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第51話 変異の根源
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アスカが体調を崩した日の翌日。アスカが目を覚ますと、既にそこにはベッドに寝ている自分以外の姿はなかった。
時計を見ると、時間は午前8時半を指していた。この時間帯にいないとなれば、もうセヴィオルナまで出発したのだろう。
「……まあ、昨日よりはマシになったか」
まだ少しダルさがあるが、昨日と比べればよっぽどマシだ。
アスカは軽く準備を済ませると、部屋に何も無いことを確認した後に鍵を閉め返却した。
シロウはどうせ1日分の料金しか払っていない。今現状お金を貯めたいアスカは、宿代を払って更に泊まるなんてことはしなかった。
それから特にクエストも受けずにこの村の住民の中では1番親しい仲であるベルトロスの所で1日を過した。
何もしないでただ1日を過ごすというのをあまりしなかったアスカは、この日だけはとても平和に過ごせた。
──そして翌日。
久しぶりにベルトロスの家で就寝と起床をしたアスカはこの感覚を懐かしく感じた。
そして朝の支度を軽くし、ベルトロスの家から出て1人になれる所まで移動した。
「…………」
それから数分後、シロウに連絡が来た時のように緑色の結晶──通話結晶から小さめのアラーム音がなった。
「えっと、これか……」
結晶に付いているスイッチを押すとアラームが止み、同時にレンとソニア、その他にギルドマスターから呼び出しを受けた人達の声が聞こえた。
『聞こえるか?』
「大丈夫、聞こえてる」
『アスカちゃん大丈夫!?』
「流石に2日も休めばマシにはなりますよ」
『周りに人は?』
「いません。態々人気がないところまで来たんですから」
『うむ。では、本題に入るとしよう』
通話結晶による通信で会話に参加する。
最初から全員にこれを持たせて会議を開いた方がいいんじゃないのかと疑問を持つ人もいるだろう。
しかし、この通信結晶は現時点で多くの店にある支払い結晶とは違いとても希少なものなのだ。その値段もそこらの高級物件並みだ。
『内容は伝えた通り、あの泥についてだ』
『それでわかったこととは?』
『……あの泥にはハッキリとはしていないが、恐らく意思を持っている』
「意思……」
『うむ。実験中のことだ。ギルドの研究員が泥の成分を調べようと箱の蓋を緩めた瞬間にあの泥は飛び出してきたらしい』
らしい、ということはあくまで聞いただけの情報ということだ。信用できると言われれば微妙だが、今はそれが事実であると認識した上で話を聞くしかない。
『念の為に配置しておいた腕利きの冒険者によって再び箱の中に封じたんだが、もしもあそこであの冒険者がいなければあの泥はその研究員の中に侵入していたであろう』
「ちょっと待ってください」
ここでアスカが静止をかける。アスカにはどう考えても理解できない疑問があった。
「意識がある泥だとしても所詮は泥。視力もなければ聴力もありません。それでどうやって研究員の位置を特定したのでしょうか」
まだスライムだとしても、この世界のスライムには小さいが目があり、それで生き物の姿と場所を把握して動く。
しかし、その泥には目がない。もしもあったとしても体自体が濁っているので見えるわけがない。聴力で探知なんて論外だ。
『それについては何で探知したのかはわからない。だが、その泥は物は決して狙わず、我々人間やその他の生き物を的確に狙っていた』
『何かしらの法則性があるってことか……』
『それについては今後も研究していこう。それでは次だ』
『まだあるの?』
『これが最後だ。法則性については別に話そうとしたのだが、手間が省けたようだしな』
アスカには音声だけなので、ギルドマスターの表情は見れないが、どことなく「最後」という言葉が他の内容のはじめよりも真剣なように聞こえた。
『……恐らく、その泥──つまり変異種を生み出す原因である生き物の正体を我々は掴んだ』
「え!?」
それはアスカだけでなく、セヴィオルナにいるレン達も驚くことだった。
正体を掴んだということは、それを絶てばこれ以上変異種が増えることは無い。この変異種の問題を1番手っ取り早く解決できる。
『正確には情報だけだ。王様が協力してくれて、王城にある資料を幾つか拝見させてもらったのだ。そこで1つ気になる資料があってな』
『その内容は?』
『それがこれだ』
「──と、言われましても俺見れないんですが……」
何度も言うが、通信結晶はあくまで音声通話のみで映像は見せられない。これだなんて言われても、そこにその資料があるんだなーなんてことしかわからない。
『読み上げるから心配はない』
『あれ、これって古代語ですか?』
ユノスがギルドマスターに聞く。古代語と言っても、この世界の古代語はアスカにはわからないためどんな文字なのかはわからない。
『だから読み上げるのだ。いいから黙って聞いておれ』
結局他の冒険者には読めないのなら、最初から見せる必要は無いのではと思うアスカであった。
──災いが起きた。突如として森のあらゆる生きとし生けるものを黒く染めた。例えば動く屍。
あぁ、我らが何をしたというのか。神よ、我々を見捨てられたのですか。我らが犯した罪はなんなのですか。教えてくれませんか。
あれから数日が経過した。今も尚屍達は増え続ける。いつもこの書に日常を記していたが、これは唯一この災いを伝える手がかりになる。
『もう1枚ある』
「…………」
──そろそろ食料も尽きてきた。昨夜、1人の若者が我慢の限界だったのか屍達を殺めに外に出た。しかし、その者が帰ってくることはなかった。きっと返り討ちにあったのだ。
翌日、ついに食料が尽きた。そして不幸なことに、私が食料を取りに行くことになってしまった。こんな事態だというのに取りに行けるわけがなかろう。皆飢え死にだ。
──案の定、屍共に囲まれた。何とか小屋に隠れたが1度見つけた生き物は生かす気はないのだろう。今扉にヒビが入った。ここは窓でも見て最後の景色を脳裏に焼き付けておこう。
何だあれは、見たことの無いタイプの竜だ。黒くて翼で羽ばたくというかは滑空して飛んでいる。きっとそうするしか飛ぶ手段がないのであろう。
何か見えた。その竜の後ろから時々液体が零れ落ちている。雨ではない。
獣が今まさにその液体に触れた。
なんだなんだ、液体が獣の中に入って行った。そして間もなく、獣はあの屍のように姿を変えた。
ここに書き残そう。あのりゅうがすべてのげんきょうだ。やつをたおさねばわれらは──
『……以上だ』
「よく昔の手記を解読できましたね」
『先程の内容はすぐに伝えられたのだが、以外とこの解読に時間をかけてな。何しろ大昔なだけあってやっと読める程度に文字が掠れていたからな』
ともかく、先程の手記で判明したことは原因がそよ黒い竜だということだ。
アスカは一瞬、初めてセヴィオルナに行った時に見たあの黒い生き物かと思ったが、恐らくは違うだろう。何故ならば、あの時あれだけ近くにいたとなるとその泥が間違いなく馬車の荷台やレンがいたところに降り注いでいるはずだからだ。
『それで、君達に頼みたいのだ』
『その黒い竜を調査してくれってことですか?』
『そうだ。近頃、変異種の出現も増えてきている。変異種を辿っていけばいずれその竜と遭遇することがあるはずだ』
変異種を追っていけばその竜に近づける。単純な考えだが、今はそれしかその竜を見つける方法がない。
『今回伝えたかったことは以上だ。それでは、各自よろしく頼む』
『了解です』
『……アスカ、そっちで変異種の出現情報は?』
「今のところはない。まあ、いつでも出れるように備えてる」
『そうか。ユノス、俺達は──』
──その瞬間、アスカの近くで爆発が起きた。
その爆発は、ナチュランの村から聞こえたものだった。
時計を見ると、時間は午前8時半を指していた。この時間帯にいないとなれば、もうセヴィオルナまで出発したのだろう。
「……まあ、昨日よりはマシになったか」
まだ少しダルさがあるが、昨日と比べればよっぽどマシだ。
アスカは軽く準備を済ませると、部屋に何も無いことを確認した後に鍵を閉め返却した。
シロウはどうせ1日分の料金しか払っていない。今現状お金を貯めたいアスカは、宿代を払って更に泊まるなんてことはしなかった。
それから特にクエストも受けずにこの村の住民の中では1番親しい仲であるベルトロスの所で1日を過した。
何もしないでただ1日を過ごすというのをあまりしなかったアスカは、この日だけはとても平和に過ごせた。
──そして翌日。
久しぶりにベルトロスの家で就寝と起床をしたアスカはこの感覚を懐かしく感じた。
そして朝の支度を軽くし、ベルトロスの家から出て1人になれる所まで移動した。
「…………」
それから数分後、シロウに連絡が来た時のように緑色の結晶──通話結晶から小さめのアラーム音がなった。
「えっと、これか……」
結晶に付いているスイッチを押すとアラームが止み、同時にレンとソニア、その他にギルドマスターから呼び出しを受けた人達の声が聞こえた。
『聞こえるか?』
「大丈夫、聞こえてる」
『アスカちゃん大丈夫!?』
「流石に2日も休めばマシにはなりますよ」
『周りに人は?』
「いません。態々人気がないところまで来たんですから」
『うむ。では、本題に入るとしよう』
通話結晶による通信で会話に参加する。
最初から全員にこれを持たせて会議を開いた方がいいんじゃないのかと疑問を持つ人もいるだろう。
しかし、この通信結晶は現時点で多くの店にある支払い結晶とは違いとても希少なものなのだ。その値段もそこらの高級物件並みだ。
『内容は伝えた通り、あの泥についてだ』
『それでわかったこととは?』
『……あの泥にはハッキリとはしていないが、恐らく意思を持っている』
「意思……」
『うむ。実験中のことだ。ギルドの研究員が泥の成分を調べようと箱の蓋を緩めた瞬間にあの泥は飛び出してきたらしい』
らしい、ということはあくまで聞いただけの情報ということだ。信用できると言われれば微妙だが、今はそれが事実であると認識した上で話を聞くしかない。
『念の為に配置しておいた腕利きの冒険者によって再び箱の中に封じたんだが、もしもあそこであの冒険者がいなければあの泥はその研究員の中に侵入していたであろう』
「ちょっと待ってください」
ここでアスカが静止をかける。アスカにはどう考えても理解できない疑問があった。
「意識がある泥だとしても所詮は泥。視力もなければ聴力もありません。それでどうやって研究員の位置を特定したのでしょうか」
まだスライムだとしても、この世界のスライムには小さいが目があり、それで生き物の姿と場所を把握して動く。
しかし、その泥には目がない。もしもあったとしても体自体が濁っているので見えるわけがない。聴力で探知なんて論外だ。
『それについては何で探知したのかはわからない。だが、その泥は物は決して狙わず、我々人間やその他の生き物を的確に狙っていた』
『何かしらの法則性があるってことか……』
『それについては今後も研究していこう。それでは次だ』
『まだあるの?』
『これが最後だ。法則性については別に話そうとしたのだが、手間が省けたようだしな』
アスカには音声だけなので、ギルドマスターの表情は見れないが、どことなく「最後」という言葉が他の内容のはじめよりも真剣なように聞こえた。
『……恐らく、その泥──つまり変異種を生み出す原因である生き物の正体を我々は掴んだ』
「え!?」
それはアスカだけでなく、セヴィオルナにいるレン達も驚くことだった。
正体を掴んだということは、それを絶てばこれ以上変異種が増えることは無い。この変異種の問題を1番手っ取り早く解決できる。
『正確には情報だけだ。王様が協力してくれて、王城にある資料を幾つか拝見させてもらったのだ。そこで1つ気になる資料があってな』
『その内容は?』
『それがこれだ』
「──と、言われましても俺見れないんですが……」
何度も言うが、通信結晶はあくまで音声通話のみで映像は見せられない。これだなんて言われても、そこにその資料があるんだなーなんてことしかわからない。
『読み上げるから心配はない』
『あれ、これって古代語ですか?』
ユノスがギルドマスターに聞く。古代語と言っても、この世界の古代語はアスカにはわからないためどんな文字なのかはわからない。
『だから読み上げるのだ。いいから黙って聞いておれ』
結局他の冒険者には読めないのなら、最初から見せる必要は無いのではと思うアスカであった。
──災いが起きた。突如として森のあらゆる生きとし生けるものを黒く染めた。例えば動く屍。
あぁ、我らが何をしたというのか。神よ、我々を見捨てられたのですか。我らが犯した罪はなんなのですか。教えてくれませんか。
あれから数日が経過した。今も尚屍達は増え続ける。いつもこの書に日常を記していたが、これは唯一この災いを伝える手がかりになる。
『もう1枚ある』
「…………」
──そろそろ食料も尽きてきた。昨夜、1人の若者が我慢の限界だったのか屍達を殺めに外に出た。しかし、その者が帰ってくることはなかった。きっと返り討ちにあったのだ。
翌日、ついに食料が尽きた。そして不幸なことに、私が食料を取りに行くことになってしまった。こんな事態だというのに取りに行けるわけがなかろう。皆飢え死にだ。
──案の定、屍共に囲まれた。何とか小屋に隠れたが1度見つけた生き物は生かす気はないのだろう。今扉にヒビが入った。ここは窓でも見て最後の景色を脳裏に焼き付けておこう。
何だあれは、見たことの無いタイプの竜だ。黒くて翼で羽ばたくというかは滑空して飛んでいる。きっとそうするしか飛ぶ手段がないのであろう。
何か見えた。その竜の後ろから時々液体が零れ落ちている。雨ではない。
獣が今まさにその液体に触れた。
なんだなんだ、液体が獣の中に入って行った。そして間もなく、獣はあの屍のように姿を変えた。
ここに書き残そう。あのりゅうがすべてのげんきょうだ。やつをたおさねばわれらは──
『……以上だ』
「よく昔の手記を解読できましたね」
『先程の内容はすぐに伝えられたのだが、以外とこの解読に時間をかけてな。何しろ大昔なだけあってやっと読める程度に文字が掠れていたからな』
ともかく、先程の手記で判明したことは原因がそよ黒い竜だということだ。
アスカは一瞬、初めてセヴィオルナに行った時に見たあの黒い生き物かと思ったが、恐らくは違うだろう。何故ならば、あの時あれだけ近くにいたとなるとその泥が間違いなく馬車の荷台やレンがいたところに降り注いでいるはずだからだ。
『それで、君達に頼みたいのだ』
『その黒い竜を調査してくれってことですか?』
『そうだ。近頃、変異種の出現も増えてきている。変異種を辿っていけばいずれその竜と遭遇することがあるはずだ』
変異種を追っていけばその竜に近づける。単純な考えだが、今はそれしかその竜を見つける方法がない。
『今回伝えたかったことは以上だ。それでは、各自よろしく頼む』
『了解です』
『……アスカ、そっちで変異種の出現情報は?』
「今のところはない。まあ、いつでも出れるように備えてる」
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その爆発は、ナチュランの村から聞こえたものだった。
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