[完結]予言のおわり

夏伐

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1 はじまり

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 星を詠んでいた者たちが一斉に悲鳴を上げた。
 何度も星に問い直す。

 けれども結果は同じらしく、ついには一族の長にその結果が伝えられる。

「これから私たちは狩りの獲物となるでしょう。一人残さず狩られ、血はすべて大地に注がれます」

 皆が私を見た。まだ幼く小さく、生まれ持った力を頼りにその場にいた少女。

「姫様、未来の『演算』をはじめてください」

 私は頷いて、何度も何度も星の見た未来を分岐する。果てしない作業だが、時折この能力を生まれ持ってくる人間はいた。

 それらの能力は、一族がより生き残るために使われることとなる。

 私は何度も何度も殺された。

 数多の分岐の末、生き残る可能性が高い道を見つけた。
 私たちを狩る王の妻になる道だった。それすら見つけるのに私は何千もの死を経験した。

 様々な未来を見た。
 未来では様々な、私の子供を見た。

 その中で、私たちの血を絶やさない唯一の未来に繋がっていたのが、双子が生まれる未来だった。

 私は、静まり返った一族の前に宣言した。

「私たちの一族は散り散りになり、氏族は失われます。けれど、必ず全てのはじまりである王妃を殺す子を私が生むでしょう。その子が私たちの象徴として、表舞台に立つまで、一人でも多く生き残るのです」

 私が見れるのは、私の未来だけだ。それでも一族の状況は察することはできる――未来の私はそれを調べたのだろう。

 十年後、私は必死に追手から逃げていた。その際に一族はバラバラになった。
 その場で殺されたものがほとんどだった。

 何度も見た未来、一瞬たりとも違うことは許されない。

 そして私は、敵の王と運命の出会いを果たした。

 数多繰り返した会話の選択肢、全ての最善を選び、彼ににこやかに従った。

 後宮という檻で、双子を生んだ。

 私は数年後、死ぬだろう。
 それまでにあの日見た未来への準備を進めなくてはいけない。

 懐柔できる人間は懐柔した。

 側室としてそれなりに権利を与えられていた。

 未来で「子供が病気で死んだ」という侍女に金を渡してすぐに治療するように言って休暇をやる。
 彼女は感謝し、私のために何でもすると誓った。

 星を詠むことは、特別な力は必要ない。

 だからこそ、私は自分の未来に関わらないであろう人物の未来をも予言することが出来た。

 そしてジワジワと人の心を蝕んでいく。

 そろそろだろう。

 そろそろ私は殺される。

 食事か、衣服か、水か。どこから摂取したのかは分からない。
 だが確実に衰弱していった。

 それでも子供たちにおとぎ話を語ることはやめない。

 ある日ベッドから起き上がれなかった。目を開いても白く霞んで何も見えない。光に手を伸ばす。

 子供たちが心配そうに私の隣にいる気配を感じる。
 泣いているのだろうか。

 私は霞む視界の中で、確かにあの女の首を刎ねる金糸の髪の若者の姿を見た。
 線は細く、どちらの子か分からない。

 だが、これは為される未来。果たされる運命。
 生き残り、大地に根差した星詠みの血が見せてくれた希望の未来。

 私の口は、全ての余力を振り絞り勝手に予言を紡ぎ出した。

「お母さん!」
「母さま!」

 双子の声が遠くに聞こえた。

 私のすべきことは全てした。
 子よ。運命に導かれ、邪悪な悪魔を殺せ。
 そして星詠みの血を絶やすな。

 明日からすべてが始まる。
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