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第33話 英雄の名を持つ冒険者

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 扉を開け中に入ると、そこには既にこの前一緒に緊急クエストをした3人を含め、数名の冒険者とギルドマスターであろう少し年老いた人がいた。そして、どうやらアスカ達が最後集まるべき冒険者のうちの最後らしい。

「これで9人目。よし、全員無事に集合したな」

「態々本部のギルドマスターが俺達に話が聞きたいだなんて、どうやら相当めんどくさい事になってるみたいですね?」

 ツンツンの金髪と魔獣の皮や鱗を使った防具を着ているのが特徴の冒険者がギルドマスターに言う。確かに、ただの事態ならば本部が話を聞きたいだなんて言わないはずだ。

「その通りだ。では早速聞かせてくれ……と言いたいところだが、まずは2を紹介しよう」

「とある人物?」

「そうだ。入って来てくれ」

 ギルドマスターがアスカ達が入ってきた扉とは違う扉に向かって呼びかける。するとその扉が開き、ギルドマスターの言っていた通りに2名……ではなく1名の女性が入ってきた。

「ん、あれ、ツカサ君はどうした?」

「お手洗いと言って部屋から出て行きました」

「そうか、なら仕方がない。先に」

「ちょっと待ってください! ツカサ君って、あの英雄のですか!?」

 ギルドマスターが先に入ってきた女性の自己紹介をさせようとした途端に銀髪とアスカと同じような赤が特徴の服とその上に深紅のロングコートを着た少女が割って入ったきた。
 一体何だとアスカはその少女を見る。とてつもなく驚いている様子だが、その驚く理由がアスカにはわかっていなかった。

「そう、あの英雄だ。それよりも先にリサに自己紹介をしてもらう」

「リサ?」

「私です。リサと言います。今回ここにいるのは貴方達の話を私も聞きたいからです」

「リサはこう見えても君達が持っている冒険者カードを開発した凄い研究者だ」

「一応現時点で確認されている魔獣のデータは全て持っているつもりですが、変異種という特殊個体の出現から変異種のデータ集めになればと思い、今回は参加させていただきました」

「ああ、うん、そうですか」

 正直言って話が凄すぎて話が入ってこない。冒険者カードを開発したという点でもう何を言えばいいかがわからない。それに加え現時点で確認されている魔獣のデータを持っているという所でなんなんだこいつは的な感じである。

「後はツカサ君が帰ってくるのを待つだけなのだが……」

「あれ、なんかもう始まってる!?」

「噂をすれば来ましたね」

 いきなりアスカのすぐ横にある扉がバンッと開き黒髪の男が1人入ってくる。ここにいる全員がその事に驚き、それと同時にこの世界にいる人間なら誰しもが知っていると言っても過言ではない英雄をこの目で見られたことに言葉が出ずにいた。
 しかし、アスカはそんなことよりも突然扉が開けられた時にすぐ横にいたので誰よりも驚き、驚きによる心拍数の上昇を深呼吸をして落ち着かせていた。

「スッキリしてきたか?」

「はい、とても」

「それならばこの冒険者達に自己紹介をしてくれ」

「了解です」

 そしてお手洗い帰りの英雄はギルドマスターの方に向けていた体を冒険者達がいる方へと向け、自己紹介を始めた。

「俺の名前はツカサ。フルネームならばツカサ・タチバナだ。存じているとは思うが、なんか英雄なんて呼ばれてる。まあだからって特別扱いはしないでくれよ。俺そういうのだから」

「うおー! マジの英雄だ!」

「この目で本物を見られるとは……」

「ずっと憧れでした! 是非とも握手してください!」

「はいはいストップ。今回はそれが目的でここにいるんじゃないでしょ」

 英雄──ツカサが自己紹介を終えるとそこにいた冒険者達が喜びの感情を表に出してどうにか記念にとツカサに接触しようと試みる。それを先程の銀髪の少女が止めに入る。
 ていうか、ラドはこの中でも1番年上のくせして何はしゃいでんだ大人気ないぞ。

「すみません、こんな人達で……」

「いや、大丈夫。こういうのには何かと慣れてるから。それよりも、変異種についての話をしてくれると助かるかな」

「英雄様のためなら勿論です! 何なら俺の秘密もいでぇ!!」

「やめんか」

 明らかにどうでもいい話をしようとしていたツンツンした金髪の男をを銀髪の少女剣の鞘でコツンと叩く。それを見て英雄は苦笑いをしていた。
 この光景を見ても尚、なんか凄いんだなー程度にしか思っていないアスカは英雄のことを詳しく知る必要があると思うのであった。

 それからアスカ達は変異種についての話をして行き、それをリサはメモをし話の内容をまとめていた。

「……って感じです」

「ふむ、なるほど……」

 アスカ、レン、ラド、ルイス、ジョルダンの5人はは自分達が討伐したディアボロスについての話を。残りの4人は1度アスカが討伐したことのあるタイラノの変異種についての話をしていた。

「リサ、共通点はわかったか?」

「話からすると、全体的な能力の強化、姿の変化が大きな共通点です」

「そして、ディアボロスの場合はサイズの変化とそのサイズに合わない中身の大きさ。タイラノについては凶暴性の増加と突然の脚部と牙の異常発達か……」

「俺達は凶暴性が増した分単純になったので戦いやすかったです」

「えっと……あの……ディ、ディアボロスは、5人でも攻撃が通じないという事態が起きまして、心臓に剣を押し込んで倒しました」

「おいお前、いちいち言葉止めずに一気に話せよ」

「アスカさんは人に慣れるまでに時間がかかるんです。それを理解せず馬鹿にするのなら僕が許しません」

「……ああ、そうかよ」

「本当にこんな人ですみません……」

 金髪の男がアスカの性格に文句を言うがその発言を代わりに謝る銀髪の少女。
 世界に1人はアスカの性格を気持ち悪がる人もいる。それはどんな性格だって合わない人がいるということだ。誰だってわかっているこもだ。
 だが、やはり少し悲しくなり、この自分の性格をアスカは謝りたくなる。

「しかし、うーむ、共通点はわかってもその魔獣によってどう変わるのかは違うのか……」

 変異種についての情報を得たが、その情報だけをどう活かせばいいのかが出ていないギルドマスター達は頭を抱える。何故ならば今の時点では変異種2体の特徴がわかっただけなのだから。
 そんな雰囲気の中、またも突然ど扉を開けることは無かったが扉にノックされた。しかも少し早めのノックだったことから緊急のようだ。

「入れ」

「はい」

 ギルドマスターが部屋への入室を許可するとここのギルドのカウンターにいた受付の人が入ってきた。

「緊急の連絡です」

「どうした?」

「リルスの街付近のリルス平原に変異種である可能性があるゴブリンキングが発見されました」

 リルスの街とは、丁度セヴィオルナの街とは真反対にある街である。
 ここで余談だが、このセヴィオルナの街やリルスの街はケントロという大きな町の中にある1つの通りだ。そしてそのケントロという町はセヴィオルナを含め合計10個の街で構成されている。

「そうか、ならば緊急クエストとして」

「──いえ、それが……」

「ん?」

「そのゴブリンキングなのですが、どうやら発見されたようなのです。それも妙なことに外傷など全くなくゴブリンキング自体もまだ寿命が来たとしては若すぎる個体なのです」

 ゴブリンキング──その名の通りゴブリンの親玉的な魔獣だ。ゴブリン達が平原を移動する際に限り群れの中には必ずいるとされている魔獣だ。
 その強さは流石のキングの名を持つゴブリンだと言うくらいに手強い魔獣だ。そしてその強さに加え、ゴブリンキングは通常のゴブリンよりも寿命が長く、大人になった個体はゴブリンの2倍くらいの大きさだ。
 そんなゴブリンキングが本来の寿命よりも早く死に至るというのは極めて稀である。何故ならば、ゴブリンキングはウイルスや細菌に耐性があり、大抵の病気にはならない。
 だとすれば殺されたのかとなるが、外傷が全くないというのとなので他の魔獣に殺されたということも無くなる。もうこの時点で妙な点がいくつもある。

「うーむ、それは直接見た方がいいかもしれないな。しかし、ここまで運んでくるとしても変異種ということで慎重に行いたい……」

「小さい個体だとしても流石にあのサイズと重さでは馬車には乗りませんよ?」

「……しかたない、リサと私が直接行くとしよう」

「え、私もですか?」

「勿論だ。私1人よりも2人の方が変異の原因解明の効率が早くなるからな。それに、データが欲しいのであれば尚更だ」

「……わかりました」

「どうせならば護衛も含め君達も見た方がいいかもしれないな」

 ギルドマスターはこの場にいる冒険者達に向かってそう言った。それと同時に、アスカとレンはこう思った。

 ──これは所謂、護衛イベントと言うやつだと。
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