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0006 はじめての会話

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 桜が舞い散る花道で、誰かのくしゃみが聞こえた。
 振り向くと、犬のような耳と尻尾が生えた憧れのクラスメイトが立っていた。

 小学生の頃から、通学路が同じで本当に彼が好き。

 ただ、今の彼は顔見知りになれた私を困惑と共に見つめている。
 私には猫のような耳と尻尾が生えていた。
 昨日この道でくしゃみをしてしまったからだと思う。

「「くしゅん!」」

 鼻がむずむずして、私と彼は同時にくしゃみをした。
 彼の顔には犬のようなひげが生えていて、なんだか瞳も獣っぽい。

 彼に出会うのが楽しみでゆっくり通っていた道を、お互いに目を合わせてどちらともなく走り出した。ここにいてはまずい!

「「くしゅん!!」」

 やっとこの桜並木を抜けたと思った途端に、私の服がはじけとんだ。花も恥じらう女子中学生の私に一体何が……。
 自分の状態を見るために、彼を見た。

 彼も茫然ぼうぜんと私を見つめる。

 そこには、二足歩行する人間大の犬がいた……。

 それから十年ほど経つだろうか、私は子供を抱っこしながらテレビのインタビューに答える。

「未だ原因を究明することができない奇病、政府に対して何か要望は……」

「え? 私と夫の馴れ初めの話を聞いたのでは?」

「あ、あの、獣化してしまった時の話を……」

「ええ、あの日、はじめて私は夫は会話したんです」

 私は恥ずかしくなってしまい、ふわふわの手で口元を隠した。
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