[完結]マリンとパール

夏伐

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「それが森の民の能力?」

「草木を操れる人もいるよ、あの人たちを捕まえてたのはそういう能力の人。ほかには植物と感覚を共有できる人もいる。パールもきっとここで暮らすうちに使えるようになるよ」

「私、ここに、いていいの?」

「帰れないでしょ。大丈夫、うちで暮らせばいいよ」

 マリンが微笑む。パールは泣いた。
 二人の娘を、マリンの父は一緒に抱きしめた。

 数年後、肌は焼け、髪が緑に代わったパールは、マリンと共に買い物の為に外に出ることになった。森の入り口で商人とやり取りをするだけだが、それは娯楽の一つでもあった。そして、もう誰も彼女を王族だとは思わない。
 パールは森の意思を共有しながら、安全な道を先導して歩く。後ろにはそっくりな顔をしたマリンが植物を操り、重い荷物を運んでいた。

「パール、これを運んだら早く家に帰ろうね!」

「そうだね、マリン」

 パールもマリンも外に行きたいとは言わなくなった。未だに、パールを殺すために森に襲撃者が入り込むことがある。

 森の奥、毒を浄化するために土地のきわに植えられた若木たちは時折苦し気なうめき声を上げる。
 人としての意識を失いながらも、苦しみだけは存在する地獄。毒を吸い込み分解した木々たちは、年に数本刈り取られ焼かれる。
 それが彼らが苦しみから逃れる唯一の方法だった。

 森の民は地獄の番人でもあったのだ。
 マリンもパールも、その地獄の横で今しばらくの楽園を享受する。
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