけど、店主さんが酢に合うお米って言ってたし、大丈夫だよね?」
麻袋に入ったお米を覗く。米屋さんにはたくさんの種類のお米が並んでた。
このゲーム、食材の品種にこだわりすぎでは? 米の品種の多さには、ちょっぴり執念を感じちゃったよ。それぞれで味の違いを表現するのが難しそう。
まぁ、僕はそんな違いがわかるほど敏感な舌を持っているとは思えないから、店主さんのオススメを買ってきた。酢飯にするんだよーって言って教えてもらった『ササアヤオリ』って品種。
「とりあえず、お米を炊く!」
鍋にザラザラッとお米と水を入れて、料理スキルを発動。
魚料理をたくさん作って、料理スキルのレベルが3になったんだ。
【切る】【焼く】【煮る】【揚げる】の他に、【混ぜる】【オーブン焼き】【燻製】【炊く】【冷やす】【成形】の工程ができる。
炊くって、お米以外で使うことあるのかな? お米への執念が料理スキルにまで影響してない?
「炊けたらお酢と混ぜるだけ~」
ルンルン、と鼻歌を歌ってる間にお米が炊けた。料理スキルを使うと、待ち時間短いのがノンストレスでいいよね。街で買ってきたお酢を混ぜようと思って、ハッと気づく。
「酢飯のお酢って、ただのお酢ではなかったのでは?」
お酢の瓶のラベルに書かれてるのは『米酢』の文字……ちょっと調べよう。
掲示板の料理スレで質問してみる。
『酢飯に使うお酢って、米酢でいいの?』
『はじまりの街にお米あったっけ?』
『なんかのミッションでゲットしたとか? うらやま』
『米酢に砂糖と塩入れたら、すし酢になるよ』
お、さすが料理スレの住人さん。すぐに答えが出てきた。僕もリアルで料理を勉強するかなぁ。たぶんイメージが詳しくできると、ゲーム内での料理に反映される気がするんだよね。
今は教えてもらった通りにすし酢を作る。
【混ぜる】スキルと自分の手で混ぜるの、違いがあるのかな? 僕は不器用だからスキルを使うけど、手作業の方が美味しくなるとか、ある?
「すし酢、完成~。お米と混ぜるぞ」
これもスキルで楽ちん。うちわで扇ぎながら混ぜるイメージがあるんだけど、あれってなんで?
粗熱が悪さするの? あれやってる姿、職人さんって感じがするよね。
「酢飯、ほかほか~。ちょっと冷やしてから、これをどんぶりに盛って――」
スキルで勝手に器が出てくるけど、これは味気ないから買ってきたどんぶりに盛る。その上にお刺身を並べたら、あっという間に完成!
「初海鮮丼、天ぷら添え!」
海鮮丼のお魚は真鰺と金鰺、暴鱸、林檎間八、銀剣魚。
林檎間八と銀剣魚は釣人ランクが上がってから新たに釣れるようになった魚系モンスターだ。名前通り、カンパチとタチウオに似てる。
海鮮丼に愛鱚と大沙魚の天ぷらも並べたのは、ただ食べたかったからだよ。
「豪華海鮮丼、いただきまーす」
僕の身長に合わせたダイニングセットに座り、手を合わせる。
箸を使えないのがちょっと残念だけど、フォークで刺してパクッと食べる。
「刺し身うま~。林檎間八はほのかに甘みがあってぷりっぷり食感が最高! 酢飯もいい感じ~」
心が満たされて、体も元気になる感じがする。お寿司が好きだって言ってたリリにも食べてもらいたいなー。でも、にぎり寿司の方がいいかな?
料理スキルの【成形】を使えば作れる気がする。そうなると、寿司ネタにもこだわりたい。
「やっぱり、はじまりの街には戻りたいな」
うまうま、と食べ進めながら真剣に考える。
第二の街で一番の目的だったホームと農地をゲットしたから、そろそろはじまりの街に戻る方法を探したい。
せめて、転移ピンは設定しておきたいよ。
「むむ~……死に戻りするかもしれないけど、がんばってみるかな?」
はじまりの街と第二の街を繋ぐノース街道の奥に、僕一人では行ったことないから、モンスターの強さがわからないや。
岩犀の後に遭遇した苔むした岩ゴーレムは逃げ一択になるくらい強かったけど。
「まだ他のプレイヤー来てないっぽいしなぁ……」
掲示板を覗いてみた。それによると、攻略組――バトル重視型のプレイで攻略の前線にいる人たちは、新たなエリアボスモンスターに苦戦してるらしい。
商業ギルドの人は『この街の一般的な冒険者なら対応できる』って言ってたけど、あれはプレイヤーの指南役をしてくれたカミラみたいな強い冒険者を基準にした発言な気がするんだよねぇ。
プレイヤーの実力はまだそこまで達してないよ。
「みんな、異世界の住人との共闘が鍵ってわかってるのかな?」
攻略スレの人が愚痴っぽくなってるのを見て、首を傾げる。
指南役だった異世界の住人と一緒に戦うって言ってる人がいないような。これ、教えてあげた方がいいのかな。
「――攻略スレに書き込むのは緊張する……」
なんせ、僕はマイペースに楽しんでるだけなので! 『どんどんバトルするぜ!』と言ってる人に親しみがない。
好戦的なルトも温厚なリリと一緒に行動してるから、そこまでがっついてないもんなぁ。
でも、書き込まないのもちょっぴり罪悪感がある。チートっぽい方法でワールドミッションをクリアしちゃった引け目? というわけで、コメントを用意してみた。
『バトルチュートリアルの指南役と仲良くなると、一緒にボスモンスを倒してくれるっぽいよ』
僕であることが特定されないような書き方にしてみたけど、これでいいかな……うん、いいはず! 送っちゃえ!
開き直った感じで掲示板に載せた。すぐにレスがつく。
『マジ? これ、そういうイベントだったの?』
『指南役とか、チュートリアル以来会ってねぇよ……』
『ひたすら挑み続けた攻略組さん、おつかれww』
『草生やしてんじゃねーよ! おかげで【絶望に挑みし者】って称号もらっちまったよ!』
「え、何その称号、響きがカッコいい……」
自分のステータスにある称号を見て、思わずしょんぼりしてしまった。だって、そんなにカッコいい称号は持ってない。特に、スライムの王様をクッション代わりにして獲得した【スライムキングを尻に敷く】が異彩を放ってる。
「僕も、こっち側からエリアボスに挑み続けたら、カッコいい称号をもらえる?」
急にやる気が湧いてきたぞ? やっちゃう? 死に戻り上等だぜ? ……ごめん、この口調はなりきれないや。
第一、僕の見た目に合ってない。
プリティーに言うなら『死んじゃうかもしれないけど、がんばるもんね!』かな。
「よし、次回ははじまりの街への帰還を目指してがんばるぞ! えいえいおー」
一人だけど気合いを入れるために声に出してみる――虚しいだけだった。
この後、ログアウトしないといけないし、決意表明のタイミングを間違った気がする。
「……あ、ログアウト前に、畑の様子見てこよー。ついでに倉庫も設置しとこうかなー」
今の僕は大金持ちなので、いろいろ買えちゃうぞ!
★ ★ ★
本日もログイン。目を開けてすぐに見えたのは、まだ慣れない部屋の天井だった。
ホームの寝室にはベッドだけを置いてる。ホーム全体をもっと飾って遊びたいけど、今ははじまりの街に行くのが優先だ。
「失くしたくないものはストレージに入れたし、準備オッケー」
装備品は天の杖と耐衝撃用アンクレット。杖の大きさを錬金術で調整したから、片手で扱いやすくなった。アイテムボックスに入ってるのは、体力回復薬と魔力回復薬、リンゴだけ。
「よっし、行くか~」
気合いを入れたけど、まずは農地に寄り道。
ログアウトする前に確認した時は、ちょっぴり芽が生えた状態だった。今は――
「おー、わさわさしてるー!」
農地の一部が緑色になってた。レタスと大根は葉っぱが増えてるし、トマトは茎が伸びて、もうすぐ花が咲きそうな感じ。次にログインする頃には収穫できるかも。
収穫した作物で何を作るか考えたらワクワクする。美味しいもの作って食べたいなー。
水やりと肥料の追加は必要なさそうだから、今回は観察し終えたら冒険に出発。
西の門を目指してルンルンと街中を飛んでたらホームのご近所さんに会った。
「あら、ウサギちゃんはお散歩中?」
「違うよ~。西の門に向かってるんだ。はじまりの街に行きたいんだよー」
「そうなの……お気をつけてね」
心配そうに手を振って見送られた。死に戻りするかも、と言ったらさらに心配されちゃいそうだし、ニコニコと笑って誤魔化して別れる。
市場のにぎやかさに心惹かれながら、今日はグッと堪えて西門へ――と進んでたら、果樹園でフルーオさんと目が合った。
「お? バイトしてくか?」
「今、朝だったね。うーん、どうしようかなー」
西門の方と果樹を交互に見る……果物の魅力に負けそう。僕って意思が弱い!
「今日はもうほとんど収穫したから、また今度でもいいぞ。とりあえず、これ食ってけ」
「サクランボだー! ありがとう」
気遣ってもらっちゃった。ありがたくサクランボを口に入れて、爽やかな甘酸っぱさを堪能する。
小粒だけど、美味しい! やる気が上がったよ。
「何するんだか知らないが、がんばれよ」
「うん! 無事にはじまりの街に行けたら、今度美味しいお魚をプレゼントするからね!」
「お、そりゃ嬉しいな。楽しみにしてるぞ」
顔を綻ばせたフルーオさんに手を振って別れ、西門を通ってバトルフィールドへ。
ここは【岩山の谷間】っていうエリアらしい。
前回は岩山を飛んで進んだけど、今回は谷間の道を歩いて行くつもりだ。
高い岩山を登るのが面倒くさそうだからってわけじゃないよ?
飛翔スキルを使っても登るの大変そうだなぁ、とは思ったけどさ。下りるのは楽だったんだけどねぇ。
谷間の道を進むと、すぐにモンスターが現れた。岩のような鎧を纏った猿っぽい見た目だ。
「モンスター発見! ゴーレムじゃないのかー」
見た目以上に素早いモンスターの攻撃を、回避スキルを駆使して躱しながら、全鑑定スキルを発動。
【子分猿】
土属性のモンスター。絶壁岩山の下層域をテリトリーにしている
岩でできた鎧を身に纏っているが、重さを感じないかのように素早く動く
主な攻撃は『ひっかく』『キック』『トリックチェンジ』
得意属性【風】苦手属性【木】
いろいろ気になる鑑定結果だ。子分ってことは親分がいるのかな、とか。トリックチェンジって何、とか。ダメージくらうのは嫌だけど、どんな攻撃なのか見てみたい。
すると、バトルに集中してなかったからか、攻撃を避けきれなくて子分猿の手が僕の体にかすった。ダメージは負ってないけど、子分猿の様子に違和感がある。
「うん? その手に持ってるのは何……?」
子分猿が「キキキッ!」と鳴く。僕を馬鹿にした感じで笑ってる気がする。
攻撃してこなくなったのは嬉しいけど、子分猿が持ってるのって僕の体力回復薬な気がする。なんで子分猿が持ってるの?
嫌な予感と共にアイテムボックスを確認してみたら、十個あったはずの体力回復薬が九個になってた。代わりに、見知らぬアイテム【子分猿の×××】が一つ入ってる。トイレで出てくるあれをイラスト化したやつに見えるんだけど……?
「トリックチェンジってそういうことかー! アイテムボックスのアイテムを、お前のフンと交換したね? 最低!」
そういうので喜ぶのは小学生までだよ! お下品!
アイテムボックスから【子分猿の×××】を【捨てる】と選択。手で触りたくもないからね。
子分猿が僕を挑発するように「キキッ!」と笑う。
眺めるのは設備【倉庫】の表示。作物や農業関連の道具を百種百個ずつ収納できるらしい。問題は、設置するのに二千リョウがかかること。払えないわけじゃないけど、余裕があるわけでもない。
「うーん……料理を作って、商業ギルドに売りに行ってみるか!」
作製したアイテムを売るのがどんな感じかも気になるし、金策も兼ねてやってみよう。
そうとなれば、ホームへ戻らないと。死に戻りに備えて、ほとんどの素材をストレージに預けてるから、今の状態だと何も作れない。
「また来るからね、僕の農地くん」
名残惜しさを感じながらも、ホームまで飛翔スキルでひとっ飛びした。
ホームの工房でストレージから素材を引き出し、ひたすら錬金術と料理スキルで作業をする。この地道な感じ、嫌いじゃない。なんか無心になれるんだよね。
幸い、素材はたくさんあった。はじまりの街ではよく魚釣りをしてたし、僕がテイムしたスライムのスラ君の協力もあって毎回大漁だったから。
「魚料理ばっかりっていうのは、ちょっと寂しいけどね……」
アイテムボックスにしまった料理の数々を思い出して苦笑いしちゃう。
魚を使った料理ばかりだけど、一応味付けとか調理方法とか変えて、種類だけはたくさんある。
最後に作った料理『金鰺の刺し身』はそのまま自分の口へ。ぷりっとした食感で程よい脂のりだ。
「ん、やっぱりうまうま!」
何度食べても、ゲーム内で食べるご飯は驚くほど美味しい。
「あ、お米ゲットしないと!」
忘れてたことを思い出した。
第二の街にはお米があるはずなんだ。日本人として必須の主食は確保しないと。農業ギルドにはお米の苗はなかったから、稲作をするには条件があるのかな。とりあえず、市販のお米を探そう。
そんなことを考えながら、まずは金策のために商業ギルドがある中心街に向かう。
飛翔スキルで飛んで行くよ~。
「ママ、見て、ウサギさんが空飛んでる!」
「ウサギが空を飛ぶわけないでしょ――って、飛んでる!?」
道を歩いていた親子に目撃された。男の子が手を振ってくれたから、僕も振り返す。ママさんは驚いてるみたいだけど、僕、危ないモンスターじゃないから安心してね。
愛想を振りまきながら街を進んでたら、電卓みたいなマークの看板が見えた。商業ギルドだ。一旦ここに転移ピンを設定。
商業ギルドにはひっきりなしに人が出入りしてる……ちょっと緊張してきたぞ?
考えてみたら、商人とがっつり話すのは初めてかもしれない。ボッタクリされないよね?
「……たーのもー!」
気合いを入れて中に進む。決して、道場破りをするつもりはない。
カウンターにいるたくさんの受付さんや、そこに並んでる人たちから視線が集まって、ちょっぴり恥ずかしくなった。
調子に乗ってごめんなさい……そそくさと【商品買取カウンター】と書かれているところに並ぶ。
「あんた、異世界からの旅人ってやつ?」
僕の前に並んでる女の人がわざわざ振り返って尋ねてきた。猫系の耳と尻尾がある獣人さんだ。
「そうだよ。僕は冒険者のモモ。今日は僕が作った料理を売りにきたんだ」
「へぇ、そりゃいいね。私はヒョウ族のマナって言うんだ。まだ駆け出しの米農家さ」
「お米!」
思わずマナさんの方に身を乗り出した。僕の勢いに、マナさんが目を丸くして驚いてる。
「そ、そうだけど……米農家って、そんなに驚くもの?」
「ううん。ただお米欲しいなってちょうど思ってたから。お米売ってくれる?」
期待を込めて聞いてみた。でも、マナさんは「あー……それは難しいな」と言って苦笑いしてる。
「この街じゃ、米は商業ギルドが一括で買い上げて、各店舗に卸すんだよ。知り合いにちょっとあげるくらいは見逃してもらえるけど、売るのはルール違反なんだ」
「へー、そんなルールがあるんだ……」
店舗で買うしかないのか。しょんぼりしちゃう。
「【マイドン米店】はいろんな品種の米を取り扱ってて、リーズナブルだよ」
苦笑いしたマナさんが教えてくれた店をマップで確認すると、ここに来るために通ってきた道沿いにあった。見逃してたな。
「あ、近いね。後で行ってみる!」
「――お次の方、どうぞ」
「おっと……お先に失礼」
「うん、教えてくれてありがと」
マナさんがカウンターへ進む。手を振ってお礼を言ってたら、すぐに僕も呼ばれた。三人体制で受付してたみたい。
僕の担当をしてくれる受付さんは、緑色の髪の女性だった。
「本日の商品はどのようなものでしょうか?」
「いろいろな料理なんだけど」
言いながら、僕はアイテムボックスから食料ボックスを五個取り出した。
食料ボックスは、五種類の食料アイテムを各種五十個までまとめて保存できるアイテムだ。
受付さんは食料ボックス内のアイテムを鑑定できるのか、すぐに紙に何か書き始める。
「魚料理ばかりということは、はじまりの街からいらしたんですね」
「そうだよー。第二の街じゃ、魚は獲れないの?」
「西の岩場を越えると海がありますが、道中のモンスターが強いので、わざわざ魚を獲りに行く人はいませんね」
受付さんが肩をすくめる。なんだか嬉しそうな顔をしてる気がする。
「……もしかして、魚料理、この街で大歓迎?」
「はい。はじまりの街から魚を入手していたのですが、交易を妨げるモンスターが現れてからは難しくなってしまったのです。そのモンスターは討伐されたようですが、その後、別のモンスターがやってきているらしく、以前通りの交易にはならない感じですし。それでも、近日中にある程度回復する予定です」
別のモンスター? 岩犀じゃないやつってことか。街開放のワールドミッション達成後に新たに設定されたエリアボスって感じかな。
岩犀は一度倒されたら復活しないタイプの敵だったってことだ。
「新しく来たモンスターって、岩犀くらい強いの?」
「いえ。この街の一般的な冒険者パーティで対応できるのですが、退治してもすぐに復活するようで。一度倒したことがある人だと、モンスターの方が恐れを感じるのか襲ってこないらしいですよ」
戦うのは一回限りでいいってことか。レベリング目的でバトルを挑むことはできるんだろうけど。
僕の場合どうなんだろう。その新たなモンスターとは戦ったことないし、バトル必須な気がする……ますますはじまりの街に戻りにくくなってるじゃん!
「今は、はじまりの街に出向いているこの街の冒険者が、仲良くなった異世界出身冒険者と協力して、ひたすらモンスターを倒すという方針のようです。ついでに、損傷が大きい街道整備もしてくれるといいのですが」
「共闘ってことかぁ」
僕がイグニスさんに戦ってもらって、クリアしたのと同じ感じかな。
プレイヤーだけだとクリアするのが難しい難易度に設定されてるんだと思う。共闘するにも、バトルチュートリアルで出会った指南役との友好度を高める必要があるみたいだ。
街道整備の必要性が出たのは、イグニスさんの攻撃による影響な気がする……ちょっと責任を感じるし、僕も整備に参加できそうならやってみよう。
「そうですね――査定が終わりました。料理二十五種、四百三十二品でお間違いないですね?」
そんなに作ってた? 改めて数字で聞くと、膨大な量だなぁ……
「うん、たぶん合ってる」
「現在、魚料理の買取額を増額していますので、総額七万四千リョウでの買取になります。すべて買い取らせていただいてもよろしいですか?」
紙を示された。それぞれ料理名と買取額が書いてある。真鰺のお刺身が百二十リョウだって。自分で買うってなったら躊躇しちゃう高さだけど、買い取ってもらえるなら嬉しい。
「あ、刺身は一部、買取に出さないでおこうかな」
近々お米が手に入る予定であることを思い出して、海鮮丼を食べたいあまりに刺身各種を返してもらった。今はじまりの街に気軽に行けない以上、魚は僕にとっても貴重だし。まだ少しストレージに残ってるけどさ。
「わかりました。ではお刺身代を引いて――七万三千リョウでいかがですか?」
ちょっとおまけしてもらってるような? ありがたく受け取ろう。
「それでお願いします」
「では、こちら代金です――今後もいいお取引をよろしくお願いします」
所持金の桁が上がった。一気に大富豪になった気分!
「こちらこそー。ありがとね!」
お互いにいい気分になってお別れ。商業ギルドはフランクに利用できそうなところだったな。
帰りに、マナさんにオススメされた店でお米を買った。そして、ホームで早速料理を始める。
「モモのちゃちゃっとクッキングの時間だよー!」
拳を握って宣言してみたけど、一人でテンションを上げてるのは虚しい……ホーム内を見渡して、僕はため息をついた。
はじまりの街で買っておいたホームインテリアを並べて、結構快適な空間になってるけど、なんか物足りない。やっぱり招く友だちがいないから? リリとルト、早く第二の街に来ないかなー。
「気分を上げて楽しもう」
うん、と頷いて、キッチンでアイテムボックスから食材を取り出す。
「品種はよくわかんなかったけど、店主さんが酢に合うお米って言ってたし、大丈夫だよね?」
麻袋に入ったお米を覗く。米屋さんにはたくさんの種類のお米が並んでた。
このゲーム、食材の品種にこだわりすぎでは? 米の品種の多さには、ちょっぴり執念を感じちゃったよ。それぞれで味の違いを表現するのが難しそう。
まぁ、僕はそんな違いがわかるほど敏感な舌を持っているとは思えないから、店主さんのオススメを買ってきた。酢飯にするんだよーって言って教えてもらった『ササアヤオリ』って品種。
「とりあえず、お米を炊く!」
鍋にザラザラッとお米と水を入れて、料理スキルを発動。
魚料理をたくさん作って、料理スキルのレベルが3になったんだ。
【切る】【焼く】【煮る】【揚げる】の他に、【混ぜる】【オーブン焼き】【燻製】【炊く】【冷やす】【成形】の工程ができる。
炊くって、お米以外で使うことあるのかな? お米への執念が料理スキルにまで影響してない?
「炊けたらお酢と混ぜるだけ~」
ルンルン、と鼻歌を歌ってる間にお米が炊けた。料理スキルを使うと、待ち時間短いのがノンストレスでいいよね。街で買ってきたお酢を混ぜようと思って、ハッと気づく。
「酢飯のお酢って、ただのお酢ではなかったのでは?」
お酢の瓶のラベルに書かれてるのは『米酢』の文字……ちょっと調べよう。
掲示板の料理スレで質問してみる。
『酢飯に使うお酢って、米酢でいいの?』
『はじまりの街にお米あったっけ?』
『なんかのミッションでゲットしたとか? うらやま』
『米酢に砂糖と塩入れたら、すし酢になるよ』
お、さすが料理スレの住人さん。すぐに答えが出てきた。僕もリアルで料理を勉強するかなぁ。たぶんイメージが詳しくできると、ゲーム内での料理に反映される気がするんだよね。
今は教えてもらった通りにすし酢を作る。
【混ぜる】スキルと自分の手で混ぜるの、違いがあるのかな? 僕は不器用だからスキルを使うけど、手作業の方が美味しくなるとか、ある?
「すし酢、完成~。お米と混ぜるぞ」
これもスキルで楽ちん。うちわで扇ぎながら混ぜるイメージがあるんだけど、あれってなんで?
粗熱が悪さするの? あれやってる姿、職人さんって感じがするよね。
「酢飯、ほかほか~。ちょっと冷やしてから、これをどんぶりに盛って――」
スキルで勝手に器が出てくるけど、これは味気ないから買ってきたどんぶりに盛る。その上にお刺身を並べたら、あっという間に完成!
「初海鮮丼、天ぷら添え!」
海鮮丼のお魚は真鰺と金鰺、暴鱸、林檎間八、銀剣魚。
林檎間八と銀剣魚は釣人ランクが上がってから新たに釣れるようになった魚系モンスターだ。名前通り、カンパチとタチウオに似てる。
海鮮丼に愛鱚と大沙魚の天ぷらも並べたのは、ただ食べたかったからだよ。
「豪華海鮮丼、いただきまーす」
僕の身長に合わせたダイニングセットに座り、手を合わせる。
箸を使えないのがちょっと残念だけど、フォークで刺してパクッと食べる。
「刺し身うま~。林檎間八はほのかに甘みがあってぷりっぷり食感が最高! 酢飯もいい感じ~」
心が満たされて、体も元気になる感じがする。お寿司が好きだって言ってたリリにも食べてもらいたいなー。でも、にぎり寿司の方がいいかな?
料理スキルの【成形】を使えば作れる気がする。そうなると、寿司ネタにもこだわりたい。
「やっぱり、はじまりの街には戻りたいな」
うまうま、と食べ進めながら真剣に考える。
第二の街で一番の目的だったホームと農地をゲットしたから、そろそろはじまりの街に戻る方法を探したい。
せめて、転移ピンは設定しておきたいよ。
「むむ~……死に戻りするかもしれないけど、がんばってみるかな?」
はじまりの街と第二の街を繋ぐノース街道の奥に、僕一人では行ったことないから、モンスターの強さがわからないや。
岩犀の後に遭遇した苔むした岩ゴーレムは逃げ一択になるくらい強かったけど。
「まだ他のプレイヤー来てないっぽいしなぁ……」
掲示板を覗いてみた。それによると、攻略組――バトル重視型のプレイで攻略の前線にいる人たちは、新たなエリアボスモンスターに苦戦してるらしい。
商業ギルドの人は『この街の一般的な冒険者なら対応できる』って言ってたけど、あれはプレイヤーの指南役をしてくれたカミラみたいな強い冒険者を基準にした発言な気がするんだよねぇ。
プレイヤーの実力はまだそこまで達してないよ。
「みんな、異世界の住人との共闘が鍵ってわかってるのかな?」
攻略スレの人が愚痴っぽくなってるのを見て、首を傾げる。
指南役だった異世界の住人と一緒に戦うって言ってる人がいないような。これ、教えてあげた方がいいのかな。
「――攻略スレに書き込むのは緊張する……」
なんせ、僕はマイペースに楽しんでるだけなので! 『どんどんバトルするぜ!』と言ってる人に親しみがない。
好戦的なルトも温厚なリリと一緒に行動してるから、そこまでがっついてないもんなぁ。
でも、書き込まないのもちょっぴり罪悪感がある。チートっぽい方法でワールドミッションをクリアしちゃった引け目? というわけで、コメントを用意してみた。
『バトルチュートリアルの指南役と仲良くなると、一緒にボスモンスを倒してくれるっぽいよ』
僕であることが特定されないような書き方にしてみたけど、これでいいかな……うん、いいはず! 送っちゃえ!
開き直った感じで掲示板に載せた。すぐにレスがつく。
『マジ? これ、そういうイベントだったの?』
『指南役とか、チュートリアル以来会ってねぇよ……』
『ひたすら挑み続けた攻略組さん、おつかれww』
『草生やしてんじゃねーよ! おかげで【絶望に挑みし者】って称号もらっちまったよ!』
「え、何その称号、響きがカッコいい……」
自分のステータスにある称号を見て、思わずしょんぼりしてしまった。だって、そんなにカッコいい称号は持ってない。特に、スライムの王様をクッション代わりにして獲得した【スライムキングを尻に敷く】が異彩を放ってる。
「僕も、こっち側からエリアボスに挑み続けたら、カッコいい称号をもらえる?」
急にやる気が湧いてきたぞ? やっちゃう? 死に戻り上等だぜ? ……ごめん、この口調はなりきれないや。
第一、僕の見た目に合ってない。
プリティーに言うなら『死んじゃうかもしれないけど、がんばるもんね!』かな。
「よし、次回ははじまりの街への帰還を目指してがんばるぞ! えいえいおー」
一人だけど気合いを入れるために声に出してみる――虚しいだけだった。
この後、ログアウトしないといけないし、決意表明のタイミングを間違った気がする。
「……あ、ログアウト前に、畑の様子見てこよー。ついでに倉庫も設置しとこうかなー」
今の僕は大金持ちなので、いろいろ買えちゃうぞ!
★ ★ ★
本日もログイン。目を開けてすぐに見えたのは、まだ慣れない部屋の天井だった。
ホームの寝室にはベッドだけを置いてる。ホーム全体をもっと飾って遊びたいけど、今ははじまりの街に行くのが優先だ。
「失くしたくないものはストレージに入れたし、準備オッケー」
装備品は天の杖と耐衝撃用アンクレット。杖の大きさを錬金術で調整したから、片手で扱いやすくなった。アイテムボックスに入ってるのは、体力回復薬と魔力回復薬、リンゴだけ。
「よっし、行くか~」
気合いを入れたけど、まずは農地に寄り道。
ログアウトする前に確認した時は、ちょっぴり芽が生えた状態だった。今は――
「おー、わさわさしてるー!」
農地の一部が緑色になってた。レタスと大根は葉っぱが増えてるし、トマトは茎が伸びて、もうすぐ花が咲きそうな感じ。次にログインする頃には収穫できるかも。
収穫した作物で何を作るか考えたらワクワクする。美味しいもの作って食べたいなー。
水やりと肥料の追加は必要なさそうだから、今回は観察し終えたら冒険に出発。
西の門を目指してルンルンと街中を飛んでたらホームのご近所さんに会った。
「あら、ウサギちゃんはお散歩中?」
「違うよ~。西の門に向かってるんだ。はじまりの街に行きたいんだよー」
「そうなの……お気をつけてね」
心配そうに手を振って見送られた。死に戻りするかも、と言ったらさらに心配されちゃいそうだし、ニコニコと笑って誤魔化して別れる。
市場のにぎやかさに心惹かれながら、今日はグッと堪えて西門へ――と進んでたら、果樹園でフルーオさんと目が合った。
「お? バイトしてくか?」
「今、朝だったね。うーん、どうしようかなー」
西門の方と果樹を交互に見る……果物の魅力に負けそう。僕って意思が弱い!
「今日はもうほとんど収穫したから、また今度でもいいぞ。とりあえず、これ食ってけ」
「サクランボだー! ありがとう」
気遣ってもらっちゃった。ありがたくサクランボを口に入れて、爽やかな甘酸っぱさを堪能する。
小粒だけど、美味しい! やる気が上がったよ。
「何するんだか知らないが、がんばれよ」
「うん! 無事にはじまりの街に行けたら、今度美味しいお魚をプレゼントするからね!」
「お、そりゃ嬉しいな。楽しみにしてるぞ」
顔を綻ばせたフルーオさんに手を振って別れ、西門を通ってバトルフィールドへ。
ここは【岩山の谷間】っていうエリアらしい。
前回は岩山を飛んで進んだけど、今回は谷間の道を歩いて行くつもりだ。
高い岩山を登るのが面倒くさそうだからってわけじゃないよ?
飛翔スキルを使っても登るの大変そうだなぁ、とは思ったけどさ。下りるのは楽だったんだけどねぇ。
谷間の道を進むと、すぐにモンスターが現れた。岩のような鎧を纏った猿っぽい見た目だ。
「モンスター発見! ゴーレムじゃないのかー」
見た目以上に素早いモンスターの攻撃を、回避スキルを駆使して躱しながら、全鑑定スキルを発動。
【子分猿】
土属性のモンスター。絶壁岩山の下層域をテリトリーにしている
岩でできた鎧を身に纏っているが、重さを感じないかのように素早く動く
主な攻撃は『ひっかく』『キック』『トリックチェンジ』
得意属性【風】苦手属性【木】
いろいろ気になる鑑定結果だ。子分ってことは親分がいるのかな、とか。トリックチェンジって何、とか。ダメージくらうのは嫌だけど、どんな攻撃なのか見てみたい。
すると、バトルに集中してなかったからか、攻撃を避けきれなくて子分猿の手が僕の体にかすった。ダメージは負ってないけど、子分猿の様子に違和感がある。
「うん? その手に持ってるのは何……?」
子分猿が「キキキッ!」と鳴く。僕を馬鹿にした感じで笑ってる気がする。
攻撃してこなくなったのは嬉しいけど、子分猿が持ってるのって僕の体力回復薬な気がする。なんで子分猿が持ってるの?
嫌な予感と共にアイテムボックスを確認してみたら、十個あったはずの体力回復薬が九個になってた。代わりに、見知らぬアイテム【子分猿の×××】が一つ入ってる。トイレで出てくるあれをイラスト化したやつに見えるんだけど……?
「トリックチェンジってそういうことかー! アイテムボックスのアイテムを、お前のフンと交換したね? 最低!」
そういうので喜ぶのは小学生までだよ! お下品!
アイテムボックスから【子分猿の×××】を【捨てる】と選択。手で触りたくもないからね。
子分猿が僕を挑発するように「キキッ!」と笑う。
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