冬の一陽

聿竹年萬

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少年期 少年の進路編

(58)ようやくの着席

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「皆さんすみません、こちらの方は僕のお客様なので丁重にお願いします」とのムイロの静止と、「ほら、皆はこっちでお姉ちゃんと遊んでいようね」というイレーナの誘導で二人は解放された。

「お二人とも、大変失礼いたしました。オルティアにあっては貴族と領民との距離が近く気安いのです。お気を害されておられましたら責任の所在は当方にございますので何なりとお申し付けください」

 深いお辞儀を彼はした。表情は見えなかったが、その言葉と言いよう、態度から、「オルティア領の民の振る舞いはこれでいいのだ」と示していることが察せられた。口上が慣れているように感じられた。ドロシーは少し難しそうな顔をしていた。

 ご婦人方は部屋の中央の大机で作業をしている。皆一様に内職をしている。繕い物する者あらば、鳥の羽をペンに加工する者もある。あれらの作業は領からの下請け仕事なのだという。また幾人かの婦人と、年かさのある少女はイレーナと談笑しながら子供らの面倒を見ていた。

 彼女らの作業する脇を通って、三人は部屋の奥の方に置かれた会議机の席に着いた。

「改めましてムイロ・フォン・オルティアと申します。カーラウド公爵の嫡子として拙いながら務めております」

「ご丁寧に恐れ入ります。フィンと申します。出生地の長の名前を借りてフィン・リスノザと名乗っております。本日はムイロ殿下のご婚約を祝しまして国王より贈答の品を預かってまいりました」

「ドロシー・リスネザネルと申します。フィンの後見をしております」

 ドロシーが心なしか誇らしげなのはフィンが口上も立派にこなしているのが我がことのように嬉しかったからである。

 挨拶もそこそこにフィンは贈答品を机上に置き、ムイロの方へ静かに押し出した。ミスリル紐を留める封蝋が彼の方を向くように。

 ムイロが封蝋に掌を置いてキーワードを入力する。余談であるが王家の封蝋は送り先に合わせて異なる封印が施されている。受取人は開封魔術に合わせて予め取り決められているキーワードを入力することでようやく開封できるという具合の物だ。なお、キーワードを入力しないままに中を改めようとするのはそもそも困難であるが、よしんば梱包を突破した場合、中身は爆散するようになっているらしい。

「これは……ありがたいことです。国王陛下には改めてお礼を申し上げねばなりませんね」

 ムイロが小箱の中を改めると息を飲んだ。そして顔を綻ばせた。フィンの位置からは中身は見えないでいた。気が付いたムイロがそれを手に取って見せる。

 それは青いコインに見えた。

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