高嶺の花宮君

しづ未

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高嶺の花宮君

 いつも通りの朝、静かな通学路を歩いていた俺は、単語テストに備えて早めに登校して勉強しようと考えていた。これまでは勉強から逃げてきたが、今年は大学受験が控えているため頭の良くない俺は本腰を入れて勉強しなければならない。

「…………!」

 はあ……今日もだ。騒がしい声がだんだん近づいてくる。声の主はダッシュで追いついてくると俺の肩を強く叩いてきた。

「はあ……はあ……ヒュッ……おい雨実うみ。この俺を置いていくとはいい度胸じゃないか」
「は?一緒に行く約束なんてしてねえだろ」

 疲れて息も絶え絶えの男を見捨て、学校へと急ぐ足を早める。なぜこの男と居たくないかというと、こいつ自身にも問題はあるが、それだけではない。あまりにも周りに影響を与えすぎるのだ。

「おい待て、俺はお前と……」
「「きゃ~~~~~!!花宮く~~~ん!!」」
「あっ……やあ子猫ちゃん達、今日も良い天気だね!」

 男の名前は花宮はなみや大地だいちという。眉目秀麗、成績優秀で運動神経も良く、絵に描いたような完璧超人ゆえに学園の王子様扱いである。女子にも男子にも人気で花宮ファンクラブなんてものもできている。あいつ自身クソナルシストで飄々とした態度を取り、ファンのことを子猫ちゃんなんて呼んでいる。
 そして、俺の幼馴染である。俺はそんな花宮のことが嫌いだ。




「いや~花宮君は今日も一段と輝いてるね~」
「別にどうでもいい」

 教室では相変わらず花宮の周りに人だかりが出来ている。友人の佐々木は遠巻きにその様子を見ながら呟いた。俺は頭が良い佐々木に勉強を教えてもらいながら課題に取り組んでいた。

「おい水月みなつき、ここ間違えてる」
「えっ!?クソ……文法ムズすぎだろ……」
「てかさ、何で急に勉強するようになった訳?」
「……俺K大受けるから勉強しないとマジやばいの」
「K大!?水月の偏差値じゃキツくね!?」
「だから頑張ってんの!」

 俺は正直言って要領が悪いので人よりも多く勉強しないと理解できない。それなのに偏差値高めの大学を目指していることに佐々木は疑問を持っていることだろう。俺だって分かってるんだ。分かってるけど……。

 「あれ、何か花宮君こっち見てない?」
 「は?まさかお前まであいつのファンになったか?」
 「いやそうじゃなくて、お前のこと見てるぞ」
 「えっ」

 振り返ると、花宮はこっちを見ているどころかこっちに向かって来ていた。いつも振り撒いているような笑顔ではなく、睨みつけるような目でこっちを見ている。俺の席の前まで来ると、今度は佐々木の方を向いてにこりと微笑んだ。

 「やあ、真面目に勉強していて精が出るじゃないか!えーと……笹田君?」
 「佐々木な」
 「そうそう佐々木君!雨実に教えるのはさぞ骨が折れることだろう。代わりにこの俺が引き受けようじゃないか!」
 「お前になんか教えてもらうかボケ」
 「え、それいいじゃん。花宮君の方が頭良いし、教えるの上手いし」
 「そうだろうそうだろう!」

 花宮の表情がみるみる明るくなる。おいやめろ、助け船を出すな。佐々木は徐に席を立ち上がった。

「ここの席使っていいぞ」
「ありがとう佐々木君!雨実の学力は俺が責任を持って面倒見るよ!」
「あっおい佐々木!」

 佐々木はそのまま教室を出て行ってしまった。二人になったところで花宮が正面に座ってきた。めちゃくちゃニコニコした顔で俺の方を見てくる。やめろその顔、ムカつく。

「ふふ、雨実覚えてるか?小学生の時もこんな風に俺が雨実に勉強を教えてたよな」
「俺は教えろなんて頼んだ事無い」
「頑張り屋だもんな。一人でやらずに教えてもらう方がお互いにとって良い」
「だから佐々木に教えてもらってただろうが」
「俺なら雨実の苦手な分野もよく分かってるから効率的に教えられると思うぞ?」

 お前と二人きりになるのが嫌だからに決まってるからだろうが。分かってんのか?周りの奴らの突き刺さるような視線が向けられているのが。俺がイライラすればするほどこいつは楽しそうだ。机一つを挟んで向かい合うなんて、俺以外の人間なら泣いて喜ぶレベルなのだ。何でよりによって俺にばかりこんな事をするのだろう。

「優しい花宮君なら俺以外の誰にでも勉強教えろよ」
「雨実以外にちゃんと教えられる自信が無いからなあ、頼まれても断るかもしれないね」

 嫌味で言ったのにまるで効いてないようで、花宮は悪い顔でニヤリと笑った。はあ、やっぱりこいつのことが嫌いだ。
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