[完結]あいみぃ☆ばーちゃる

夏伐

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1 グループを卒業した推しのアイドルがバ身肉転生して宅のみVtuberになっていた

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「みんな! 今まで私を応援してくれて……ありがとうございました!!」

 小劇場、ライトで照らされながら、あいみぃは頭を下げた。

 ぺこり、と深く。

 顔を上げるとその目は涙がウルウルと潤んでおり、それを見て、我慢できずに泣き出すファンの嗚咽が劇場のそこかしこから聞こえる。

 地方アイドルふわループのリーダーあいみぃは、こうしてアイドルを卒業してしまった。



 あいみぃのアイドル人生は7年にも及んだ。
 地方のアイドルとしてはまぁまぁ成功していた方だと思う。

 ライブはいつも盛り上がっていたし、固定ファンだっていた。僕もその一人だ。

 あいみぃの推しポイントは第一に『神対応』があげられる。

 握手やチェキも笑顔で「前とは別のポーズにしてみよっか」と色んなポーズで一緒に写真を撮った。
 何が凄いってファン一人一人と撮った写真の内容を覚えてるって所。

 時々忘れてチェキの途中で思い出した時なんか、「ごめんね、うっかり……」と、とても可愛くはにかんで笑う。

 それに、すぐに顔とあだ名を覚えてくれる。

 内輪だって嫌う人もいるだろうけど、時折「あ、すずさん、今日も来てくれてるーありがと!」と挨拶に仲の良いファンの名前を出してくれる時もあった。

 ファンの間ではあいみぃに名前を呼んでもらえた人は幸運に恵まれる、なんて噂が流れたくらいだ。
 嘘か真か宝くじを当てた人もいるって噂もある。


 あいみぃは『頑張り屋』だ。

 まだファンが少ない頃から、武器が必要だとライブ前の挨拶でのトークの練習をしたり、弱小事務所だからと衣装を手作りしたり、辞めてしまう前の何年かは自分で曲まで作っていた。

 皆にもっと楽しんでほしいから。

 そう言って、ファンには分かる単語を詰め込んだオンリーワンな可愛い曲をTwitterでシェアしたりYouTubeチャンネルで投稿したり……。ファンになってからそういうシェアされる情報であいみぃをより応援したくなった。 

 あいみぃは元々優秀だったのか、どれもこれも初めは苦笑いレベルのものであってもどんどんと上達していった。
 最後のステージの衣装なんて、メンバー全員分をあいみぃが作っていたという。

 地方アイドルあいみぃの最後のツイートは「みんな、ありがとう。今まで辛いこともみんなのおかげで頑張れたよ!」だった。


 『王道美少女』な所も僕はメロメロだった。

 アイドルをしていたから顔はもちろん可愛い。
 あいみぃはライブで「私はクラスで3番目くらい」だとか言っていたけど、そんなわけあるか。あいみぃは世界で一番可愛い!

 アイドル活動していた間、あいみぃは一度の不祥事もしなかったし、炎上もさせなかった。

 発言は、まさに皆が想像するアイドルそのものだったし理想の女の子。

 長い黒髪はサラサラしていて、長いまつ毛に何人もの人間があいみぃのファンになった。



 そんな素晴らしい僕の推し・あいみぃはもういなくなってしまった。



 もう仕事は手につかないし、これから先どうやって生きていけばいいか分からない。



 とは言え、だからと言って死ぬか、となるわけでもない。会社には行くし、ご飯も食べる。日常にハリが無くなった感じだ。

 あいみぃがアイドル時代に投稿していたオリジナルソングを聞きながら、コンビニ弁当を食べる。調味料の味しかしない。

 同じ弁当なのにどうしてこんなに違うんだろうか。

 あいみぃに会えていた時は、毎日眠るのが楽しかった。明日が楽しみだった。


「…………」


 僕は静かに涙を流しながら、あいみぃの歌う姿をPCのモニターいっぱいにして、薄暗い部屋で見つめる。

 これが推しロスってやつなのかな……。
 まだ現実が受け入れられない。





 ――それから三年が経った。




 僕は時折あいみぃの動画を眺めていた。

 もう涙は出ないが、心があいみぃの輝きを求めている。毎日を消化している感覚はあいみぃを失ってから強くなるばかりだった。

「なんだ、この動画……」


『あいみぃ☆ばーちゃる 配信するよ!27』


 最近流行っているVtuberというやつのようで、コッテコテに要素を盛り込んだ二次元美少女キャラクターが缶ビール片手にゲソを噛んでいるサムネ。

 獣耳、オッドアイ、白髪、ゲームのような衣装。
 ここまで要素を盛り込んでいると「のじゃ」や「である」という語尾でも違和感などないだろう。

 僕はタイトルの『あいみぃ』に釣られて、その動画をクリックした。

 二次元のキャラが右端で『中の人』とリンクした表情と動きを繰り返す。画面中央には別に撮影されているらしい「晩酌」が映っていた。

「だーはっはっはっは! 今マネージャーしてるうちの子たち、良い子すぎてマジ推せるわ~、お前らS市来たら絶対ライブ来いよ、めっちゃ可愛い! マジ可愛い!」

 缶チューハイ片手にビーフジャーキーをもぐもぐ食べながら、女性の声であいみぃ☆ばーちゃるは言った。

 確かあいみぃはS市出身だった。Twitterでアイドルになるために上京したと言っていた。
 不思議な一致に僕は動画を見続けた。

「まっ、グループ名は言わねぇけどな! ひゃっはっは」

 それに対するファンの突っ込みを読み上げ、反応する。

「何々? 教えてくれたら推すけどって、……一回ライブに来たらもううちの子のファンになるしかないだろ」

 そして、ごっごっと缶チューハイを飲み干してバカ笑いした。

 

 その動画を見ていて、僕は愕然とした。



 口調も晩酌の内容も全て、あいみぃとは程遠いが、その声は間違いなくあいみぃだった。

「じゃ、来週は新曲アップするから楽しみに待ってろよ!」

 画面に向かってあいみぃ☆ばーちゃるはグッと親指を立てた。

 投稿されている次の動画を見てみると、アップテンポな電波曲がPCから流れてくる。

 あいみぃは、もっと夢とか希望とか、モチーフも花や海なんかをよく歌にしていた。

 だが、あいみぃ☆ばーちゃるは歌の中でストロングゼロの氷結割りをおすすめしている。歌っている声で改めて思い知る。

 間違いない、『あいみぃ☆ばーちゃる』は、僕の推しである『あいみぃ』だ……。


 すぐにあいみぃ☆ばーちゃるのTwitterをフォロー。YouTubeもチャンネル登録した。


 元のあいみぃとは比べ物にならないくらい変わり果ても、僕にはあいみぃから目を離すことはできなかった。

 だってあいみぃは僕の推しだから。

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