ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

文字の大きさ
124 / 220
3-3.外との関わり

124.勇者御一行を観察中⑥

しおりを挟む
 3A階蜜の海を出たアレックスたちは、しきりに[まだ甘い匂いがする気がする……]と呟きながら3B階密林遺跡を目指した。
 道中でたくさんの魔物と遭遇したのは、甘い匂いにつられたから、ではないはず。たぶん。

 3B階密林遺跡に辿り着くと、ドロンがヒュウッと口笛を吹いた。

[どー考えても、こっちの方が攻略楽そうだよなー。そりゃ、向こうが不人気になるわけだ]

 ドロンは深呼吸して[自然の匂いだ]と嬉しそうに尻尾を揺らす。
 狼族獣人曰く、獣人の多くは森などの自然がある環境を好むらしい。ドロンも例に漏れずのようだ。

[蜂蜜採取でしか役立たないなんて、ここのダンジョンマスターはどういう考えであの蜂蜜の海を作ったのかしらね?]

 エルフのリーエンも木々がある環境は好ましいようで、表情が緩んでいる。
 でも、その発言で一気にリルを敵に回してるぞ。

 俺はソッとリルの方を見る——うん、不機嫌そうに尻尾で地面をパシパシッと叩いてるな。その動きに合わせて影兎シャドウラビが無邪気に跳ねて遊んでるのがシュールだ。

『蜂蜜採取でしか役立たないわけじゃないもん。ちゃんと攻略を阻んでるもん』

 めっちゃ拗ねてる。そんな顔も可愛いけど、リルはご機嫌な方が魅力的だぞー。
 首筋をワシャワシャと撫でて宥める。リルはこれくらい強めな撫で方が好きなのだ。

「そうだなー。あまりに強力に阻んでたから、俺が3B階密林遺跡を作っちゃったくらいだもんなー」
『っ、うん! だよね。ちょっと強力過ぎたかもしれない。それは反省』

 てへぺろ、と舌を出して前足で頭をコツンと叩くリルに戦慄する。
 そんな可愛いポーズどこで学んだんだ……!?

 たぶん、相棒だけに共有された日本の知識からなのだろうけど、共有されてる知識の基準がいまいちわからない。
 3A階蜜の海ができたのも、リルが中途半端な日本知識でハニートラップを再現しようとしたからだもんなぁ。

 経緯を思い出して俺が遠い目をしている間にも、アレックスたちは順調に攻略を進めていた。
 3B階密林遺跡の魔物は、勇者であるアレックスだけでなく、ドロンたちにとっても手応えのない敵らしい。

[よっと……俺様にかかりゃあ、朝飯前だな!]
[あら、ドロンだけが活躍してるみたいに言わないでよ。ここだと心置きなく精霊術も魔法も使えるから嬉しいわ]
[槍も使いやすいし、敵もほどほどの強さだし、冒険者が鍛錬をするのにもよさそうだね]

 アレックスたちに次々に倒されていく魔物たちを、俺はなんとも言えない思いで見守る。
 近くを進む冒険者たちは[なんだコイツら。鬼つえー]と呆然とした顔でアレックスたちを見ていた。
 やはり勇者一行は、普通の冒険者たちから見ても桁外れの実力者のようだ。

『マスター、きょうのたんとうしゃはとめてないんだよね~?』

 リルの尻尾で遊んでいた影兎シャドウラビが、ふと顔を上げ俺の方に近づいてきて問いかける。

 影兎シャドウラビが言う担当者というのは、4階もふハニトラから3B階密林遺跡に出張している影兎シャドウラビのことだ。日替わりで複数体が担当している。
 そして、担当者を止める、とは手出し禁止の令を出すこと。

 前にラッカルたちが祈りの間の調査に来た際に出した令だが、今回は出してない。
 勇者に影兎シャドウラビの存在を悟られるのはどうだろう、と思いはしたが、バレないようにと指示を出して、影兎シャドウラビの判断に任せたのだ。

「そうだな。正直、影兎シャドウラビたちが勇者に敵うのか、実力を測りたいし」

 影兎シャドウラビたちは呑気なところはあるが、バトルセンスは優れている。
 もし実力が足りず存在がバレてしまいそうだと判断したなら、戦いを挑むことすらせずに様子見に徹するだろう。

『そっか~、どうなるかな~』

 ワクワクとしながらモニターを見上げる影兎シャドウラビの頭を撫で、俺もモニターに注目した。
 さて、3B階密林遺跡にいる影兎シャドウラビはどうするつもりだろうか——

[ここ、不可視の敵が出てくるって情報あったよな?]
[そうね。今のところそんな気配はないけれど]

 ドロンとリーエンが魔物にとどめを刺して一息つき、周囲に視線を走らせた。
 余裕そうな感じで魔物を倒しているのに最大限の警戒をしているようだったから不思議に思っていたのだが、それは不可視の魔物——影兎シャドウラビの情報を得ていたからだったのか。

[不可視の敵というと、レイスの類いかな]

 アレックスが槍の一撃で草原狼プレアリーウルフを倒しながらポツリと呟く。
 その言葉にドロンとリーエンが顔を見合わせた。

[レイス、ねぇ……確かにあれは実体がないと言われる魔物だけれど、それは魔力の塊のようなもので、決して見えないというわけじゃなかったはずよ。まさか、遭遇した人全員が魔力視を持っていないということはないでしょ]

 魔力視とは、文字通り〈魔力を視る能力〉のことだ。
 魔法を使えるほどの魔力を持っている者はたいてい魔力視を使える。というか、魔力視がないと魔法を使えないと言われている。

 冒険者の中で魔法使いは希少と言うほどでもないのだから、リーエンの主張は正しい。
 ちなみにレイスとは、魔力で構築された幽霊のような姿の魔物でアンデッドの一種だ。死体を適切に対処しないと、街中でも自然発生してしまう魔物として知られている。

[つーか、レイス如きに、高ランクの冒険者さえ気づかない内に殺られるとかねーだろ。その情報があるからこそ、俺たちが調査に来てるわけだしな]

 ドロンから意外な言葉が聞こえた。
 アレックスたちがこのダンジョンの調査に来たのは、交易拡大を検討するための情報集めだけでなく、不可視の魔物を警戒してのものだったのか?

[確かにそうだね。でも、ここは死なないダンジョンだよね? それなら、強い魔物がいたところで、大した問題にはならないと思うんだけど。神殿はどうしてそんなに気にするんだか……]

 アレックスが不可解そうに呟く。ドロンとリーエンは肩をすくめて口を噤む。
 勇者派遣を決めた神殿の考えは、そこに所属しているアレックスたちですら読み切れていないようだ。

[一つ考えられるのは——]

 不意にリーエンが口を開く。だが、すぐに警戒した表情を周囲に向けて口を閉ざした。それはアレックスたちも同じだ。

 一体どうしたんだ?
 俺がそう思った時には、アレックスが槍を目前に掲げ、その柄で何かを弾き返していた。

しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

猫になったのでスローライフを送りたい(リメイク版)

紫くらげ
ファンタジー
死んだはずが何故か猫になっていた 「でも猫になれば人間より楽できるし、面倒なこと起きないんじゃないの…?」 そうして私のゆったりとしたスローライフが…始まらなかった

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

ゴミスキルと追放された【万物鑑定】の俺、実は最強でした。Sランクパーティが崩壊する頃、俺は伝説の仲間と辺境で幸せに暮らしています

黒崎隼人
ファンタジー
Sランク勇者パーティのお荷物扱いされ、「ゴミスキル」と罵られて追放された鑑定士のアッシュ。 失意の彼が覚醒させたのは、森羅万象を見通し未来さえも予知する超チートスキル【万物鑑定】だった! この力を使い、アッシュはエルフの少女や凄腕の鍛冶師、そして伝説の魔獣フェンリル(もふもふ)といった最強の仲間たちを集め、辺境の町を大発展させていく。 一方、彼を追放した勇者たちは、アッシュのサポートを失い、ダンジョンで全滅の危機に瀕していた――。 「今さら戻ってこい? お断りだ。俺はこっちで幸せにやってるから」 底辺から駆け上がる痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

小さな小さな花うさぎさん達に誘われて、異世界で今度こそ楽しく生きます!もふもふも来た!

ひより のどか
ファンタジー
気がついたら何かに追いかけられていた。必死に逃げる私を助けてくれたのは、お花?違う⋯小さな小さなうさぎさんたち? 突然森の中に放り出された女の子が、かわいいうさぎさん達や、妖精さんたちに助けられて成長していくお話。どんな出会いが待っているのか⋯? ☆。.:*・゜☆。.:*・゜ 『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』の、のどかです。初めて全く違うお話を書いてみることにしました。もう一作、『転生初日に~』の、おばあちゃんこと、凛さん(人間バージョン)を主役にしたお話『転生したおばあちゃん。同じ世界にいる孫のため、若返って冒険者になります!』も始めました。 よろしければ、そちらもよろしくお願いいたします。 *8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。

番外編・もふもふで始めるのんびり寄り道生活

ゆるり
ファンタジー
『もふもふで始めるのんびり寄り道生活』の番外編です。 登場人物の説明などは本編をご覧くださいませ。 更新は不定期です。

処理中です...